「ハッハッハッハ!」
朝の6時ちょいとすぎ、波香は1人川沿いを走っていた。いつもの日課である。
意外であろうが彼女は次の日、仕事が休みであろうとなんだろうとほぼ毎日午後の11時に床につき朝の6時には起床する。
そしてジョギングと軽いストレッチ体操をしていた。
公園に差し掛かったとき波香は公園内にジャージ姿の時哉を発見した。
「おーい!」
「あれ?城之内先生。城之内先生もジョギングですか?」
「ええ......2人きりの時も別にかしこまらなくていいわよ」
「はあ」
「あなたもジョギングしてたの?あまり見かけなかったけど」
「はい。今日からはじめました。......昔はやってたんですけどね」
ぽりぽりと頭を掻きながら時哉は言った。
「うわっ!すごいフケ!」
「え?うそだ!?」
波香の一言に時哉は驚いて自分の周りをバッと見渡した。
「うそ~~ん!」
「ああ、ビックリした。ちゃんと朝シャンしてきたからそんなハズはないと......」
「あっはっはっは。朝シャンなんてしてるんだ?時哉、女の子みたい」
「......今時の男子は朝シャンくらいは当たり前ですよ」
「はあ?そうなの?キモイ時代になったもんだ」
「城之内先生は朝シャンしないんですか?」
「朝シャンっていうか朝シャワーするわね、ジョギング後に」
「あ、そうですね......それより城之内先生」
「ん?」
2人は公園のベンチに腰掛けた。
「こないだの夏休みからうちの生徒が競馬場やパチンコ店に出入りしているっていう噂知ってますか?」
「そうなの?」
「ええ、今日あたり校長や教頭から城之内先生に調査の依頼が来るかもしれませんね」
「はあ?なんで私?」
「さあ、なんでもできそうに見えるからじゃないですかね」
「なんでもできそうって......私、ギャンブルって大嫌いだし」
「そうなんですよね、昔からそうでしたよね。......意外ですが」
「なによ?意外って?」
「いや、気質的にギャンブルにハマリそうな性格をしていると思ってたんですが......」
「自分の力ではどうにもならない感がすごくイヤなのよね。私、自分の力のみ信じてるから。.....運とか運命とか信じない」
「なるほど......波香様らしい」
「あ!もうこんな時間!支度しないと遅れるわよ!」
「そうですね!」
波香は時哉を促しそれぞれの自宅へと戻っていた。
◇
「というわけでどうですか?頼まれてくれますか?城之内先生?」
「わかりました」
「おお、頼みましたぞ」
時哉の読みどおり波香は校長室に呼ばれて例の話の説明を受け依頼されていた。
校長にギャンブル場でうちの生徒を見かけたら即刻出入りをやめさせることと更正を促して欲しいとのことだった。
「今までの汚名挽回でってどういうことよ?私は汚名なんてかぶってないのに!」
校長室を出た波香はふれくされてそう言った。
「あっと、そんなことよりお昼ご飯!」
波香はころっと笑顔になって視聴覚室に向かった。
「あ、そうだ、その前に!」
来るっと振り向いて今度は職員室へと向かう。
◇
「はい!藤田センパイあ~~ん?」
「あ~ん」
静香と藤田は職員室で2人きりしかいないことを良いことにイチャイチャしていた。
「うん、今日もおいしいよ!静香!」
「うれしい!藤田センパ......俊彦さん、こちらもどうですか?いい感じに揚がってます!」
静香は鳥の唐揚を箸でつまみ藤田の口元にそっと捧げた。
「あ~~ん......うん、うまい!」
「えへへ、良かった」
2人はお互いに見つめあい幸せそうな様子だった。
「あれ?アレレレのレ?お食事ですか?アレレレのレ」
城之内はまたもや2人の良い雰囲気をぶち壊しにやってきた。
「ひっ!城之内先生いつからそこに?」
静香はビックリして言う。
「1回めのあ~~んから」
「ひっ!そんな前から......」
「あんたらさ、なんで私の子分なのに親分を差し置いて先にお昼を食べてんの!?」
「え!」
2人ともビックリして波香を見ている。
「まあ、今日はいいけど。明日から視聴覚室にお昼は来なさい?お昼ゴハンはそれからだ!」
「......わかりました」
2人はしぶしぶと了承した。
「じゃあ、私はこれで......」
「......はあ」
「やっといきましたね俊彦さん」
「そうだね」
「じゃあ、あらためて、あ~~ん」
◇
「結構キレイなのね、夜の競馬場って」
「トゥインクルレースって言うのだけど女子同士とかカップルで楽しみにやってくる人は多いですよ」
波香と時哉は学校が終わり次第、夜の競馬場に来ていた。
「今日の最終レースは俺の馬が出ますよ」
「は?何?俺の馬って?」
「言葉通りです。俺の馬。俺は馬の主なんですよ」
「へぇ、なんて名前の馬なの?」
「ジェネレーションキャップ」
「ぷっ!なにその変な名前」
「変じゃないですよ!かっこいいじゃないですか!昔の名馬で同じような名前がいたんです!」
「へえ」
「世代を超えてがんばれ!っていう意味をこめています!」
「......なんだか滑りすぎて落馬でもしそうな感じだけど」
「縁起でもないことを言わないでください」
「まあ、いいわ。じゃあ、あなたの馬に1万円賭けてみます」
「おお!期待してくれてありがとうございます!」
まもなく最終レースを迎えることになった。
「ねえ、あなたの馬が1着になったらいくら貰えるの?」
「はい?俺がですか?えっともろもろの経費を引いて......」
「あなたの方の話はどうでもいいの。私の1万円がいくらになるのか聞いているの!」
「あ!そうか、えっとオッズは......102倍だから102万円ですね」
「え!?そんなに?」
「はい」
「なにがなんでも1着になってもらわないと!」
波香は滅茶苦茶鼻息を荒くしたがこの時 時哉はイヤな予感がした。
ダン!
ゲートが開いて各馬は一斉にスタートした。
「いけえ!いけえ!」
波香は片手をつきあげ懸命に応援している。
「そこだあ!いけえ!」
時哉も負けじと檄を飛ばしている。
「ああん、もう!何をモタモタやっているのよ!」
時哉の馬はスタートからずっとビリを独走中だ。
「ああ、ばかばかばか!乗ってる奴が下手糞なんじゃないの!」
波香は観客席を飛び出しコース上へでようとしている。
「ちょっと、あなた!私に代わりなさいよ!」
時哉の馬、ジェネレーションキャップに乗っている騎手に向かって無茶苦茶な事を言って大声で怒鳴っている波香を時哉はあたふたしながら波香の腕を掴んでコース上へ波香が出ようとしているのを懸命に阻止している。
「ちょ!ちょっと!ナミカちゃん!おちつけって!」
「いつまでどべを走ってるの!お前はジェネレーションなんだろ!?ジェネレーションギャップなんだろ!?世代を超えるんだろ!?」
波香は絶叫しているがジェネレーションキャップはあいも変わらずびりを独走中だ。
そして波香と時哉がドタバタ劇を演じている間にレースは終了しジェネレーションキャップは最初から最後までびりでフィニッシュした。
「もう!なんなの!あのクソ遅い馬!」
「いや、彼は一生懸命、走ったよ!」
時哉は自分の馬を称えた。
「ふざけんな!私の1万円、返しなさいよ!」
波香は時哉の胸倉を掴んで絶叫した。
「ひっ!は、はい!」
時哉は自分の財布から急いで1万円札を取り出し波香に差し出した。
「あともう1枚!」
「え?なんで?」
「私に余計な期待をもたせた迷惑料!」
「は、はい」
時哉はしぶしぶもう1枚を波香に差し出した。
「ふぅ、......ふざけやがって。だからギャンブルなんて嫌いなのよ」
アンタは結局1万円儲けただろうにと言う言葉を時哉は飲み込んだ。
◇
「で、今日はパチンコなわけだ」
「そうね」
「なんで、俺がつきあわされてるんです?」
「私、やったことないし1人では勝手がわからないから」
「俺もないです。......友人にハマッてる奴はいましたけど」
こないだの競馬場とは別の日の学校終了時、波香と時哉はとあるパチンコ店に来ていた。
2人は隣同士に座ってパチンコを打っていた。
「もうすぐ1万円なくなるんだけど何も起こらないわ」
「俺のほうもです」
「ほんとにこんなつまらないもの、ウチの生徒がやっているのかしら」
「こないだの競馬場にもウチの生徒は見当たりませんでしたね」
「そうね......このパチンコ玉を増やしてお金に換えるってことなの?」
「そうらしいですね」
「この液晶の数字が揃えばドバドバ、玉がふえるのかしら?」
「そうみたいですよ」
りーち!
波香の台でリーチがかかった。
「このボタンを叩けば揃うんじゃないかしら」
バゴォォォォン!
波香は思いっきり台のついているチャンスボタンをぶっ叩いた。
「ちょ!ナミカちゃん!台が壊れちゃうよ!」
そんなふたりの様子を遠目でオバさんが見ていてニヤニヤしながら波香の隣の空いている台に座った。
「なんなの?ニヤニヤしながら私の隣にすわってきて。イヤな感じね」
「気にすんなって」
「......私が先に当てて私の隣に座ったこと後悔させてやる!」
するとすぐにオバさんの台に大当たりが来た。
「ちょっと、なんなの隣の台。すぐに当たってるんだけど」
「ああ、そうですね」
波香は時哉とひそひそ話を終えた後、台の頭上についている店員の呼び出しボタンを押し店員を呼んだ。
「はい!なんでしょうか?お客様!」
「ちょっと店員さん。なんで私の隣の台はすぐに当たって私の台は当たらないの?」
「はあ、そうおっしゃられてもお客様の運次第ですので」
「運?これってここに99分の1って確率が表記してあるけど私の台もうすぐ200回転なんですけど」
「はあ、運次第ですので」
「ちゃんと抽選してるのこれ?インチキなんじゃないの!?店で何か特殊な操作してるんじゃないの!?私たちにわからないように!」
段々と波香の声は大きく、そして荒くなっていった。
「あなたじゃ話にならないわ!もっと偉い人呼んでちょーだい!」
やがて主任とおぼしき人が波香の席に来た。
「お客様、不満な気持ちは大変申し訳ないのですがこれは運次第ですので。店としてもどうしようもないことなんですよ」
「はあ?ほんとに?じゃあ、なんでパチンコ店の商売が成り立つのよ?本当に全部、運次第だったら商売なんて成り立たないわよね?」
「はあ」
「つまり絶対に店のほうが儲かるようになっているのよ。納得できません。私の1万円を返してください!今すぐに!」
「いえ、それはできません。みなさん納得の上でご遊戯なされてますし」
フィーバー!!!
波香の隣の台のオバさんはさっきから大当たりを連発させている。
「......何がフィーバーだよ!ふざけやがって!それなら私がフィーバーさせてやる!」
突然、波香は自分の座っていた椅子に立ちディスコよろしく髪を激しく振り乱しながら踊りはじめた。
「お、お客様!やめてください!」
「ナ、ナミカちゃん、やめてくれ!恥ずかしいよ!」
そんな2人の声もお構いなしに波香は踊り続けた。
「な、なんだ?あの変な奴」
「あれってうちのセンコーじゃないか?」
「マジで?」
「ああ」
「やべえな、俺たちのこと探しにきたのかな?」
「ああ、そうかもな」
「......あんな変な奴に見つかったらなんかヤバイ気がするな」
「ああ」
「もう、この店、来るのやめようぜ、どうせパチンコもでないし」
「そうだな」
『優明高等学園』1年生の常木と細田はいそいそとパチンコ店を出て行った。
この日以来、『優明高等学園』の生徒たちがギャンブル場へ出入りしていると言う噂は聞かなくなるのだった。