「どうですか?我が校は?やっていけそうですか?」
その女は教頭にそう問われた。
「はい、とても優秀な生徒ばかりなのでやりがいがあります」
「昨日、城之内先生の授業を拝見いたしましたが授業になっていない様子でしたが?」
「はい、昨日は生徒たちの事をより詳しく知りたかったので自己紹介をしてもらいました」
「自己紹介?生徒たちと仲良くなりたいのですか?」
「...それもありますが一番の目的は今後の生徒たちへの指導の方針に役立てる為です」
「...ほお」
「何か問題が?」
「しばらくは城之内先生のご指導にお任せしますがそれで生徒達の成績が落ちるようであれば・・・わかりますね?」
「わかりました」
教頭との会話が終わりその女は自分の席に戻った。
「はっはっは。教頭先生からイヤミでも言われたかい?」
その女の隣の席の
「いえ、別に」
「あ、そう」
「...では、私は授業がありますので」
女はそう言うと自分の席からスクッと立ち上がり職員室を出た。
「へっ!...お高くとまりやがって!」
藤田はその女の後姿を見ながらそうつぶやいた。
「はー、やっぱり学校の先生ってのはストレスたまるわ。...くそがっくそがっくそがっ」
女はぶつぶつ独り言を言いながら廊下を歩いていると北条時哉先生が女生徒とともにそそくさと視聴覚室の方へと向かって行くのを目撃した。
「あ、あれは...」
女はその2人の後をついていけば何か面白そうな展開にありつけると直感していたが自分の授業があるので思いとどまった。
「まあ、機会はこれからいくらでもあるわね。まずはあのバーコード教頭...どうしたものかしら。」
がらっ!
女はいろんなことをあれこれ考えながら教室の扉を開けた。
「城之内先生!おはようございます!」
「先生、おはよ!」
「おはようございます!!」
「うあ!」
教室の扉を開けた瞬間に生徒達の挨拶がその女に向けて盛大にされた。
「うん!みなさん、おはようございます!これから授業をはじめます!」
「宜しくお願いします!!」
「オナシャス!!」
「おねがいしま~す!!」
その様子はとても高校の教室ではなく訓練された軍隊か何かのようだった。
「いいか?お前ら!今、お前らは人生の中で今一番重要な時期にいる!」
「...ゴクリ」
「大学へ進学するものはよりよい大学へ行くことで今後の人生が他の人より有利に運べるのは間違いのない事実だ」
生徒達は微動だにせずその女の話を聞いている。
「だが、受験で勝利するものは決して頭の良し悪しだけで決まるものではない」
「...」
「あえて言おう!カズであると!」
「え!?」
「先生!ガン〇ムですか!?ふざけるのはやめてください!」
一番前の席に座っている黒縁眼鏡の男子学生が立ち上がってその女に向かって言い放った。
その女はガっと黒縁眼鏡の胸倉を掴みこう言った。
「黒崎!私はふざけてなんかいない!受験ではより多くの情報を頭に溜め込んだ者が勝利すると言っている!!」
「せ、先生!ボクは黒崎ではありません!
「そうか、なら今日からお前は黒崎だ。な?黒縁眼鏡の黒崎君」
「そ、そんな滅茶苦茶だ!」
「...まあ、冗談はさておき。いいか、お前ら!受験に必要なのは記憶力と根気と負けん気だ。それさえあれば頭の悪い奴でもT大くらいは誰でも入れる」
「...」
「...まあ、T大に入った後は知らんがな。頭の悪い奴はその後は苦労するかもしれない」
「...」
「...そしてその記憶力を持続する為に自分の中でアメとムチをうまく使い分けろ」
「...」
「ムチだけでは人間、続かないからな」
「...」
「それではこれから個別にこれからの勉強方法を指導してやる。相沢!」
女は持参してきたA4のノートを見た。
そこにはびっしりと個別に生徒の指導方法が羅列してあった。
「あ、はい!」
「お前は野球部だったな?」
「はい」
「なら、今日からバットで素振りをする時に覚える単語、いや形容詞の活用表でもいい。素振りをしながら声を出して覚えろ」
「はい!」
「ちゃんと呼吸もリズムよく取りながらだぞ?」
「はい、わかりました!」
「次に桜井!」
「はい!」
「お前は・・・」
こんな感じでその女は生徒達1人1人にその生徒にあった勉強方法を教えていった。
「す、すげえ!俺たち1人1人にそんなに詳しく」
「俺、なんかT大でもなんでも受かるような気がしてきた!」
「私も!城之内先生の言う通りやればどこの大学でも受かりそうだよね!」
「古典だけじゃなく他の科目も城之内先生に教えてもらいたいなあ」
「...まだ、気が早いんじゃね?今度のテストの結果を見てみないと...」
だが、次の中間考査で教頭と一部の生徒の心配とは裏腹にその学園の3年の古典の平均点は例年より10点近くもアップした。
「す、素晴らしい!城之内先生!一体、何をやったんですか?」
手のひらを反すように教頭はその女を褒めたたえた。
「前にも申しました通り、私は生徒達1人1人にあった勉強方法を指導していっただけです」
「なんと100人近くいる3年の生徒を1人1人全員に?」
「ええ。誰1人として特別視したりしてません。教師として当然のことです」
「なんと!教師の鏡だ!城之内先生は!」
「いえいえ、...教頭先生、私、食事に行ってもよろしいでしょうか?」
「うんうん、どうぞどうぞ。」
「では、失礼します」
スタスタと女はその場を離れた。
廊下を歩いていると北条時哉が寄ってきた。
「城之内先生」
「あら、北条先生」
「すごいですね。古典の成績3年生が全員上がったんですね」
「まあ、当然ね」
「さすがです」
「...それより北条先生」
「はい?」
「一部の女学生と随分と仲がよろしい感じですね?」
「え!?」
「私、見ましたよ。連れ沿って視聴覚室のほうへ向かって行くところを」
「あちゃー見ちゃったんですか」
「相変わらず女癖の悪さはご健在のご様子で」
「あ、あははは」
「...あなたも北条のクソの血が流れているということね。...まあ、私もだけど」
「...なんで、そこまで北条の血を憎んでいるんですか?」
「...私、食堂行くから。あなたもせいぜい誰かに弱みを握られないように用心なさい。あっはっは」
女はそう笑うと食堂の方へスタスタと歩いていった。
「あ!」
女はふいに振り返った。
「ちなみにこれ、見る?」
その女は自分のスマフォを北条時哉に差し出した。
「なんです?」
北条時哉は差し出されたその女のスマフォを見るとそこには仲睦まじそうに腕を組んでいる北条時哉と女学生の姿が映ってあった。
「げ、げえ!」
「これだけじゃ、ちょっと役不足かもだけど。...まあ、わかってるわね?」
「...はい、しかし俺はもとよりあなたに逆らうつもりはありません」
「あ、そ。あっはっは」
女は愉快そうに笑い再び食堂の方へスタスタと歩いていった。
「...波香様。あなたも相変わらずですよ」
時哉はそうつぶやき、きびすを返し例の女学生に会いに行った。