※この作品はR-18です。

もう悪役令嬢なんて言わせない!   作:億田夢人

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第151話

 「いっぽぉおおん!それまで!!」

 

 政府が運営管理する鳳凰学園の体育館は多くの部活動をしている生徒で活気づいていた。その中でもとりわけ上杉麗子の発する声は館内に響き渡る。

 

 「はあはぁ......」

 

 剣道部に所属する北条波哉香は徳川烈に10本連続負けをしていた。

 

 「も、もういっぽんお願いします!」

 「おい、まだやるのかよ!?」

 

 「いいじゃん!ダメえ?」

 「......いいけど、これで最後にしてくれ?」

 

 「わかった」

 

 「では、はじめえ!!」

 

 ドギャア!!

 

 「いっぽん!!それまで!!」

 

 またしても徳川の強烈な一撃が波哉香の胴を打ち抜いた。

 

 「くはあああ!!ダメだあ......」

 

 波哉香は力尽きその場に大の字に寝そべってしまう。

 

 「よし!!徳川と北条は少し休憩しろ!!」

 「はい」

 

 徳川は上杉の命に従い体育館の隅っこに腰を下ろす。ほどなくして波哉香も起き上がり徳川の横に座った。

 

 「あわわわ、あんまり近寄るなよ」

 「なにそれ?人を汚物みたいに......失礼ね!!」

 

 「すまん、本当に俺、女が苦手なんだ」

 「こんなに剣道強いのに変な人」

 

 「......」

 「なんでそんなに剣道強いの?なんで女の子が苦手なの?」

 

 「いきなり質問攻めかよ」

 「いいじゃん、同じ部活仲間なんだしさ?教えてよ?」

 

 「剣道は......家系ってやつかな?うちの家の男子は昔から剣を嗜むのが義務付けられているんだ。小さい頃オヤジや祖父に教えられた」

 「へえ......女の子のほうは?」

 

 「......昔、好きな子がいたんだけど......」

 「ひどいフラレかたをしたとか?」

 

 「ぐっ」

 「それでトラウマになったとか?」

 

 「ぐっ」

 「あはは、『あるある』だねえ」

 

 「ちっ」

 「ああ!ごめんごめん」

 

 激しい落ち込み方をしている徳川に波哉香は言い過ぎたと思いすぐに謝った。

 

 「北条こそ、彼氏とかいないのかよ?」

 「さあ?いるようないないような?」

 

 波哉香は首を傾げ人差し指を突き上げる。

 

 「なんだそりゃ?」

 「う~ん、別に徳川君を困惑させてるつもりはないの。本当に。お付き合いしてた人はいたらしいんだけどいなくなっちゃった」

 

 「......なんだそりゃ」

 「まあ、忘れちゃうくらいだから大した人じゃなかったんだね。あははは」

 

 そう言う波哉香の顔を見て徳川はぎょっとする。

 

 「お前......泣いているのか?」

 「えっ!?あ、やだ、なんで私泣いてるんだろう?あはは、やだなあ」

 

 「北条......なあ」

 「なに?」

 

 「お前、剣道、強くなりたいか?」

 「うん!なりたい!」

 

 「じゃあ、教えてやろうか?」

 「え?いいの?」

 

 「ああ」

 「よおおし!一ヶ月!一ヶ月で徳川君に勝つよ!!」

 

 「なんだと?」

 「あはは、目標決めないと、燃えないでしょ?」

 

 波哉香は徳川にそう答えるとにっこりと微笑んだ。

 

 その2人を遠くから美樹と直江は眺めていた。

 

 「早瀬さん、その水、北条さんに渡すんじゃなかったの?」

 「......」

 

 直江は美樹が片手に持っているペットボトルを見て美樹に話しかけるが美樹は無言だった。

 

 

  ◇

 

 

 「最近、波哉香、徳川君と仲良いよね」

 「ん?そおかな?」

 

 「部活動中、ほとんど一緒にいるじゃない」

 「あー、まあ、徳川君は私の師匠だからねぇ」

 

 おにぎりを頬張りながら波哉香は徳川の席を見る。徳川は直江と一緒に昼休みは食堂に行っていて席は空席だった。

 

 「......師匠......でもなんで波哉香は徳川君に勝てないんだろ?」

 「え?あんな速い突き、対処できないよ。あれが県大会常連の実力なんでしょ」

 

 「速い......そうなのかな」

 「うんうん、速いよ~。あれが『早業(はやわざ)』って奴なんだね」

 

 「......」

 「だから別に仲が良いってわけじゃあないよ。師弟関係ってやつ」

 

 「でも、嫌いな人に剣道を教えたりはしないでしょ?」

 「まあ、そうだけど。......徳川君は女性恐怖症って言ってたから他意はないでしょ」

 

 「でも万が一波哉香の事、好きになっちゃったらどうするの?」

 「へ?あははは、ないない」

 

 「告白してきたらどうするの?」

 「徳川君が私に?」

 

 「うん」

 「う~ん。どうしよう?」

 

 「......はぁ、波哉香もまんざらではないんだね」

 「は?あははは、なんか私よりも優れているところがある人ってなかなかいないから......そう言う意味では気になる存在ではあるのかもしらん」

 

 「へえ......どーせ私は波哉香に何も勝てません」

 「え?あはは、美樹は特別。私にとって美樹は特別な存在なんだからそんなの気にしないでよ」

 

 「特別?」

 「そうそう、美樹がいないと私、生きていけません」

 

 波哉香は美樹を見てニッと笑う。

 

 「もう、そんなふうに茶化すのはやめてよ」

 「あはは」

 

 口ではそんなふうに言っているが波哉香に特別と言われて嬉しくなる美樹であった。

 

 ......ガラッ

 

 不意に教室の扉が開いて徳川と直江がクラスに戻ってきた。

 

 「北条。これ食うか?」

 

 徳川は片手にやきそばパンを掲げ波哉香達に見せる。

 

 「ふぁ?いいの?」

 「ああ、買いすぎちゃって余ったんだ。俺らもう食えないからやるぞ?」

 

 「もらうもらう!」

 

 餌に飢えたレッサーパンダさながらの笑顔で波哉香はパンを徳川から受け取った。そしてその様子を隣で見ていた美樹は不機嫌そうな顔をした。その顔を見て徳川はぎょっとする。

 

 「あ!わりぃ、早瀬には何も......」

 「別に!いりません」

 

 「そ、そうですか」

 

 これは困った。どうやら美樹を怒らせてしまたらしい。徳川はすがるような目つきで直江を見る。

 

 「な、なんですか?僕は知りませんよ」

 

 直江もこのタイミングで救いを求められて困った顔を見せた。

 

 「ていうか波哉香もあなたたちも大会がもう近いんだから体調管理はしっかりしてくださいね!食べ過ぎて身体の調子が悪くならないようお願いしますね!」

 「は、はい!マネジャー!!」「ふぁ~~~い」

 

 

  ◇

 

 

 「ううむ」

 

 北条のお屋敷の地下にある研究室で大河原はモルモットの研究データを見て一人唸っていた。

 

 ビッー

 

 そこに波香が現れる。

 

 「これはこれは波香様」

 「どぉ?研究の成果は?」

 

 「はい......思惑通りの結果は出ませんでした」

 「そう」

 

 「しかし......これは......」

 「どうかしたの?」

 

 「はい、病気にかかりにくい体質にすることは概ね達成できたのですが......」

 「え?なら研究は成功じゃないの?」

 

 「.....思わぬ副作用が」

 「副作用?どんな?」

 

 「いかなる薬も受け付けない体質になってしまったのです」

 「......へえ~」

 

 「これでは......」

 「それは人間でもそうなるの?」

 

 「はい、おそらくは」

 「ふぅん、なかなか使いどころが難しい薬ね」

 

 「はい、実用化は無理でしょうな」

 「......まあ、それはそれで研究データは取っておいて?」

 

 「はい、もちろんです。私は引き続き人間がいかなる病気にもならない『夢の薬』の研究を進めます」

 「うん、頼んだわよ」

 

 「御意」

 

 波香は大河原との会話を終えると研究室を出る。

 

 「人間がいかなる病気にもかからない夢の薬......か」

 

 

  ◇

 

 

 ドシャアッ!!

 

 波哉香は徳川の強烈な突きをくらって吹っ飛び無様な姿を部員達の前で披露することになってしまう。

 

 「くぅ」

 「あ!わりぃ!大丈夫か!?北条?」

 

 慌てて徳川は波哉香に走りよった。

 

 「だ、大丈夫大丈夫。心配しないで」

 「そ、そうか、良かった」

 

 「おーっほっほっほ。無様ですわね、北条さん」

 

 伊吹もいつのまにか波哉香の側に来ていた。

 

 「くっ!なら今川さんも徳川君とやってみれば?きっと勝てないと思うよ」

 「ほほほ、あらあら、なら私が勝ったらどういたしますの?私の家来になってくれるのかしら?」

 

 「いいよ」

 「えっ!?本当に?」

 

 「うん、私はウソは言わない」

 

 波哉香の言葉にしばし固まっていた伊吹だったが長年の間に波哉香にいろいろと苦渋を舐めさせられていた雪辱を今、果たす時と理解し闘志を燃やしはじめた。自分が認めた最大のライバルを自分の傘下に収める絶好の機会なのだ。

 

 「ふふん、約束は守ってもらいますわよ?」

 「もちろん!」

 

 「では、徳川君、お相手願えるかしら?」

 「おぅ!いいぜ!」

 

 伊吹と徳川は波哉香に背を向け対戦の準備にとりかかろうとしていた。そんな徳川に波哉香は声をかける。

 

 「徳川君!」

 「ん?」

 

 「手加減しないでよね?」

 「もちろんだ」

 

 徳川は波哉香にそう言うとにやりと笑顔を見せた。

 

 伊吹と徳川は竹刀を持ちそれぞれの位置についた。そんな両者を見て上杉は頼もしく思う。自分の後輩が率先して自発的に組手を行う。お互いに切磋琢磨して各部員の実力の底上げになるに違いない。そう思うと自然に泣けてきた。自分は今までひとりぼっちで練習してきたからだ。

 

 「では、上杉先輩お願いします......上杉先輩?」

 

 様子がおかしい上杉を見て徳川は焦る。

 

 「すまんすまん、感、極まってな。では、いくぞ?はじめ!!」

 

 ドッシャアアン!......ドンガラガッシャアアン!!

 

 「ギャアア......」

 

 波哉香に続いて伊吹も徳川の強烈な突きをまともに胴に受けて吹き飛ばされてしまい波哉香以上に無様な醜態を晒すこととなった。

 

 「いっぽん!そこまで!!勝者徳川!!」

 

 上杉の声が体育館に響き渡ると同時に伊吹はガクリと気を失う。

 

 「えっ!?お、おい!今川!!」

 

 それを見て徳川は伊吹に駆け寄る。しかし伊吹はぱちっと目を開け、走りこんできた徳川の右手を掴み取り一本背負いを敢行しそのまま腕ひしぎ逆十字の態勢に入った。

 

 「うわっ!!ってえ!いてててて!!」

 「よくも本気でやってくれましたわね。降参しなければ右手、折れますわよ?」

 

 「いたたたた!!わ、わかったわかった!!ギブギブ!!」

 

 徳川は慌てて伊吹に降参を告げる。

 

 それを聞いた伊吹はパアッと手を離し満面の笑みで波哉香を指差す。

 

 「おっほっほっほ!聞きましたか?北条さん!?これで貴方は私の......」

 「はあ?なにそれ?剣道じゃないじゃん!あんたの反則負け!」

 

 「......」

 

 

  ◇

 

 

 部活動が終わり波哉香と美樹は一緒に帰路に着く。

 

 「はあ、今日も徳川君に勝てなかった。徳川君すごいなあ」

 

 波哉香はため息まじりに独り言を言う。

 

 「......」

 「ん?どうしたの?美樹?」

 

 「あ、うん、私、部室に忘れ物しちゃって......取りに戻るから波哉香は先に帰ってて」

 「え?なら私も一緒に......」

 

 「いいよいいよ。波哉香、疲れてるんでしょ?また明日学校で、ね?」

 「うん、わかった。美樹、気をつけてね」

 

 「うん、じゃあね。ばいばい」

 「うん、ばいばい」

 

 美樹は波哉香と別れの挨拶を返し足早に部室に戻った。案の定、徳川はまだ帰らずに一人校庭を走っていた。部室の窓から徳川の姿を確認すると意を決し部活用のタオルを持って美樹も校庭に出る。

 

 「ハアハア!......ん?早瀬?まだいたのか」

 「徳川君、お疲れ様」

 

 「お、おう、サンキュ」

 

 美樹からタオルをおそるおそる受け取ると徳川は汗をそのタオルで拭う。

 

 「......徳川君、何かインチキしてるよね?」

 「え!?」

 

 

 (続く)

 

 

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