生徒会選挙日まで後1ヶ月をきった。
校門の入り口の左側に佐藤邪儀と上田真姫が陣取り、右側には大石悠馬と豊田岬、そしてその他大勢の1年生の応援団が陣取る。
人海戦術では圧倒的に佐藤側が不利だ。
「なあ、真姫。あいつらが配っているチラシには何が書いてあるんだ?」
「知り合いが貰ったチラシを見せてもらったけど大石君が会長になった時の公約みたいなものが書いてあったよ」
「それはどういう内容なんだ?」
「まず、無能な教師の交代、後は食堂の設立だったかしら」
「なんだ、別に普通だな」
「普通って『無能な教師の交代』って普通じゃないでしょ。完全に先生達を敵に回してるよ?」
あきれて真姫は言う。
「うーむ、で、俺達はどうするか?」
「佐藤が考えなさいよ」
「......買収するってもなあ、俺ら別に金持ちでもないしなあ」
「なんだそうなの?自信満々に買収すんぞ!って言ってたからお金を相当持ってるのだと思ってた」
「この学校に来るってことはさ、金持ちのボンボンなわけだろ?1人に5万やったところでなびかないだろ?」
「そうね、それでも5万を100人でしょ?ご、500万......」
「あとは色仕掛けだな......真姫、お前さ」
「は?何?まさか私に一肌、脱げとか言うんじゃないでしょうね?」
「当たり!」
「なにそれ?佐藤、私にプロポーズしたよね?」
「ああ」
「その私にそんなことをさせて平気なの?」
「目的達成の為には手段を選ぶな!と校長先生は言ったろ?」
「......死ね!」
ぼかっ!
真姫は邪儀をグーパンチで右の頬を打ち抜いた。
「いてっ!」
「......少しでもドキッとした私がバカみたい。さようなら」
そう言い残すと真姫は邪儀を置いてスタスタと校舎に戻っていった。
「ああ!おい!真姫!」
一人取り残された邪儀は真姫の後姿を見つめるだけだった。
◇
(つ、ついに言ってしまった......)
女子ソフトボール地区予選3回戦を行う為に敵地へバスに乗り込んでいる楠木瑞樹は昨日の夜の出来事を思い出していた。
「ん?なに、瑞樹、緊張してるん?」
瑞樹の隣に座っている林愛実が瑞樹の様子がいつもと違ったので声をかけた。
「ん~ん?試合のことには別に緊張はしてないんだけど......昨日、真鍋に言ってしまった......」
「え?え~~~?真鍋に何を言ったん?」
「全国大会にいけたら私から真鍋に告白するって」
「おあーーー、で、真鍋の反応は?」
「困ってた」
「......そっか」
「でも、いいんだ。断わられても」
「......いいの?」
「うん」
「まあ、私は瑞樹の味方だから何かあったら言って?」
「ありがとう......メグミ・アナザー」
「だから、その呼び方やめい!」
「......は、あはは」
◇
「真鍋センパーイ!お昼一緒にどうですか!?」
瞬がフラフラと昼休みに廊下を歩いていると1年生達にお昼のお誘いで声をかけられていた。
「やあ、キミ達こんにちは。でも、ごめん、今日はちょっと考えたいことがあるので一人にしてくれないかな?」
「えーー!!」
「ほんと、ごめんね」
「......」
瞬はそう言うとスタスタと一人で行ってしまった。
「どうしたんだろう?真鍋センパイ?」
「さあ?」
◇
「よし!今日もケガだけはしないようにな!」
「はい!!」
時哉顧問を中心に天晴学園女子ソフトボール部員は円陣を組んでいた。
「じゃあ、いくよ?てんせ~~~い、ファイ!」
「おーーー!!」
瑞樹の気合いの声とともに部員達は反応しそれぞれの守備のポジションに散っていく。
天晴学園女子ソフト部は今大会、初めての後攻めとなった。
「プレイボール!」
主審の宣言で3回戦はいよいよ始まった。
「さあ!いきますか!」
瑞樹は自らに声を掛け、ゆっくりと振りかぶり投げた。
バシッ!
「ストライ~ク!」
初球はど真ん中のストライク。
これが決まって、瑞樹はとりあえずホッとする。
この後、三振、セカンドゴロ、ピッチャーフライと敵高校の攻撃を三者凡退で終わることに成功した。
「よ~し、いいぞ!楠木、ナイスピッチン!」
時哉は瑞樹にねぎらいの言葉をベンチからかける。
「小山!初球からガンガンいけよ!?」
「はい!」
しかし小山はセーフティバントを対策されていて三塁線に転がすも僅差でアウト。
続く奥津もキャッチャーフライ。
地区予選が始まって以来、はじめて無得点で攻撃が終わりそうな感じであった。
続く、3番神崎恵美。
彼女も2ストライクと早々に追い込まれる。
次のボールは外角にきわどく外れてボール。
そして次の球。内角の鋭いコースに速いストレートが来た。
それを恵美は少し左足を開き気味にしてコンパクトに腕を畳んでジャストミートする。
グワッキ~~~ン!
レフト線ファウルになるか際どいところであったがぎりぎりのところでファウルにならずフェンスをボールは越えていった。
「うわ!......よっしゃあ!」
思わず時哉は声をあげてしまう。
わーー!
他の女子部員も立ち上がってベンチは大騒ぎだ。
「ん?あいつ、8打席で5本もホームラン打ってるのか」
時哉はスコアブックに記録をつけようとした時にそのことに気づく。
恵美がベンチ沿いに走ってきてみんなからそれぞれに祝福を受ける。
そして最後に時哉も恵美とハイタッチしながら声をかけた。
「神崎、ナイスバッティング!」
「えへへ、今、私はソフトボールと付き合ってますので!」
その恵美の言葉に時哉は複雑な心境になってしまった。
「ああ、俺なんかよりいい奴だろ?ソフトは?」
「ええ、そうですね!」
時哉の言葉に恵美はそう答えぷいっと他の女子部員たちのところへ行ってしまった。
余計なことを言わなければいいのに時哉はそんなことを言ってしまい恵美の怒りを買ってしまっていた。
その後、林愛実は2ベースヒット、瑞樹はヒットで2アウト1,3塁とチャンスは広がったが続く6番の外村がピッチャーゴロに倒れてしまって初回は1点どまりという結果だった。
天晴学園ソフト部が2回を戦うのはこの試合が初めてとなる。
だが瑞樹は安定したピッチングで以降も無得点に抑え続ける。
しばらく点がお互いに入らない回が続いたが試合が動いたのは天晴学園の攻撃の時だった。
6回裏。
今までの沈黙がウソだったかのように打線が爆発する。
神崎恵美と林愛実が1本ずつホームランを放ちその他もろもろのヒットでこの回一挙、8点が入った。
結局、試合はこのまま9-0で天晴学園が勝利し次の準々決勝へと駒を進めたのである。
◇
放課後。
ばあん!
勢いよく校長室のドアが開く。
「こ、校長~~~!!」
「何?またアンタ?ノックくらいしなさいよ!」
瞬の登場にイライラしながら波香は答えた。
「す、すみません......」
「ま、まあ、いいけど......今、教頭先生から連絡が来て、女子ソフトが勝ったそうよ」
「そ、そうですか」
「なに?あんまり嬉しくなさそうね?」
「いや、そんなことはないんですが......ああ!俺はどうしたらいいんだ!」
「なんなの?」
「実は......」
◇
ちょうど、その頃。
佐藤邪儀は一人でチラシを校門前で帰宅していく生徒達に配っていた。
だが、受け取るものはごくわずかだった。
「た、頼む!清くなくてもいい!その1票を俺に、俺にください!!」
邪儀はその場で土下座して叫んでいた。
それを帰っていく生徒達はクスクスと笑いながら通り過ぎていく。
その様子を教室の窓から上田真姫は見ていた。
「大石君に負ければいのよ。佐藤、あんたは人間的にどこかおかしい......死ね!」
そんな捨てゼリフを一人で吐き、真姫は正門からではなく裏門から自分の家に帰っていった。
彼女はなぜ、それほどまでに邪儀に対して怒っているのか自分ではそのキモチに気がついていないようである。