自分が会社で働いた頃は防犯カメラなど設置されていることのなかった場所に防犯カメラは設置されていて堀切は自分の姿が映っていることなど全く気づかずにいた。フラフラと昼間の様子をこっそり伺いに来て、また近くの公園にでも身を隠して夜、行動に移すハズだったのだ。
「待ちなさい!!」
「んがっ?」
堀切が振り返るとそこにはにっくき女社長の姿があった。
「なっ!どうして?」
「はあ?思いっきり防犯カメラに映ってたってよ?」
「ぬぬぬ」
「......そんなビンぶらさげてどうするつもり?」
「ククク、こうするんだよ!!」
シュバッ!!......ボッ!!
堀切は火炎瓶にライターで火をつけた。勢いよくビンの先っぽに詰めてある雑巾が燃え上がる。
「......で?」
「おりゃああ!!」
堀切はその燃え盛った火炎瓶をにっくき女社長に投げつけた。
「ハッ!!」
スタタタタタッ!!
女社長はそれをアッサリと交わし宙を飛び堀切の胸板に飛び蹴りを食らわす。
ドカッ!!
「ぐはあ!」
「全くアンタは!!」
ズザアアアア!!
堀切は吹き飛ばされ尻餅をつく。
「......ううう、この会社でなワシはもう30年以上も働いてきたんじゃ!!」
「だからなに?」
「お前みたいな後から来た小娘に好き勝手はさせん!!」
「会社はあんたの私物じゃないんだよ!!」
「ワシのものなんじゃ!!この会社はワシのものなんじゃあ!!」
ダダダダダッ!!
堀切は女社長に猛ダッシュで迫り渾身の力を込めて右ストレートを放つ。
シュバ!
「ハッ!!......おとといきやがれ!!」
バキャ!!
女社長は堀切の右ストレートを交わすと同時にカウンターで膝蹴りを堀切の顎に喰らわせた。
「ぐぼああああ!!」
ドタン!!
堀切は気絶しダウンしてしまう。
ピーポーピーポー......ウーウー!!
まもなくしてパトカーがやって来た。
パトカーの音で社内の従業員が何名か見物にやってきたが間宮と一里塚がそれを制し仕事に戻らせた。
「堀切さんじゃないですか?」
パトカーから降りてきた警官が伸びている堀切を見て驚いた。
「あら知ってるの?」
「ええ、この人、学生の時ボクシングでちょっと名の知れた人だったんですよ。まあ、黒い噂の絶えない人でしたが」
「へえ、そうだったんだ」
「堀切さんを......あなた一人で?」
「ええ、まあ」
「あなたは一体......」
「一応、空手と合気道を昔やっていたもので」
「そうなんですか、まあ、詳しい事情は署でお伺いしましょう。いいですか?」
「ええ、まあ、私の場合、黒いのは帯だけですけど」
「ハ、ハハハ、とても強いのですね」
こうして堀切は逮捕され波香も事情徴収の為、署へと出向くことになった。
「しゃ、社長」
間宮は心配そうな顔で波香に近寄ってきた。
「大丈夫よ。そんなに心配そうな顔しないで」
「で、でも」
「事情徴収が終わったらすぐに戻ってくるから。それまで一里塚さんと協力して社員達をうまくコントロールしてね」
「はい、わかりました」
間宮は強い意志をこめた瞳でジッと波香を見る。
「うふふ」
「なんですか?社長?」
「うん、忠実な部下を持って幸せだなあ......と思って」
「はい!私は社長に一生ついていきます!!」
「あら、うふふ」
この時、波香は嬉しさ反面、怖さを感じていた。間宮のその態度はまるで自分に対して恋心を抱いているように感じたからだ。なんで私なんかをと思いはするが同性から好かれるということにあまり慣れていない波香は素直にその好意を嬉しく思うことにした。
「では、行って来るわね」
「社長!お早いお帰りを!」
「うん!」
◇
数時間後。波香は署から解放された。
「ふぁあ~~、疲れた。あ、そうだ。喜一郎様に電話しなくちゃ」
ぷるる
『はい、神崎です』
「あ、波香です。実は......」
『わーっはっはっは!いやいや、笑ってはいけませんね。波香さんお疲れ様でした』
「いえ、当たり前のことをしただけです」
『トラブルのあった会社はそれだけで話題になりますからね。またこれで金を使わなくて宣伝になりました』
「......そうですね。あ、あの......」
『はい?』
「実は私、『かいにん』......しまして」
『ん?クビにはしませんよ?』
「いえ、違うのです......」
『ん?おおおお!!そっちの懐妊ですか!』
「はい」
『それはそれはおめでとうございます!』
「ありがとうございます」
『そうですか、なら波香さんが出産する前後のことを考えないといけませんなあ』
「......すみません。でもできるだけ早く職場復帰するつもりですので」
『いえいえ、無理はしないでください』
「ありがとうございます......本当に喜一郎様にはなんと申したらいいんでしょうか......感謝の言葉がみつかりません」
『はははははー、こちらこそ楽しませていただいてますし感謝しておりますよ』
「......」
『おっと、いかん。これから会議なのでね』
「あああ、すみません」
『いや、今度またうちで食事にでも来てください。娘も喜びますから』
「はい、ありがとうございます。では、失礼します」
プッ
波香はスマフォを切りファーっと溜息をつく。
「......喜一郎様が私の父だったらよかったのに。私の理想の父親。......メグミちゃんが羨ましい」
プルルル
するとすぐに波香のスマフォが鳴る。
「はい」
『ああ、やっと繋がった!ナミカちゃん大丈夫か!?』
「うん、大丈夫よ。心配かけてごめんね」
『無理するなって言っただろ!』
「うん、本当にごめんなさい」
『まあ、とにかく無事で良かった』
「ね、子供の名前どうする?」
『なんだ、突然、気が早いな』
「女なら『時香』で男なら『波哉』ってのはどぉ?」
『ははは、随分と安直だな』
「いいでしょ!」
『今日は俺、早く帰れそうなんだ』
「あ、ほんと。私もこれから会社に寄ってすぐ帰るかな」
『じゃあ、さ。久しぶりに外食するかい?』
「そうね」
『どこいきたい?』
「シャルだん!」
『......はやめておこう』
「なんでよ!」
『飲んでる場合じゃないだろ。毎回、1杯飲んで寝ちゃうんだから。それよりもしっかりと身体にいい物を食べよう」
「まったく、ホント心配性なんだから」
『焼肉に行こう。それもいいやつ。量は少なくていいから最上級の肉を......ね』
「え!?お肉?いいわね!」
『いい店知ってるんだ』
「トキヤもたまには役に立つわね!」
『なんだよ、それ』
「うふふ」
波香は時哉との会話にすっかり夢中になって油断してしまっていた。周りに北条繁一の放った密偵がいるとも知らずに......
「ん?」
「波香様、お迎えにあがりました」
「!?お前は大河原。なんでここに」
「いやー探しましたよ。さ、お館様がお待ちかねです。おうちに帰りましょう」
「帰りません!さがりなさい!」
「......仕方ありませんね......オイ!」
「ハッ!」
波香の周りを囲んでいた黒いスーツ姿の男達が4名がかりで波香を掴みにかかる。
「ちょっ!!や、やめなさい!!」
あっというまに波香は男達にがっちりと捕まれてしまう。
「お、お願い!大河原!見逃して!私のお腹の中には赤ちゃんがいるのよ!」
「なんと!それはそれは実に興味深い!ますます連れて帰らないといけませんな!」
「や、やめて!離してええ!!」
波香が絶叫するのにも関わらず男達は波香をガッチリと捕らえどこからともなく現れた黒いリムジンに乗せられてしまった。
『お~い!ナミカちゃん!?どうしたんだ!?』
「ト、トキヤ助けて!!」
バッ!......バキャ!!
「あ!」
黒いスーツ姿の男はナミカのスマフォを取り上げ思い切り足で踏み潰してしまう。
「や、やめて!!トキヤ~~~~!!」
____波香の絶叫は虚しく響き渡り波香を乗せた黒い車は闇の中を走り去っていく......