長い黒髪にストレートの美少女がふらふらと廊下を歩いている。誰かを探しているようだ。
「め、恵美はどこ?」
長谷川真子だった。彼女は既に今月10人目の告白を受けていた。その内訳は同学年の3年から2名、年下の2年生から1名、そして今年の新入生から7名。
顔立ちが整いスタイルもよく性格も人あたりがいい。そしてそこそこの家の生まれである彼女はこの学園で人気NO1となっていた。
しかし、告白を断り続けているうちに徐々に彼女の精神は病んでいった。
「あ!真子!」
「恵美!」
真子は恵美に抱きついた。
「ちょっと真子?どうしたの?」
「また告白された」
「そう」
「もう、私つらいよ......たくさんの人を傷つけてる......うっうっ」
真子は恵美にすがり泣き始めた。正直、恵美はソフトに集中したいので真子の存在はうっとおしかったが恵美にとって真子は大切な親友なので一肌脱ぐ決意をする。
「真子、私と一緒に彼氏でも作る?」
「え?」
「今まで、お母様やお父様のおせっかいを断ってたんだけどね......」
「おばさまやおじさまの紹介で男の人を?」
「うん、どうする?どんな人なのかわからないけど同じ学園の人じゃないほうが真子にはいいかと思って」
「うん、もう、たくさん断ってきてるので今更同じ学園の人とはお付き合いできないよ」
「じゃあ、良い話がないか頼んでみる」
「うん......恵美、この学校疲れない?」
「え?どうして?」
「みんな勉強にスポーツに恋愛に一生懸命だから息つく暇もないような感じで心が落ち着くときがないの」
「......そう」
「私、この学校合ってないのかな」
「そんなこと言わないで真子。あと卒業まで1年もないんだから......一緒に卒業しましょ?」
「......うん」
「じゃあソフトボールの大会が終わったら久しぶりに2人でどこかに遊びに行きましょう?」
「うん、行きたい!早くソフトの大会、終わらないかな」
恵美は真子のその言葉にがっかりしたがそれよりもガシっと真子が自分の腕に絡みついてきたことにびっくりする。今までにもお互いにふざけて腕を組んだことはあるが今みたいにガチで腕を組んできたのは初めてのことであった。
(もしかして真子が彼氏を作らないのは......)
恵美は以前、真子が自分の好きな人は恵美の交際相手だった時哉だと聞かされていたがそれはダミーなんじゃないかと前から思っていた。視聴覚室の淫らな行為をしている時も真子は時哉との絡みよりも自分とキスをしたりお互いに大事なところをこすり合わせていた時のほうが感じていたような気がするのだ。が、恵美はそれ以上、考えるのはやめにした。とにかく今はソフトボールの大会に集中したかったのである。
◇
その頃校長室の波香に退学届けを出すものがいた。
「五反田、これはなんの真似だ?」
「いや、もともと俺は野球推薦で『優明学園』にスカウトされたんですよ。で、それからこの学園で頑張ろうと編入しました」
「ああ、そうだったな」
「で、俺、もう野球できないじゃないですか?なのでこの学園にいても無意味だと思いますので」
「なら勉強で......」
「はい、俺もそう思いましたよ。でもレベルが高すぎてちんぷんかんぷんでついていけないんですよ」
「そうか」
「はい、今、俺、2年だし身の丈にあった高校に入った方が今後の俺の人生にいいかな?と思いまして」
「そうか」
「では、校長先生お元気で!」
「ああ、お前もがんばれ。ほどほどに」
「はい!!」
こうして五反田一は天晴学園から去って行った。
彼が自分の人生の中で新しいことに再び闘志を燃やすことになるのはまだちょっと先の話である。
◇
生徒会選挙日まで後、半月。
邪儀は再び真姫とともに正門で朝と夕方、チラシと声掛けを始める。
何もしないと逆に大石に怪しまれるからだ。
夕方は6時まで正門にいることにしその後からが邪儀の本当の仕事、パシリが始まる。
今日の時点で邪儀の話に乗ってきた生徒の数は10人を超えていた。
「はあ、本当に昨日は辛かった。よくも知りもしない男の子とデートなんて」
「悪かったな真姫」
邪儀と真姫は人の群れが一段落したところで話し始める。
「このことは大きい貸しにしておくわね」
「ああ、後でなんでも言ってくれ。犯罪以外のことはなんでもしてやるから」
「そうね......」
再び生徒達がぽつんぽつんと玄関から正門に向かって歩いてきた。
「そこのキミ!今の学園生活に満足しているか!!」
「きゃっ」
突然、邪儀が大きな声を出したので真姫はびっくりした。
「突然大きな声を出さないでよ、もう」
「俺が生徒会長になった暁には快適で楽しい学園生活を約束します!だから俺に1票を!あなたの尊き1票を俺にください!!」
邪儀は土下座をして頼み込んでいた。
「ちょ......もう」
隣にいる真姫も自分だけ立っているのは不自然なので邪儀に並んで土下座をし始めた。
「ぷっ、尊きだって」
「クスクスクス」
土下座をして丸まってお辞儀をしている邪儀たちを見て女生徒たちは失笑をしながら通り過ぎていく。
「ぁーちょぉーはずかし」
真姫は顔面を真っ赤にしながらお辞儀をして恥ずかしさのあまり顔を上げることができない。
「真姫、もう行ったぜ」
「はあ~~~」
邪儀から誰もいなくなったことを伝えられ真姫はようやく顔を上げる。
「じゃあ、俺はパシリに行ってくっから」
「うん」
「真姫も無理しなくていいからもう帰れよ」
「そうね」
「じゃあな」
「うん......あ!佐藤!」
「なんだ?」
「私は大石君に投票するけど頑張ってね」
「なあにぃ~~!?」
「ふふふ、うっそ」
「バカヤロ!じゃあな!」
「うん!がんばれ!」
真姫はパシリをしに駆け出していく邪儀の後姿を見えなくなるまで見つめていた。
「上田センパイ」
「え?ひっ!」
邪儀の姿が見えなくなり真姫は一度教室に戻って自分の鞄を取りに行こうと振り向いた瞬間、目の前に大石悠馬と豊田岬が現れた。
「お、大石君、私に何の用かしら?」
「俺があなたに用なんてひとつしかないでしょう?頭が悪いんですか?」
大石のその言葉に真姫はムカッとする。
「本当になんなのかしら。その態度。私はあなたには協力しないことを固くここに宣言いたします」
「そうですか。それは残念です。俺が会長になった時には上田センパイに書記をお任せしようと思っていましたが無理なようですね」
「ええ、お断りします」
「そうですか、では佐藤センパイにもお伝えください。無駄なことをしても会長になるのは俺です。会長になろうと思うのは早々に諦めてください。と」
「ええ、もちろん伝えておくわ」
「では、宜しくお願いします。さようなら」
大石と岬は少しだが頭を下げ下校していった。
「ええ、さようなら」
2人は寄り添うように真姫の視界から遠のいて行く。
その姿を見て真姫は確信した。ほとんど大石に勝つ見込みがないと今まで思って来ていたがいい勝負になるのではないかと。なぜなら大石は焦っている。自信があるならわざわざ私のところに現れないはずだ。そう考えると真姫もいてもたってもいられなくなった。
「もしかしたら佐藤の捨て身の努力がジワジワと効いてきているのかもしれない」
真姫は自分の鞄を取りに教室に走り出す。
「私も私も、何かやらなくては!......きっと何かあるはず!」