※この作品はR-18です。

もう悪役令嬢なんて言わせない!   作:億田夢人

37 / 164
第37話

 東京都郊外のある200坪はゆうにあると思われる私有地。

 その敷地のど真ん中にポツンと民家が建っていた。

 その民家はシンプルな作りで200坪もある土地の私有者にしては随分と質素な作りである。

 その民家の世帯主は北条繁一(ほうじょうしげかず)。

 波香の実父であった。

 

「大河原!例の件はどうなっておる?」

「はっ!順調であります!今月中には試験運用ができるかと!」

「ほう......急がせい!」

「はっ!」

 

 繁一と対峙していた軍服を着ている大河原と呼ばれた男性は一礼をすると繁一の元を去って行った。

 

「宗時(むねとき)!宗時はおるか!」

「はっ!ここに!」

 

 宗時と呼ばれたスーツをきちっと着こなした男性は繁一の前に立つ。

 

「波香はまだ見つからんのか!?」

「......はい、申し訳ありませぬ」

「波香がワシの元を去ってもう1年以上じゃぞ?何をモタモタしておるのじゃ!」

 

 繁一は自分の脇に置いてあった湯呑茶碗を宗時に投げつけた。

 

 ばちゃ

 

 湯呑茶碗にはまだお湯が入っていたようだが宗時はよけずにそれを受け止めた。

 

「......」

「お前がそんなようだから出来の悪い息子(時哉)が出来るのじゃ!さっさと見つけてこい!」

「はっ!」

 

 宗時は一礼をするとくるっと繁一の元を去る。

 

「まったく、使えん奴じゃ......のう、フランソワ」

 

 繁一は位牌の写真に写っている女性を見てそうつぶやいた。

 

 

  ◇

 

 

「校長!ソフト部の顧問を変えてください!」

「師匠!私からもお願いします!」

 

 楠木瑞樹と神崎恵美はあさイチで校長室を訪れ波香に直談判していた。

 真鍋誠が長谷川真子に対してのセクハラ行為の疑いがあってから女子ソフト部員は練習をボイコットしていた。

 

「......どうして?」

「どうしてってこれからもそういうことがあるかもしれないじゃないですか?」

 

 瑞樹は声を荒げる。

 

「楠木さんはソフトボール経験者だったわね?」

「はい」

「経験者として真鍋先生の指導方法は間違っていると?」

「はい......素振りをしている最中に胸を揉まれるとかありえないです!」

「神崎さんはどう思う?」

「はい、ないですね!好きでもない人に揉まれるとか絶対にイヤです!」

「あ、そう、じゃあ、北条先生だったらいいのね?」

「あ!それはちょっと嬉しいかも......」

「ちょ、ちょっと神崎お嬢様!」

 

 瑞樹はあわてて恵美の言ったことに口を挟む。

 

「あはは、まあ、いいでしょう。嫌いな先生に指導してもらっても成果はあがらないでしょうから真鍋先生には顧問をヤメてもらいましょう」

「ありがとうございます!」

「......生徒が先生を選ぶ時代になったのねえ。それで変わりは北条先生でいいの?」

「はい!師匠は忙しいでしょうからそれでいです!」

 

 恵美は待ってましたと言わんばかりにそう言った。

 

「楠木さんは?いい?北条先生で?」

「はい、問題ありませんが......ソフトボール部、部長としてちょっとこの場で言っておきたいことがあります」

「なに?」

「校長先生にではなくて神崎お嬢様にです......」

「え?私に?」

 

 瑞樹は恵美の方に向かって申し訳なさそうに言った。

 

「あの......神崎お嬢様と北条先生が交際されていることはみんなも周知の事実ですが練習中はその......イチャイチャするのを控えて欲しいかと」

「う、うん、わかった。気をつけるね」

「みんなが練習に身が入らなくなると思うので申し訳ありません」

「ううん、謝ることないから当然のことだし」

「神崎お嬢様ありがとうございます」

 

 恵美は瑞樹に釘をさされて少しガッカリした。

 彼女は素振り中に胸を時哉に揉んでもらおうと思っていたからだ。

 

「あらあら、ソフト部はみんな仲いいわね。言いたいことが言える仲っていいと思うわよ」

「えへへ、ありがとうございます師匠。ソフト部はみんな仲良しさんですよ!」

 

 恵美と瑞樹はそう微笑むと校長室を後にした。

 

 2人が出て行った後に波香はせせら笑う。

 

「あはは......楠木さん、練習に身が入らないって。あの部でまじめに試合で勝とうと思ってるのかしら」

 

 苦笑した後、思い直してこうつぶやく。

 

「あの女子ソフト部で試合で勝つということがこの学園にとって一番難度が高いことなのかもしれないわね」

 

 

  ◇

 

 

「俺がソフト部顧問をクビ?なぜですか?」

 

 真鍋誠は校長室に呼ばれ波香から顧問をやめるよう通告された。

 

「部員に嫌われてるから」

「はあ、そんなハズはないです!」

「いや、ほぼ部員全員の総意だと思うわよ」

「そんなバカな!」

「バカはあなただと思うけど?」

「え!?」

 

 誠は耳を疑った。

 

「素振り中に胸を揉みしだいちゃねえ」

「でも、あれは緊張をほぐす為で......」

「ま、胸を揉みしだいてもあなたが胸を揉まれた生徒に好意をもたれていたら問題にはならなかったかもね」

「......」

「真鍋先生、生徒に好意を持たれる先生になりなさい」

「はあ、でも俺は昔から結構、取り巻きが出来るほど人気はあったのですが......」

「今は誰もいないじゃない?セクハラの噂がたってから誰も寄り付かないんじゃない?」

「そ、それは......」

「それにあなた。可愛い子だけしか愛想ふりまいてないし、そういう態度、見てる子は見てるわよ?」

「......」

「誰からもわけ隔たりなく好かれる教師になりなさいな。......あなたには難しいと思うけど」

「......」

「あなたがこの学園の教師として生き残りたいならね」

「そ、それは4月から新しい教師が来たら俺はいらなくなるかもってことですか?」

「そうね、4月になったらわからないわね」

「ええ!?まだ車のローン残ってるんですよ!たくさん!」

「じゃあ、クビにならないよう、おがんばんなさい」

「はいいいぃい!」

 

 あたふたしながら誠は校長室を出て行く。

 

「......さすが兄弟。そっくりだわ。......ったくまさか教師も教育するハメになるとはねえ」

 

 

  ◇

 

 

 一方、真鍋誠の弟、瞬は波香の言ったことを地道に実践していた。

 地道に親切と愛想を振りまいていたらそこらの女子がイケメンであって成績もよくスポーツもそつなくできる彼をほっておくわけがない。

 

「あ、あのぅ、真鍋さん。私たちも一緒に食べていいですか?」

 

 昼休みの中庭でベンチで一人で座ってコンビニで買ったサンドイッチをほおばっている瞬に3人の女生徒は話しかけた。

 

「う、うん!もちろんいいよ!」

 

 瞬は女生徒達ににっこりと微笑む。

 

「このベンチに4人座るのはきついからあっちの噴水前のテーブルに行こうか?あそこなら4人座れるし」

「はい!」

 

 3人の女生徒達は嬉しそうに瞬の後をついていく。 

 

「あ、座るのちょっと待って!」

 

 瞬はそう言うとハンカチを取り出し彼女達が座る場所をハンカチでパッパッと払ってあげた。

 

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます!」

 

 ますます彼女達は嬉しそうになった。

 

「みんなは1年生?」

 

 席に着いたは良いものの女生徒たちは緊張しているのか会話がなかったので瞬は気遣い話し始める。

 

「はい!あ、あの、私は小山亜希子(こやまあきこ)です」

「長沼絵美(ながぬまえみ)です」

「......奥津紗季(おくつさき)です」

「俺は2年の真鍋瞬です。よろしくね」

「はい!よろしくお願いします!」

 

「あ、あの」

「え?」

 

 小山が意を決したように話を切り出した。

 

「私達3人の中だったら誰が一番タイプですか?」

「え~~~今、会ったばかりだし決められないよ」

「第一印象でいいんです!」

「ん~~~全員かな」

「え~~~」

 

 不満そうに小山は声を漏らした。

 

「だって、誰か一人に決めちゃったらみんなその後、気まずくなるでしょ?だから1人に決められない」

「は__」

 

 ポーっと小山は瞬の顔を見つめている。

 

「......優しいんですね、真鍋センパイ」

 

 ボソっと奥津がそう言う。

 

「優しい?そうなのかな?まあ、最近、自分でも自分を変えようとしているからそうなのかもねっ!」

 

 にぱっと瞬は笑う。

 その笑顔に1年生たちはますます引き込まれていくようなポワンとした表情をしていた。

 

「あ、センパイ!タマゴ焼きどうですか?」

 

 長沼が自分のお弁当からタマゴ焼きを箸でつまんで見せた。

 

「お!おいしそうだね?いいの?もらっちゃって?」

「ええ!どうぞ!あ~~~ん?」

「あ~~ん、もぐもぐ......うん、うまいよ!長沼さん!」

「やったあ!」

「あ!絵美だけずるい!センパイ私のも食べて食べて!......コンビニで買ったヤキソバパンだけど......」

 

 小山は長沼絵美がタマゴ焼きを瞬にあ~んさせている様を見て自分のヤキソバパンを瞬に差し出した。

 

「あはは、じゃあ、半分こしよう......はい!」

「う、うん!」

「おお!ヤキソバパンはやっぱこの味だよね!」

「はい!」

 

「セ......センパイ」

「ん?なに?奥津さん?」

「その......センパイが食べている......サンドイッチ......私にも少しください」

 

 奥津が恥ずかしそうにボソボソと瞬に向かって言う。

 

「え?」

「食べかけ......でよいので」

「え?あはは、じゃ、口つけてないところね......はい!」

「ありがとうございます......別に口つけてるところでも良かった......のに」

「え?なに?」

「なんでも......ないです」

 

 1人の男子生徒を巡って3人の女生徒達がわーわーきゃーきゃー楽しそうにやっている有様を波香は渡り廊下から見ていた。

 

「あら?なんだろう?なんか面白くないわね」

 

 そう言うと自販機の横の空き缶入れ専用のゴミ箱を蹴っ飛ばした。

 

 どんがらがっしゃ~~~ん!

 

「スカッと爽やか......しないわね」

 

 そう言うと渋々、波香は散らばった空き缶を元に戻した。

 

 1,2年生の清掃の仕事を増やすわけにはいかないからだ。

 

 教師という職業が波香をもまた、人間的に成長させているのかもしれない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。