※この作品はR-18です。

もう悪役令嬢なんて言わせない!   作:億田夢人

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第79話

 美菜、香織、真樹男の3人にいたぶられている時哉を一刻も早く波香は助けたいところだが汐海と対峙していて一歩も動けずにいた。お互い、似ている存在なだけに先に動いたほうがその動きを読まれて劣勢になる気配を波香と汐海は感じているのだ。

 

 「ぐわあああ!!」

 「トキヤ!」

 

 時哉の左腕は美菜によってもうすぐ砕かれようとしていた。それを波香は察知しているがどうすることもできない。

 

 ドカッ!......ドカッ!

 

 美菜が時哉の左腕を逆十字固めでガッチリとキメている状態で香織と真樹男は体重の乗った重いローキックを時哉の腹部、背中などにドカドカと交互に繰り出している。頭部は時哉が右腕で覆うようにしているのでガードしていない部位を狙っているのだ。

 

 だが時哉はただこの状態を甘んじて受けていた。大げさに悲鳴を上げているのも芝居である。悲鳴をあげれば少しは隙が生まれるのではないかと考えたのである。決して彼は諦めてはいなかった。

 

 『......決して諦めないトキヤが私は好き』

 

 波香にこう言わしめるほどの男である。かつて波香が本家を出奔した後も彼は1年間探し回った。北条系列の1流企業の内定を断ってまで。だが波香はたくさんの偽名、戸籍の偽造を行っていた為、時哉一人の力では波香を見つけることは叶わなかったのだ。そして無気力のさなか、高校の非常勤講師として生きてきた。が波香と再会したことにより以前の自分を完全に取り戻していたのだ。

 

 「......時哉さんこれで終わりです!」

 

 香織は自分の利き足である右足を後ろに大きく振りかぶった。時哉の脇っぱらに渾身の一撃をみまうつもりなのだ。

 

 「!!」

 

 ガシッ!!ズバアアアアア!ゴンッ!

 

 「ギャアア!」「きゃあ!!」

 

 時哉は頭をガードしていた右腕を解除し香織の大きく振り下ろしてきた右足の軌道に合わせて払った。香織は全体重を右足に乗せていたのでいとも簡単にバランスを失い身体ごと時哉に右腕一本で持っていかれ美菜にボディアタックをしてしまう。

 

 「あの態勢でドラゴンスクリューだと?」

 「......ドラゴンスクリューではないトキヤスペシャルだ!」

 

 時哉はスクッと立ち上がり大河原に叫んだ。有無を言わさず背後から真樹男のハイキックが飛んでくるが時哉は真樹男を見もせずに間合いだけでかわし波香へと向かった。

 

 「すまん、ナミカちゃん心配かけた!」

 「ううん、それより腕、大丈夫?」

 

 「ちょっと抜けたみたいだけど大丈夫だ」

 

 時哉は右腕で左腕を押し込むような仕草を見せた。

 

 「ワッハッハ、何をしている時哉。そんな状態ではワシの娘たちとはまともに戦えまい。降参して波香を渡すならお前を許してやろう」

 「いや、お館様、自分で脱臼を直したんですよ。残念ながら問題はありません」

 

 「なんじゃとお!?」

 「整体師の免許、持ってるんで」

 

 「ぐぬぬぬ、......何をしている我が娘たちよ!相手は2人じゃぞ?戦闘能力が特化されたお前達4人ならば楽に勝てる相手じゃろがっ!!」

 

 波香と時哉はお互いに背中を預け汐海、美菜、香織、真樹男の4人と対峙する。

 

 「くすっ」

 

 時哉は思わず微笑を漏らす。

 

 「ん?どうしたの時哉?」

 「いや、幼いころに見たDVDでこんなようなシチュエーションの特撮のヒーローものがあったんだ」

 

 「へぇ、こんな時にそんなのを思い出すなんて余裕あるじゃない?」

 「まあ、ね。キミと一緒だし負ける気はしない」

 

 「......こちらからは手がだせない凄いプレッシャーを感じているのに?」

 「ああ。向こうは4人だし向こうから先に仕掛けてくるのを待とう。数的不利だし乱打戦になるのはマズイ。確実に1撃で1人ずつ倒していこう」

 

 「そうね。私もそう思っていた」

 「しかし、他の3人はともかくとしてキミと長い間行動を供にしていたマキオまでお館様の言いなりになるとは......」

 

 「トキヤ......それは心配ないわ」

 「え?」

 

 「マキオは私の弟なのよ。今までもなんだかんだ言いながら最後には私を助けてくれた。マキオが私を裏切るハズがない」

 「......そうか、まあ、アテにはしないでおく」

 

 「......」

 「何をブツクサゆっている!!」

 

 しびれを切らした汐海が波香たちに殴りかかった。すると他の3人も波香たちに突進していく。

 

 「来るぞ!」

 「ええ!」

 

 波香と時哉は臨戦態勢を整える。真樹男は時哉に正拳突きを放つが時哉はそれをあっさりとかわす。その真樹男の背後から美菜が現れ時哉の左腕に飛びついてきた。

 

 「キミはそれしかできないのかっ!?」

 

 時哉は飛びついてきた美菜の両足を左腕を添えて背負う『両足背負い投げ』を敢行する。

 

 びた~~ん!!

 

 顔面からもろに落ちた美菜は失神し戦闘不能状態となった。すぐに真樹男の水面蹴りが時哉の足元を狙うが時哉は小ジャンプでそれをかわしそのまま膝を真樹男の顔面に見舞う。

 

 「ひぎゃっ!」

 

 怯んだ真樹男に時哉は両足を揃えて捻りを咥えた低空ドロップキックを放った。

 

 ドカッ!!ごろんごろん!

 

 さらに数メートル先まで転がり続けた真樹男を時哉は追い真樹男のどてっぱらに正拳突きをくらわした。

 

 ドカッ!

 

 「すまん、マキオ......じゃなくてマキナ、ちょっとだけ眠っててくれ」

 

 すると真樹男はこくっと頷いてそのまま目を閉じた。

 

 「......なんだ、芝居だったのか。ったく」

 

 今まで芝居で自分をいたぶっていた真樹男を時哉は一瞬だけ呪うがすぐさまその視線は波香へと向けられる。

 

 「うわ!」

 

 波香が汐海、香織との攻防を見て思わず声をあげた。香織のキックはハイーローミドルと多種多様の高さのキック攻撃を仕掛けるさなか汐海はその合間を縫って飛び膝蹴りを連続で波香へと放っている。波香はそれらの攻撃をさばくので精いっぱいで攻撃に転じられないでいた。

 

 「と、思ったけどなんかワンパターンだな。......よし!」

 

 時哉は一瞬ニヤリと笑い波香達の戦闘エリアへと侵入していく。

 

 「ぬ、ぬう、波香はともかくとして時哉がこれほどまでにやるとはのぅ」

 「.....お館様、時哉は空手、合気道ともに師範クラスです。学生空手道日本チャンピオンですし.....」

 

 「なんじゃと?ワシは聞いてないぞ!」

 「......お館様が気分を悪くすると思い伝えていなかったのです......」

 

 「バカタレがっ!」

 

 ビシッ!

 

 繁一は大河原の頭を自分の持っていた杖で殴った。

 

 「ぐわっ」

 

 

  ◇

 

 

 「小西さ~~ん、この材料、ここでいいの?」

 「はい、そこでいいです!すみません間宮部長にまで現場の手伝いをさせてしまって」

 

 「いいんですよ。今、この会社、好調の波に乗っています!なぜだかわからないけど新規のお客さんからのお仕事が一杯来てるし!」

 「今、話題になってますからね。この会社。腐った人材を掃除して生まれ変わった......なんて」

 

 「社長が戻ってくるまでこの会社を最高の状態にしておきましょう!」

 「はい!!」

 

 神崎電子工業では一里塚と間宮が事務職でありながら現場で汗をかいていた。事務所ではまたまたケニーから派遣された3名の女性がそつなく事務をこなしているのだ。

 

 「あ、あの外の『アルバイト募集』のチラシを見たのですが......」

 「はい、少々、お待ちください。担当を読んでまいりますので、こちらの応接室でおかけになってお待ちください」

 

 「はい」

 

 ケニーからの派遣事務社員は今の面接担当者である間宮を工場内で探した。

 

 「間宮部長!アルバイト希望者が来ました!」

 「うん、わかったわ!じゃ、小西さん、ちょっと行ってくる」

 

 「はい、いってらっしゃいませ」

 

 間宮は一里塚に挨拶をし工場を出て応接室へと向かった。

 

 「お待たせしました。間宮です」

 

 そう間宮は言いすばやく胸のポケットから名刺を渡す。

 

 「あ、こんにちは!細田と言います!」

 

 そのアルバイト希望者の髪型は三つ編みで黒縁眼鏡をかけていてバシっと黒のスーツでキメていた。

 

 「え~っとあなたは......細田ふみえさん......ね」

 「ハイ!」

 

 「ん?T大在学中?すごいわね!」

 「いいえ、そんなことは」

 

 「T大のあなたがどうして当社に?」

 「いえ、あの、ただ、お金が欲しくて......」

 

 「......アハハ、大変素直で正直ですね。当社の業績がなんたらかんたらって始まるようなら質問責めにしてあげようと思ったけど......いいわ、あなた採用!明日からお願いします」

 「ホントですか?ありがとうございます」

 

 

 かつての高校の教え子が自分の会社にアルバイトとして入社するとはこの時の波香は知る由もない。

 

 

  ◇

 

 

 「ナミカちゃん!」

 

 時哉は波香達の戦闘の流れを崩さずに加勢していく。それぞれに1VS1の戦いになるよりも今の状況では乱戦状態の方がやりやすいと思ったからだ。

 

 バババババッ!

 

 連続で回し蹴りを繰り出す香織。その合間から汐海は膝蹴りではなく回転しながら裏拳を放って来る。クルクル回る人形劇に波香と時哉はかわすのに精一杯だ。

 

 「くっ......パターンを変えてきたか」

 「トキヤ、私は私のそっくりさんをなんとかするから香織さんをお願い」

 

 「わかった!」

 

 ズバッ!

 

 汐海の回転裏拳をしゃがんでかわすと波香は後ろ回し水面蹴りを放った。

 

 スタッ!

 

 汐海はそれを予測していたらしく小ジャンプでかわしそのまま膝蹴りを波香の顔面に目掛けて飛ぶ。

 

 ガシッ!

 

 「!?」

 

 その汐海の膝蹴りを身体ごと受け止める者がいた。時哉である。彼は香織の連続回し蹴りをかわしつつ、汐海が波香に膝蹴りを放つ瞬間を見極めていた。

 

 「ナミカちゃん!今だ!」

 「おうけい!」

 

 ダッダッダッ.....バゴォーーーン!!

 

 波香は時哉が抱えている汐海に対して時哉を踏み台にして駆けあがり顔面にキックをお見舞いしそのままバク宙をしさらに捻りを咥えてこちらに向かってきた香織の顔面に全体重を乗せた両足がヒットする!

 

 ドカッ!!

 

 汐海、香織ともにノックダウン戦闘不能状態。この攻防はわずか数秒で終了した。

 

 「う、美しい!み、見たか!?大河原!今の!今の!」

 

 繁一は自分の作り上げた娘達が秒殺されたのにもかかわらず波香と時哉の連携技を目のあたりにして大はしゃぎをした。

 

 「お、お館様、はしゃいでいる場合ではございません。システム異常によって警備兵の到着が遅れている今、我々しかおりませんぞ?」

 「ぐぬぬ。かくなる上はこのワシが......」

 

 繁一はガウンのポケットから一粒のカプセルを取り出した。

 

 「お、お館様!それはまだ試験段階の物ですぞ!どんな副作用があるかわかりません!おやめください!」

 「か、構わん......んが?」

 

 繁一がカプセルを飲もうとしたときその場にはもはや誰もいなかった......

 

 

  ◇

 

 

 「あはは、うまくいったな。みんな迫真の演技だったよ」

 「すでに延髄のマイクロ装置はみなダミーになってますからね。いまだにマインドコントロールが有効になってると思ってたのでしょう」

 

 美菜が勝ち誇ったようにそう言った。

 

 「......私と美菜の当初の目的とは大幅に軌道がずれてますけどね」

 

 一方、汐海は不満そうにそう言う。

 

 「ちょっとそこのソックリさん。時哉の隣は私の場所なの。どいてくださる?」

 

 背後から時哉のシャツだけを纏った波香が汐海に言い放つ。

 

 「これはこれは失礼した。この男を奪うつもりはないので安心してくれ」

 

 汐海は素直に時哉のとなりを波香に譲る。

 

 「もう、いったいどうなってるの?私とおんなじ体形が4人も......なんだか気持ち悪い、あ、ごめんね!香織さん!」

 

 波香は香織にだけ謝った。他の3人に対して申し訳ない気持ちになった香織は言葉を発せずぺこんとおじぎだけする。

 

 「説明を求ム!トキヤ!」

 「......だよなあ。その前にナミカちゃんの作ったうまいゴハンが食べたい。ナミカちゃんがいなくなってからずっとカップメンだったんだよ」

 

 「もう、いいけど。でもちゃんと時哉の知ってること全部話してね。はぐらかさないで」

 「......わかった」

 

 

 __この後100人近い警備兵が波香達の脱出を阻止しようとするが波香達は走る速度を落とすことなく警備兵を蹴散らしなんなく北条の敷地内から脱出するのであった。

 

 

(続く)

 

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