大石はトイレに行くと岬に告げ岬を一人ベンチに残して校長室へと向かった。
こんこん
大石は校長室のノックを叩く。初めて校長室の扉をノックした時は少し緊張したものだが波香が以前それほど抵抗もなく相談に乗ってくれたことで今回は緊張していない様子だ。
「あがっ......もぐもぐもぐ、ゴクン。どうぞ~」
「失礼します。......すみません校長先生、昼休みの食事中に」
大石は波香が弁当を食べているのを見ると即座に謝罪し頭を下げた。
「別に、もぐもぐ、いいわよ。......で、何?」
「選挙なんですが......」
「うん?」
「校長先生は佐藤センパイと俺のどちらに投票するつもりですか?」
「教えると思うの?」
「......」
「......教師達を敵に回すような真似をしておいて投票してもらえると思う?」
「それもそうですね、ハハッ」
波香の言葉に大石は下を向いて苦笑いをする。
「あら?何か元気ないわね?いつものふてぶてしさはどうしたの?」
「あれはちょっと虚勢入ってるだけですよ。同学年に対して俺がリーダーだっていう面目を保つ為のパフォーマンス......というかなんというか......」
「へえ」
「実際の俺は大切な幼馴染も救えない、力のない奴なんです」
「幼馴染?豊田さんのこと?」
「はい......あの、校長先生......」
大石は岬とのこれまでのいきさつを話した。
「ふぅん、なるほどね」
「俺は一体どうしたら......」
「大石......」
「はい?」
「簡単すぎてつまらない......なんだ、お前?凄いやつが入ってきたと思ってワクワクしてたのに......」
「......すみません」
「ハア......まあ、いい。教えてやる。豊田が今の状態になったのは豊田がお前にふさわしくないという暗示にかかってしまったのと自分でも自信がないからだ。それでもお前のそばを離れないっていうのはお前のことが本当に好きなんだろう」
「はい」
「お前はどうなんだ?」
「はい、俺も岬が好きです」
「だからさっきも言ったけど話は簡単だ。お前が豊田のことを必要だとわからせてやればいい。豊田に依存しろ。豊田がいないと大石はダメなんだってわからせろ。ただし本当に依存してはダメだ。依存しているフリをしろ。」
「.....」
「......お前たちはもうヤッタのか」
「ヤッタというのはHですか?」
「そうだ」
「ヤッテません」
「馬鹿野郎!すぐにやれ!」
「はあ、でも俺たちまだ高1だし......」
「お前もしかして草食系なのか?あまりヤリたいとは思わないのか?」
「そんなことはないですが......」
「ちゃんと勃起するのか?」
「はい......まあ一応」
「ならすぐにやれ!きっと豊田もそれを望んでいる」
「そうですよね......実はやり方がわからないんで......」
「あはは!なるほどな、じゃあ、教えてやるっと言っても私は今、彼氏がいるので実践してやることはできないが、図を描いて説明してやる」
「え?そこまでしてくれるんですか?すみません、お願いします!」
波香は女の身体の部分を図に描き、攻める個所とその方法を詳細に説明した。
「人によって個人差はあるが大体、今、私の説明したとおりだ」
「なるほど」
「豊田とヤッテヤッテヤリまくって豊田の身体ナシでは生きていけないと思わせてやれ」
「はい」
「あ、それと一番大切なことがある」
「なんですか?」
「決して自分本位なHはするな。必ず相手を満足させることを心がけること」
「はい」
「男女の関係においてこれは一番重要なことだぞ?」
「わかりました、キモに命じます」
「......それにしても、いくらパフォーマンスとはいえ私と他の教師に比べてなんでそんなに態度が違うんだ?」
「それは校長先生を尊敬しているからですよ。昔から」
「昔から?ってどういうこと?」
「昔、まだ俺が小さいころの話ですが親父に連れられて政界や企業の偉い人たちとかのパーティに行ったことがあってその時に校長先生においしいムサカをご馳走になりました。遊んでももらったし。あの時の校長先生にすごく憧れてました。というか好きでした」
「はあ?何それ?私、知らないけど?」
「え?あの時のお姉さんて校長先生ですよね?そう言えばなんで今、偽名を使ってるんです?」
「だから、知らないって!」
波香は声を荒げるが大石は話を続ける。
「え?え?忘れちゃったんですか?あ、そうだ!俺、あの時の写真持ってますよ!」
大石は自分のサイフから写真を取り出して波香に見せた。
その写真には波香を真ん中に挟んでピースサインをしている大石と岬の姿が映っていた。
「ほら、これ!」
「......ふうん、随分と私に似た人がいるものね。さあ、もう行きなさい。午後の授業が始まるわよ」
「は、はい......」
ばたん
ピロロロロ......
大石が校長室を出て行ったのと入れ替わりに波香のスマフォが鳴った。
「うん、うん、うん。......やったじゃない!」
波香は時哉から天晴学園女子ソフトが延長戦の末2-1で勝利したことを電話で告げられたのだ。
「うん、うん......メグミちゃんが.....そう......え?折原祥子?うん、そうよ。秘密兵器......必要な時になったら私が呼ぶ」
◇
地区予選決勝へと決めた試合が終わった後、時哉は恵美を連れタクシーで国立病院へと来ていた。
「これはヒドイ......」
「え?そんなにですか!」
恵美は医師の言葉にビックリする。
「無茶しすぎたね。しばらく安静にしてください」
「そうですか......どれくらいかかりますか?」
「それはハッキリとは言えないな。個人差もあるし治るまで無理しないようにとしか医者としては言えません」
「......痛み止めもらえますか?」
「......一応、痛み止めの薬は出すけどもこれ以上無理したら最悪、腱を切る手術をしなくてはならないよ?そうなったら箸も持てなくなる可能性がでてくるからね?」
「......わかりました」
医師の診察を終え待合室の時哉の元にフラフラと恵美は戻ってきた。
「どうだった?」
「無理はするなって。これ以上無理したら腱を切る手術になって箸も持てなくなるかもだって」
「そうか」
「でも、時哉さん。試合には私も出ますよ」
「......」
「ここまで来て私のせいで棄権なんかできない」
「うーむ」
「棄権なんかしたらあの時の画像、バラまきますので。今回は本気です」
あの時の画像とは多分、優明学園に時哉と恵美がいた時、視聴覚室で恵美とHをした画像なんだろう。
時哉はすぐになんのことだかわかった。
「わかった。......くれぐれも無理はしないでくれ。そうだ!バッターの時はバットを振らないでくれ」
「......」
「一応、部員にはこのことを話すよ。いいね?」
「はい」
◇
午後の授業が終わる頃には学園全体に女子ソフトが決勝へ進出したことが広まっていた。
「うおおお、すげえな!女子ソフト!」
「応援に行こう!行くでしょ?」
「行く行く!校長先生が行きたい人は全員、連れて行くって言ってたからね!」
数学の授業を受けている真鍋瞬は神崎恵美と楠木瑞樹のことを考える。
(楠木の奴。本当に全国へ行くことになっちゃうのか?俺は......)
「しまったあ!」
そんな真鍋瞬の席の後ろで佐藤邪儀が叫ぶ。
「な、なんだ!」
クラス中の全員が邪儀に注目する。
「女子ソフトのことを完全に忘れていた!罪深き俺に一票を!」
「なにそれ?佐藤、おかしいよ」
邪儀と真姫のそんなやりとりにクラス中は大して面白くないのにどっと笑いが巻き起こった。女子ソフトが決勝進出を決めた話題でみんなハイになっていたのであろう。
そして翌々日の決勝戦。
天晴学園のほとんどの生徒が女子ソフトボール部の応援に駆けつけることになり行かない生徒は自宅で自習となり休校となった。
教師たちは波香の命により全員、応援をする生徒と供に市営球場に行くことになるのである。