※この作品はR-18です。

もう悪役令嬢なんて言わせない!   作:億田夢人

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第60話

 女子ソフトボール地区予選決勝。

 勝者が全国大会の出場権のキップを手にすることができる。

 天晴学園の教師、生徒達ほぼ全員が市営球場に集結した。

 対する相手は女子ソフトボールの古豪『園城学園(えんじょうがくえん)』。

 小学中学からの名のある女子ソフト選手を集める昔からの全国大会常連チームだ。

 

 「いいか、みんな、今日、勝てばいよいよ全国だ!だからといって緊張したり無理をしようとはしなくていい。楽しんでこい!」

 「はい!」

 

 「それではオーダーを発表する。1番センター小山、2番セカンド奥津、3番サード長谷川、4番キャッチャー林、5番ピッチャー楠木、6番レフト外村、7番ライト海江田、8番ショート長沼、9番ファースト神崎だ。神崎は手にケガをしている。みんなもくれぐれもケガだけはしないように」

 「はい!」

 

 そして時哉は円陣の中から外にでる。変わって副顧問の波香が円陣の中に入った。

 

 「みんな、よくここまで来たわね。ろくにキャッチボールもできなかったのに。3年生はこれが最後の部活となります。悔いのないように日頃の自分の力を発揮させてください。私からは以上よ」

 「はい!」

 

 瑞樹は波香が円陣の外に出るのを確認すると声をかける。

 

 「それじゃあ、みんないくよぉ!?てんせ~~い!ゴー!」

 「ふぁい!」

 「おー!」

 「ふぁい!}

 「おー!」

 「ふぁい!」

 「おー!」

 「ふぁい!}

 「おー!」

 「ふぁい!」

 「おー!」

 

 天晴学園女子ソフトナインはそれぞれのポジションへ散っていく。

 園城学園が先攻である。

 

 「ねえ、教頭。相手の高校って強いの?」

 

 教え子たちが各ポジションについてゆくのを見ながら波香は時哉に問いかける。

 

 「ああ、とんでもなく強い」

 「へえ。どんなどころが?」

 

 「攻めでは3番の柴原縁(しばはらゆかり)、4番霧島美恵子(きりしまみえこ)、5番学園オーナーの愛娘の園城(えんじょう)まなかのクリーンナップは『シバキリ園』と呼ばれていてその通り名は『キュート・ダイナマイト・セクシー・クリーンナップ』だ」

 「なにそれ?バカバカしい」

 

 「この3人が地区予選で稼いだ点数は32点」

 「はーそれはすごいわね」

 

 「守りではピッチャー柴原、キャッチャー霧島のバッテリーは地区予選で1点も取られていない。バックに控える守備陣もエラーひとつもなく鉄壁だ」

 「え?まじ?」

 

 「マジです」

 「ほぅ、なかなか面白い相手じゃないの」

 

 「まあ、勝てないだろ。選手たちは楽しんでもらってきたらそれでいい。......神崎みたいにケガをしてもらったら困るよ」

 「はあ?顧問であり監督であるあなたがそんなんでどうするの?やるからには勝ちに行くわよ。あの子たちだってきっとそう思ってるはずだわ」

 

 「ハ、ハハハ、実は俺もそう思っていた!」

 

 そんな時哉に向かって波香はにっこりと微笑む。

 

 「あっぱれてんせ~~~~~い!どんどんどん!」

 

 スタンドでは急造された応援団と応援太鼓が設置されている。

 

 「どんどんどん!」

 

 天晴学園の生徒達は応援をしはじめた。

 真鍋瞬、佐藤邪儀も応援団として参加している。

 

 「あっぱれてんせ~~~~~い!どんどんどん!」

 

 そんな応援を瑞樹はピッチャーマウンドから見上げた。

 

 (真鍋、来てくれたんだ.....しかも応援団なんかしちゃて.....ここはなんとしても勝たなくちゃ。相手は小学中学と1回も勝ったことのない相手だけれど今のみんななら勝てる!)

 

 しかし気合が入りすぎて投球練習で左足を滑らせてずっこけてしまう。

 

 「はははははは!」

 

 スタンド中から笑いが巻き起こった。それ以降、瑞樹は顔を真っ赤にし彼女らしくなくガチガチに緊張しまう。

 

 「大丈夫だ~~~!楠木ぃ~~~~!いつも通りやれ~~~~~!」

 

 瞬がそんな瑞樹を見かねてスタンドから大声を出す。

 その言葉が届いたのかマウンド上で瑞樹はふぅーーと深呼吸をした。

 

 そして園城学園の1番バッターを迎える。

 

 

  ◇

 

 

 大石と岬は休校となったことで女子ソフトの応援には行かなかった。

 2人は平日のディスティニーランドへ来ていた。

 

 「いやあ、やっぱ、平日はすいてていいな!なあなあ岬、何に乗りたい?」

 「悠馬君、本当に良かったの?ソフトの応援に行かなくて?」

 

 「ああ、岬がここに来たいって言ってたろ?」

 「そうだけど今じゃなくても」

 

 「こんなことしてたら選挙に勝てないって?」

 「......」

 

 「今、俺には早急に解決しなければならない問題があるんだ。それは俺にとって生徒会長になることよりもずっと大事な事」

 「それは何?」

 

 「岬、お前だ」

 「私?」

 

 「うん」

 「なんで?私、悠馬君に大事にされてるってわかってるよ。いつも助けてもらってるし」

 

 「いや、わかってない」

 「......」

 

 「だから、今日、お前を抱く」

 「え?」

 

 「近くにホテルを予約しているんだ。......イヤだと言っても連れてくよ?」

 「うん......イヤだなんて言わないよ。......ずっと待ってた」

 

 

  ◇

 

 

 1回の表2アウトをとったものの3番柴原にヒットを打たれる瑞樹。

 続く4番の霧島は超高校級のスラッガーである。

 瑞樹はちらっとベンチにいる時哉の様子を伺う。時哉はRJ(ライジングジャイロ)の投球を認めるサインを出す。

 瑞樹はコクっと頷きRJを投げる投球フォームに入った。

 

 しゅるるるるるーぐわあああああん!

 

 ばしん!

 

 「ス、スットライー!」

 

 「うわああ、なんだあの球はすげえーーーー!!」

 

 球場内にどよめきが起こる。

 

 「ねえ、教頭。あの球を今までに何球、投げてるの?」

 「え~っと、今ので41球かな」

 

 時哉はスコアブックをめくり、そう答えた。

 

 「校長、もしかしてあの球は使用制限あるんですか?」

 「いや、別にないけど、そりゃあ、多投したらよくないことは誰でもわかるでしょ?」

 

 「はあ、やっぱりそうなんですね」

 「大丈夫、楠木さんは普段の走り込みがハンパないから」

 

 ガキーーン!

 

 「え?」

 

 霧島が打った打球は瑞樹の頭上を越えセンター小山の真正面。センターライナーだった。小山はがっちりと捕球しスリーアウトチェンジ。

 

 「わ、私のRJをあそこまで飛ばすなんて......さすがだわ、霧島美恵子......ていうかそんなふうに思っている場合では......昔は何度も打たれてきたのよね」

 

 瑞樹はそう自分に言い聞かせとりあえず無得点に抑えたことに満足する。

 

 「よ~し、いいぞ!ナイスピッチ!さあ、攻撃だ!ガンガンいこう!」

 

 時哉はベンチからナインを奮い立たせる。

 

 ぴしゅ!ぱしん!

 

 園城学園のピッチャー柴原が投球練習を開始した。ショートカットでとても可愛らしい顔立ちからは想像できないカモシカのような手足。その腕と体全体をしならせてボールを投げキャッチャーミットにいい音をさせている。

 

 「よし!いけ!小山!思い切っていってこい!」

 

 時哉は喝をいれて小山をバッターボックスへと送り出す。

 

 (真鍋センパイが見に来ている。いいところを見せないと!)

 

 小山はそう思ってバッターボックスに入る。小山のみならず他の1年の奥津、長沼もそう思っていた。

 

 小山は初球から果敢にセーフティバントを試みるがこれが失敗。

 続く奥津、長谷川と連続3振であっさりと天晴学園の攻撃は終わってしまった。

 その後も両校とも無得点が続き、なかなかチャンスさえも訪れなかった。

 先にチャンスが訪れたのは園城学園。5回表の攻撃。

 平凡なサードゴロだったが長谷川が一塁に悪送球してワンナウト2塁になった。

 

 「ごめんなさい、楠木さん」

 

 オロオロしながらマウンドにいる瑞樹に真子は謝罪する。

 

 「いいんです。長谷川さん。いくつかこうなることは覚悟してますからあまり気にしないで?」

 「......ごめんなさい」

 

 「さあさあ、やっちゃったことは忘れてしまってこー」

 「おー!」

 

 ファーストに入っている恵美が声をかける。内野の選手はそれぞれのポジションに走り去っていく。

 

 続くバッターは3番の柴原。彼女はこれまで2打席連続ヒットを放っている。

 楠木は例によってベンチの時哉の指示を仰ぐ。時哉はこれ以降RJ解禁のサインを出す。

 

 「よぉし、いくわよ!」

 

 楠木は出し惜しみなしでRJを全力で投げた。

 

 ッチ!バシン!

 

 「ットライ~ク!」

 

 ボールは柴原のバットをかすめ林の構えるミットに収まる。

 

 「っく!」

 

 柴原は悔しそうな表情を浮かべるが以降も彼女のバットでRJをとらえることはなく3球3振で終わった。

 

 4番霧島。ここでベンチは思案にくれる。1塁が空いているので敬遠して5番の園城と勝負させるか否か。5番の園城も危険なバッターだが霧島ほどではない。それに霧島には全打席RJで勝負しているがここまで3振は一個もない。センターフライとショートライナーだ。

 客観的に見てもそろそろ打たれそうな嫌な感じがする。

 が、天晴学園のベンチは特に敬遠のサインは出すことなく楠木の判断に任せるとのことだった。

 

 「どうする?瑞樹?」

 

 キャッチャーの林は瑞樹に駆け寄り尋ねた。

 

 「そんなの決まってるわよ。敬遠」

 「え?いいの?」

 

 「うん、勝負したいところだけど私個人の理由でみんなの今までの頑張りを無理にすることはできない」

 「ほお、さすがキャプテン」

 

 「うん、私はキャプテンだから......」

 

 林は茶化したのだが瑞樹は終始ガチに答えてるのでこれ以上の会話はやめてキャッチャーの位置についた。そしてゆっくりとその場で立ち上がる。敬遠だ。

 

 「よわむし~~~!!」

 「勝負しろ!ヘタレ!」

 

 相手校の応援席からヤジが飛ぶ。

 

 フォアボールで霧島が1塁に行き、これでツーアウト1、2塁である。

 

 「私と勝負することにしたことを後悔させてやりますわっ!」

 

 しかし園城まなかはRJにかすりもせず3球3振で天晴学園はピンチを退いた。

 その裏の天晴学園の攻撃も3者凡退で終わり。最終回まで両校ともチャンスすら作れなかった。

 最終回。園城学園最後の攻撃。RJ解禁のサインが出ているので好きな時に瑞樹の判断でRJを投げることができる。

 瑞樹は最終回ではどんなバッターでも全球、RJを投げることにした。

 

 「おおおお!」

 

 しゅるるるるるーぐわあああああん!

 

 「ストライ~!!バッターアウッ!」

 

 そして4番の霧島を迎えた。ツーアウトランナーなしである。

 

 ピッチャーの瑞樹はマウンド上で思いにふけっていた。

 

 (私がここまでこの人たちのことを抑えてきたのは初めての事。霧島さん。最後は正々堂々と勝負をさせて頂きます)

 

 しゅるるるるるーぐわあああああん! ブォン!

 

 「ストライ~!!」

 

 霧島もRJをこうも毎回投げられては後続のバッターも続くのは中々に難しいと考えて完全に1発狙いの大振りとなっている。が、その大振りの後、霧島の胸は異常なほど大きくなっていた。

 

 「ん?キミ、どうした?タイムをとろうか?」

 

 主審は霧島の胸が異常に大きくなっていることに気づきそう言った。

 

 「いえ、大丈夫です。中で巻いてあるサラシが解けただけですので......プレイに支障はありません」

 

 そして瑞樹も霧島のその姿に注目していた。

 

 「......霧島さんてあんなに胸が大きかったの?知らなかった......ならここは!」

 

 瑞樹はインコースぎりぎりに自慢のRJを投げ込む。あれだけ胸が大きければインコースの球はさばききれないと思ったのだがこれは霧島の誘いであった。いかにRJであろうともあらかじめコースがわかっていれば霧島ほどのバッターならバットに容易にあてることは可能となる。そしてホームランのみを狙う大振りで霧島はバットを振った。

 

 ッゴン!!

 

 しかし、打球は完全に詰まっていた。誰もがレフトフライで終わると思った瞬間。天晴学園にとって不運な強風が吹いた。その風にうまく乗るような感じでソフトボールは無情にもレフトのフェンスを越えてポ~ンと跳ねた。

 

 ホームラン!!

 

 がくっとマウンド上に瑞樹は崩れる。自分の不用意な1球がみんなの今までの努力や頑張りを無駄にしてしまった。申し訳ない気持ちで一杯になり目には涙が溢れた。

 

 「楠木ぃ~~~まだ、終わってないぞぉ~!!俺たちがついている!!立てぇ~~~!!」

 

 真鍋瞬が校旗を振り回し懸命に声をだしている。

 

 「あっぱれてんせ~~~~~い!どんどんどん!」

 「どんどんどんどん!」

 

 (はぁーうっ、そうだ泣いてなんかいられない私はキャプテンなんだ)

 

 瑞樹はやっとのことで立ち上がり続く園城に対しても全身全霊を込めたRJを投げ放つ。

 

 「連続ホームランですわよ!!」

 

 などと園城まなかは言いながらバットを振るがこの打球はフラフラと1塁のファールグラウンドへ上がっていく。

 

 「恵美!!無理して捕るな!!」

 

 しかし近くのベンチに時哉がいたのだがこの声は恵美には届かなかった。

 

 「これをしっかり捕って次の回で私達に良い流れを持って来るんだ!」

 

 ドシャアア!!

 

 恵美はボールに向かってダイビングキャッチを試みる。するとすっぽりとボールは恵美のファーストミットに収まるが地面に手の甲を打ち付けてしまう。だが恵美はボールをキャッチして離さなかった。

 

 「ア、アウトォ!」

 

 1塁の線審がそう宣言する。

 

 「うわーーーーー!!!」

 

 市営球場は大歓声に包まれた。

 

 しかし恵美は倒れたまま起き上がってこない。選手たちはたまらず恵美の元に駆け寄る。ベンチにいた時哉と波香も猛ダッシュで恵美のところに駆け寄った。

 

 「メ、メグミちゃん!?」

 

 真っ先に着いた波香は恵美に声をかける。

 

 「えへへ、師匠、捕りましたよ。......私、なんでこんな一生懸命なんだろ。こんなんで一生懸命になるんじゃなくて時哉さんを絶対に......離すんじゃなかった......」

 

 恵美はそう言うと気を失ってしまった。

 

 「メグミちゃん......」

 

 

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