※この作品はR-18です。

もう悪役令嬢なんて言わせない!   作:億田夢人

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第162話

 (ハヤカ、次はあなたの番よ)

 

 伊吹の言葉が波哉香の脳内に響きわたる。それはもちろん勝ってこいという意味なのだろう。

 

 「よし!」

 

 防具を装着し一人気合を入れ試合場の中心へと歩みを進める。

 

 「待ってました!波哉香ちゃ~ん!!」

 

 観客の声援に自分も伊吹におとらず人気があることに驚きつつも試合に集中せねばと邪念を取り払う。

 

 「お願いします」「お願いします!」

 

 相手選手と同様に挨拶を交わす。

 

 「はじめえ!」

 「......」

 

 ひゅんひゅんひゅん!

 

 主審の合図と供に相手選手は波哉香の間合いに飛び込んでくる。

 

 「あわわ」

 

 ぴしっ!

 

 慌てた波哉香は相手選手の攻撃を防ぐので精一杯だったが波哉香の篭手に相手選手の攻撃が決まってしまった。

 

 「有効!!」

 

 あやうく一本負けとなる状況だったが主審は有効どまりとした。

 

 「ちっ!」

 

 相手選手の舌打ちが聞こえたように感じる。

 

 「ハヤカ~~~!こんなところで負けることはこの私が許しません!!」

 

 伊吹がそんなことを言っている。

 

 「はぁ、そんなこと言ったってさすが全国。今までとは速さが違うよぉ」

 

 このまま、あと1分30秒ほどたてば相手選手の優勢勝ちが決まってしまう。この大会のルールは2分1本勝負なのである。すなわち最低でも波哉香は相手選手に対して有効打以上を決めなければ敗北が確定してしまうのだ。

 

 「北条!!相手の動きをよく見ろ!お前ならその程度の速さは問題ないはずだ!」

 

 普段、声などあげない織田が自分の為に大きく声を張り上げている。波哉香はその声に安心した。大会前に織田に対して年齢を偽っているのではないかという発言をして以来、自分に対してよからぬ感情を抱いていると思っていたからだ。

 

 「......そうだね。私ならやれる!」

 

 大きく深呼吸をして精神を集中させる波哉香。そして試合再開後には波哉香の勝利が一瞬で決まった。相手選手を攻撃をいなすと同時に胴への一撃が決まったのだ。

 

 「よし!」

 

 波哉香は心の中でそうつぶやいた。試合終了の礼をすますとゆっくりと自分の戻るべき場所へと戻る波哉香。伊吹や美樹の笑顔を見て波哉香はホッとし続いて織田の顔を見る。一見無表情に見えるが波哉香にはかすかに微笑んでいるように見えた。

 

 「織田君。ありがとう。織田君の言葉でだいぶ冷静になれたよ」

 「そうか。それは良かった」

 

 しばらくの間、2人は見つめ合っていた。それを後ろで伊吹と美樹は面白くなさそうな顔で2人を見ている。

 

 「あたたた。すんません」

 

 そうこうしているうちに中堅の試合が終わっていた。どうやら武田美乃梨は負けたらしい。

 

 「ああ~。美乃梨ちゃんどんまい!......さ、次は織田君の番だよ?」

 

 波哉香は美乃梨に声をかけ、織田を送り出す。

 

 「ああ、行ってくる」

 「あ!そうだ!」

 

 自分に瀬を向け試合場へ向おうとする織田を波哉香は呼び止めた。

 

 「なんだ?」

 「この試合、織田君が勝ったら私の手料理をご馳走してあげる。......もし織田君がよければだけど」

 

 「なに?本当か?」

 「うん、こないだは失礼なこと言っちゃったしそのお詫びも兼ねて」

 

 「まあ、それはいいんだが......北条の手料理が食いたいから必ず勝つ」

 「うん、頑張って!」

 

 「おう!」

 

 いよいよ副将戦となり両者が試合場への中心へと向う。これまでの雰囲気と違って観客席は静寂に包まれていた。この副将戦で織田が勝てば鳳凰学園の勝利が確定するからである。

 

 しかしその静寂もわずかな時間であった。副将戦はわずか3秒で終わったからである。

 

 鼻息を荒くし織田が鳳凰学園の陣地へと戻ってくる。

 

 「約束だぞ?北条?」

 「う、うん、わかった」

 

 一瞬の出来事に波哉香は何が起こったのかわからずじまいであったが織田が勝ったということは理解できていた。

 

 その後、徳川も1分足らずの時間で勝利し鳳凰学園は2回戦進出を決めたのである。

 

 「よし!お前らよくやった!二回戦はおよそ一時間後だ。各自それまで休息をとっておけ!」

 「はい!」「はい」

 

 波哉香の隣に当然のように伊吹は腰掛ける。それを見て美樹はムッとするが一瞬迷ったのちに自分の彼氏のところに行くことにした。

 

 「徳川君、次も頑張ってね!」

 「おう、いいのか?」

 

 「何が?」

 「北条のところに行かなくて?」

 

 「いいの」

 「......」

 

 しばらく2人は黙ったまま試合場の観客の様子を眺めていた。

 

 

 ◇

 

 

 「イブキ、次も勝とうね!」

 「当然ですわ」

 

 「ふふ」

 「......ねぇハヤカ」

 

 「何?」

 「さっき小耳に挟んだけれど織田君にご飯をご馳走するの?」

 

 「うん、織田君が試合に勝ったらって」

 「それ、私もいいかしら?」

 

 「へ?」

 「だから私もハヤカの手料理を食べたいの」

 

 「別にいいけど?」

 「ほんと?」

 

 「うん。何が食べたい?」

 「......ハヤカってなんでも作れるの?」

 

 「うん、まあ、一通りは」

 「そう......じゃあ、親子丼が食べたいわ」

 

 「うん、わかった」

 「ふふふ」

 

 伊吹の嬉しそうな顔を見て波哉香も嬉しくなる。ちょっと前までは会えば喧嘩ばかりしていたのに不思議なものだと波哉香は思う。

 

 この日、大会は3回戦まで行われ波哉香のいる鳳凰学園は見事3回戦勝ち抜けを決めたのである。

 

 

 ◇

 

 

 本日は水曜日。

 週中ではあるが波哉香は仕事で遅くなる両親の日に都合をつけて剣道部のみんなを我が家へと招待していた。

 

 「なんですの?結局、みなさんが集まって......試合に勝つも何も関係ないですわ」

 「まあまあ、イブキ。みんなでゴハン食べたほうがおいしいよ」

 

 波哉香は伊吹を連れ夕飯の買出しにスーパーを訪れていた。

 

 「えっと。イブキは親子丼でしょ......織田君はなんでもいいと......他のみんなは......まあ、みんな親子丼にしちゃおうか?そのほうが楽だし」

 「私は別にいいけど」

 

 「じゃあ、きまり!」

 

 波哉香と伊吹はテキパキと必要なものをカゴにいれ素早く会計をすませた。

 

 「みなさんの分、ハヤカ一人で作るつもりですの?」

 「うん、そのつもりだけど?」

 

 「私も手伝いますわ」

 「え?う~ん、じゃあ、お願いしよっかな?」

 

 波哉香と伊吹は目を合わせお互いに微笑む。波哉香の住むマンションへと2人は戻るとすでに剣道部の面々がエントランスにて全員集合していた。

 

 「あれえ?みんな早いね?」

 「みんな北条の手料理を楽しみにして待ちきれなかったのだろう。無論、私もその一人だが」

 

 上杉麗子は皆の弁を代表して波哉香に伝えた。

 

 「えへへ、上杉先輩のお口にあうかどうかわかんないですけど」

 

 波哉香は少し頭を掻きながらそう応える。

 

 「いやいや、北条は料理がうまいともっぱらの評判なのでな。私も今日は勉強させてもらおう」

 「えー!?そんなプレッシャーかけないでくださいよ。もう」

 

 「波哉香ちゃん!わたし、超大盛りね!」

 

 武田美乃梨は鼻息を荒くしてどさくさまぎれに自分の希望を告げた。

 

 「はいはい」

 

 皆がさわぐなか織田は後方でしゅんとしていた。彼は波哉香と2人きりで食事を楽しみたかったからだ。沈んだ気持ちの彼に伊吹はさらに追い討ちをかけるべく彼のもとへそっと歩み寄る。

 

 「おっほっほ。残念だったわね」

 「は?」

 

 「あなたにハヤカを易々と渡すわけには参りませんわ」

 「は?俺はただ.....」

 

 「おっほっほ。桶狭間の失敗はもう繰り返せませんわ。おーっほっほっほ」

 「なんだと?......今川、貴様......」

 

 「あらやだ、怖い怖い。おーっほっほ」

 

 皆がぞろぞろとエレベーターに乗り込んでいくので伊吹もまた皆に続いた。

 

 「......桶狭間だと?ふん、まさかな」

 

 一瞬、昔の記憶をたどるかのように織田は物思いにふけるが頭を左右に振り彼もまた皆が乗り込んでいるエレベーターへと急ぐのであった。

 

 

 ◇

 

 

 「では、不肖ながら私が乾杯の音頭をとらせてもらおう。鳳凰学園剣道部。3回戦突破を祝って乾杯!」

 

 上杉はオレンジジュースが入ったコップを高々と持ち上げて乾杯の音頭をとる。そしてそれに皆が続いた。

 

 「乾杯~!」「乾杯!」

 

 美乃梨はぐいっとコップの中のジュースを飲み干すと我先にと目の前に置かれた親子丼に食いつく。

 

 「ガツガツガツ.......おおお、これは!」

 

 そんな美乃梨の姿を見て皆も箸を各々の丼へと進ませる。

 

 「......おいしい!」「うめえ!」

 

 美樹、徳川がそれぞれに声をあげる。

 

 「確かにこれは.....そこらへんのお店より美味しいですね!」

 

 直江も驚きを隠せない様子だ。

 

 「おほほ、さすが、ハヤカですわね!」

 

 伊吹は自分のことのように勝ち誇っていた。

 

 「北条、頼む!これの作り方を教えてくれ!」

 

 上杉は波哉香に頭をさげて懇願する。

 

 「え?別に普通に作っただけですけど......あ~!上杉先輩、誰かに作ってあげるんですか?」

 

 波哉香はニヤニヤしながら上杉先輩の顔色をうかがう。

 

 「いや、特にこれといった男性はいないが......私はただ単に料理というものに興味があっただけだ。これまで私は愚直に剣道のみしかやってこなかったのでな」

 「なあ~~んだ、そっか。いいですよ。これ食べ終わったら一緒に作りましょうか?誰かおかわりするかもしれないし」

 

 「ああ、ぜひお願いする!」

 

 そんな中、織田は一人で黙々と親子丼を食していた。波哉香はそんな織田の様子が気になりそっと織田の近くへと行く。

 

 「織田君、どお?口に合わなかったかな?」

 「いや、そんなことない。すごいうまいよ」

 

 「そお?なら良かった」

 

 ニコッと織田に微笑む波哉香の笑顔を見て織田はくらっとくる。その織田の様子を見て波哉香は驚いた。

 

 「どうしたの?」

 「いや......はー、もうダメだ」

 

 「ダメって何が?」

 「ちょっと、ハヤ......北条、いいか?こっちに来てくれ」

 

 織田は振り返り波哉香の手を取り2人きりになれそうな場所へと誘導しようとする。

 

 「あら?織田さん。ハヤカをどこへ連れていくつもりなのかしら?」

 

 織田達の様子をいちはやく察知した伊吹は織田の行動を阻止しようとする。

 

 「うるせえ!......ほ、北条!こっちへ来てくれ!」

 「ちょ、ちょっと織田君どうしちゃったの?」

 

 「いいから!」

 

 織田の慌てように波哉香は驚き織田の手をふりほどく。

 

 「やっ!」

 「あ!おい!」

 

 「織田君、そういうのってよくないよ?イブキだって同じ仲間なんだからさ?」

 「......」

 

 「話なら聞くし、それともみんなの前では話しにくいこと?」

 「......いや......北条!」

 

 織田は俯いた状態から顔を上げ決意を込めた瞳で波哉香の顔をじっと見る。その織田に波哉香はまた驚いた。

 

 「は、はい!?」

 「お前が好きだ!俺とつきあってくれ!」

 

 「へ?」

 「うおおお!?」「え?」「ちょっとなに!?」

 

 織田の叫びが波哉香の住むマンションの一室に響きわたり、その場にいた一同が2人の様子を活目する。

 

 「え、えっと......ごめんなさい?」

 「.......」

 

 波哉香の返答にがっくりと織田は肩をおとした。

 

 「あわわわ、だって私、織田君のこと知り合ったばかりでまだよく知らないし......なんで私?」

 「......なんでと言われてもな。好きなものは好きだ」

 

 「そっかあ......あのね即答でごめんなさいって言っちゃったけど少し考えさせて?今までいろんな人の告白を断ってきた以上ここで織田君の告白を安易に了承することはできないの。ってお高くとまっちゃってるよね私」

 「お、そうか!?いや、お高くとまってるっていうか、真剣に考えてるんだろ?交際ということを」

 

 織田は波哉香の言葉に可能性がゼロではないことを見出し途端に饒舌になりはじめた。

 

 「そうだね。いい加減な気持ちでは交際なんてできない。貴重な時間を無駄にはできないよね」

 

 その波哉香の言葉を聞いて徳川と美樹はお互いの顔を見合わせぶんぶんと首を振った。

 

 「はあ。仕方ないですわね。織田さん。私があなたの交際相手になってあげますわ」

 「ああ!?今川、お前はダメだ!」

 

 慌てて織田は伊吹の申し出を断った。

 

 「なんですの!」

 「同じ過ちは繰り返さん!」

 

 「は?」

 「い、いや!交際というものはお互い好きあってないとダメなんだ!俺はお前が好きじゃない。そしてお前も俺が好きじゃないだろ?」

 

 「......そうですわね......なら私も言いますわ」

 

 伊吹はくるっと踵を返し波哉香をじっと見る。

 

 「ん?」

 「ハヤカ。私もあなたのことがずっと前から好きでした。私と交際してください」

 

 「ええ~~~~!?」

 「なんと!」「え?」

 

 もはや織田の告白どころの騒ぎではない。

 

 「なら、わたすも。波哉香ちゃんわたすと恋人同士になってくれねえだべか?」

 

 武田美乃梨もどさくさにまぎれた。

 

 「え?美乃梨ちゃん?」

 

 波哉香はぎょっとして珍しく方言丸出しで言葉を発した美乃梨を見る。

 そんな波哉香を見つめて美樹はぎゅっと右手の拳を握り締めたが徳川の顔を見てその熱き胸の想いを封じ込めその拳の握りを解いた。

 

 「ん?早瀬?」

 「ううん、なんでも」

 

 「あっはっはっは。わかった!これってドッキリでしょ?もう、みんなあ、太刀が悪いよぉ~」

 

 一人波哉香は腹を抱えて笑い出した。

 

 「そうですわ。驚いたでしょ?ハヤカ?」

 「んもう、ビックリしたあ」

 

 「おほほほ。成功ですわ!やりましたわね!武田さん!織田さん!」

 

 伊吹は両手を掲げ2人にハイタッチを求めた。

 

 「お、おう?」「......」

 

 美乃梨だけがそのハイタッチに応じ織田は無言のままハイタッチを拒否した。

 

 「あら?織田さん?どうしたのかしら?」

 「......くそがっ」

 

 パ~~ン!

 

 織田は仕方なしに伊吹のハイタッチに応じた。伊吹の咄嗟の策略により織田の告白はうやむやにされたのだ。波哉香にとってはなかったことになるのかもしれない。織田はぎゅっと唇を噛み締めた。

 

 (おのれ、今川め。またしても俺の邪魔をするというのか......だが、なんとしてもハヤカを手に入れて見せる。それが覇王への道の第一歩だからな)

 

 織田はそんなこと考えながら2杯目の親子丼をがつがつとむさぼり食い始めた。だが、1杯目と味が違う。

 

 「うげ!まずいな!なんだこれ?」

 「......すまんな、織田。それは私が作ったんだ」

 

 「あ~上杉先輩が作ったんですか。はははは」

 

 

 (続く)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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