とんとんとん
北条波哉香は不機嫌そうにシャープをテーブルの上で3回叩いて鳴らす。ここは波哉香が住んでいるマンション。波哉香の部屋で美樹と伊吹と徳川と直江と織田はきたる期末テストに備え勉強会をしていた。
「あのさ。織田君」
「うん?」
「さっきからわかってて私に聞いてるでしょ?」
「何が?」
「この問題もこの問題も、そしてこの問題も!」
波哉香は織田にわからないから教えてくれと言われた問題を指摘する。
「いや、わからなかったから聞いたんだが?」
「うそ!私が教えた後まったく筆に迷いがなくスラスラと解いていたよ?あれは最初から絶対にわかってた!」
「いや、ほんとにわからなかったんだって!ハヤ......北条の教え方がうまかったんだよ!」
「うそだあ~」
2人のやり取りに徳川はニヤニヤし美樹と伊吹は不機嫌な顔になる。その周囲の様子に直江はただ戸惑うばかりだ。
「あのぅ、確かにこの問題は中学生レベルにしては難度が高いと思います。まして織田君は編入してきたばかりだしわからないのは当然というかなんというか......」
「直江はわかるのか?この問題?」
「はぁ、まあ」
「ほう、さすがだな」
織田に褒められ直江はちょこっと照れた。
「とにかく!テストまで時間がないんだから無駄なことはやめてね」
波哉香が話題がそれそうになるのを制する。
「俺にとっては無駄なことじゃないんだがな」
「は?なんか言った?」
「いやいや、なんでも」
波哉香に見つめられペンを持ったまま織田は視線をそらす。
「おいおい、北条と織田はもうそんなに仲良くなったのか?」
徳川はニヤニヤしながら2人を茶化す。
「は?何言ってるの?」
「だってさ、はたから見たら痴話喧嘩に見えるぞ?そう、まるで奥さんに旦那がしかられているような感じかな?」
「は?」
「ちょっと徳川君。やめなさいよ!」
徳川の悪乗りを美樹が止める。
「あ、ごめん。って何をそんなに怒ってるんだい?」
茶化した自分も悪かったが予想以上に美樹が怒っているので徳川はびっくりする。
「べ、別に怒ってなんか......」
「そ、そうか。あーびっくりした」
「はは、徳川君と早瀬さんは付き合ってるんですよね?」
「ああ!そうだ!」
「どうですか?彼氏彼女っていいものですか?」
「いいぜ!毎日がバラ色に見える!直江は彼女欲しくないのか?」
「......確かに彼女欲しいなって気持ちはありますが今は勉強が最優先ですので」
「今は勉強が最優先っていつ彼女作るんだよ?」
「......実はいいなって思う人はいたんですけど......その人は年上で......剣道も僕よりも全然強くて......」
「それって上杉先輩だよね?」
「......はい。でもなぜかストーカー扱いされる始末で......」
「わはは、それは脈ナシだな!あきらめろ!」
「......」
徳川の熾烈な突っ込みに直江は意気消沈してしまう。そんな盛り上がるテーブルで波哉香はイライラしていた。
「ちょっと。誰が私んち来てコイバナ始めろって言ったのよ?」
「おおお、こわっ。悪い悪い。ちゃんとやるからさ。そんなに怒るなよ」
徳川は慌ててペンを取り教科書を再びなぞり始める。
「きゃっ!」
とその時突然、波哉香が声をあげた。
「ちょ、ちょっと!なにしてんのイブキ!」
波哉香の左隣に座る伊吹はどさくさにまぎれて波哉香のミニスカートから覗く太ももを触っていたようだ。
「あら、ごめんなさい。ペンと落としたのを拾うつもりが私の手の平が当たってしまったようね」
「......なんか意図的に触っていたような感じだけど?」
「そんなことあるわけがないでしょう?私はノーマルです」
「もう!みんな真面目にやってよね!ほんと試験まで時間がないんだから!」
「はーい!」
それから2時間ほど。みんなは黙りもくもくと勉強を進めていた。
「さて、みんな何時までやってく?」
「.....何時までいていいの?」
「ん~何時までって何時までもいいけど?」
「えっ?お父さんとお母さんと弟さんは?」
「ん、両親は旅行中であさって帰ってくるし弟もサッカー合宿で同じくあさって帰ってくる」
「じゃあ、日曜まで波哉香ひとりなんだ?」
「そういうこと。だから今日うちで勉強会やることにしたんだ。家の人いないから集中できるでしょ?」
「そうなんだ......じゃあさ、私泊まっていってもいい?」
美樹はねだる目つきで波哉香を見て尋ねた。
「ん?そう?泊まってく?いいよ!美樹なら」
「やった!」
波哉香は美樹の嬉しそうな顔を見て美樹のこんな顔見るの久しぶりと思う。
「んんっ!!なら私も泊まっていこうかしら。私は一人暮らしですし家には誰もいないから。たまには誰かと一緒に夜をすごしたいですわ」
「そうか......イブキ。寂しいね。いいよ!イブキも泊まっていきなよ」
波哉香のその声にイブキの表情もパアっと明るくなった。
「なら俺も......」
「徳川君!残念だけど男子は......」
美樹が便乗しようとする徳川を諌める。
「あはは。......そうだね、残念だけど男子はあとで親に知られるとちょっと面倒だから......ごめんね」
男子はこの瞬間シーンとなりしばらくの間に気まずい雰囲気となる。
「あ、あはは。男子達そんながっかりしなくても。あ!そうだ!もうすぐ夕飯の時間だし出前とろうよ?私がおごるからさ」
「えっ?いいの?」
美樹は驚いた顔をする。そして波哉香は得意げな顔をした。
「いいのいいの。食事代は貰ってあるし足りない分は私のお小遣いでなんとかなるからさ」
「北条。それは悪いよ。自分の分は自分で払う」
織田が波哉香の声をさえぎる。
「いいってば。だから男子はみんな機嫌治して?」
「......悪いな」
「ううん。悪いってことはないよ。みんなで食べるときっとおいしいよ?」
「なんでもいいのか?」
徳川は目をキラキラさせそう尋ねる。
「いいよっ!」
「じゃあ、俺、天丼!」
「またあ、徳川君そんな高そうなの」
「美樹、いいって。織田君と直江君は?」
「じゃあ、俺も天丼で」
「僕も」
「おうけいおうけい。天丼3つね。美樹とイブキは?」
「波哉香は何にするの?」
「ん~私は肉野菜炒めかな」
「私も波哉香と同じのでいい」「私もそうするわ」
「おっけー!!じゃあ、天丼3つに肉野菜3つね......あ!もしもし?出前お願いしたいんですけど。はい、XXマンションの北条です。はい!お願いしまあす!」
波哉香は手早く自分のスマフォで注文した。
「なんか波哉香慣れてるね?結構出前とったりするの?」
「え?ううん、めったにないよ?お母さんが遅くなるときとか......冷蔵庫に何もない時取るくらい。材料あれば私が作るしね」
「へえ~。じゃあ、今日は冷蔵庫に何もないんだ?」
「ん~あることはあるけど6人分はないかなあ」
「なんだ残念だ。俺は天丼より北条の手料理のが食いたかったな」
織田は美樹と波哉香の会話にすかさず割って入った。
「お?お?そう?えへへ。そうだ!じゃあ期末テストで私に勝ったら織田君に私の手料理を食べさせてあげようではないか」
「マジか?その言葉忘れるなよ!?」
「えへへ、私に勝ったらね」
「ちょっとハヤカ。私との勝負、忘れてないでしょうね?」
「もちろん!負けたほうが家来になるでしょ?」
「そう!忘れないでね」
「忘れないよ!」
織田と伊吹はこの時から猛烈なほどシャープペンを走らせる。2人とも次々と数学の問題を解いていくのが遠目でもわかるほどだ。
「うわ、すげえ。なんだこの2人?」
徳川は織田と伊吹の変わりように思わず声をあげずにはいられない。
「あはは、すごいねえ。私も負けてられないし!」
負けじと波哉香も問題集を開いた。彼女にとっては5回目の同じ問題集である。
「ハハ、みんなすごいな。確かに北条さんの言った通りみんなで勉強するのって楽しいですね。これがリア充って奴か」
直江もみんなの気迫に押されてペンを走らせる。
「はは、すげえ。俺はゲーム大会にでもならないかなあって思ったけどそうは甘くはなかったか」
「こらっ!徳川君!」
「はは、......早瀬。俺達も」
「うん!」
徳川と美樹も各々の苦手な教科の復習にとりかかった。出前が北条家に届くまで6人は一言もしゃべらずモクモクと勉強するのであった。
◇
「はあ、食った食った」
天丼を真っ先にペロリと平らげた徳川は満面に笑みを浮かべ爪楊枝で歯の掃除をする。
「ちょっと徳川君。食べるのはやすぎ!よく噛んで食べないとダメだよ」
「あはは。美樹はすっかり師匠の彼女してるねえ」
波哉香は茶化す。美樹はその瞬間、顔が真っ赤になり下を向いてしまう。
「はあ、ごちそうさま。北条、ありがとな。こんなうまいもの食わしてもらって」
「あはは、おいしかったら何よりです」
笑顔で波哉香はそう答える。そして織田は固まってしまう。この時彼の思い浮かんだセリフは今度はお前を食べたいと言いたかったのだ。彼はその言葉を口にするのをグッとこらえた。
「じゃ、じゃあ、そろそろ俺達は......」
織田は徳川の顔を見て促す。
「そうだな。北条、ありがとな。勉強を見てもらってさらに晩飯まで」
「いいのいいの。同じ部活仲間だもん。テストもいい結果だそうね」
「おう!」
こうして徳川、織田、直江の男子3名は一足先に波哉香の家から帰路につく。
「私達は寝るまでもうちょっとやろうか?」
「うん」
波哉香の提案に美樹とイブキは了承し再び教科書やら問題集を開き始めた。
午前1時ちょっとすぎた頃波哉香は美樹とイブキの様子をチラっと見てこの辺で勉強をやめるべきだと判断した。2人とも疲れの表情が見えるからだ。
「さ、そろそろ寝よっか?あ、お風呂入る?」
「私はまだやれるわよ?」
そうは言うがイブキの目はいつもよりも曇りがちになっていた。
「ムリはよくないよ?イブキ。また明日にでもがんばろ?」
「うう、ハヤカがそう言うならそうする」
やけに素直な伊吹に波哉香は戸惑うがこれも深夜の時間帯の魔力なんだと思う。
「私はいつもどおり自分のベッドで寝るけど2人はそこにそれぞれお布団敷くからそこに寝てね」
波哉香はそう言うと押入れから布団を取り出す。
「あ、手伝うよ」「......」
美樹と伊吹も立ち上がりそれぞれの布団を自分で敷き始めた。
「ん。じゃあ、私、シャワー浴びてくるね」
「うん」
波哉香が部屋から出て行き美樹と伊吹は2人きりになった。しばらくの間無言の2人。その無言の雰囲気に耐え切らずに先に口を開いたのは美樹のほうだった。
「今川さん最近、波哉香と随分仲良くなったよね」
「昔から貴方達が羨ましかった。いつも一緒にいて楽しそうで。本当だったら私がハヤカとずっと一緒にいるはずだったのに」
「でも喧嘩して......それっきりだったんでしょ?」
「......」
「今川さん、もうちょっと素直になったら?」
「そんなこと貴方に言われたくないですわ」
「はい、そうですか」
「......」
2人はそれから波哉香が戻ってくるまで話すのをやめた。そしてそれぞれに教科書を開き始めるのだ。
「はあ、いい湯加減でした。え?まだ勉強やってるの?もうやめてさ、美樹とイブキも入ってきなよ」
波哉香は部屋に戻ってきた。上半身は裸でバスタオルを羽織って。たわわな乳房に美樹と伊吹は一瞬、目を奪われるがすぐに視線をそらした。
「は、早瀬さん、お先にどうぞ」
「え?うん、じゃあ、行って来る。波哉香、お風呂借りるね」
「はーい、いってらしゃい」
波哉香はノーブラのままTシャツを被るとドライヤーで髪を乾かし始めた。その姿に伊吹はうっとりと見つめてしまう。
くるっ
ふいに波哉香は振り返った。
「!!」
「イブキさあ、美樹とも仲良くなってよ」
「え?」
「私が来るまでお話した?」
「したわよ」
「そう?なんか黙って勉強してたみたいだけど」
「お話したわよ......少し」
「はあ、私はイヤだよ。ひとりづつ仲良くやるなんて。3人とも親友になろうよ?」
「ハヤカがそう言うなら......」
「えへへ。美樹はいい子だよ?私が保証するし!」
「......うん」
美樹がほどなく戻ってくると今度は伊吹が部屋を出て行く。
「......美樹さあ」
「え?」
波哉香も美樹に伊吹に言った事を言うのであった。そして3人はそれぞれに床につく。午前2時を過ぎた頃であろうか。波哉香は異変に気づいて目を覚ます。自分の隣に誰かいるのだ。
「ひゃっ!!イブキ?」
「......」
いつのまにかイブキは波哉香のベッドに潜り込んでいた。波哉香の横で寝ているのだ。波哉香ははじめびっくりしたが伊吹は一人暮らしでいつも一人で寝ているから寂しいんだなと思いそのまま放っておいて寝ることにした。......ところがである。
「ひゃっ!」
イブキは後ろから両手を波哉香のTシャツの中に忍び込ませ優しく波哉香の両胸を揉みしだく。
「ひゃっ!.......はっ!ちょっ!ヤメ......はぁん!」
「......まったくいつのまにこんな......けしからん胸ですわ」
波哉香は必死に抵抗するが伊吹の両手は一向にやめる気配がなく、ただひたすら波哉香の両胸を揉みしだいていた。
「どうしたらこんな胸になるのか......教えて欲しいですわね」
「ちょっ!イブキ!やめっ!あん!」
2人はそのままくんずほずれずの状態だったが疲れたのか小一時間くらいでその攻防は終わり2人とも深い眠りにつくのであった。
◇
数日後、無事に期末試験は終わった。その結果、剣道部はまたまた全校生徒の注目を浴びることとなるのだ。
「え~なんと!今回の期末試験では全教科満点者が4名もいる!しかもうちのクラスから3人だ!」
市ケ瀬教諭は嬉しそうに教室内にいる生徒に叫んだ。そう、全教科満点を取った生徒は北条波哉香、直江徹、織田信長であった。そして違うクラスの今川伊吹である。
「うお~!剣道部の奴らすげえ」
「どんだけハイスペックなんだよ!」
教室ではそんな声があがるなか波哉香は織田をじっと見つめていた。そして織田と目があうと織田に告げる。
「織田君、昼ごはん食べたらお話があるの。時間作ってくれる?」
「お?なんだ?告白か?」
「違う」
織田に茶化されて返答されるが波哉香の表情からは笑みが漏れることはなく終始真面目な顔であった。
(続く)