北条繁一が住む屋敷には地下に巨大な研究施設が建造されている。その構造は地下5階まであった。北条汐海と美菜が先頭を走り時哉、真樹男、香織がそれに続く。汐海からいろいろな話を聞いて時哉と真樹男は覇気を失っていた。
「......」
「......」
地下5階までエレベーターがあるのにそれを利用せず汐海達は階段でダッダッダと降りて行く。
「ねえ、汐海」
「なに?」
美菜は後ろを振り返り時哉達を気にしながら汐海に話しかけた。
「本当に起爆装置を起動させるの?」
「ん、やるわよ」
「時哉さん達に話した方がいいんじゃない?」
「......そうね」
汐海と美菜は走る速度を徐々に弱め足を止める。
「どうしたんだ?」
「時哉さん、あのねここの研究施設にはもしもの為の証拠隠滅用に爆破装置が用意されているの。私達は今からそれを起爆させる。いったん起爆させたらもう誰も止めることはできないの。時哉さん達はどうする?」
神妙な面持ちで美菜は時哉達に説明する。
「そ、それは......起爆させてから爆発までどのくらいの猶予があるんだい?」
「5分です」
「5分か......あまり時間がないね」
「うん......」
「とにかく俺はナミカちゃんさえ救出できればいい。後のことはキミ達に任せるよ」
「あらあら、随分と無責任だわねえ。縁が切れたから北条のお家騒動には関係ないってことかしら?」
時哉の言葉に汐海はくってかかる。
「ちょっと!汐海やめなよ!」
すかさず美菜が汐海を制止させる。
「いいえ、やめないわ。だいたいあなたね、73号を救出してその後はどうするの?クローン人間なのよ?普通の人間じゃないわ。そんなのと一緒に暮らせるの?私達は作られたものなの。人工的にね」
「......それがどうした。クローンだろうとなんだろうと俺にとってナミカちゃんはナミカちゃんだ」
「あらあら、かっこいい。でも73号はどうなのかしら。自分がクローンだと知ったらどうなのかしらね。あなたと一緒にいるのかしら」
「もちろん、そうだよ。ナミカちゃんは俺と一緒にいる。永遠にな!」
「......73号は精神的にも肉体的にもフランソワに一番近い成功体だそうよ。そんな73号があなたと一緒にいることを望むとは思えないけどね。......まあ、フランソワがどういう人物なのかは私は知らないけど」
「俺も......ナミカちゃんのお母さんは知らない」
「まあ、いいわ。とにかく一番最初に73号を探しましょう」
「ああ......だがその前にひとつお願いがある」
「何かしら?」
「ナミカちゃんを見つけたらそんな番号でナミカちゃんを呼ぶのはやめてくれ!」
「あらあら、クローンなんて気にしないなんて言っておいて結構気にしてるんじゃないの?時哉様は?」
「うるさい!......できれば本人には自分がクローンだってことを」
「それは無理ね!こんな大事になっているんだからその核心の部分を知らせずにおくなんてことはできない」
「くっ......」
◇
「お館様。73号.....いえ、波香様の検査は全て終了いたしました」
「おう、大河原待ちくたびれたぞ!で、その結果は?」
「ハッ!問題ありません。お腹の子も全て順調に育っております」
「なんじゃと!信じられんそれではまるで人間ではないか!」
「ハッ!完璧であります!」
「むむむぅ。でも複雑な心境じゃな。......お腹の子の相手は誰なんじゃ!ワシの知っている男か?」
「......」
「誰なんじゃ!?大河原!!その様子だとワシの知っている奴なんじゃな!!」
「......時哉です」
「ななななな、なんじゃとう~~~!!よりによってあのバカ息子か!」
「......」
繁一が嫉妬心ではらわたが煮えくり返ってくるところに時哉達一行は繁一と大河原の元に姿を現した。
「そのバカ息子、時哉がナミカちゃんをいただきに参上いたしました」
「なななな。大河原!警備はどうなっているのじゃ!!」
「ハッ!こ、こんなことが......お、おかしいセキュリティシステムが機能していない!」
「バカタレが!」
......ゴンッ
繁一は持っている杖を大河原に投げつけた。
「ただちに警備兵を集めます!」
「フンッ!遅いわ!......して時哉よ。そんなにワシの娘たちを引き連れてどうするつもりじゃ?」
「俺はただ、ナミカちゃんを取り戻したいだけだ。お館様、ナミカちゃんは俺が嫁に貰っていきます」
「ワッハッハッハ!!そんなことをワシが許すと思うか!のぅ403号、37号そして香織よ。おっと出来損ないの男もいたか。なあ、マキオ」
時哉は繁一と相見まえたというのに他の4名がやけに静かすぎるのに今、気がつく。そして後ろを振り返ると4人はうつろな瞳をしてただその場に突っ立っていた。
「お、おい!どうしたんだ!汐海!美菜!香織!......マキナ!!」
「ワハハハ。時哉よ、ワシが飼い犬に手を噛まれるような不手際をすると思うか?」
「なんだと?」
「......ふ、やれ!ワシの娘たちよ!あ、いや、男もいたか」
「......はい、お館様」
繁一の命を受け汐海達は一斉に時哉に襲い掛かる。
シュッ!シュッ!シュッ!
汐海は高速で手刀を時哉に繰り出すが時哉はすんでのところでそれをかわす。
「時哉様、覚悟!」
今度は香織が時哉の右側面に回り同じようにして手刀を繰り出す。がそれも時哉はかわし続ける。
「や、やめろ!みんな!目を覚ますんだ!」
時哉の声は4人に届かず、美菜が猛ダッシュで時哉に飛びついてきた。
ダダダダッ!!......ガシッ!!
美菜は時哉の左腕に飛びつきそのまま倒れこんだ。
ドタッ!!
「くらえ~~い!!」
美菜はそのまま腕ひしぎの態勢に持ち込もうとする。
グギギギギギ......
「う、うお~~~!!や、やめるんだ!!」
必死に美菜の思惑通りに腕を伸ばすことを阻止しようとする時哉。が、その時哉に真樹男は時哉のどてっぱらに渾身のローキックを浴びせた。
ドカっ!!
「ぐはああ!!」
真樹男の一撃により時哉は美菜の力に抵抗できずに腕ひしぎ逆十字固めが完成させてしまった。
ミシミシミシ......
「ぐわあああ!!」
時哉の左腕から今にも骨が折れそうな音が聞こえてくる。
「ふふふ、さすがは37号だ。戦闘能力に特化しておる。そうか、お前は関節技が得意だったな!ワーッハッハッハ!」
苦悶の表情に満ちている時哉を見て繁一は満足そうに笑う。が、しかしそれもつかぬ間、ついにあの女が目覚めようとしていた。
「ん......んんんん」
丸い白いベットに横たわっていた肌が白くて長い黒髪の美しい女性が目覚めたのだ。
「お、おおお、目覚めたか!フラン......いや、波香よ!」
繁一と大河原は起きた波香に気が付きベッドに駆け寄った。
「こ、ここは?......お父様!大河原も......そうか、私、大河原に捕まって......」
「うんうん、もう心配ないぞ?波香」
優しそうな微笑みで繁一は波香を見た。
「い、いやああああ!!」
自分が全裸なことと心の底から嫌悪している繁一の顔を間近に見て波香はパニックになりうずくまってしまう。
「ぐわああああああ!!」
「え!?トキヤ!」
波香は時哉の声を聞きうずくまるのをやめ、その声の主を探す。すると時哉は4人に囲まれボコボコにされていた。その中には自分の知っている顔もいた。
「何してるの!!え!?マキオ?それに香織さんまで!.....え?私?私もいる!?」
「ぐわああああ!!」
美菜からは今にも腕が折れそうな関節技を決められ汐海、香織、真樹男からは全身をまんべんなくボコボコに蹴られていた。そんな時哉は悲鳴をあげるのみだ。
「くっ」
時哉の惨状に助けようと身を起こす波香。だが大河原によって制止されてしまう。
「おっと、波香様。いけませんな」
「......大河原、貴様、よくも」
波香は大河原の手を振りほどき身を起こす。
「波香よ。まさか時哉を助ける気ではあるまいな?」
繁一は不満そうな顔をして波香に問う。
「当たり前でしょ?私が愛している人だもの。......私が愛しているのはあなたじゃない」
「ぐぬぬぬぬ」
ドカッ!
「ぐわっ!」
波香はベッド上で跳ね起きると同時に大河原に飛び蹴りをくらわし全裸のまま時哉のところに駆け出した。
「マキオ!香織さん!!やめて!!」
そしてその波香に波香と瓜二つの汐海が立ちはだかった。
「あ、あ、あ、私?」
ズバアアアッ!
汐海はいきなり回し蹴りを波香にみまい、波香はそれをしゃがんでかわす。がそこには汐海の膝が目前に迫っていた。
ドカッ!
波香はその膝蹴りを顔面に喰らってしまうが喰らう直前に後ろに飛んでダメージを最小限のものとしている。
「なにこれ?ほんと、私、そのものじゃない。戦い方のパターンが。いや、違う。スピードもパワーももしかしたら私よりも上かもしれない」
「ぐわあああああ!!」
「くっ!トキヤ......急がないと!」
悲鳴を上げる時哉を尻目に波香はある意味、自分との戦いに集中していく......
(続く)