ザーッ、かちゃかちゃ。
真姫は台所で料理に使った容器や箸などの洗い物を済ませるともくもくと真姫の作った食事を食べている天晴学園の1年の生徒に話しかけた。
「じゃあ、水野君、私行くから。食べ終わった食器は台所に置いたままでいいよ。私、後で洗いに来る」
「あ、はい!上田センパイ!センパイの作った焼肉定食すごいおいしいですよ!」
「ふふふ、ありがとう。じゃあ、佐藤が会長になったら今度は2人で一緒に食べようか?」
「え?本当ですか?」
「ええ。だから佐藤に清き1票をよろしくね?」
「わかりました!」
そうして真姫はまた別の1年の生徒に夕食を作りに行く。
真姫は幼少のころから母とともに料理をしていたので料理には少し自信があった。
「さって、次は福永君か......好きなものはカツ丼ね」
真姫は鞄からメモ帳を取り出しスーパーへ材料を無心しに行く。
その途中でバッタリ、邪儀と出会う。
「あ!佐藤!」
「おう!真姫!順調か?」
「うん」
「そうか、よかったぜ!昨日、お前が俺のパシリを手伝いに来て料理をするって言ってびっくりしたけどうまくいってるんだな」
「うん、私の感触だとさっきゴハンを作ってあげた水野君は間違いなく佐藤に投票すると思う」
「そうか、ナイスだ!真姫!」
「ふふふ」
「じゃあ、俺はコンビニ行くから」
「うん、私もスーパーに行かなきゃ」
「おう!じゃあな」
邪儀はそう言って走り出す。
真姫もスーパーに向かって歩き出した。
「あ!真姫!」
突然振り向いて邪儀は真姫を呼ぶ。
「ん??」
「選挙、終わったらなにか奢らせてくれ!そんなんでお前の貸しを返せるとは思わんけど。あ!そうだ!ディスティニーランド行くか?」
「えー!!佐藤と2人で?」
「......イヤか?」
「ん~~~とてもイヤだけど、考えておくね」
「そっか、まあ、俺はどうでもいいけど。じゃあな!!」
真姫のそっけない返事に邪儀は少しムッとしたが再度、別れの挨拶をして走っていった。
真姫はその場で少し立ち止まっていたがニヤニヤしながら歩き出した。
「佐藤とD.Rか......よし!がんばるか!」
再度メモ帳を鞄から取り出しカツ丼の材料をチェックする。
「ん、よし、あとはカツと三つ葉だけ買えばいいかな!」
そう言いながらもニヤニヤとした表情はしばらく真姫から消えることはなかった。
◇
そしてここは時哉のアパート。
波香は時哉と正式に交際を始めてからほとんど自分のアパートに帰らず時哉のところに来ていた。
波香の手料理で中華コースを堪能した二人は食後にまったりとしている。
波香はつまようじで歯ぐきの間につまった豚肉を掃除していた。時哉の膝の上で。
「ナミカちゃん」
「ん~~~?」
「生徒会選挙って教師にも投票権、あるのかい?」
「あるわよ、当然でしょ?」
「そうなのか」
「なんで?」
「ナミカちゃんは誰に投票するのかな?と思って」
「大石に決まってるでしょ」
「はあ!?」
「トキヤは?」
「ん~ナミカちゃんが大石だったらじゃあ、俺も......」
「はあ?そんなの自分の意志で決めなさいよ!!」
「ぐっ......じゃあ、俺は佐藤だ!」
「ふふふ......ねえ、トキヤ賭けない?」
「は?キミはギャンブルは嫌いなはずじゃ?」
「ええ、嫌いよ。でもこれは私にとってギャンブルではないもの」
「ほぅ、大した自信だな。で、何を賭けるんだい?」
「......なんか賭けるものない?」
「なんだ?自分で言いだしておいて?」
「だって、私達、たいていのことはなんでもしてしまうから賭けにならないって気づいたの」
「いやいや、あるぜ30分、マッサージとか」
「あ、そうね!それでいきましょう......ってトキヤはマッサージできるの?」
「ああ、できるよ?実は整体師の免許を持ってる」
「え?そうなの?それは知らなかったわ」
「そう言うナミカちゃんこそ......まあ、持ってるわな」
「トーゼン」
「あ~明日はソフト部、準決勝か。そろそろ風呂入る?」
「そうね、もう沸いたかしら」
波香は時哉の膝から頭を起こし風呂場へと確認をしに行く。
「沸いてるわよ~」
「お、そうかじゃあ入るか」
波香と時哉は洗面所で服を脱ぎ一緒に風呂場へと入って行く。
「せ、狭いな。......なあ、ナミカちゃん」
「何?」
「ここからもうちょっと広いところに引っ越していっそのこと二人で住まないか?」
「そうね、そうしよっか」
波香のその返答に時哉は嬉しくなり調子にのって後ろから波香の胸を鷲掴みにしソフトに揉んだ。
「あっ......んっ」
波香は反射的に時哉のちんぽが勃起しているのを確認し蹴飛ばしそうになるのを思い留まる。そう、今は暴漢に襲われているのではない。愛しい人に自分の胸を揉まれているだけなのだ。
「んっ!ね、ねえ、トキヤ」
「はあはあ、なんだい?」
「私、こんな...んっ!幸せで......あん!.....い、いいのかな?」
「急にどうした?」
「だってつい最近まで私、いろいろ人に意地悪して暴力も......それで家に帰ってきていつもひとりぼっちだったのに......あん!」
「......いいんだよ、いいんだ、君は幸せになっても!」
時哉はそう言いつつ指先に力を込めた。
「ふぁ?ふぁあああ!?」
波香は変な声をあげてしまうのであった。
◇
邪儀と真姫のパシリ作戦はあっという間に学園全体に浸透する。
だが、法律に違反していることをやっているわけでもないし天晴学園に選挙の規約なども今のところ存在しない。
「なあ、真姫」
「なに?」
「妙だと思わないか?」
「そうね、大石君でしょ?」
「うむ」
「なぜに彼は私達がやっていることに対して何もアクションを起こさないのか」
「うむ、そうだな」
「考え方は2つしかないと思うの」
「うむ、ひとつは俺たちが何をしても絶対に全1年は大石を裏切らないという自信か」
「そう、そしてもうひとつは私達の見えないところで何かをしている」
「うむ」
「私ね、佐藤の言ったことは違うと思うの。佐藤がパシリを始めた時大石君は焦って私のところにきたわ。だから、自信はないと思う」
「ということは、ふたつめの俺たちの知らないところで何かをしている......ということか」
「......でしょうね、あ!私、鈴木君のところにご飯作りに行かないと!」
「俺もパシリの時間だ!じゃあ、真姫」
「うん、また明日!」
邪儀と真姫はそれぞれの場所に散って行った。
◇
「このままでは悠馬君が負けてしまうかもしれない」
「はあ?岬、大丈夫だよ」
大石と岬はファーストフード店で一緒に夕飯を食べていた。
佐藤のパシリ作戦が効いているんじゃないかと内心焦っている大石を岬は見抜いていた。
波香や邪儀や真姫が思っているほど1年同志の結束はそれほど固くはないのだろうか。
「悠馬君が確実に生徒会長になれるように今度は私が頑張るね」
「え?岬は何を頑張るんだ?」
「1年生の男子全員とHしてくる」
「はあ?おい!そんなことはしなくていい!」
「だけどその前に悠馬君が私とHして?初めては悠馬君がいいの」
「ダメだ岬。そんなことはやめてくれ。......ダサイこと言うようだけどもっと自分を大切にしてくれ!」
「なんで?悠馬君、昔からずっと私を助けてくれたじゃない?だから今度は私が助ける番だよ。悠馬君の為だったら私なんでもできるよ」
「.....岬」
「だから私とH......セックスして?ここを出たら悠馬君のお部屋にすぐに行こう。すぐに行動を開始しないと間に合わない」
「ダメだ。そんなことはできない。そんなことをして選挙に勝ったとしても俺は嬉しくない」
「......」
「岬、俺がお前にお願いしたいことは別にある.....それは......」
「なに?」
「......さらに10万円を各生徒達に配ってくれないか?」
「そう......わかった」
「金は明日用意する。俺と一緒に全部の1年に渡して回ろう」
「うん」
大石の岬に対するお願い事はそんなことではなかった。
『昔のお前に戻ってくれ!』
彼はそう言いたかったのだ。しかし岬の無謀な行動を制し選挙に勝つる為に大石は現状、自分ができるベストな代替案を出した。
「......私も10万円だそうか?」
「いや、いいよ」
「そう、助かった。私、悠馬君ほどお金持ってないから」
「ハ、ハハハ」