第31話
『優明高等学園』
超有名進学学校の過半数の生徒は一斉に不登校をした。
しかし、次の日からはぽつぽつと生徒は自主登校し始めていた。
しぶしぶと登校した生徒はおそらく親に促されたか自分の意志で登校しないとマズイと思ったのだろう。
株主達の意向は結局、波香を復職させない方向に決まった。
神崎喜一郎は波香の指導力を認め復職させたい気持ちはあったがその考えに同意するものはほとんどいなかったのだ。
喜一郎も強くは自分の意見を押し通すようなことはしなかった。
何より波香への連絡がつかなかったこともある。
波香は職場を去る際にはその都度、電話番号と住まいを変えていた。
「いらっしゃいませ~」
波香はニコっと入店してきたお客様に笑顔で挨拶をした。
波香はある街のあるコンビニエンスストアでバイトをしていた。
教師生活では生徒の為に学校が終わったら自宅で特製A4ノートに生徒ごとに特徴や指導方針をまとめていた。
それくらい熱心に教師という職業に就業していたのだ。
ところが教師をクビになった途端、燃え尽き症候群のような感じになってしまった。
ふらふらと街を歩き、コンビニで食べ物を物色していると『アルバイト募集』というチラシが目に付いた。
とりあえず波香は応募してみた。
歳のころ50歳と思われる店長は波香を見るなり興奮しながら即採用したのだ。
「お弁当、温めますか?」
にこっと笑いかける波香にほとんどの男性客は目を奪われた。
「い、いえ、大丈夫です」
「はい、ありがとうございます。......27円のおかえしです。ありがとうございましたあ」
波香はそっとお客さんの手に手を添えておつりを返した。
大抵の人は弁当などを温めないで去っていたが中には波香の近くに少しでもいたくて小出しに商品を買い、わざわざ温めてもらう客もいた。
「久遠さん、もうあがっていいよ」
「はーい」
にこっと笑いかけると波香はいそいそと従業員室へと入って行った。
波香はここでは
自宅のアパートに帰宅しシャワーを浴びる。
ザーーーーー......
「......」
シャワーを浴び終わるとバスタオルを身に纏いドライヤーで髪を乾かす。
ブォォォォ......
「......結構、伸びたわね。美容院に行こうかしら」
波香の髪はお尻の割れ目が始まる付近まで伸びていた。
◇
「久遠さん、深夜のシフトって大丈夫かな?」
「んー、そうですね。できれば私、11時には寝たいのですが」
「じゃあ、無理だね」
「申し訳ありません」
「あ、いいんだいいんだ!無理言って久遠さんに辞められたら困るからね。久遠さん目当てで来るお客さんも結構いるみたいだし、おかげで最近売上があがってるんだよね」
店長は嬉しそうに波香に言った。
「そうですか。良かったです。これからも頑張りますね!」
波香は店長ににこっと笑った。
店長はその笑顔にメロメロになっている。
そして波香は翌日にはそのコンビニを辞めていた。
◇
波香は近くのショッピングモール内の美容院に行き髪を少しだけカットした。
そしてショッピングモール内をあてもなくぶらついているとおもちゃ屋さんの『急募!!店員さん募集!!』のチラシが目に入った。
「何、この時給?クソやすっ」
と思わず言いつつも
「すみません、店長さんいらっしゃいますか?」
と若い女性の店員に話しかけた。
「はい......アルバイト募集の方ですか?」
「ええ」
「あ、はい!少々、お待ちください!......店長ー!」
若い女性店員は奥の倉庫らしきところに行き店長を呼んだ。
「お待たせしました。私が店長の匂坂(さぎさか)です。......今から面接しても良いですか?」
歳の頃30前半の男性は波香に対してそう話した。
「はい、私は構いません。これ履歴書と職務経歴書です」
波香は常に履歴書と職務経歴書を所持している。
学歴と資格以外はまったくのでたらめな書類だ。
「はい、ではそこにお座りください」
「素晴らしい学歴とたくさんの資格をお持ちですがなんでこんなおもちゃ屋さんで働こうと思ったのですか?」
「はい!私、おもちゃが好きで好きでたまらないんです!昔からおもちゃ屋さんで働くのが夢でした!」
「なるほど......では一番好きなおもちゃはなんですか?」
「私は女の子でしたらからやはりミカちゃん人形ですね。後はモノボリーです!」
「おお!モノボリー!!面白いですよね!」
「はいはい!他のプレイヤーからいかにぼったくるか?......私の人生の礎を作ったボードゲームです!!」
「あはは!なるほど。面白い!久遠さんぜひ明日から来てください!」
「お断りします!」
そういうと波香はスタスタとおもちゃ屋を後にした。
「......なんなんだ一体?」
勾坂はぽかんとして去って行く波香の後姿を見送った。
教師をクビになって意気消沈していた波香だったが傍若無人ぶりを発揮し徐々に本来の自分を取り戻しつつあった。
大変迷惑な話である。
ひとしきりひやかしを終えた後、波香は自分のアパートに帰ることにした。
ショッピングモールの出口にさしかかった時、一人の男性に呼び止められた。
「『城之内さやか』先生ですね?」
その男性は自分のスマフォを見ながら波香に言った。
おそらくその男性のスマフォには波香の写真か何か写っていたのだろう。
「違いますが?人違いじゃないですか?」
波香は男性にそう言い放つとスタスタと立ち去ろうとした。
が男性は波香の腕をぎゅっと掴みこう言った。
「ちょ、ちょっと待ってください!怪しいものではないです!私は神崎さんに頼まれてやってきました!」
「え?メグミちゃんが?」
「ええ、神崎さんとその娘さんからの要望で、です!」
「......で?なに?」
「神崎さんがこの度、新しい学園を作るようでぜひ、城之内さんにその学園の校長をやってもらいたいとのことです!」
「なんですって!」
波香はその男の話を聞きびっくりして小ジャンプをした。
◇
『
5年前から神崎喜一郎個人の資本を元に着々と完成を急がされた私立高等学校である。
優明学園では筆頭株主ではあるものの他の株主も多数在籍しているため神崎の思った通りの学校経営が中々できなかった。
それで神崎個人がこの学校の創立にふみきったのだ。
来年の4月から運営予定のハズだったが急遽10月から開校となった。
その運営スタッフの最初の1人、波香を校長に迎えたいと神崎喜一郎は言うのだ。
高級料亭で神崎喜一郎、神崎恵美、北条波香は会食している。
「どうですか?城之内さん?伝統や格式にとらわれない超合理化、超効率化を目指す学園の校長をやってみませんか?」
そう言う喜一郎の隣の恵美のその瞳には久しぶりに師匠に会えた喜びで涙で潤んでいる。
「はっ!ぜひ!」
「わかりました。こちらこそ宜しくお願いします」
「はっ!この城之内さやか、粉骨砕身、『天晴学園』の為に尽くしたいと思います!」
「っはっはっは。そんな気張らなくて良いですよ。今まで通り、生徒の為にがんばってください」
「はっ!」
「さあ、さあ、お父様、城之内せん......違いますね!城之内校長!お鍋がよい感じですよ!」
恵美は鍋奉行になりいそいそと薬味等をみんなに用意しはじめた。
「あむ......ホント、おいしいです!!」
波香は本当に幸せそうに超高級和牛のしゃぶしゃぶを口に頬張りそう言った。
その満面の波香の顔を見ながら神崎親子も高級しゃぶしゃぶに舌鼓をうつのだった。
◇
10月1日。
『天晴学園』開校。
新木の香りがする体育館に全校生徒は集まった。
とはいっても50人足らずの生徒達だが。
その顔触れは神崎恵美、長谷川真子、品川、相沢、細田、中原、小野寺、そして井上幸太郎などなど。
「......私が校長の『城之内さやか』です」
ぱちぱちぱち
生徒達からの拍手。
「生徒はあなたたち48人。先生も私1人。これから結果を出してこの学校をどんどん大きくしていきましょう!」
「おーーー!!」
校長の挨拶は短めに終わった。
こうして『城之内さやか校長』こと北条波香がしきる学園生活がスタートするのだった。