週末の土曜日。
時哉のアパートで波香と時哉は全1年生の模擬試験の採点をしている。
「それにしてもみんな、同じような解答ばっかりね」
「ああ、そうだね」
「......ぷくく、そして今のところみんな65点前後、ぎゃははは!ざまあみろ!」
「ぎゃはははって、自分の生徒達なんだからあまり喜んではダメなんじゃないか?」
「いいのいいの勝負なんだから。いやー園田さん凄いわー」
「君が他人を褒めるなんて珍しいな。しかも同世代の女性を」
「そお?なんか流れで......ね。何か園田さんって私に似てるからかな?そうだ、電話してみようかな。結果を心待ちにしてるだろうから」
「いや、似てないだろ......北条波香が携帯で電話をする......か」
「何?」
「いやいや、何か、最近、珍しいことばかりで」
時哉は波香が誰かに電話をかけるのを生涯、初めて見たのだ。
「ふん、あ、もしもし?」
◇
その頃、詩織は薫とお好み焼き屋で豚バラのお好み焼きを頬張っていた。
ブーッブーッ!
スマフォのバイブに気が付く詩織。
「あ!校長先生からだ!薫君、ちょっと外で話してくるね」
「うん」
詩織が店の外に出て行くのを見るとグビっと生チュウを飲む薫。
どうやって大石をこらしめてやろうかと考えていた。
ほどなくして詩織は戻ってきた。満面の笑みを浮かべながら。
「校長先生なんだって?」
「えへへ、今のところ平均95点なんて全然届かないって」
「おおお、やったね詩織!」
「うん、リベンジ成功!あっはっは!」
詩織はそう言って椅子に座り生チュウをイッキ飲みする。
「ぷはあ~~!勝利の美酒に酔いしれるぅ~~!大石のクソクソクソクソ野郎、ざまあみろ~!死ねー!!」
「おい、うるせえぞ!」
詩織が絶叫したら詩織の後ろに座っているおじさんがキレだした。
「あ!すみません!ほら!詩織、静かにしろって!」
「ん?ぎゃははははは!」
「ダメだこりゃ。早く退散して僕のところに連れ込まないと......」
「んー!よし!薫君ちへ行こう!セックスしよう!ぎゃはははは!」
「......」
◇
「あーやっと終わった!」
「え?もう150人分終わったのかい?」
「ええ、だってつけるのは〇かXだけじゃない?トキヤはまだ終わらないの?」
「ああ、あと50人分ぐらいかな」
「はあ?なんでそんなに遅いの?」
「キミが早すぎなんだろ?大体ちゃんと出来てるのかい?間違ってたら後で大変だぞ?」
「私のアドレス帳に間違っているなどのアドレスはない!」
「そりゃあ、ないだろうけど」
「じゃあ、私は何か軽いものでも作ってくるわ。台所借りるわね」
「お!ありがとう!」
台所に向かう波香の姿を見て時哉はじ~んと感動していた。彼にとって波香との最近は初めての体験づくしだった。
「よし!頑張るか!」
10分後。
波香は皿に何かの料理を持って時哉の前に現れた。裸エプロンで。
「ちょ!どうしたんだ!!」
「何が?ダメ?」
「いや、ダメじゃないけどそんな恰好を見せられたら......」
「見せられたら?」
「答案の採点に集中できないじゃないか!」
「ええ、だからこの恰好をしたのよ?」
「......嫌がらせってわけかい?」
「早く採点すればあ?」
「くっ!」
「あ!おいしいこの料理!我ながらよくできたわ!トキヤも食べて?はい、あ~ん?」
波香は自分の作った料理を箸でつまみ時哉の口元に運んでいった。
「お!悪いね!あ~~ん」
時哉があ~んとすると波香はすかさず時哉の口元からUターンし、自分の口元に料理を放り込んだ。
「もぐもぐ、バカが見~る、トキヤのケ~ツ」
「くっ!」
「早く採点すればあ?」
「くそがっ!」
「そういう汚い言葉はやめたほうがいいよ?」
「......世界で一番キミに言われたくないんだが。あーー!料理もうないじゃないか!」
「ええ。......なんで?私は軽いものを作ってくると言っただけで別にトキヤの為になんて一言も言ってないのですけれど?」
「......終わったら見てろよ?」
「はあ?見ませんよ。だってそのころには私は寝てると思うから」
____それから数時間後。
「ふぁああ!やっと終わった!」
時哉は背伸びをしテーブルに持たれかかって裸エプロンのままで寝ている波香を見た。
「すー......すー」
「ったくそんな恰好で寝ていたら体調壊すぞ?」
時哉は押入れから毛布を取り出しそっと波香に掛けてあげた。
「ふっ......ナミカちゃんのおかげで毎日が充実してるよ......ありがとう」
ぷちゅ
波香の頬に時哉はキスをした。
「......メグミちゃん......ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「!ぐはっ.......」
波香の寝言は時哉の心に突き刺さる。
「くっ!......メグミ......ごめん」
時哉は俯いてそうつぶやきゴロンと横になってそのまま眠った。
◇
週明けの月曜日。
念には念を入れ1年生達に返す答案の最終チェックを詩織に任せた波香と時哉は女子ソフトの大会に帯同していた。
敵地、館浜学園で顧問である時哉はオーダーを発表する。
「1番、センター小山、2番ショート奥津、3番キャッチャー神崎、4番ファースト林、5番ピッチャー楠木、6番ライト海江田、7番レフト外村、8番サード長谷川、9番セカンド長沼だ」
時哉の声にそれぞれがうなづく。
「全員レギュラーだ!良かったな!」
「先生、9人しかいないんだから当たり前じゃないですか」
恵美は時哉に噛みつく。
「あ、ははは、そこだよ!そういうことなんだよ!一番重要なのはケガをしないこと!いいね?みんな?」
「はい!」
「男子の方はピッチャーがケガしちゃったからねえ。でも、彼は後悔してないそうよ。あなた達もいろいろなことを天秤にかけて後悔のないようにプレーしてください」
副顧問の波香が時哉に続いてそう述べた。
「はい!」
そして試合開始1時間後。
館浜学園から試合放棄の申し入れがあり23-0で天晴学園の勝利に終わった。
1回の表でツーアウトまでは取るもののツーアウトになるまでに天晴学園は打順が4巡もしていた。
そのうち神崎恵美が2本ホームラン、林も同じく2本ホームラン、楠木が1本ホームラン、ヒットは其の他大勢。
ちなみに2つのアウトは小山のホームスチール失敗と外村のサードライナーだけだった。
「やったやった初勝利!」
恵美はぴょんぴょん飛び上がって喜んでいる。
が、瑞樹は喜んでなどいなかった。
「瑞樹?嬉しくないの?」
「はい、相手が弱すぎるんで。こんなんで喜んではいられません」
「はあ、そっか」
「はい!私、学校まで走って帰りますね。今日、投げてないんで!」
そういうと瑞樹は1人走って、我が母校、天晴学園に帰って行った。
「......さすがはスポーツバカね」
その姿を見て波香は言う。
「そうじゃないでしょう?師匠、ここから学校までなんキロあると思ってるんですか!?」
恵美は波香に噛みついた。
「え?なんキロあるの?」
「ゆうに30キロはありますよ!」
「ええ!!じゃあ、私も走って帰る!」
波香は走り出した。
「師匠!そうじゃないでしょう?......そんなに走って瑞樹は明日、大丈夫なんですか!?」
恵美はそう叫んだがもはや波香にその声は届いてなどいなかった。
◇
「はっはっはっ!楠木さん!」
波香は瑞樹に追いつく。
「校長先生!どうしたんですか?」
「副顧問として付き添いよ。ここからウチの学校に帰るまで30キロあるそうよ?大丈夫?」
「問題ありません、知ってました。もともと走って帰るつもりでしたから」
2人は走りながら息も切らさずに会話をしている。
「明日も、試合でしょ?」
「はい、問題ありません。こんなことくらいで負けるようなら私のライバルには勝てませんから」
「ライバル?ライバルなんていたの?」
「くっ!ははは、向こうはライバルとは思ってないかもしれませんけど」
「そお、じゃあ、勝ちましょう!そのライバルに!」
「校長先生......はい!」
2人はわずか1時間半くらいで学校に戻った。
バスで時哉たちは帰って来たがそれよりも波香たちのほうが速かったのだ。
そして瑞樹は波香の指導の元、投球練習を始めていた。
ぎゅわああああああー!ばすん!
「いいわよ!楠木さんナイスボール!」
キャッチャーをしている波香はそう声を出し瑞樹に返球した。
ぱし......ころころ
しかし瑞樹は今、波香に言われた通りに投げた自分の球にびっくりして波香からの返球をキャッチし損ねた。
「こんな球を私が投げれるなんて.....ジャイロ?ううん、違う、これはライジングジャイロだ!」
瑞樹は一人、マウンド上で震えていた。
「どうしたのお!楠木さん?」
「校長先生、もっと早く教えてくださいよ!これなら勝てますよ!全国も夢じゃない!」
「そお?でも肘に負担がかかるから連投はやめてね。これは五反田君の投球フォームを真似たものだから」
そう波香は言うと遥か遠くを見つめていた。