第46話
桜が咲き乱れる春。
『天晴学園』は創立2年目を迎える。
開校以来、半年の期間で3年生の希望進路を100%達成した偉業は世間に注目され、この学園の入学希望者は500名を越えた。
なので1年生の定員を300名とし、家の経済力と生徒個人の学力で難関を突破してきた1年生と供に波香達は今日から新学期を迎える。
「では、1年生を代表して、
「はい!」
1年生にしては大柄な生徒が壇上に上がり1年生を代表としての挨拶を始める。
「みなさんこんにちは!」
「コンニチハア!」
大石の声かけにより主に1年生が元気な声で返す。
『僕達、新入生は難関を突破し見事、今日からこの『天晴学園』に入学することができました。この学校はまだ創立したばかりで伝統も何にもありません。しかし去年の先輩達は見事、希望通りに全員大学に合格したと聞きました』
「......」
この時、何かとんでもないことを言い出すのではないかと内心、時哉は思っていた。
その時哉の横では波香が目をキラキラさせながら大石の挙動を刮目していた。
『......普通の挨拶ならこの後ダラダラとつまんねえ無能な挨拶が続くんだろうが俺は違う』
「なんだ?」
突然、大石の口調が乱暴に変化したことに時哉は思わず声を漏らした。
彼の嫌な予感が的中するのである。
『俺達は全員希望する大学合格はもちろんのこと、ここにいる1年生全部の半数以上!政治家を目指す!そして俺達が日本の政治を動かす!以上だ!』
大石はそう短く言い放つと壇上を勝手にスタスタと降りてきてしまう。
ワアアアアー!
主に1年生たちの歓声が上がり右手を突き出すもの、その場で踊りだすもの、その光景は異様なものとなった。
慌てて時哉はマイクを掴み、生徒達を制しようとする。
「諸君、静かにしなさい!まだ、入学式は終わっていない!」
だが、1年生達は時哉の言うことなど聞かずに全員体育館から引き上げていく。
「待ちなさい!」
時哉は懸命に呼び止めるが足を止める1年生はひとりもいなかった。
そしてその状況に波香は微動だにしなかった。
腕を組み目を閉じ、イスにずっと座ったままであった。
「こ、校長これはいったい!?」
時哉は慌てて波香のところに駆け寄ってくる。
「......ふ、うふふふ、新入生ごときが私たち教師陣に入学早々喧嘩を売ってくるだと?」
「大石の奴、あんな大風呂敷を入学早々ひろげやがって」
「面白い、面白いわ!大石悠馬!あんたの実力を見せてもらおうじゃないの!」
波香はそういうといきなりイスから立ち上がった。
「教頭先生、職員室会議をはじめましょう。先生達を集めて」
「......」
「教頭?」
「あ!俺か!は、はははは」
時哉は慌てて波香の元を去り各先生達へと伝達しに行った。
◇
「着任早々、悪いのだけれど大石悠馬っていう生徒について情報を知っているものはいる?」
「はい」
奥の席に座っていた中年の男性が挙手をして席を立ち上がった。
「えっとあなたは用務員の
「はい、彼はうちの学校に入るための試験は全教科満点でした。中学の内申書もオールAです」
「ほぅ」
「そして......彼の家族構成ですが父は官房長長官、
「ふむ、なるほど」
「母は、財務省の
「エリート中のエリート家族ってやつね」
「それに彼には妹がおりまして......今、人気急上昇中の美少女ユニット『S&G』のセンターボーカルを勤める、
「えすあんどじー?なにそれ?」
「なんでも『すうぃーとあんどがーるず』の略だそうで」
「は、なんだ、くだらない」
「く、くだらないとはなんですか!」
斉藤用務員は波香の言葉に過剰に反応した。
ごとっ
「あっ!」
斉藤用務員は自分のスマフォを落とした。
波香はちらっとそれを見たがそのスマフォの壁紙には可愛らしい女の子の画像が貼ってあった。
「なに?もしかしてあなた?それ?」
「は、ははは、お恥ずかしい。私も『のぞみん』の大ファンでして......」
「......」
「......」
職員室に静寂が訪れる。
「ん、おほん。では、新学期、初めての授業です!みなさん気合を入れていきましょう」
時哉の声で各教師達はおのおのの生徒達が待つクラスに向かった。
◇
1-A。
大石悠馬の待つクラスに新任の教師、
「はあ~~~、ふう」
廊下を歩きながら深呼吸をする詩織。
彼女はT大を主席で卒業し念願の教師となった。
この学校へ来る前は他の学校で無難に教職をまっとうし業界では手堅くてわかりやすい授業をすることで有名であった。
「大丈夫よ詩織。いつもどおりやれば全然問題ないわ」
詩織は自分にそう言い聞かせる。
大石がいるクラスということで詩織は少し緊張していた。
がら
「みなさん、おはようございます!」
「おはようございます!」
生徒達がちゃんと返事を返してくれたことで詩織はホッとした。
「それでは早速授業をはじめますね!」
「はい!」
生徒達は素直に従い、詩織は今までしてきたように無難に授業を進めていく。
が。
20分経過したところであの男の声が教室に響き渡った。
「あ~~あ、ちょ~~~~~つまんねええ!クソみたいな授業だな、こりゃ」
「え!お、大石君、今なんて?」
詩織は自分の耳を疑い再度、大石に問うた。
「クソつまんねえ授業だって言ったんだよ!これなら家で自習したほうがよっぽどマシだ!」
そう言うと彼はいそいそと教科書とノート、筆記用具をバックにしまいこみはじめた。
「え?え?ちょっと待って!」
慌てて詩織は彼の行動を止めようとするが彼はもちろんやめない。
「じゃあ、帰るわ」
がらがら......ぴしゃ
大石は教室から出て行ってしまった。
ガタガタ...ガタタタ
するとまもなくして他の生徒達も大石の行動に倣う。
「え?え?みんなちょっと、待って!何してるの!」
「私たちも帰りまあ~す」
「え?え?」
詩織はただその場でおろおろするばかりだ。
自分の授業をボイコットされるなんて彼女の教師生活の中で初めてのことであった。
「......」
やがて、教室内は詩織ひとりだけとなった。
「な、なんで?私のどこがいけなかったというの?」
詩織は呆然とその場に立ちつくすのみだった。
◇
「うう、ぐすっぐすっ、ひくっ」
「......」
1時間目が終わった後の休み時間。
職員室では重たい空気が流れていた。
1年A組の全生徒が今日の授業をボイコット。
「泣くのはやめなさい園田先生。泣いても問題は解決しません。泣くときは何かを成し遂げた時に泣きなさい」
「は、はい、ぐすっ」
「いいですか、みなさん。時代は変わってきています。ゆとり教育の次は生徒達が先生を選ぶ時代になってきたのかもしれません。生徒達に舐められないよう全力でお願いします」
「はい!」
波香は先生達にそう言ったものの何か具体的な策があるわけではなかった。
彼女が精神論だけで物事を言うのは非常に珍しい。
それだけこの問題は難度が高いのだ。
波香は受験を控える3年生の主任だが1年も自分が主任をやるべきなのか迷っている。
「校長、まさか1年生も受け持つなどと考えてはいないでしょうね?」
すかさず隣で時哉は波香に言った。
「......だって、他にどうすれば」
「そんなことしたら完全にオーバーワークですよ。去年とは違う。1年生だけで300人いるんですよ」
「わかってるわよ。せめて大石のクラスだけでも担任をやろうかしら」
「ん~~、でも、それは感心しませんね。他の1年生のクラスから不平不満の声があがりますよ」
「そうよねえ......」
「ならなら、3年生は俺にお任せください!」
真鍋誠が手を上げてそう言った。
「ダメえ!セクハラ教師に受験生は任せられません」
波香は有無を言わさずそう言いは放つ。
「......」
◇
翌日。
1年生全員は不登校をする。
登校する条件として波香に全授業をしてほしいと要求があったことを斉藤用務員は波香に伝える。
その要求が満たされない場合は全員退学して他の学校へ編入するということも斉藤用務員は恐る恐る波香に伝えた。
「ふざけやがって!全部、大石の企みなんでしょうね。いいわ!斉藤さん!今すぐ1年生全員に伝えて!明日から全員体育館に集合しろって!」
「わ、わかりました!......ひぃ!」
斉藤用務員は悲鳴を上げて受話器を取って電話をしはじめた。
300回も電話をしなければいけないのである。たったひとりで。大変な作業である。
「......大石ぃ~、もしもなんかあったらあんただけを退学にしてやる!」
波香は久しく忘れかけていた闘志をメラメラと燃やしはじめた。
かくしてこの瞬間から波香VS1年生達の戦端の火蓋が切って落とされるのであった。