11月も終わりだというのに暑い日差しがアスファルトを照りつけていた。
ビルの工事現場では元数学青年教師が鉄骨を担いでいい汗を流していた。
その青年は教師生活の時よりも日焼けし、たくましい上半身になっていた。
「おい、若造、休憩にしよう!金やるから何か飲み物を買って来い!」
「はい!」
北条時哉は『優明学園』の教師をクビになった後、工事現場で働いていた。
時哉の両親に校長へと伝わってしまった写真の件を知られてしまい家から勘当されたのだ。
「ええと、親方がスマートコーラで志村さんがぺカリか......しかし身体を動かすのはやはりいいな。余計なことを考えなくてすむ......」
時哉はそう言いつつもみんなの飲み物をしっかりと自分の頭に覚えこませコンビニへ向かう。
「あ、あの!」
コンビニが見えたところで女子高生に呼び止められる時哉。
時哉は何事かと振り返った。
「やっと見つけた!時哉さん、会いたかった!」
神崎恵美である。
「メ、メグミ......」
うろたえる時哉。
「なんで私に黙って姿を消したんですか?」
「いや、事が公になったら自分のした事があまりに恥ずかしすぎて......」
「......後悔してるんですか?」
「いや、後悔はしてないよ」
「なら、いいじゃないですか。そんな逃げも隠れもしなくて」
「......やっぱり教師としてはいけないことだよ?教え子と肉体関係を持つなんてことは」
「愛し合ってる2人ならそんなこと関係ないじゃないですか!」
がばっと時哉に抱きつく恵美。
「メグミ」
「私もですね、時哉さんがいなくなってから何度も忘れようとしました。......他の人に興味を持とうとしました!。でもダメなんです......寝るときには必ず時哉さんの顔が浮かんできて......」
「......」
「で、昨日ようやく私の放った密偵が時哉さんがここにいるって情報を私に知らせてくれて......」
「ははは、密偵ね」
自分が利用できるものはなんでも利用する、そのストーキング魂に恐れ入りながら時哉は苦笑した。
「でも、メグミ。キミが愛していた北条グループの時哉先生はもうどこにもいないよ」
「え?」
「俺は家を勘当された。もう北条とはなんの関係もない。キミは北条ブランドが好きだったのではないのかい?」
「そ、そんなこと......」
恵美は少し困惑したようだったがしばらくすると強い眼差しでこういい放った。
「私は時哉さんが好きなんです。北条家とかどうでもよくなりました。人間として時哉さんが好きです」
恵美は時哉に抱きついて離れない。
「......メグミ」
「......父が新しい学校を作りました......その学校の校長を師匠がやっています。時哉さんも教師としてその学校へ来てください」
「ナミ......城之内先生が校長を?いやしかし......キミの父上が俺を雇わないだろう?」
「私が説得します。もし受け入れられない場合は私も家を出ます!」
「メグミ......」
時哉も恵美のことを抱きしめ二人はしばらくの間、抱き合っていた。
◇
「五反田君!何度言ったらわかるの?その投げ方は肩や肘に負担がかかるからやめなさい!」
「で、でもこの投げ方じゃないとスピードが......」
「高校生相手に165キロのスピードボールはいりません!」
「......」
放課後の学校のグラウンド内ピッチャーマウンド付近で波香と五反田は言い合っていた。
「校長!俺にバッティングを教えてくらさ~い」
真鍋瞬が波香を呼ぶ。
「わかった。......いい五反田君?私の教えた通りのフォームで投げなさい。良いわね?」
「......はい」
てくてくと真鍋の元へ歩いていく波香。
真鍋はご主人様を待つ子犬のような顔をしていた。
「あはは」
「何かおかしいですか?校長?」
「え?いいえ。さあ、バッターボックスに立ちなさい」
「はい」
「五反田君!軽く投げてあげて!」
「はい!」
五反田はゆっくり振りかぶってボールを投げた。
カキーン!
真鍋は来たボールをフルスィングするとボールはフェンスを越えて遥か先に消えていった。
「え?本当にあなたはじめてなの?」
「はい!どうですか?校長?」
真鍋のその顔はご主人様に褒められて欲しそうな子犬のような顔をしていた。
「ぷっ」
思わず波香はふきだしてしまった。
「どうしました?校長?」
「え?いいえ、なんでも。五反田君、もうちょっと本気で投げてみて!」
「わかりました」
五反田はゆっくり振りかぶってボールを投げた。さきほどよりちょっと強めに本気をだしてボールを投げてきた。
カキーン!
今度も真鍋は場外ホームランを放つ。
「どうですかどうですか?校長?」
「......五反田君、『本気』で投げて!」
「はい!」
五反田は鼻息を荒くすると今度はすばやく振りかぶり身体のバネの全身全霊を込めて自分の肩に力が全部備わるように投げた。
波香に禁止されていた投球フォームだ。
「うわああ!」
真鍋はそのボールのあまりの速さに恐れをなし腰が引けた。
ズバン!
あっというまに五反田の投げたボールはキャッチャーミットにおさまった。
「見逃しのストライクね」
「あんなの無理っすよ!校長!」
泡を吹きでもしながら真鍋は校長にそう言った。
「うふふ、まあ、あの球を打てなくても高校生ならあなたのままで充分通用するわよ。私の指導なんていらないわ」
「え?そんな!手取り足取りは!?」
「ばか!」
波香はそう言うとぱんぱんぱんと手を叩いた。
「はい、今日の練習はこれにて終了!各自、休息をしっかりとるように!」
「はい!」
「特に五反田ァー!あなたは肩をしっかりとアイシングしておくように!」
「わかりました!」
こうして高校球児たちの1日の練習は終わった。
◇
同じころ反対側のグラウンドでは真鍋誠の指導のもと女子ソフト部が練習をしていた。
「いいか、キミたち。打撃はパッションだよパッション!」
「はい!」
「よし、それでは全員素振り100回!」
「はい!」
女生徒達は誠の指示に従い素振りをはじめる。
しばらくするとスススと誠は素振りをしている真子に近づいてきた。
「長谷川君、今日は神崎君はどうしたんだ?」
「ハイ、私用だそうで練習は欠席するそうです」
「なんだそうか......ん?キミは腰がはいってないな」
そう言うと誠は真子の腰をぎゅっと掴んだ。
「きゃっ!」
「これをこうしてだな.....あと、この胸はボールを打つ瞬間にはひっこめて!」
もぎゅっと誠は真子の胸を鷲づかみにした。
「あっ!あ、あの先生!」
「ん?なんだ?」
「わ、私、ソフトってやったことないので......あっ!」
真子が誠の手を逃れようとしても誠は真子の胸を掴んだまま離さない。
「そうかそうか、では私に任せておきなさい」
「はい......あっ!んっ!」
ひとしきり真子の胸を揉みしだく誠。
「よし!今日の練習はこれで終わりだ!」
誠はそう言うと真子の胸から手を離しスタスタと校舎に戻っていった。
「ありがとうございました!」
「あり......がとうございました......はあはあ」
ヘナヘナとその場に真子は崩れ落ちた。
「大丈夫?長谷川さん?今、真鍋先生に変なことされてなかった?」
同じ2年の
「だ、大丈夫。私、ソフトボールってはじめてだからこんなことも知らなくて......」
「......あの先生ってもしかしてセクハラ教師なんじゃない?」
「......」
波香たちによって感じやすい身体にされてしまった真子を尻目に瑞樹は不審な眼差しで去っていく誠の後姿を見つめるのだった。