※この作品はR-18です。

もう悪役令嬢なんて言わせない!   作:億田夢人

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第68話

 「ま、まあ、神崎さんとは長い付き合いだからねえ、仕方ないか」

 「ありがとうございます。園村(そのむら)会長」

 

 波香はケニーエンタープライズ社の会長室で一里塚と供に園村と会っていた。

 

 「いちり......あ、今は小西君だっけか?新婚旅行は楽しかったかい?」

 「は、はい、おかげさまで楽しかったです」

 

 「お土産のチョコレートとてもおいしかったよ」

 「はい!食べていただきましてありがとうございます」

 

 「ははは」

 「では、私達はこれでおいとまさせていただきます」

 

 「うん、郷くん......で良かったかな?がんばってね」

 「はい」

 

 波香と一里塚は会長室をあとにするが一里塚は会長室を出た後もぶるぶると身体を振るわせ緊張していた。

 

 「あ、あたしこの会社に5年くらいいるけど初めて会長とお話しちゃったよ~」

 「あら、そう、それは良かったね」

 

 「......えっと、聞きたいことが山ほどあるんだけど......いいかなあ?」

 「うふふ、答えられる程度なら答えてあげる」

 

 「杉本さんって一体、本当の名前はなんていうの?会長室に来る前に車の中で電話してた時『なみか』って呼ばれていたけど?」

 「......私の本当の名前は『北条波香』っていうの」

 

 「え!?『北条』ってあの財閥の?」

 「......まあ、そうね」

 

 「うひゃ!あ!変な声でちゃった」

 

 一里塚は驚きで立ち止まり思わず奇声をあげた。

 

 「あはは、なにそれ?」

 「むー......で、喜一郎様ってあの『神崎喜一郎』だよねえ?」

 

 「まあ、そう」

 「で、ウチの会社(ケニー)の会長と神崎喜一郎さんはお友達......」

 

 「そうね」

 「で、ウチの会社からまたまた10名ほど神崎電子に出向......かあ」

 

 「そういうこと」

 「なんだか、うちの会社が2つできるみたいだよぉ」

 

 「まあ、一里塚さんにとっては顔なじみがふえるからそういう感覚になるのかしらね」

 「でも、神崎電子は買収されるわけではないと......」

 

 「......この先、経営がよくならなければ喜一郎様は手放してもいいと言ってるけどね」

 「ふむふむ」

 

 「神崎グループの中では収益がずっと赤で喜一郎様の頭を悩ませていたみたいよ」

 「なるほどねー」

 

 会社の玄関を出るとすぐに波香たちが乗ってきた車が見える。

 

 「さ、早く帰りましょう。役員達が待っている。悪いんだけど帰ったら役員達へのお茶だしと議事録お願いできる?」

 「うん、もちろんいいよ」

 

 「残業代は出すわね」

 「ありがとう!」

 

 

  ◇

 

 

 その頃、定時過ぎに神崎電子の役員たちは第一会議室に集まっていた。

 

 「おい、藤岡!社長はまだか?」

 「もうすぐ戻るとの事ですよ、堀切部長」

 

 「ワシは早く帰りたいんじゃ。今日はプロ野球が見たいんでね」

 「まあ、そうおっしゃらずに」

 

 社長から近い席に製造の堀切、総務の藤岡、経理の間宮、営業の山根(やまね)、技術の今田(いまだ)、工務の曾雌枝(そしえだ)が座っている。神崎電子の役員は全員現役の部長職で計6名である。

 

 ギィ、バタン

 

 まもなくして会議室の扉が開き波香が入ってきた。

 

 「お待たせしました。さあ、はじめましょうか」

 「はい、えー、私、藤岡が議長を勤めさせていただきます」

 

 「......」

 

 藤岡が口を開くとみなが無言で藤岡を注目する。

 

 「失礼します」

 

 するとすぐに一里塚が冷たいペットボトルのお茶を人数分持ってきた。

 

 きゅるきゅるきゅる......すぽん.......ゴクゴクゴク

 

 堀切はいっきにペットボトルのお茶を飲み干す。

 

 「ぷはああ、いいぞ、藤岡始めてくれ」

 「......はい、では、わが社の組合が社長の交代を要求してまいりました。要求が通らない場合は労働ストライキをおこすとの事です」

 

 「それはまずいですなあ、社長。ただでさえ生産も遅れ気味だと言うのにストなんかおこされちゃあ」

 

 堀切は少し困った顔で波香にそう言い放つ。

 

 「どうして私が社長を変わらなければいけないのかしら?」

 

 涼しげな顔で波香はそう返答し堀切のことは無視して藤岡の顔を見た。

 

 「......不当な従業員の解雇によるものです」

 「不当?あの2人は工場内に喫煙という非常に危険な行為をしました。私は社の規定にのっとり処分しただけです」

 

 「しかしなあ、社長、あの工場の中でタバコを吸っても火事になんかならないですよ?」

 「問題は『なるならない』ではない。社の規定にそって私は判断を下しただけだ」

 

 「では、郷社長は社長を降りるつもりはないということですか?」

 「無論だ」

 

 「じゃあ、ストライキですな!ストライキ!」

 「なに?堀切部長、嬉しそうですね?自分の会社が窮地に陥るかもしれないのにそんなに嬉しいのですか?」

 

 波香はキッとした眼差しで堀切を睨みそう言った。すると堀切はサッと視線をそらす。

 

 「......まあ、いいです。この際、ここでもハッキリさせておきましょうか」

 「何をです?」

 

 波香の発言に藤岡は尋ねた。

 

 「私に社長を降りてもらいたい人?」

 

 波香は役員達に挙手を求めるが誰も手を上げる者はいない。

 

 「あら?誰もいないじゃない」

 「そんな、社長。面と向かってそんなことを言われても正直にこたえられないですよ」

 

 「あら、そうなの。では、私に社長を続けて欲しい人?」

 

 するとまっさきに経理の間宮が挙手をした。そしてそれに遅れておずおずと営業の山根、技術の今田、工務の曾雌枝が手を挙げる。

 

 「ふうん、製造と総務以外は全員、社長は私でいいみたいね。製造と総務以外は!!」

 

 波香はわざと名前で言わずに部署でそう力強く言い放つ。すると総務の藤岡がおそるおそる手を挙げた。

 

 「お、おい!藤岡!」

 「あら~、堀切部長、あなた以外、社長は私でいいみたいですけどあなたはどうなのかしら?」

 

 「......」

 

 無言のままで堀切は手を挙げた。

 

 「ふうん、役員全員一致で私の社長は続投でいいのね?」

 「は、はい」

 

 議長の藤岡は下を見つめ波香にそう返答する。

 

 「では、藤岡部長、組合委員長に今の結果を伝えてください」

 「わ、わかりました。.....社長、ストライキになったらこの後、どうするのでしょうか?」

 

 「ケニーさんから10名ほど明日から出向に来てもらいます」

 「え!?ケニーさんから?」

 

 「ええ」

 

 ざわざわざわ

 

 役員達から驚きの声があがる。

 

 「一体、どうしてそんなことが......」

 「だから、明日から、宜しくね」

 

 「は、はい、以上で終わりとなりますが他の方達、何かございますか?」

 「ま、待ってくれ!ワシ達は明日からどうすればいいんじゃ!?」

 

 慌てて堀切はそう言い席を立った。

 

 「いつも通り『仕事』をすればいいんじゃないかしら?」

 「......」

 

 「今回の結果に満足できない方はいつでも『自主退職』なされて結構です。神崎電子は明日から『利益』を生み出す会社に生まれ変わりますので」

 

 波香は最後にそう言うと席を立って一里塚を促し、供に会議室を出て行く。

 

 

  ◇

 

 

 「ふう、なんだかあっさり決まっちゃったね」

 「そうね、手ごたえなかったわ。それより今の議事録とってた?ノートに書いてた様子なかったんだけど?」

 

 「へへん、ちゃ~んととってるよ!」

 

 一里塚はそう言うと胸のポケットからボイスレコーダーを取り出した。

 

 「ちょ、ちょっと!ちゃんと『録音』状態にしてたんでしょうね!?」

 

 波香は慌てて声を荒げる。

 

 「大丈夫だよ。ポチっとな」

 

 一里塚はドヤ顔でボイスレコーダーの再生ボタンを押した。

 

 『では、わが社の組合が社長の交代を要求してまいりました。要求が通らない場合は労働ストライキをおこすとの事です』

 

 ボイスレコーダーから藤岡の声が聞こえてくる。

 

 「ね?大丈夫でしょ?」

 

 得意げな顔で一里塚は波香の顔を見た。

 

 「はあ、なんだかヒヤヒヤするわね」

 「それはあたしのことを信用してないってことだよね?」

 

 「は、あははは。......ごめんなさい」

 

 波香は素直に一里塚に謝った。

 

 「え?え?ううん、いいのいいの。あたしだって杉本さんからこういうことするの学んだんだし」

 「まあ、そうだったわね」

 

 「あは、あははは。......ねえ、杉本さん」

 「なに?」

 

 「あたしも『北条波香』さんって呼んだほうがいいのかなあ?2人きりの時は親しみを込めて『郷社長』とは呼ばなくて『杉本』さんって呼んでたのにそれすらも本名でなかっただなんて」

 「北条の名は捨ててるのでそれ以外だったらなんと呼んでも構わないわよ」

 

 「う~ん、そっか。じゃあ、二人の時は今までどおり『杉本』さんでいくね」

 「うん」

 

 「あ!」

 「へ?」

 

 「杉本さんの彼氏さんはなんて呼んでるの?」

 「『ナミカ』よ」

 

 「へ~、そのへんの事情を知ってる人なんだね!」

 「......まあ、そうね」

 

 

  ◇

 

 

 「う~ん、まさかお前が学校の教頭をやっているとはな」

 

 時哉の実の父親の宗時は天晴学園の応接室に来ていた。

 

 「ハハハ、まあ、成り行きでね。俺の実力ではないよ」

 

 頭を掻きながら時哉はそう答える。

 

 「しかし、いつも波香様とは入れ替わりだな」

 「......ナミカちゃんは今度は社長をやっているよ」

 

 「ほぅ、どこの会社......とは聞かないでおこうか」

 「父さん、ありがとう」

 

 「最近、親方様にはお茶どころかおかずまでもぶっかけられる始末でな!」

 

 宗時は嬉しそうに時哉にそう言った。

 

 「と、父さん。......もしかしてMに目覚めてしまったんじゃ......?」

 「ん?時哉?何か言ったか?」

 

 「いえ、なんでもありません......」

 

 

 そして親子二人は窓の外の夕日を眺めながらまったりとお茶をすするのであった。

 

 

 

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