第63話
波香の実父の
「これは、波香?波香じゃないのか!?」
例の女子ソフトボール事件の記事に波香の写真を見つけ興奮しだした。
「宗時!宗時はおるか!!」
繁一の呼びかけにメイドが一人、タタッと急いで繁一の元の来た。
「お館様、宗時様はまだお休みでございますが......」
「なんだと?叩き起こしてこい!!」
「はい!」
繁一の命に急いでメイドはすぐに引き返すと宗時の就寝している部屋へと急いだ。
ごんごん!!
メイドは宗時が寝ている部屋の扉を激しくノックする。
「宗時様!宗時様!」
宗時を必死に起こしにかかるメイド。連れてこなければ自分が激しい叱責に合うからだ。
(宗時様には申し訳ないけれど私がお館様に怒られるのはイヤ)
「んん~~、何事か?」
扉の向こうで宗時の声がかすかに聞こえてきたので取り合えずメイドはホッとする。
「お館様がお呼びです!」
「ん、わかった。すぐに参る」
宗時は5分ほどで支度をすませ繁一の元に向かった。
「お館様、遅くなりまして申し訳ございません」
「遅いんじゃ!このバカ者が!」
ばちゃ!
例によって繁一は自分の湯呑を投げつけるようにして宗時にお茶をぶっかけた。
「.......」
「この新聞を見てみぃ?この女校長は波香じゃろ?」
「はっ......これは実によく似てらっしゃる。『城之内さやか』と申される人でございますか......ほぅ、女性で高校の校長先生とは」
「バカ者が!!ワシはこれは波香じゃろと言っておるのじゃ!」
ばちゃん!!......ばさばさばさ
繁一はまだおかずが残っている皿を再び宗時に投げつける。
「し、しかし、他人の空似ということも......」
「お前の目は節穴か?それともワシが本当に節穴にしてやろうか?......この、女校長の隣にいるのはお前のバカ息子、時哉じゃろが!!」
「た、確かに......では早速、この地に向かい波香様を連れて参ります」
「早く行けぃ!バカ者が!!......誰か代わりのお茶を持ってこい!!」
宗時は繁一に一礼をすると繁一の部屋を出て行く。すれちがいにさっきのメイドが繁一に代わりのお茶を持って来た。
「あ!宗時様、さきほどはすみません。お休みのところを無理に起こしてしまって......」
すれ違いざまにメイドはバツの悪そうな顔をして俯いてしまった。
「ん?いやいや、私が起きなければ君だって怒られてしまうだろう?仕方のないことだよ」
「......宗時様、どうしてお館様はあんなに変わられてしまったのでしょうか?」
「......君はここに来てどれくらいになるのだ?」
「5年になります」
「そうか......5年前のお館様と比べると確かに......な」
「宗時様だっていつもひどい仕打ちを受けて......」
「仕打ち?それは違うな。アレは最早、私のルーティンワー......ライフフワークだと思っている」
「宗時様」
「......君はイヤなら無理してここにいる必要はないよ?イヤならすぐに辞めてもらっても構わない。君には君の人生があることだしね」
「そんな......冷たいですね。宗時様」
『お茶はまだかあ!!』
繁一のお茶を要求する声が屋敷内に響き渡る。館内放送に切り替えてマイクで繁一は自分の部屋から怒鳴っていた。
「はい!!今お持ちします!!それでは宗時様!」
メイドは慌てて走り出した。
「あ!一応、君の名前を教えてくれるか!」
宗時はなんとなくそのメイドのことが気になったので思わずそう言葉を発した。その問いかけにメイドは一瞬だけ振り返り微笑みながら応えた。
「伍代沙織です!」
◇
「最寄りの駅まで歩いて5分。4LDKで月々、3万円。こんないい物件、他にはないですよ!あとひとつしかありません。決めちゃいましょう!ね、お客様!!」
学校をクビになった波香は次の職場の出勤日まで休暇を取っていた。その時間を利用して時哉と一緒に住む物件を一人で探していた。
不動産会社の担当が一生懸命、ある物件を波香に推しにかかっている。波香は不審そうにその担当を見つめた。
「安すぎて逆に怪しいのですが......」
「昔、ここで自殺した人がいたとかそういうのでは決してありません!」
「じゃあ、なんで?」
「実は......出るんです」
「何が出るの?お笑い芸人?......なわけないわよね。この部屋で自殺したんじゃないのに幽霊が出るの?」
「......はい」
「面白いわね!ここに決めたわ!」
この手の話が大好きな波香は思わず食いついた。心霊現象を爆笑のネタにしているのは日本広しといえど彼女くらいではないだろうか。ある意味バチ当たりである。
「え?いいんですか?」
ダメ元で強く推しにいった担当が逆にあっさりと契約が決まって拍子抜けしている。
「あ、あの、お客様はおひとりでお住まいになるんですか?」
「いえ、彼と2人ですけど?」
「えーと、彼氏さんと相談しなくてもよろしいのでしょうか?」
「うん、大丈夫。いつも私の言いなりなので」
「そうですか。では、早速契約を進めさせていただきます......」
「はいはい」
◇
「ただいまー」
「おかえりー」
時哉は午後9時すぎに自分の部屋に帰宅する。テレビがあって食事をしている6畳の和室に入るとそこでは波香が寝転がりながらポテチを咥えテレビを見ていた。
「ダラけてるなあー......俺のメシは?」
「あら?食べるの?」
「......食べるよ!」
「私が先じゃなくて?」
「......ナミカちゃんが先でも良いけど」
「何、その言い方。気に食わない!」
「......はあー、頼むよ。ナミカちゃんが学校を辞めてから滅茶苦茶忙しいんだ。今日だって最低限のことだけしてこの時間に帰って来れたんだよ」
「何時に帰って来れるか、連絡くらいできるよね?」
「そうだけどさ」
「何時に帰って来るのかわかればそれに合わせて料理を用意できるのにいつ帰るかもわからない人に料理は作りません。私がいるのに後から温めなおすとかそんなのしたくないしさせたくないの」
「......ごめん、もう連絡を忘れたりはしないよ」
「うん、じゃあ、お風呂に入りましょうか。お風呂は沸いてるから」
「わかった」
時哉がYシャツやズボンを脱ぎだすと波香はそれを手伝い始める。
「ちょ、いいよ、ナミカちゃん、自分でできるし」
「いいから、じっとしてて。目一杯働いてきたんでしょ?」
最後にソックスとパンツを脱がし終えると時哉のモノはびょんと元気になっている。
「あら?疲れているのにここは元気なの?」
「ハ、ハハハ」
「どうする?」
「いや、ここは風呂に入ろう」
「あら、そう」
波香はそう言うと自分も部屋着のスエットとTシャツを脱ぎだし、やがて全裸になる。よほど時間が合わない限りの時以外はほとんど毎日2人は一緒に風呂に入っている。
ちゃぽん......
風呂場の天井に張り付いていた水蒸気が露となりその雫が落ちた。その音に気付くほどしばらくの間2人は無言だった。
「......」
「......」
「そうだ、トキヤ」
「なんだい?」
「生徒会選挙はどうなったの?」
「ああ、結局、僅差で佐藤邪儀が生徒会長になったよ。副会長が大石悠馬」
「へ、へえ~。佐藤が大石を副会長に指名しそれをあの大石が了承したの?」
「ああ、そうだね。選挙は会長だけを決めて後の人選は当選した会長が決めるからね」
「ということは私の負けね......お客様、凝っているところはございますか?」
「うん、とりあえず、肩をお願いします」
「承知いたしました」
賭けに負けた波香は時哉との約束通り時哉の肩のマッサージを始めた。丁寧に時哉の肩を揉みほぐす波香。
「あーーマジでいい」
気持ちよさそうな時哉に向かって波香は今日の話をすることにした。
「今日、私達が住むマンションの部屋を契約してきたの」
「え?もう契約しちゃったのかい?」
「うん、駅まで歩いて5分。4LDKで月々、3万円だって」
「え?そんな安いの?大丈夫なのか?」
「なんか大丈夫じゃないみたいよ?でもそれはでてからのお楽しみ!うふふ」
時哉の悩みは尽きないが楽しそうに笑う波香を見て波香に身体を委ねるのであった。