『前代未聞の不祥事!!』
『ゆとり教育が生んだゆとり教師の非常識な行動!!』
『生徒の部活動の公式大会に教師が参加!!』
女子ソフトボールの地区予選決勝が行われた翌日インターネットや新聞などで一斉にそう報じられた。その記事には天晴学園の城之内さやか校長が最終回、負傷した生徒に代わってバッターボックスに立ちサヨナラ逆転2ランホームランを打つという詳細が書かれてあった。
各種マスコミが天晴学園校長室に押し寄せてくるが波香は不在。彼女は神崎邸に呼ばれていた。
「わーっはっはっはっは!いや、面白い。またまた、面白いことをやってくれましたな!城之内さん!」
豪快に笑いながら神崎喜一郎は言う。
「......いえ、申し訳ありません」
「うちの娘から詳しい話は聞きましたよ。もっともあの試合、私と家内も見てましたがね」
「え?そうなんですか?」
「うむ、うちの娘が心配でした」
「そのことも申し訳ありません。私がついているにもかかわらず......」
「いやいや、全ては娘の意志。あなたが責任を感じることはありませんよ。しばらく安静にしていれば大丈夫と医者も言ってます」
「そうですか、良かった」
「ところで城之内さん」
「はい」
「あなたはクビです」
「はい、喜一郎様には何から何までお世話になっているのに最後に大変なご迷惑をおかけしてしまって......返す言葉もございません」
「それは違いますよ、城之内さん」
「はい?」
「私は迷惑を被られたとは思っておりません。むしろ学校経営者としては大成功だと思っています。広告費を使わずに創立して間もない学校の知名度を上げてくれました。私のほうこそ城之内さんに謝らなければいけませんね。数々の功績を残してくれたあなたをクビにする手段しか今のところみつからないので」
「いえいえ、それはごもっともです」
「で、城之内さん。話は変わりますが企業の社長をやってもらえませんか?」
「はい?社長?私がですか?」
「うむ、いかにも」
喜一郎は波香に満面の笑みを見せる。
「その企業は電子製造部品の企業なんですがね、3年連続で赤字なんですよ。ぜひあなたに経営の立て直しをお願いしたい」
「......私にできるでしょうか?」
「ハハハ、何を言っているんですか?あなたにできないことはないでしょう?北条波香さん」
「......やはり知ってらしたのですか」
「知らないふりを続けても良かったのですがね。今後のことを考えるとその方が話がスムーズになると思いましてね。お父様はお元気ですか?」
「......いえ、家を出てもう2年近くなるので存じ上げておりません」
「ほぅ、何か理由がおありのようですな。......社長の件、1週間後くらいまでにはお返事を聞かせてください。待っています」
喜一郎はにこっと波香に微笑むとぐびっとワインを飲んだ。
◇
女子ソフト部の大会が終わり、学園全体の話題はもっぱら生徒会選挙へと移行していた。本日はその投票日なのである。
「ねえねえ、どうする?」
「俺は佐藤だな。あいつ、面白いし、あいつが生徒会長になったら面白くなるんじゃね?」
登校する生徒達はほぼ全員そんな話をしていた。
「やっぱ、センパイたちはほとんど佐藤センパイだなあ」
上級生の後ろに続いて登校している1年生は前にいる上級生の話を聞いてそう言った。
「でも、俺たち1年が全員大石さんに投票したら大石さんに決まりっしょ?」
「でもなあ、俺、佐藤センパイにパシリやってもらったし上田センパイにもメシ作ってもらったしなあ」
「でもよ、合計で6万円もらってるんだぜ?大石さんに」
「そうだけどさ......なんかさ、アレ見ちゃうとムカついじゃうんだよねー」
その生徒が顎をしゃくって指すその方向には腕を組んで登校する大石と岬の姿があった。
「まあまあ、仕方ないんじゃね?自分に彼女がいないからってひがむなよ」
「いやさ、佐藤センパイに気になる子がいたら協力してやるって言われてさ。かたや自分には絶対服従の彼女がいて金だけ配って王様きどりだろ?俺はやっぱ佐藤センパイに投票するわ」
「お前が佐藤センパイなら俺もそうすっかな。俺、センパイのおかげで彼女できたしね」
「なにぃ~~~?お前いつのまに!!」
◇
「岬、そろそろ校門につくぞ」
「うん、わかった」
大石と岬は校門につくとパッと腕を組むのをやめた。学校内に入ったらケジメをつけようとディスティニーランドへ行った帰りにホテルで初体験を済ませた後、そう話し合ったのだ。
「ね、悠馬、今日、カラオケいかない?」
「どうしたんだ、急に?」
「なんかね行きたい気分なんだ、あは!」
「うん、いいよ。行こう」
「やった!あ!マミちゃんおはよう!」
岬にそう呼ばれた女生徒はびっくりしている。
「お、おはよう」
「ねえねえ、昨日のテレビ見た?あ!悠馬、またお昼休みね」
「おう」
岬は悠馬から離れてマミと呼ばれた女生徒と供に校舎内に入っていく。
「はは、本当にこんな簡単な事だったんだ......もっと早くすれば良かったな」
笑いながら友達と一緒に歩いている岬を見て大石はそうつぶやいた。
「って今日、投票日じゃないか。......あいつ絶対、俺、落選すると思ってるだろ.......まあ、今回は仕方ないか」
ぽん!
不意に大石の肩を叩く生徒がいた。大石がふと振り返ると髪型が七三分けに黒縁メガネの男子生徒だった。
「ん?お前、誰?」
怪訝そうに大石はそう言う。
「......私だが」
その生徒は黒縁メガネをちょっと上にずらす。
「校長先生!」
「大石、お前、本当に他人にはぞんざいな態度だな?」
「ハハハ、すみません。なんでそんな恰好をしてるんですか?それってカツラ?」
「ああ、マスコミ対策だ」
「......ソフトボールの件ですね」
「うん、で、私、学校クビになったから後はよろしくな。今日は私物を取りに来た」
「え!!ウソですよね?」
「本当だ」
「ええ~マジかよ。俺、校長がいるからこの学校に来たのにそれじゃ意味ないですよ!そうだ!俺が親父に頼んで......」
「いや、もう私は次の事で頭が一杯なんでな。今度は企業の経営をすることになった」
「うぇ~~~?」
思わず大石は変な声を出してしまう。
「......豊田のことはもう解決したのか?」
「はい、校長の言う通りでした」
「そうか、それは良かった。いいか、くれぐれも相手を喜ばせることを忘れるな」
「はい!......校長、ちなみになんていう会社で社長やるんですか?」
「神崎電子だ」
「なるほど......校長は神崎さんとこと親睦があるんですか?」
「ああ、喜一郎さんには大変お世話になっている」
「そうなんですか」
「そうだ、お前、今日の選挙。勝てそうなのか?」
「いや、負けますよ、多分」
「へ?」
「......」
「お前に勝ってもらわないとマッサージ......」
「え?なんです?」
「いや、なんでもない」
「校長、もう下駄箱ですよ?」
「あ、うん」
「校長がいなくなっても俺、この学校で頑張りますよ。俺は何も成し遂げてないのになんかいい気になってました。まあ、いい気になってるつもりの芝居をしていたんですけど。ちょっとやり方を変えてみて岬と一緒に頑張ってみます。今までありがとうございました」
大石は波香に深々とお辞儀をして去って行った。
◇
男子生徒の格好のまま波香は校長室に入り荷物を整理していた。もっともほとんどが学園所有の備品であり波香個人の物といったら筆記用具とタブレットPCぐらいである。波香自身、今までの経験から長く一つの場所に留まることはあまりないので私物は仕事場にあまり置かないのであった。
「さてと、これでいいかな」
波香は私物をカバンにしまうとこの後はそそくさと学園を去ろうと決めていた。本当は生徒達に自分から別れを告げたかったけどもそんなことをしていたらマスコミが寄ってくるに違いない。後のことは教頭である時哉に託すことにしてあるのだ。
「お世話になりました」
自分が使っていた校長机にぺこんと頭を下げ校長室を出て行く。
「......好きなんだ!」
するとどこからか聞き覚えのある男子生徒の声が聞こえてきた。
波香は廊下の角からちょっとだけ頭を出し声のする方向をのぞき込むとそこには真鍋瞬と楠木瑞樹が話していた。
「うふふ、青春だねえ。ま、頑張って」
波香は彼らの邪魔になるので正門から帰るのはやめて裏門から天晴学園校舎を出て行く。そして振り返り校舎を眺めながらこう囁いた。
「さようなら天晴学園......ありがとう」