「......なんであなた達までここにいるのかしら?」
マンションに帰った波香達に汐海達がくっついてきたのだ。
「まあまあ、またお館様のさ、追手が来るかもしれないしボディガードってことで。あ、報酬はゴハン食べさせてくれればいいよっ!」
美菜はニコニコしながら波香に言う。
「別に頼んでないわよっ!ああ、久しぶりに2人きりで外食できると思ったのに!」
「時哉さんとですか?」
香織もニコニコしながら気さくにそう言う。滅多に自分からは話さないタイプだが相手が波香だと違うようだ。
「ええ、まあ......ま、いっか、じゃあ、食事の前にトキヤ、これはいったいなんなの?なんでこんなにたくさん私と似たような人達がいるわけ?」
「......」
「トキヤ!」
波香の質問に時哉は答えられないでいた。
「時哉殿が話せないなら私が話そう......」
業を煮やして汐海がスッと顔を上げそう言う。
「やめてくれ!......ナミカちゃん、その前に食事しよう?俺、もうお腹ペコペコなんだ。手伝うからさ?」
「......もう、まあ、手伝ってくれるならいいかな。トキヤと料理するの楽しいし」
「お、そうか!じゃ、さっそくキッチンにいこう!」
「うん」
キッチンに立った波香と時哉。2人は作業を分担して効率よく料理を進めている。
「冷蔵庫の中それなりに何かあってよかったわ」
「そうだね」
「ねえ」
「なんだい?」
「マキオの奴、いったいどうしちゃったのかしら?屋敷を出てから一言も喋ってないんだけど?」
時哉は真樹男も自分がクローンだと知らされかなりショックを受けているのだと案じた。
「ちょっと疲れちゃったんじゃないかな?『おーっほっほっほ』とかウザク言われるより俺は静かなのが助かるよ」
「それはそうなんだけど......あんなに元気のないマキオを見るのは初めてだわ」
「......」
「っていうより、なんでそんなに人参切るのおっそいの?あははは」
「......くっ」
「あはははは」
◇
キッチンから波香の笑い声が聞こえて来たので美菜は誰も話さずに居間に座っている人達に会話を切り出した。
「あの2人、本当に仲が良いね~羨ましいなあ」
美菜は人差し指を咥える。
「あの......波香さんにどうしても話さないといけないんですか?」
香織は皆に確認を取るように言う。
「では、聞くが隠してどうするんだ?」
「......隠してどうするというかこのまま普通の人間として生きていければいいんじゃないですか?わざわざクローン人間だと言う必要があるのかなと思いました」
「......わたくしもそう思いますわ。わたくしは知りたくなかった。自分がクローンなどと」
真樹男が久しぶりに口を開いた。
「こうしてる間にも繁一は次々とクローンを作りだしているのだぞ?」
汐海は眉をしかめながら話す。
「それっていけないことなのでしょうか?」
きょとんとして香織は言い放った。
「は?いけないに決まってるだろう?自然の摂理に従わずイレギュラーな方法で人間を生み出すなどと神への冒涜だ!」
「......汐海さんはそうお考えなのですね」
「貴殿は違うと言うのか?」
「私は......皆が幸せならそれでいいんじゃないかと」
「幸せなものか!私は右も左もわからぬまま、あの屋敷を追い出されたんだぞ!」
「私も同じです。でもなんとか今まで私達、生きてこれたじゃないですか?私達は人間としての能力は高いようです。だから仕事があればできるんです。生きていけるんです。それに生きていればこうして兄弟......っていうのはちょっと違うかもしれないけどこうしてみんなが集まってお食事ができる。私、屋敷を出てから今までずっとひとりぼっちだったので今、すごく嬉しいし楽しいです」
香織はそう言い終えるとポロポロと涙を落した。
「あれ?私、なんで泣いているんだろう?泣いたことなんか今までなかったのに。そうか嬉しい時にも涙って出るんでしたね」
香織の落涙を発端にして汐海、美菜、真樹男が次々と泣き出した。
「うっ......うっ......うっ......」
「うわ~~~ん、っひくっ.......」
「わたくしがわたくしが......クローンだったなんてぇ......うわ~ん」
4人が号泣している居間に波香が前菜を持ってやってきた。
「えっ!なにこれ?どうしてみんな泣いてるの?」
◇
北条の研究施設では繁一が自分の部屋にこもりパイプを吸っていた。
『私が愛しているのはあなたじゃない』
波香の捨てゼリフにムカムカとしているのがパイプからモクモクと出てくる煙の量でわかる。
「お館様、失礼します」
「なんじゃ大河原?」
「波香様の奪還はいかがいたします?」
「もう、よい、放っておけ」
「は?いいのでありますか?」
「......もう、よいといっておるだろうが!!」
ばちゃ~~ん!!
繁一は灰の入った灰皿を大河原に投げつけた。
「波香を超えるクローンを作り出すのじゃ!急げ!!」
「ハッ!」
◇
「はあ~食べた食べた!おいしかった~」
「うむ、感服いたしました」
「おいしかったです、社長!」
「姉さま、ごちそうさまでした」
美菜、汐海、香織、真樹男がそれぞれに波香に頭を下げてそう言った。
「いいえ、お粗末様でした。さ~~~て、話していただきましょうかね、トキヤ」
「んあ?もぐもぐ、なにを?」
「......まだ、食べてるし、まあ、いいわ、あなたが食べ終わるのを待つ」
ところがトキヤはもくもくと食べ続け一向に終わる気配がない。
「ごはん何杯食べるのよ!もうこれで釜の中ないからね!」
「いや、もぐもぐナミカちゃんの作った料理がうまくて......もぐもぐ」
「......」
汐海は時哉が波香にどうやって話そうか悩んでいるのでこうして時間を稼ぎをしていることを察した。いや、それを感じていたのは汐海だけではない。美菜、香織、真樹男もそう察していた。
「......実は社長」
「ん?」
意外なことに最初に口を開いたのは香織だった。
「んぐお、ゴホゴホッ!......か、香織さん!」
時哉は香織がすべてを話してしまうのではないかと思い焦ってむせる。
「私達はクローン人間なんです。社長の」
「え!?」
香織のその言葉に一同がビックリする。
「父は社長を溺愛していました。社長が家を飛び出してから社長の代わりに私達を作ったのです」
「え?そうなの?トキヤ?」
「あ、ああ。香織さん、汐海さん、美菜さん、はキミの代わりに作られたクローン人間なんだ」
「マキオは本当の私の弟だよね?」
「ああ」
「今は妹ですわ!それにマキオじゃなくてマキナですわ!!」
「そ、そう、良かった。でも、そうだったのね。あなた達が私のクローン。どうりで似ていると思ってたわ」
「うん、そうだね」
「でも、トキヤ」
「うん?」
「まだ、何か隠してるわよね?私、トキヤのことは全部わかるの」
「......ごめん、キミが楽しみにしていた陽光堂のプリンをキミがいない間に食べてしまった」
「え~~!!ってなんだそんなことか」
「本当にごめん」
時哉は深々と頭を下げる。波香はそんな時哉を見ながらため息をはいた。
「ま、いいわ。マキオと香織さんは心配ないでしょうけどそこの2人は行くアテあるの?」
「ない」「ないで~す」
「じゃあ、しばらくここに住む?」
「いいのか?」
「ええ、構わないわよ。そのかわり1部屋を2人で使ってね。バス、トイレは自由に使っていいから」
「助かる」「わ~い」
汐海と美菜は波香の言葉に喜びの表情を見せる。
「おいおい、ナミカちゃんいいのか?」
「うん、なんだか可哀そうじゃない?トキヤは反対だった?」
「いや、逆にそのほうがいいとは思った。またナミカちゃんがさらわれそうになったらボディガードになるんじゃないかと思ってね」
「ん~そうね。あ!そうだ!あなた達仕事はできる?」
「仕事?問題ないと思うが?何しろ私達は......えと、貴殿のことをなんて呼べばいい?」
「そうね、今は郷望美なのでそっちで呼んでいただけると助かる」
「そうか、私達は郷望美のクローンなのでどんな仕事もできると思うが」
「ふぅん、じゃあ、あなた達、私の会社で働く?」
「ほぅ?どんな会社なのだ?」
「スマフォとかデジカメとか......精密機械を作っている会社よ」
「なんだか細々としそうな会社だな。美菜、どうする?」
「私は構わないよ?どうせやることないし」
「そうか、わかった。郷望美、お世話になる」
「あ、ほんと!ちょうど人手不足で困ってたのよ。じゃあ、香織さん、二人の指導をお願いね」
「はい!」
「お、なんだか楽しそうだな」
ようやく食べ終わった時哉がつまようじを片手にそんなことを言った。
「うふふ、トキヤも学校辞めてウチの会社に来る?」
「ハハハ、そうだね。考えとくよ」
2枚目風にサラリとそんなことを言って受け流してかっこうをつけてる時哉ではあったが彼の腹ははち切れんばかりに膨張していた。
「あははは!なに?そのおなか!!」
「......」
__波香に指摘され一同が時哉の腹に注目し大爆笑が起こるのであった。
(続く)