1年生のみに実施されている模擬試験最終日。
大石は確かな手ごたえを感じていた。が、どこか懸念すべきことがあるのではないかと試験を続けながらずっと思っていた。
(試験問題は自分たちで対策済の問題ばかりだけど何かがおかしい)
ずっとこんな気持ちだった。
最後の答案用紙を提出した彼は隣の席の幼馴染に問う。
「岬、どうだった?」
「うん、問題なかったよ」
岬は無表情にそう答えた。
「よし!じゃあなんか食って帰るか!」
「うん」
2人は教室をともに出て行く。
その姿を見てクラスメイト達がひそひそと話し始める。
「ねえねえ、あの2人って付き合ってるの?」
「さあ?でもいつも一緒にいるよね」
「じゃあ、つきあってんじゃん?」
「そうかもね......それにしても豊田さん、いつも無表情だね」
「なんだか、大石君ってもてるじゃん?中学の時、いろいろあったらしいよー」
「いろいろって?」
「だから嫉妬とかたくさんそういうことあって、いちいち反応していたら疲れちゃっていつのまにか表情が変わらなくなっちゃったとか?」
「へー、でも確かに大石君の彼女って大変そうだよね」
「そうだねー。私には無理かも」
◇
「なあ、岬。何が食いたい?」
「私は悠馬君が食べたいやつでいいよ?」
「そうか、じゃあ、何にすっかな......パスタとかでいいか?」
「うん、でも、悠馬君それでいいの?私、牛丼でもいいよ?」
「え?あはは、じゃあ、牛丼!」
「うん」
2人は連れ立って凶野屋に入る。店の名前からして不吉な感じが漂ってはいるがれっきとした牛丼専門店だ。
「俺、特盛セット!」
「私は並セットのねぎだくで」
2人は店員にオーダーするとすぐに店員は2人のご注文の品を持って来た。
「お、はえー!さすが凶野家!」
「......」
「なあ、岬」
「何?」
「今度の週末。どこか遊びに行くか?」
「うん、いいよ」
「どこか行きたいところある?」
「私は悠馬君が行きたいところでいいよ?」
「はあ、そう言われてもなあ......」
「悠馬君、行きたいところないの?」
「まあ、実は」
「だったら私、久しぶりにディスティニーランドへ行きたい。久しぶりだから」
「お、いいぜ!行こう!」
「うん、楽しみ」
2人は牛丼を食べながら淡々と話した。特に岬の方は感情を顔に出すこともなく大石の問いに答えていた。
そんな岬の態度に大石は頭を悩ませる。
(岬をこんなふうにしてしまったのは少なからず俺の責任でもある。どうすれば昔の表情豊かな岬に戻ってくれるのだろうか)
牛丼を食べながらそんなことを大石は思っていた。
以下、大石の小学、中学の回想シーン。
「ねえねえ、ゆうまくんといつも一緒にいるけどつきあってるの?」
髪は腰のあたりまで伸び高そうな洋服を来ているいかにも金持ち的なお嬢様は大石と岬に向かってそう言った。
「え?つきあってる?」
大石と岬は小学4年生でつきあうの意味がこの時よくわかってなかった。
「んー、それがどういう意味かわからないけど、つきあってないよ?」
大石はそう言った。
「じゃあ、ゆうまくん、私とつきあって?」
「うん、いいよ」
大石は軽くその女の子に言ってしまった。
そして次の日の朝。
「ゆうまくん!」
次の日の朝、岬は大石の家にいつものように迎えに行った。
「あら?岬ちゃん?悠馬ならもう学校へ行ったわよ?岬ちゃんと一緒じゃなかったのね」
大石の母が玄関先まで出てきて岬にそう言った。
「あ、そうですか......」
大石は昨日の女の子と一緒に学校へ行ったのだった。岬が学校へ着いてみたら大石の傍を昨日の女の子がくっついていてお喋りしていた。
「あ!岬!おはよう」
「お、おはよう......」
「でさ!ゆうまくん、昨日ね......」
「う、うん」
大石は元気なく返事をし自分の席に座った岬が気になって仕方がなかったが女の子の話を無視するわけにはいかず、話を聞いてあげていた。
その日の放課後。岬はこれまで大石と一緒に帰っていたがこの日はそそくさと一人で帰る用意をし校門を出て行った。
岬が校門を出たらすぐに大石が追いついてきた。
「おーい、岬!」
「......」
「はあはあ、一人で帰るなんてひどいじゃないか!」
「......あの女の子は?」
「一緒に帰ろうって言われたけど断ったよ」
「......なんで朝も断ってくれなかったの?」
「え?それは......朝はわざわざ来てくれたのに悪いかと思って」
「私には悪いと思わないの?」
「一瞬、思ったよ。ごめん」
「朝、ゆうまくんのうちに行って、突然ゆうまくんのお母さんから『もう先に行った』って言われて私、悲しかったんだからね!」
「うん、ごめん」
「......つきあうって何?私とゆうまくんが一緒にいられないならあの女の子とつきあうのはやめてよ!」
「うん、わかった」
以上が大石と岬が物心がついた時のファースト修羅場ストーリーである。
そして中学時代のある日。
「あはは!ねえねえ、悠馬、今日は学校終わった後、南部百貨店つきあってくれる?」
「おう、いいぜ!何、買うんだ?」
「うん、運動靴がね、もうダメになっちゃって新しいの買おうと思うんだ」
「お、いいなあ、俺も買うかな」
「あ!ならさ一緒に同じやつ買おうよ!?色違いで!」
「おう、いいぜ!」
そう言って二人は下駄箱の蓋を開けた。
どさどさどさ
岬の下駄箱から大量の手紙が崩れ落ちた。
「お!なんだ、ラブレターか?」
大石はおどけながら岬が拾い上げた手紙を盗み見る。
「......そんなんじゃないよ」
「......お前.......それ」
大石がぱっと見た手紙には「死ね」とか「大石君はあなたにはふさわしくない」「離れろブス!」などラブレターなどとは程遠いことが羅列して書かれていた。
「岬、先生に言おう。俺がついてってやるから。な?」
「やめて!そんなことしたら余計、嫌がらせがひどくなるだけだよ!」
「......」
そしてその日の昼休み。岬は上級生に呼び出されていた。
「あんた、大石悠馬と付き合ってるんだって?」
「......はっきりと付き合っているってわけではありませんけど」
「そう。だったら別れな!っていうか離れなさいよ!いつもべったりで一緒にいるじゃん!」
「そ、それは幼馴染だから......家も近いし」
「目障りなんだよ!アンタが!それにあんたなんかじゃ大石悠馬とは釣り合わない。私の家は厚生労働省の大臣のお父様がいるのだから、私こそが大石悠馬にふさわしいわ!」
「そ、そんな」
だだだだっ
「やめろお!」
大石は岬が上級生に呼び出されたと聞いて探し回りようやくここを見つけて走ってきた。
「あら?大石君。今、あなたについてたゴミを振り払おうとしてたところよ」
上級生はそう言って大石に微笑んだ。
「岬はゴミなんかじゃない!」
「あら、ヤダ。こんな子なんかより厚生労働省の大臣のお父様がいる私のほうがあなたにふさわしいと思うのだけれど?」
「親は関係ないだろ!」
「あらそお?私を味方につけておいたほうがあなたのこれから先の人生、有利だと思うけどね」
「そんなのいらんわ!」
「あらそう、じゃあ、私は失礼するわね」
上級生達はそう言い去って行く。
「うっうっうっ」
「大丈夫か?岬?」
「なんで?なんで?私は悠馬と一緒にいたいだけなのにたったそれだけのことでなんで何回もイヤな思いをしなくちゃいけないの?」
「......岬」
こういう出来事が何度も続き、岬はやがて感情を失ってしまい、今日に至るわけだった。
「よーし、岬。ディスティニーランドへ行ったらなんでも好きなものを買ってやるからな!」
「うん、嬉しい。でも無理はしないで」
無表情でそう岬は答えた。
「いやいやいや、気にすんなって!」
にこやかに大石はそう言うが内心は「どうすりゃいいんだーっ」となっているに違いなかった。
◇
ばこーん!
恵美の放った打球は右中間のフェンスを楽々と越えて行く。
「......瑞樹、もっと本気で投げてよ!」
般若の形相で恵美はマウンド上にいる瑞樹に言った。
「......了解!」
瑞樹はすっと右手を前方に出しそのまま後方へと回転させてスピードボールをほおった。
チッ!ばすん!
ボールは恵美の振ったバットをかすり林愛実のキャッチャーミットに収まった。空振りのストライクである。
「あー!でも、ちょっと当たった!」
嬉しそうに恵美はぴょこんと小ジャンプをする。
「いいぞお、神崎!タイミングは合ってる合ってる!」
時哉は恵美にそう声をかける。
元恋人に名前ではなく苗字で呼ばれる寂しさを感じたが恵美は次の瑞樹の投げる球に集中した。
ばこっ!
「え?ウソ!?」
恵美は瑞樹の全力で投げた球を打った。振り遅れはしたもののライトとセンターの間を恵美の打球は飛んでいく。長打コースである。
「や、やったやった!ヒット!スリーベースかな?どお?瑞樹?」
「そ、そうですね。3塁打ですね」
「あ、なんか悔しそうな顔してるぅ」
「くっ、当たり前じゃないですか!私は小学生の時からソフトやってるのに!」
「あははは!」
そのグラウンドの様子を校長室の窓から切ない眼差しで波香は見ていた。