※この作品はR-18です。

もう悪役令嬢なんて言わせない!   作:億田夢人

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第70話

 神崎電子工業労働組合員がストを初めて3日目。社内では多少の混乱もあったが特に問題はなく業務は進んでいった。ただし、大幅な納期遅れがあるという点を除いて。

 

 「さすがはケニーの優秀な社員達だわ。わからないことがほぼ無く仕事が進んでいるわね」

 「ええ、本当に」

 

 「しのりん。あなたのほうは大丈夫なの?」

 「はい、特に問題はありません」

 

 波香が経理部のところで間宮と話しているとケニーから派遣された社員が電灯らしきものを抱えてやってきた。

 

 「社長、水銀灯の交換にやってまいりました」

 「水銀灯?」

 

 「はい」

 「しのりん、どこにあるの?」

 

 「いいえ、社長。私が持ってきますので」

 「いいわよ。あるところを教えてちょうだい?」

 

 「え?あ、はい。そちらの倉庫の一番奥の右側にございます」

 「わかったわ」

 

 波香はいそいそと倉庫に行き、水銀灯を持ってきてその社員に手渡した。

 

 「ありがとうございます、社長」

 

 その社員は社長自らが水銀灯を持ってきてくれたことにより感じ入り深々と頭を下げて仕事場に戻っていった。

 

 「さてと私もそろそろ現場に入るかな。それにしても非組合員の総務の係員とあなたの部下たちの経理の係員はなぜ出社してこないのかしら?」

 「それは多分、藤岡さんの差し金ではないかと」

 

 「ん?藤岡が出社しないように指示をだしてるってこと?」

 「はい、総務と経理は藤岡さんによって支配されているので......昔から『藤岡王国』と呼ばれていました」

 

 「前社長のお気に入りのあなたはそれに属していなかったと?」

 「はい、藤岡さんは私の事、相当煙たがってたと思います」

 

 「非組合員はこの場合無断欠勤になるのでなんのためらいもなく懲戒にできるから私は別に構わないけどね」

 「そうですね、組合員ではないのでストに参加しても組合費から給料の補填などは支給されないっていうことを伝えてもダメでした」

 

 「まあ、当分の間、事務はあなたと小西さんでうまくやってもらうしかないわね。......ごめんね、あなたは管理職なのに」

 「いえいえ、私は構いません。事務のお仕事好きですし、逆にやることがいっぱいあってやりがいがあります」

 

 「そう、あなたが仕事が出来る人で助かった」

 「私も郷社長が来てくれて良かったです。これからこの会社が働きがいのある会社に変わっていくのが楽しみです」

 

 「うふふ、お互いに頑張りましょう。じゃあ、私は香織さんのところに行くわね」

 「あ!社長」

 

 「なに?」

 「社長は社長らしくドンと構えていたらいいんじゃないですか?何も現場に入らなくても......」

 

 「いいえ、それは違うと思うわ......楽させてもらう時が来たら楽をさせてもらうわよ」

 

 波香はキッと間宮を睨みヘルメットを着用した。

 

 「す、すみません、余計な事を......」

 「いいのよ。じゃあ、そっちは宜しくね」

 

 「はい!」

 

 元気よく答える間宮に波香は微笑みを返し工場内に入って行く。すると北条香織の周りにちょっとした人だかりが出来ていた。

 

 「どうしたの?」

 「あ!社長、おはようございます」

 

 「おはよう」

 「今、効率のよい段取り方法を教えていたところです」

 

 「北条さんの段取りは完璧ですよ。どうしてこの会社がダメなのかわかりません。他の人達がダメ......言葉は悪いですけどダメだったってことですかね?」

 

 ケニーの社員たちが口を揃えてそう言う。

 

 「そうね、私も北条さんみたいな人がたくさんいればこの会社も赤字経営をずっと続けるようなことにはならなかったと思うわ」

 「そんな私なんてたいしたことないです」

 

 あくまでも謙遜し続ける香織をニヤニヤしながら波香は見ていた。

 

 

  ◇

 

 

 「堀切さん、これからどうするのですか?」

 「ああ?どうしようもしないぞ藤岡。いくらケニーの社員が応援に来るっていってもワシらが会社に行かなければ仕事はまわらんよ。資金繰りだってお前がやってるんだし.....な!?」

 

 製造部部長堀切と総務部部長の藤岡は会社の近くの喫茶店で出社せずに談笑していた。

 

 「しかし、間宮なら多分なんとかしてしまうと思いますよ?」

 「マミヤ?ああ、あの前社長に抱かれて経理部長の座に就いた生意気な女か」

 

 「間宮に関してその話が先行しがちですが間宮は仕事できますよ?」

 「あの女は以前ISOの品質管理についての活動記録をまとめてくれと現場に要請しやがってな、ワシは一喝してやったわ『そんなのは事務所に座っている人達がやれ』と」

 

 「......そうですか」

 「ワシらはな休憩時間以外ずっと立ちっぱなしで作業をしてきたんじゃ、当たり前じゃろ?」

 

 「まあ、そうですね」

 「なんでパソコンでぱちゃぱちゃやらにゃいかのんだ。そういうのは事務がやればいい」

 

 「......まあ、その話はいいですが今後、本当にどうするんですか?私の部下は相当不安になってます」

 「ああ、そうかおまえんところは補填なしだからな」

 

 ぷるるぷるる

 

 藤岡の携帯がなった。藤岡は発信先を見ると少しうつろな目つきで携帯を耳に近づける。

 

 「お!ワシの狙い通り、女社長が泣きついてきたか!」

 

 堀切はニヤニヤしながらBLTを口に頬張りそれをコーヒーで流し込む。

 

 「ん、ん、ん......そうか、わかった。いや、君たちの人生もあることだし無理強いはできない。うん、はい、お疲れ様でした」

 

 はあっと溜息を吐きながら藤岡は携帯を切った。

 

 「どうした藤岡?社長からじゃなかったのか?」

 「......本日限りをもって総務と経理の課長職以下全員が辞職いたしました」

 

 「はあ、そうかまあ仕方ないな。あいつらには何もでないしな。わっはっは」

 「......堀切さん、私も銀行に戻ることにします。もうあなたにはついていけない」

 

 「なんだと藤岡、俺を......神崎電子を見捨てるのか?」

 「確かに今まではあなたが神崎電子を事実上、牛耳ってきました。でも今はそうじゃない。あなたに従い郷社長に盾突いてしまった......今後、この会社に私の居場所はないです」

 

 「いやいや、まだ株主総会で逆転の......」

 「堀切さん!郷社長は株主達の要請でこの会社に来たんですよ!?お忘れですか?」

 

 「......」

 「ここは私が支払います。長い間、お世話になりました」

 

 藤岡は堀切に別れを告げ会計を済ませそそくさと出て行く。その姿を堀切は見つめながら残りのコーヒーを一気に飲み干した。

 

 

  ◇

 

 

 時哉の父、宗時は波香捜索報告の為、北条の屋敷に帰還する。それを伍代沙織が玄関前で出迎えた。

 

 「お疲れ様です宗時様」

 「やあ、伍代君。調子はどうだい?」

 

 「はい、調子はいいです。宗時様はどうですか?お疲れのご様子ですが......」

 「ん?いや、別に悪くないよ?息子にも久しぶりに会ったしね」

 

 「あ、時哉様と......時哉様はお元気でしたか?」

 

 沙織はポッと頬を赤らめながら下を俯き加減にそう言った。

 

 「うん、元気だったよ......もしかして伍代君は時哉のことを?」

 「え?いえいえ、滅相もございません......以前、優しくして頂いたのでちょっと気になっただけです!」

 

 「そうか、でも、ま、息子は.....いや、言うまい」

 「え?」

 

 「いや、なんでもない、気にしないでくれ」

 「はい」

 

 「さあ、お館様にお茶をぶっかけられに行くかな、わはは」

 「......まだ、波香様は見つからないのですね」

 

 「ああ、タイミングが悪くてね。どうも波香様と私は縁がないらしい。ハハハ」

 「あ、あの!お館様にお茶をかけられてしまったら私のところに来てください。衣類のクリーニングをいたしますので」

 

 「お、そうか。じゃあ、お願いするかな」

 「はい!」

 

 しかし、今後しばらくの間、宗時は沙織にクリーニングを頼むことはなかった。なぜならこの後、北条繁一の逆鱗にふれ北条の屋敷の地下牢獄に監禁されることになるのである。

 

 

  ◇

 

 

 「ねえ、瞬」

 「なんだい?」

 

 「本当に私と同じ大学でいいの?」

 「ああ、いいよ」

 

 「瞬ならもっといい大学にいけるのに......」

 「瑞樹と同じ大学がいいんだ」

 

 「そう言ってくれるのは嬉しいけど」

 「ならそんなこと言うなよ。瑞樹が他の男と浮気しないか心配だからな!」

 

 「え?はは、私、そんなにモテないよ。日焼けして色黒だし性格も女っぽくないし」

 「ああ?中学の時からずっと俺は好きだったよ」

 

 波香の元教え子の天晴学園3年の真鍋瞬と楠木瑞樹は瞬の家で受験勉強をしていた。

 

 「うん、ありがと。でも良かった!瞬が頭良くて!こうして勉強教えてもらえるし!」

 「瑞樹はソフトバカだったからね。勉強もやれば俺よりできるんじゃん?」

 

 「ううん、そんなことないよ。本当にわからない」

 「ん、どこがわからない?」

 

 「瞬が」

 「え?俺のどこがわからないんだ?」

 

 「今日はお兄さんもいないし2人きりなのになんで何もしてこないの?ってかフツー女の子にこういうこと言わせる?」

 「あ、そうか、ごめん」

 

 そう言うとずずいと瞬は瑞樹の隣に移動した。

 

 「みずきさんみずきさん、この問題はねこう解くんだよ~」

 

 瞬はシャーペンを握っている瑞樹の手に自分の手を添え花マルを書いた。

 

 「あはは、何してるの?もうバカ......んっ」

 

 

 笑う瑞樹の口を自分の口で塞ぐ瞬。すれ違いだった2人の人生はすれ違いでは終わらずに同じ方向に向かって進みだした。

 

 

 

 

 

 

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