年が明け『天晴学園』の新学期が始まる。
体育館では椅子がずらーっと並んでおりそこに生徒は学年別に規律よく座っていた。
「みんなあけましておめでとう!」
波香は壇上に上がりまずは新年の挨拶をした。
「おめでとうございます!」
「こういう時間は決して無駄とは言わないけれど要点だけいいます」
波香はそう言うが生徒たちは決してそんなことはなくみんな波香の話を聞きたがっている。
「3年生はいよいよこれからが本番です。......もしかしたら自分の希望する進路にいけないかもしれません。そんなことになっても悔いが残らないように自分の力をだしきってください。私も他の先生達も全力でバックアップします!
2年生、1年生は教室内の清掃はもちろん校庭の清掃などすすんでやってください。私は清掃の時間とかは設定しません。日頃の生徒の自主性に全て任せます。
学校生活、日頃の生活の中で困ったことがあったら私も含め先生達にすぐに相談しなさい。きっと力になることを約束します」
ぱちぱちぱち
「最後に今日からみんなの仲間になった先生を紹介します」
波香は後ろに控えている時哉を前に来て挨拶するように促した。
「北条時哉です。主に数学を担当させていただきます。宜しくお願いします」
ぱちぱちぱち
「以上で朝礼を終わります!解散!」
波香の一言で生徒はちりじりになっていく。
「なんだ?もう終わり?10分しかたってねえじゃん」
「まあ、いいじゃない。その分、時間を他の事に使えるし」
「そうなんだけどさ、楽しそうなことは時間がなくてクソなことほど時間が長いんだよなあ」
「あはは、世の中、そういうもんだよ......あたしたちが変えようよ。そういう世の中を!」
「......そうだな」
この2人、学年は2年。名を
のちに政治家として日本の政治を大きく変えていく人物である。
◇
職員室では波香を含め3人の教師たちが今後の教育方針について話し合いをはじめていた。
「北条先生には2年生の数学と担任をお願いします」
「え?ちょっとちょっと!校長!2年は俺が担任したいのですが!」
真鍋誠が校長の決定に異議を唱える。
「異論は認めない。真鍋先生あなたは1年生の数学と担任をお願いします。以上だ」
波香は真鍋の意見を聞こうともせず一方的に話し終えると校長室に戻って行った。
「真鍋先生、宜しくお願いします」
時哉は誠に対して深々と頭をさげた。
「ああ、よろしく」
そっけなく誠は挨拶をすると自分の席に座り授業の用意をしはじめた。
がらっ
「失礼します」
職員室に神崎恵美が早速やってきた。
「おおお!神崎さん!どんな御用かな!?」
誠は時哉に対する態度とは雲泥の差で恵美を迎えた。
「おはようございます。真鍋先生、北条先生」
「おはようございます」
「おはよう!」
「北条先生、ちょっといいですか?」
「なんですか?」
「ここではちょっと......」
恵美はチラッと誠の方を見た。
「は?なんだいなんだい?神崎さん!北条先生になんの用なんですか?」
誠は追求してくる。
「いえ、プライベートなことなので、ちょっと」
「は?プライベート?」
「はい」
「え?神崎さん、北条先生とはどんな関係なんですか?」
「私達つきあってますから!」
「え?」
恵美はそう言うと時哉の腕を掴み職員室から連れ出した。
「......」
誠は1人職員室に取り残された。
◇
「まったくあの先生なんなの。私が神崎財閥の娘だとわかったら態度がコロっと変わったんですよ?」
「そうなんだ」
「はい......時哉さん今日、お昼ご飯、何か用意してきたんですか?」
「いや?なんにも」
「そうですか!じゃあ、私が用意しますね!」
「......なんか悪いね、いつも」
「いいんです!私はただ注文するだけなので......本当は手作りしたいところなんですけど」
「いいよ、無理しなくて」
「でもでも将来のことを考えたらやっぱり料理できるようになったほうがいいですよね?」
「それはそうだと思うけど」
「師匠って料理ってできるんですか?」
「......あの人はなんでもできるよ。料理も多分、店が開けるくらいの腕前なんじゃないかな」
「へえ、すごおい。じゃあ、師匠に料理を教えてもらおうかな」
「......いいと思うけど、校長は忙しいから3年生達の進路が落ち着くまで控えた方がいいんじゃないかな」
「じゃあ、そうします......時哉さん、元気ないですね?」
「そんなことないよ」
時哉は恵美にこう答えたものの内心は波香に対して猛烈な嫉妬心をいだいていた。
校長となって学園全ての管理を任されている波香に対し自分は不祥事を起こし教師をいったんはクビになり恵美によって教師として復職する様を恥じていた。
「......時哉さんもいろいろ思うことがあるかもしれませんがこれから頑張ればいいじゃないですか」
恵美はそんな時哉を察し声をかけた。
◇
「失礼します」
誠は校長室へ訪れた。
「なに?どうしたの?」
波香は最近眼鏡をかけて書類を見ているのだが眼鏡を外して誠の方を見た。
「さっき、本人に聞いたんですが2年の神崎恵美と北条先生はつきあってるようです」
「それが何か?」
「いけませんよね!教師と生徒がそんな関係になるなんて!?」
「別に問題ないと思うけど?何が問題なのかしら?」
「え!?一般的に考えてマズイじゃないですか!?」
「学業や仕事がおろそかになるようならダメだけれどあの2人に限っては問題ありません」
そう波香は言い切った。
「え?あ、そう、なんですか」
誠はガックリと肩を落として無言で校長室を出て行った。
その姿を見て波香は笑う。
「あはは、どこまで無粋で下衆な男なのかしら。......面白いからしばらくクビにしないでおこうかな♪」
楽しみが増えたような顔をしている波香にまたまた来客が現れた。
真鍋誠の弟、真鍋瞬である。
「しんつれいします!」
「本当にキミは気楽に校長室に訪れるわね」
「それがこの学園のいいところじゃないですか!」
「で、なに?」
「お昼を一緒に食べる友達がいなくて困ってるんです!校長!一緒にお願いします!」
「はあ?」
「さっき、朝礼で困ってることがあったらすぐに相談しなさいって言いましたよね?嘘なんですか?」
「嘘じゃないけどそれは学業に支障をきたすなら......って場合のみよ?」
「ぼっち弁当はつまらなくて勉強がやる気になりません!」
「......真鍋君」
「はい?」
「友達を作りなさい。私は友達がたくさんいる人が好きよ」
「はあ、昔から俺、友達ってできないんですよね。俺の顔が良すぎるのと頭もいい......俺という人間にみんな嫉妬してるんじゃないですかね?」
「まあ、私から言えるのはその自信過剰さが他の人を遠ざけている原因だと思うわ」
「はあ」
「もっと、謙虚になりなさい。そうするだけであなたは人気者になって女の子にチヤホヤされると思うわよ」
「ほんとですか!」
「ええ」
「やってみます!」
瞬は校長室を出て行った。
「......兄弟そろってなんなのかしらね。まあ、扱いやすいのが幸いだわ」
こんこん
ふいに校長室の扉を叩くノック音が聞こえた。
北条時哉である。
「はーい?」
「ノックオン!スクラム!なんちゃって!」
「はあ?トキヤ?あなたそんなつまらないこと言ったっけ?」
「まあ、人は変わるってことさ。ナミ......校長先生、他にも仕事を回してもらっていいですよ?」
「今は、大丈夫よ。......日焼けしたし随分とたくましくなったわね?私の好みにグッと近づいたわ」
「え!?本当ですか?よ~し、がんばるぞ!」
ダッシュで校長室を出て行く時哉。
「あはは、扱いやすいバカがまた一人。......始めますかね私の『奴隷物語』を」
校長室に1人佇む波香は本気だか冗談だかわからないようなことを言うのだった。