「えー新入生の諸君。模擬試験お疲れ様でした」
波香は再び全1学年の生徒を体育館に召集した。
そして壇上からマイクを使わないで全1学年に対して模擬試験の結果を話し始める。
「平均点の結果としましては国語、現代文73.5点、古典60.5点......」
ざわざわざわ
「おい!嘘だろ!」
波香の試験の結果発表に生徒達は驚きざわつく。
「......最後に理科、生物72点、以上全教科の平均点は70.4点。はいはいはい、残念でした~」
「インチキだ!」
「は?インチキじゃないわよ。あなた達はただちに各クラスに戻り各教師陣の解答と解説の教えを請いなさい」
ざわざわざわ
一向に生徒達は動かない。
「どうした~?お前たちの人生はこの模擬試験の結果に納得いかなくてここで終わりなのかあ?」
「くっ!」
中央に席を陣取っていた大石は席を立つ。大石の隣に座っていた豊田岬もそれに続いた。
すると続々と1年生達は席を立ち始めた。
「あ!大石ぃ~!」
「はい?」
波香に呼ばれ大石は振り返る。
「ちなみにこの試験問題はほとんど園田先生が作成したのよね......どぉ?今の気持ち?」
「はあ、そうですか......園田先生やりますね。ただこれだけは言っておきます。俺たちは正々堂々と言われた通りの試験範囲からみんな一丸となって試験対策をし勉強をしました。それで、この点数ってことは何かを超越した事があるってことなんでしょうね。そしてそれは多分、俺たちにとって必要なことではないと思います」
「なにそれ?負け惜しみ?」
「いやいや、俺たちは負けたと思ってませんよ。ただ、原因がなんであれ平均95点以上とれなかったので今回は校長に従います」
「いいぞお!大石!」
わーーーー!
1年生たちの歓声を受け、大石は岬と供に体育館を後にした。
それをぽかんと見つめる波香。
「なんなの?この敗北感は......」
◇
その頃、女子ソフトボール部は自校のグラウンドで2回戦の試合をしていた。
「はあはあはあ......もうダメ......許して......」
対戦相手のピッチャーの女子選手はヘナヘナとマウンド上に崩れ落ちた。
1回の表の天晴学園の攻撃を振り返る。
先頭打者、小山はサードに初球からセーフティバントを転がす。
小山は持ち前の足の速さをいかし楽々成功。
続く2番の奥津は時哉の指示通り手堅く送りバントをするがこれを敵のキャッチャーが悪送球。
小山は3塁まで進みノーアウト1、3塁といきなりビックチャンスを迎える。
時哉から外野フライでいいと指示を受けた神崎恵美は肩の力を抜いてフルスィング。
これが打った瞬間にホームランとわかる豪快なレフトフェンスを越える3ランホームラン。
そして次の4番、林愛実。これも初球から思いっきりひっぱりレフトのポールを巻くソロホームラン。
5番、瑞樹はセンター前にクリーンなヒット。
6番、外村はファーストとセカンドの間をゴロで抜くヒット。
7番、海江田、センターの頭上を越す2塁打で走者一斉。この時点で6点目である。
8番、長谷川真子は3遊間を強烈なライナー性のあたりで海江田はあまりに打球が速く3塁に進むとアウトになりそうだったので進塁はしなかった。
9番、長沼は見逃しのフォアボールでノーアウト満塁。
1番に戻り小山の当たりはレフトとセンターの間を抜けるあわやランニングホームランかと思わせる走者一掃の3塁打。これで9点目。
2番の奥津もこれだけ点が入ったので時哉はスクイズの指示を出さずに好きなように打たせた。すると奥津の打球はふらふらとライトの頭上を越え2ベースヒット。10点目が入る。
3番の神崎恵美は初球をぶったたいてこれまたレフトのフェンスを超える2ランホームラン。12点目。
4番、林は敵のピッチャーがストライクがまるで入りなくなりフォアボール。
5番、瑞樹はストライクを取ろうと置きに来たゆるいボールをぶっ叩いてレフトフェンスオーバーの2ランホームラン...14点目。
そしてピッチャーがヘナヘナとマウンドに崩れ落ちたところで対戦相手高校ベンチからタオルが投げ入れられた。
またもや敵の試合放棄で天晴学園女子ソフトは3回戦に進出が決定する。
これを2年の五反田は授業を受けながら教室から見ていた。
「なんか、とんでもないことになってるな!うちの女子ソフトつえー!」
と思わず授業中に叫んでしまった。
その声にクラスメイト達は一斉に窓の外を見る。
「こらこらこらあ!今は授業中ですよ!席に戻りなさい!」
主に2年生を担当している薫は生徒達をたしなめる。
◇
『とんでもねえたっらとんでもねえ!』
そのタイトルの新聞は各学年の掲示板に一斉に張り出された。
2年の新聞部の
彼はこの春、双子の弟、
『猛打爆発!!14-0で相手高校の棄権により我が校の女子ソフトボール部は3回戦進出が決定!!』
『1回戦に続いて我が校のエース、楠木瑞樹投手は1球も投げず!!』
そして写真は恵美がホームランを打つ瞬間の写真とベンチでたたずむ瑞樹の姿がアップで掲載されていた。
ちなみにこの新聞を作ったのは亘と彼の弟である。
「お!アニキ!いい感じじゃん?」
「そうだろそうだろ!お前の写真と俺の記事、写植のデザイン!いいデキだよな~」
2人は自分たちが作ったカラー新聞を見ていつまでも惚れ惚れとしていた。自画自賛もいいところである。
◇
生徒会選挙。
この学校で初めてそれが行われようとしていた。
今までは優明学園でも生徒会長をしていた井上幸太郎が前校から引き継ぐ形で勤めていたが彼の卒業とともに生徒会は解散。会長の席は不在のままだった。
「井上さんがいなくなったから俺たちの時代だな、真姫!?」
3年の佐藤邪儀は同じクラスの上田真姫に鼻息を荒くして言う。
「佐藤が会長で私が副会長?」
「おう、トーゼン!」
「それはどうかな~」
「なにぃ?」
「城之内さやか校長先生のことだから1年も3年もないってことになり票だけで会長決定しそうな気がするのよね」
「もしも大石のやつが立候補してきたら......」
「まあ、1年は全員、大石君に投票するでしょうね。299票は......あ、自分で自分に投票できるから300票は確定するってこと」
「2年と俺ら3年の数より多いじゃねえかっ!」
「そそ、もしうちらが生徒会役員になったら大石君に顎で使われる可能性もあるね」
「......イヤだーーー。......そんなことはさせねえ!真姫!校長のところへ相談に行こう!」
「はー......はいはい。私は別に生徒会なんかどうでもいいんだけどね」
「そんなこと言うなよ!お互いに政治家を目指すんだろ!?」
「......まあ、確かに未来の政治家選挙のことを考えたら選挙での戦いも経験を積んだほうがいいか......」
「だろだろ?俺たちが動かす明るい日本の政治の為に今は大石をぶったおして俺たちの良い経験にしようぜ!」
「あははは、まだ、大石君が会長に立候補したって情報があるわけではないのに気が早いことね」
「こういうのは早く良い準備をしたほうが勝つのさ!ほら!行こうぜ!校長室へ!」
「ふう、仕方ないわね」
真姫は邪儀に従い渋々と教室を出て邪儀と供に校長室に向かった。
すると校長室から出てきた生徒が2名。大石悠馬と豊田岬である。
「お!大石!校長室に何の用だったんだい!?」
「はあ?おめーだれ?」
大石はふてぶてしい態度で自分の上級生の邪儀を睨む。
「あ?おめーこそセンパイになんて態度だよ!コラッ!」
「はあ?そっすか、センパイすかそりゃどーも。では、お先に~」
手を振り相手してられっかみたいな態度で大石は岬とその場を去って行く。
「なんだありゃ?くそむかつくわ!大志があって見どころあるやつだと思ったのによぉ!ただのいけすかないやつじゃねえかっ!」
「ほんと随分な態度ね」
気を取り直し邪儀はこんこんと校長室の扉を叩く。
「どうぞ~~」
波香の許可を得、邪儀は扉を開ける。
「え!?」
波香のバニーガールの姿を見て邪儀と真姫は絶句した。
「なんですかあ!その恰好は?」
「ただの気分転換よ。校長席にバニーガールが座って仕事するなんて私が世界初だと思ってね」
「はあ」
「それで要件は?」
「はい、生徒会選挙なんですけど1年も会長になれるんですか?」
「トーゼン」
「......やっぱし」
「さっきも大石君がそのことを確認しに来たわよ」
「あの野郎やっぱり立候補するつもりなのか」
「みたいねえ」
「校長!あいつにだけは負けたくねえ!何かいい作戦はないですか!?」
「あるわよ~~~~?」
「え?教えてください!!」
「ザ・買収」
「......校長、俺たちはそういう汚い事をする日本の政治家を駆逐するために政治家になりたいんです」
「ああ、何か、以前言ってたわね。たわけた綺麗ごとを」
「たわけたって......」
「校長先生!そんな言い方はないと思います!私達は本当に綺麗でクリーンな政治......」
「おだまりやがれ!!」
波香は突然椅子から立ち上がった。バニーガールの姿で椅子からぴょんと立ち上がり怒号を上げる。
その異様な光景の経験したことのない恐怖に邪儀と真姫は戦慄した。
「ひっ!」
「大石の家柄はお前らも知ってるよな?そんな奴相手に正攻法が通用するか?目的達成の為には手段を選ぶな!私はな、今までそうしてきた。私の生き方、やり方をお前たちに押し付けようとは思わないが自分の手を汚さずに巨大な敵とやりあうなんてことは始めから勝負にすらなってないんだよ!」
「ひっ!」
「どんな手を使ってでも構わない。1年から100票をとれ。それでお前達の勝ちだ。さあ、わかったらここから出ていけ!お前たちみたいな甘い考えの奴が私は一番むかつくんだよ!」
「ひっ!」
「綺麗とかクリーンとかほざいているけど、私には自分の手を汚さずに他の者を使い、汚いことをする未来の政治家のお前たちの姿が見えるわっ!!」
「ひぃ~~~!」
邪儀と真姫は校長室から追い出された。
「......凄まじかったな」
「うん」
「やっぱ面白えわ!校長先生は!」
「そうだけど、どうするの?」
「決まってるだろ?買収すんぞ!」
「ええ!?」
「権力を持つまでは汚いことをしてもいい!権力を持ったらそれを正していけってことだろ?」
「そうだけど......人間、権力を持つと変わるよね~」
「真姫、俺たちは変わらない。変わったらお互いを咎めてゆこう」
「そうね」
「だから、一生、俺の傍にいてくれ。結婚しよう!」
「は?何どさくさにまぎれてプロポーズしてるの?」
「ダメか?」
「......佐藤が総理大臣になったらしてあげてもいいよ?」
「随分ハードルたけえなおい!」
そんなことを言いながら2人は下校していく。
1年を代表するのが大石悠馬、豊田岬ペアならば3年を代表するペアは佐藤邪儀、上田真姫なのだろう。
この日の翌日から熾烈な買収合戦の嵐に天晴学園は吹き荒れる。