波香が1年生に対しての模擬試験の開催を宣言して3日目。
各クラスを波香は巡回しているが波香を頼る気配はどのクラスもなかった。
みんな真剣に各クラスの中心人物たちを中央に集めて議論し各自ノートをとっていた。
よって波香はブラブラと30分おきに各クラスを見学するだけの感じである。
この間、3年生達の面倒は時哉と真鍋誠が指導していた。
波香は一段落すると自室である校長室に戻ってきた。
すると3年の佐藤邪儀と上田真姫が校長室の前で波香を待っていた。
「あら、珍しいわね。私に何か用?」
「ちょっと、わからないところがありまして、それと校長先生と少しお話がしたくて」
「ん?いいわよ。中に入って?」
「はい!ありがとうございます!」
邪儀と真姫は軽く波香に対してお辞儀をすると波香に続いて校長室に入っていく。
「で、わからないところって?」
「はい、この漢文なんですが、解釈が2通りあると思うのですよ。この場合......」
「ふふん、そうね」
「......」
「......という理由で真姫ちゃんの解釈のほうが私はこの場合ベストだと思う」
「なるほど!」
「これで終わりかしら?」
「はい!勉強の方は終わりです」
「......他に何かあるの?」
「はい!校長先生!面白い1年が入ってきましたね!」
邪儀はそう波香に言葉を投げた。その言葉の波香の反応に邪儀と真姫は波香を凝視する。
「ええ、やっかいなのが入ってきたわねえ。ふぅ」
波香はかったるそうにそう言った。
「先生!今の日本の政治どう思います!?」
真姫は突然、声を大きくして波香に問いかける。
「え?え?別にどうも思わないけど」
「たとえば、今の投票率って60%をきってるんですよ」
「投票率って選挙のアレ?」
「そうです!10人に6人くらいしか選挙で投票していません」
「まあ、そういうことになるわね」
「そういう校長先生も投票に行ってないのでは?」
「は、あはは」
「ダメじゃないですか!校長先生!自分の住んでいる国の政治家を選ぶ選挙なんですよ?」
「ですです、そんな他人任せでいいんですか?」
思わぬところで生徒に説教を喰らう波香。
「だって、私たちが投票って言ったってせいぜい地区の知事かなんかでしょ?」
「そんな考えじゃダメです!小さいことからコツコツとって言うじゃないですか!」
「だって、地区の議員候補の人達なんてどんな人なのかよく知らないし......」
「選挙シーズンになると演説カーが走って演説したり駅前とかで演説してるじゃないですか。あれによく耳を傾けてみてください!」
「あ、あはは。あなたたち選挙発足委員か何か?」
「違います!俺達は本気で将来政治家を目指しているんです!1年の大石君と同じ考えを持っています!」
「あはは、そ、そう、政治家にねえ」
「校長先生もなりませんか?校長ならみんながあっと驚く政策を考えて実行するんじゃないですか!?」
「でも、私、政治に興味ないしあまり顔が売れるような有名人にもなりたくないし......」
「校長先生、優明学園にいたとき確か自己紹介で金儲けが趣味だって言ってましたね?」
「うん、言ったかな?」
「政治家になれば国民から税金をむしりとり懐に入れ放題ですよ!」
「なぬ?」
波香の目がキラーンと光る。
「なんて、今のは冗談です。俺達はそんな政治家を駆逐する為に政治家になりたいんです!」
「ほお」
なんだつまらないみたいな顔をして波香はそう答えた。
「まあ、さっきの話だけど国民に政治に興味を持たせる方法なら今、思いついたわ」
「え?聞かせてください?」
「もっともっと税を重くするのよ。国民が政治に無関心でいられないように」
「はあ」
「そうすれば本気で議員を選びにかかるし......国民の投票参加率もアップすると思うわ」
「なるほど、でもそう簡単にいきますかね?」
「まあ、簡単とはいかないけどなんとかなるんじゃない?人間っていうのは基本追い詰められないとダメな生き物だと私は思っている」
「はあ」
「もちろん、そうじゃない人もいるとは思うけどね」
「なるほど、大変、勉強になりました」
「ん?もういいの?」
「はい!校長先生はお忙しいからあまり時間をとらせてしまうと悪いのでこの辺で失礼します。ありがとうございました」
2人は短くお辞儀をすると校長室から出て行く。
「......はあ、政治家ねえ17,18歳そこらの少年少女たちがそんなことまで考える時代になったのかしら」
波香はジェネレーションギャップという言葉が頭に浮かんだと同時に時哉の駄馬の走る姿を思い出した。
「あの、クソ駄馬......」
◇
ばしっ!
「瑞樹ぃ!ナイスボール!」
恵美はそう言って瑞樹にボールを投げ返す。
恵美は時哉にふられた以降、ひたすらソフトボールに打ち込んだ。
ケガから明けて帰ってきた林愛実から正捕手の座を奪っていた。
そしてバッティングのほうもメキメキと頭角を現し3番バッターとしての座をその手に掴んでいた。
神崎財閥の一人娘としていつまでも家に引きこもってばかりではいられない。
恵美のプライドはひたすらソフトに熱中することで守られていたのだ。
「よし!ここらで一旦休憩しよう!各自水分をとれ!」
顧問である時哉の声で各自はおのおの用に配給されたペットボトルの水に手をのばす。
「お嬢様、さすがですね。私の全力投球を全て捕球できるようになるなんて」
満足そうに瑞樹はペットボトルの水を飲みながら恵美にそう言う。
「え?そうだったの?全力で投げてたなんて全然気がつかなかった」
「え?そうだったんですか?あはは」
「ね、瑞樹。部活中は敬語やめない?っていうか普段の学園生活でも敬語やめて欲しいんだけど?」
「はあ、でも」
「かたっくるしいのはナシにしましょ?ね?」
「はい、お嬢様がそう言うのなら」
「うん、よかった」
屈託のない笑顔を恵美は瑞樹に見せる。
「おじょ......恵美、さん、今度の夏の最後の大会、いいとこまでいけそうです......いけそうね!」
「別に呼び捨てでいいよ?うん、いいとこまでいけそうだね!がんばろう!」
「お嬢さんと瑞樹、なかなか調子良さそうですね」
もう一人の愛実がペットボトルを片手に2人によってきた。
「うん、愛実ちゃんは手の調子どお?」
「はい、問題ないです。すっかり治りました」
「そうなんだ!良かったねえ」
「はい!」
「えっとお、メグミ、アナザー?」
「瑞樹、なんだよ!その呼び方は!」
「えっと、2人いるからややこしくて」
「あははは」
◇
「ねえねえ、亜希子、紗希!瞬センパイ、私たちの練習、見に来てるよ!」
長沼がそうつぶやく。
2年生の仲良し部員、小山と長沼と奥津は3人で水を飲みながら談笑していたが瞬の姿を確認するといそいそと練習再開の準備にとりかかった。
(瞬センパイが見に来てくれてる。瞬センパイとのデートの前にいいところを見せないと)
3人は同じ思いであった。
「北条先生......ノックの続き......お願いします」
奥津は他の2人を出し抜き時哉にノックの依頼をする。
「おう!奥津!はりきってるな!よおし!はじめようか!」
「あー紗希ずるい!先生、私にもお願いします!」
「私もお願いします!」
小山と長沼も奥津に続けといわんばかりに時哉にお願いをする。
3人はそれぞれのポジションに入った。
奥津はショート長沼はセカンド、小山はセンターだ。
「よおし、次!小山!天晴学園のセンターはお前だあ!」
つまらないギャグを言いながら時哉はカコンと打球を放つ。
「あ、やべ!変なところいった......」
時哉の打球は右中間のド真ん中。
ところが小山は懸命に走りダイビングキャッチをする。
「おお!」
「すごい!亜希子!」
それを見ていた他の部員達から一斉に声があがる。
「ナイス!センター!」
主将の瑞樹が小山に声をかけた。
「亜希子ちゃんナイスファイトゥ!」
副主将の恵美も負けじと大声で小山を称えた。
「へっへん、どうですか?瞬センパイ、今の見てくれましたか?......あれ?」
小山が見つめる瞬の顔は恵美のほうへと向けられていた。
小山の熱い眼差しに気づかない瞬は後輩を気遣い称える恵美を見ていた。
「良かったね。ふっきれたみたいで」
そう言うと瞬はグラウンドを後にした。