※この作品はR-18です。

もう悪役令嬢なんて言わせない!   作:億田夢人

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第30話

「城之内先生が退職されたのでしばらくは僕がこのクラスを担当することになりました」

 

 藤田は波香が担任していたクラスを引き継ぐことになった。

 藤田は体育のみの科目担当からクラス担任へと昇格した。

 給料アップである。

 それが藤田の当初からの狙いだったのかは定かではない。

 

「先生!」

「なんですか?品川君?」

「なんで城之内先生はやめちゃったんですか?」

「......一身上の都合だそうです。詳しいことは僕にはわかりません」

 

 ざわざわざわざわ

 

「俺、小耳に挟んだんだけどパチンコ店で椅子の上に立って踊っていたらしいぜ?」

「えーーー?なんでそんなことしたんだろ?」

 

「静かにしてください!」

 

 藤田は声を張り上げた。

 

「みなさん、ショックだとは思いますがこれから大学受験も控えてますし『優明学園』の生徒であることを自覚しこれからも勉学に励んでください」

 

 藤田はそう告げると教室をあとにした。

 

「......」

「......なんでえ?今の藤田先生は昔よりはマシだけど、私、城之内先生がよかったんだけどなあ」

「俺も」

「私も」

「でもさ、パチンコ店で暴れたんじゃ仕方なくね?」

「うーん、でも、あの先生が理由もなくそんなことするのかな?無駄なことするの一番嫌ってたし」

「『優明学園』の教師がそんなことをしたからクビになったんじゃね?」

「そうかも」

「......」

 

「違うだろ!みんな!僕達に今、必要なのは城之内先生だろ!辞めた理由なんてどうでもいい!」

 

 黒縁眼鏡の品川が声を荒げる。

 

「なんだ?品川の奴。珍しく興奮しやがって」

「城之内先生のおかげで細田さんと付き合うことができたからじゃないの?......まあ、私も彼氏できたけど」

「俺も城之内先生のおかげでホームラン量産できたし勉強の成績もあがった......」

 

「今更、違う担任の先生になったって意味がない!僕は城之内先生じゃなければこの学校をやめて高認受けて大学受験します!」

 

 品川はかなり興奮して雄たけびを上げている。

 

「でも、そうすると1年間、浪人するんじゃね?」

「いや、今からなら日程的に間に合うぞ?」

「俺も、そうしようかな。城之内先生いないと学校来てもつまんないし時間の無駄っぽい。自分で独学したほうが時間をうまく使えそうだ」

「そうだねー、他の先生の授業は教科書棒読みでつまんないし」

「品川!それでどうすんだ!?」

 

「校長先生に城之内先生に戻ってもらうようにかけあいます!無理ならば僕は退学届けを校長に叩きつけます!」

「品川!それ俺もその話のった!」

「私も!」

「俺も!」

 

 がらがらがら

 

 ふいにクラスの扉が開いた。

 

「どうやらこのクラスも決まったようだな。みんないくぞ!校長室に!」

 

 3年の実質的なリーダー井上幸太郎(いのうえこうたろう)が品川達を促した。

 彼は前期の生徒会長である。

 

「みなさん!行きましょう!」

「おおおう!」

 

 そして廊下で神崎恵美率いる2年生の軍団が3年生達と合流する。

 

「井上先輩!私たち2年も賛同いたします!」

「これはこれは神崎のお嬢様。心強い!では行きましょう!」

 

「はい!」

 

 

  ◇

 

 

 校長室の前に全校生徒のほぼ3分の2が集結していた。

 

「まったくこっしー(校長のこと)の奴、見そこなったよ」

「ほんとよね。今、私達に一番必要な先生は城之内先生だっていうのに」

 

「じゃあ、みんないいかな?もし城之内先生の復職が認められない場合は全員退学届けを提出ということで!」

「おおおおう!!」

 

 3年の実質的なリーダー井上がその場にいる生徒達を鼓舞し片手を天に突き上げた。

 

 一方校長室では......

 

「どうします?」

 

 教頭が校長に尋ねた。

 

「どうもこうもまず話を聞かないと始まらないだろう」

「ものすごい数の生徒が扉の向こうにいますが......」

「代表者1人だけこの部屋にいれてくれますか」

「わかりました」

 

 がらがらがら

 

「みなさんおはようございます」

「ひっこめ!ハゲ教頭!」

「!!今、言ったの誰ですか?前へでなさい!」

 

 教頭は激怒し顔を真っ赤にしながら叫んだ。

 

「俺でーす!」

「私です」

「私も」

「俺も」

「......」

 

 教頭の前に次々と生徒達が並んでいく。

 

「......ふざけてるのですか!君たちは!」

「あんたはいいから校長と話をさせろ!」

 

 後方から男子学生の声があがる。

 

「なんですか!その言葉使いは!あなたたち『優明学園』の生徒の言う言葉ですか!」

「まあまあ、教頭先生。俺だけですよね?話できるのは?入りましょう」

 

 井上は教頭を促して校長室に供に入った。

 

「やあやあ、井上君か」

「校長先生どうも。この度はお騒がせしてどうもすみません」

「......君が今回の件の首謀者かね?」

「いいえ。俺はただ担がれただけです」

「じゃあ、君は城之内先生の復職をそれほど望んではいないと?」

「いいえ、望んでいます。俺は古典が苦手でしたが城之内先生のおかげで今や得意科目になりました」

「ほう」

「古典以外の分野でも城之内先生の教えを請いたいと思っています」

「......」

「これをご覧ください」

 

 バサッと分厚い紙の束を井上は校長の机の前に置いた。

 

「なんだね?これは?」

「城之内先生がこの学校に戻らなかった場合の退学届けです」

「なんだと!?」

「......全部で何人だ?」

 

 教頭は井上に問うた。

 

「212人です」

「!!こ、校長!!」

「......本気なのかね?井上君?」

「俺は本気ですよ。みんなも多分、やめるでしょうね。あとそれからこれも見てください。我々、生徒が教師の評価みたいなことが書いてあります。......大変失礼ですけど」

 

 校長がペラッと表の1枚だけめくって少しだけ目を通すと見るのをやめた。

 

「全部見てはくれないのですか?」

「後で見よう。とにかく城之内先生は解雇しました。私から言うことはそれだけです」

「そうですか......残念です」

 

 井上はぺこりと頭を下げると校長室をでた。

 

 がららららら

 

「井上ーーッ!どうだった?」

「交渉決裂だ!みんな帰ろう!」

「おおおおおお!!」

 

 わいわいわいがやがやがやと一斉に生徒たちは帰りだした。

 校舎内はほぼ1年生だけとなる。

 それを校長と教頭が連絡通路から2人で見ていた。

 

「あわわわわ、校長!どうするんですか?」

「どうせハッタリだよ。本気でやめるなんてできないでしょう」

 

 しかし校長の思惑とは裏腹にこの日帰った生徒は次の日に誰も登校するものはいなかった。

 

「イタイアタタタタタ......」

「こ、校長!どうされました!?」

 

 朝から校長室で校長はわき腹を抑えながら椅子から転げ落ちてしまった。

 おろおろする教頭だが我に返り救急車を呼ぶ。

 ほどなくして救急車が到着し校長は緊急入院することになった。

 

 

  ◇

 

 

 この日の午後、株主たちの緊急会議が学校の近くの料亭でおこなわれた。

 

「では、教頭先生。しばらくはあなたが校長代理を務めてください」

「はい」

「それから例の学生達の退学届けと意見書も私に渡してもらえますかな?」

「はい」

 

 教頭は神崎喜一郎(かんざききいちろう)の言うがままに従った。

 神崎喜一郎。神崎恵美の実父にして神崎財閥グループの総帥。そして『優明高等学園』の筆頭株主でもある。

 

「ふむふむ、なるほど。みんな城之内先生が大好きなんですなあ。いいことしか書いてない」

「......」

「それに引き換え前からいる教師に対しては授業がつまんないだの非効率だの否定的な意見ばかりですなあ」

「......」

「マニュアル教育はつまらない......か」

「こ、校長は伝統と格式を重んじておりますので......」

「んー......教頭先生は年々、わが校でT大やK大の合格者数が減ってきているのをご存知ですか?」

「......はい」

「以前は海外のH大など受かる生徒が数人はいたのですが最近はほとんどそういう生徒が現れませんねえ」

「......」

「もういいですよ。教頭先生はお帰りになられて。後は我々で少しだけ話をしますので」

「はっ!それでは失礼いたします」

 

 教頭は料亭をでた。何も食べれずに......

 その仕打ちを受けるあたりどうやら株主たちにあまり気に入られてはいない様子だった。

 

「......はっははは!」

 

 神崎は生徒たちの意見書に目を通し、たまに愉快そうに笑っていた。

 

「あ、これは失礼。みなさんもどうぞ目を通してご覧ください」

 

 神崎は自分の隣の席の株主に意見書を渡した。

 

「私は生徒たちの意見書を見る限り城之内先生は非常に優秀な教師であり何より生徒達にすごく愛されておる!このまま我が学園を去られてしまったらとんでもない損失になると考えているが皆さんはどうだろう?」

 

 

 神崎は他の株主にそう問いかけると高級そうなワインをがぶっと一気飲みした。

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