第3話
「今日からみんなと一緒に働いてもらう経理課に入った派遣の杉本君です」
「
わーぱちぱちぱち。
「杉本君は簿記の資格はもちろんのことパソコン、英会話、あとは電気工事だっけ?」
「はい」
「それに行政書士、なんと弁護士の資格まで持っている!」
「わー!すごい!」
「いえいえ、そんなことは...」
「みんな仲良くしてやってくれ!」
「はい!!」
その女は一晩のうちに半年間住み着いた場所を離れ再び都心に戻ってきていた。
偽造された身分証明書類を複数使いこなし派遣会社に登録後、大手電機製造機器メーカーの会社で今日から派遣社員として働くようになる。
「杉本さん」
「はい?」
「あたし、総務の
「はい。ありがとうございます。一里塚さん」
「...」
「?どうかしました?」
「ん?んーーん。なんかあたしのよく知ってる人に似てるなって思って。あはは、ごめんね」
「いいえ」
総務の一里塚はそう言うとにこにこしながらその場を去って行った。
「...私より胸がデカイとか...なんか気に食わないねえ...」
女はぼそっとそう独り言を言うと机の上にたまった出金伝票を見てデータをパソコンで入力しはじめた。
ズダダダダダッ!シュバババババババババッ!
キーボードを叩く指先から奏でる凄まじい轟音に周囲の注目を集める。
「は、はへええ!」
「誰?あの人?」
「今日から派遣で来た杉本さんだって!」
「なかなかの美人だし...」
プルルル!プルルル!
フロアに外線電話のベルが響き渡る。
「はい!いつもありがとうございます!ケニーエンタープライズでございます!」
「...はい、鈴原ですね、少々、お待ちくださいませ!....鈴原課長!近世商事様から1番にお電話です!」
「うん!ありがとう!杉本君!...はい、お電話変わりました。...いつもお世話になっておりますぅ」
その女は高速でデータ入力をしながらも率先して外部からの電話にも応対していた。
「すげえ、初日からベテランのようじゃん...」
その女の振る舞いは特に若手社員からの注目を集めている。
「わあーー、なんでも出来るなんてますます似てるなあ」
総務の一里塚はかつての自分の友人の面影をその女に重ねていた。
その女は昼休みを迎えるころ、3000枚の出金データを全て入力し終えてた。
「係長!データ入力終わりました。他に早急にすべきことはございますか?」
「え!もう終わったの?」
「はい」
「んー...。じゃあ、お昼まで休憩してていいよ。午後からは財務諸表の整理整頓やってもらえるかな?」
「承知いたしました」
女は休憩してていいと言われたにも関わらず自分の机に昼休みまで待機して外部からの電話対応をした。
「あ!お茶なら、私がいれますよ!」
「え?そんな悪いよ」
「いえいえ、暇ですのでやらせてください!」
「そう?ありがとう杉本さん」
「いいえー」
女は他部署への来客のお茶出しも率先してやっていた。
まもなくして正午を知らせるチャイムが社内に響き渡った。
「すっぎもとさん!お昼は社員食堂行く?」
「はい、そのつもりですが」
「じゃあ、一緒に行かない?」
「はい、行きます」
一里塚は女を社員食堂に誘った。
「うちの会社の社食、結構おいしいんだよ!」
「それは楽しみですね」
女もにこっと笑い一里塚の後に続いた。
2人は同じテーブルにつき同じ定食を食べている。
「ね?このサバの味噌煮定食おいしいでしょ?」
「うん!ほんと、おいしいですね!」
女は満面の笑みを浮かべながらサバを堪能している。
「その...すごくおいしそうに食べるところ...ますます似てるなあ」
「え?」
「ねね、杉本さんは姉妹とかいるの?」
「...ええ、弟がいますわ」
「...弟かあ...」
「?どうかしましたか?」
「ううん、なんでも!」
一里塚は屈託のない笑顔でそう言った。