※この作品はR-18です。

もう悪役令嬢なんて言わせない!   作:億田夢人

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第83話

 汐海と美菜は初出勤を無事に済ませ会社を出て帰路へとついた。そう波香と時哉の住む家に。

 

 「ねえ、汐海これからどうするの?」

 「どうもこうもないわよ。繁一のクローン開発を阻止しなくては」

 

 「でも香織さんが言ってたじゃない?クローン人間も......あたし達も普通の人間みたいに暮らして幸せになればそれでいいんじゃないかって」

 「では、聞くけど普通の人間の幸せって何?私達の幸せってなんだ?」

 

 「それは......ん~あたしにはよくわかんないけど73号......波香さんみたいに恋人を作って子供を作る?」

 「それが幸せなのか?」

 

 「......でもね、今日、あの会社で働いてみて楽しかったな。みんな良い人達だったし」

 「まあ、それは私も否めないな」

 

 「もう少し様子を見ようよ?せっかく他の仲間に会えたんだしさ」

 「私は73号が自分がクローンだってわかったらどうなってしまうのかが怖いんだ。あれはまるで本当の人間のように生きてきた。それなのに自分がクローンだなんて......おそらくその衝撃は私達の比ではあるまい」

 

 「......うん、そうだね」

 「私達だからこそわかるだろう?」

 

 「うん」

 

 

  ◇

 

 

 「ただいま~」

 「戻りました」

 

 「おかえりなさい。初出勤は無事に勤まったようね」

 

 波香はそう言い二人を出迎えた。

 

 「うん、なんとかねえ」「問題なかったぞ」

 「それは何より。さあ、二人とも先にお風呂はいちゃって良いわよ?」

 

 「うん、じゃあ、そうする」

 

 美菜は玄関を通過しそのまま風呂場へと向かった。

 

 「汐海は?美菜ちゃんの後に入るの?」

 「うん、そうだな」

 

 「......なんだか自分に話しているみたいですごい違和感だわよ」

 「ははは、まあ、私は郷望美のクローンなのでな。仕方ない」

 

 「汐海」

 「なんだ?」

 

 「こないだはそう呼んでと言ったけどうちにいる時は『波香』でいいわよ?」

 「はは、そうか。わかった」

 

 「うん、よろしくね。汐海」

 「こちらこそ宜しくお願いする」

 

 「私は夕飯の支度をするから汐海は着替えてきたら?」

 「ん?なら手伝おうか?」

 

 「大丈夫よ。もう終わりだから」

 「そうか。それはすまなかった」

 

 「うん、着替えたらリビングで待ってて。トキヤももう帰ってきてるわよ」

 「そうか、わかった」

 

 汐海は自分達の部屋に行き部屋着に着替えリビングにやってきた。

 

 「時哉殿、お疲れ様です」

 「お、汐海。おかえり」

 

 時哉と汐海はしばし無言のままテレビを見る。がしばらくして汐海は口を開いた。

 

 「なあ、時哉殿」

 「ん?なんだい?」

 

 「セックスって気持ちが良いものなのか?」

 「ブフォオオオ!!」

 

 「ん?どうした?」

 「ごほっごほっ!急にそんなこと聞くなよ」

 

 「そうか、すまない。私は経験ないもんでな。知りたかったんだ」

 「え?経験ないのか......」

 

 「なんだ?悪いのか?」

 「いやいや、意外だなと思ってね」

 

 「意外?なんでだ?」

 「いや、美人だし男がほうっておかないと思ってね」

 

 「......そうか、確かに今までに言い寄ってくる男はいたがそういう目的があってのことか!」

 「......それのみが目的なのかどうかはわからないけどね」

 

 やれやれと言う感じで時哉は汐海からテレビに視線を移す。するといきなり汐海の顔が目の前に出現した。

 

 「うわっ!」

 「してみたいのだがそのセックスとやらを」

 

 「は!?俺とかい?」

 「そうだ」

 

 「ダメだ!」

 「なぜだ?」

 

 「セックスっていうのは好きな人同士がするものなんだ」

 「ん?別に好きではなくても金を稼いだりただ快楽を求めたりする場合もするではないか?」

 

 「......そういう余計な知識はあるんだな」

 「余計な知識だと?」

 

 「ああ、ごめん。気に障ったなら謝る。でもセックスっていうのは本来は子孫を残すためにするものなんだ。それと愛し合う人との営みっていうか愛の確認ていうかなんていうか」

 「......私のこと嫌いか?」

 

 時哉の話など上の空でずずずいっと汐海は時哉に迫ってくる。

 

 「うわわわ、それ以上、近寄らないでくれ!キミはナミカちゃんにそっくりだし変な気持ちになってしまうだろ!」

 「なんだ、随分な言い方だな!」

 

 時哉の言葉に汐海はムッとし時哉に飛びかかろうとする。

 

 「ちょっと、汐海!何してるの?」

 

 料理を持ってきた波香は時哉に覆い被さろうとしている汐海を見てそう言った。

 

 「あ、いや、これはだな。新しい関節技を試そうと思って......」

 「あ、なんだ。それなら私にかけて?私も興味あるし」

 

 「わ、わかった夕飯を食べたらやろう」

 「そうね。あと、前にも言ったけどトキヤの横は私の定位置なの。それをお忘れなく」

 

 「わ、わかっている」

 「よろしくね」

 

 波香はにこっと笑い汐海に言った。そして料理を置いてまたキッチンに戻っていく。その後姿を見て汐海はひそっと時哉に言った。

 

 「なんだか、すごく怒ってるように見えたが?」

 「当たり前だろ。もう俺にそういうのはやめてくれ」

 

 「わけがわからんな」

 「俺にはキミがわからないよ」

 

 

  ◇

 

 

 __翌日。

 

 波香と恵美が会長室で恵美の受検対策の為に一緒に勉強していると菊池が会長室に訪れた。

 

 「あの、社長、会長、お取り込み中申し訳ありません。ちょっと宜しいでしょうか?」

 「あなたは菊池さんでしたっけ?どうされました?」

 

 恵美はささっと数学の問題集を隠すと慌てて菊池の顔を見てそう言った。

 

 「はい、社長。実はザンガス電子さんに納める新型のスマフォの基盤がどこに行っても手に入りません」

 「納期が遅れると何か問題があるのですか?」

 

 「......はい、実は当初の受注契約の段階で納期が遅れた場合、ザンガスさんに1000万の違約金を支払わなくてはなりません」

 「なに?私そんなの聞いてないんだけど?」

 

 波香は菊池の言葉に驚き立って菊池を睨んだ。

 

 「......申し訳ありません。大丈夫だと思い僕の判断で契約を進めてしまいました」

 「菊池。お前はケニーでは役職がついていたけどここではただの平社員だ。よくそれで先方も納得したな?」

 

 「僕がケニーで働いていた頃の信用で受注をとってきたのですがこの会社の過去の実績では心配だからといってそういう契約になってしまったのです」

 「先方の思った通りになってしまったってことだな」

 

 「......」

 

 波香はうな垂れる菊池を見てため息混じりにそう言う。菊池はただ無言で下を向くのみだ。

 

 「そんなにその新型の基盤は品不足なのか」

 「......はい、どうやら滝川物産の山岡主任が関東一体の在庫を買い占めてしまったようで」

 

 「山岡?」

 

 波香はその名前に聞いたような覚えがある。

 

 「はい、滝川物産の山岡三郎主任です」

 「山岡三郎......サブちゃん?」

 

 『サブちゃん、また山に松茸を取りにいくんかえ?』

 『ああ、いってくる』

 

 『歩合のほう、忘れんでな』

 『ああ、花枝さん。俺は忘れないよ。ごまかしもしないしな』

 

 波香はまさかと思う。あの山で松茸を狩りに行った人物が......

 

 「わかった。菊池。私が行こう。その滝川物産の山岡主任に会ってくる」

 「え!?それはやめたほうが......」

 

 「ん?どうしてだ?」

 「きっと下衆なことを要求してくるに違いありません」

 

 「下衆なこととは?」

 「僕が小西さんと一緒に山岡主任に無心しに行ったのですがイヤラシイ目で小西さんを見つめ『小西さん次第で部品を渡す』などと言ってましたので......」

 

 「菊池、お前、小西のことが好きなのか?」

 「え?いえ......いや、好きですよ。でもそれは人としてです。下衆な要求をしてくる山岡主任と取引するのが我慢ならなくて」

 

 「......なるほどな。では、私一人で行ってくる」

 「そうですか」

 

 「では社長、続きは帰ってきてからで良いですか?」

 「はい、わかりました。どうぞいってらっしゃいませ」

 

 波香は恵美に一言言うと、スーツの上着を羽織り会長室を出た。すると廊下でバッタリと一里塚に出会う。

 

 「あ、会長。どこかに出かけられるんですか?」

 「うん、一里塚さん。ちょっと滝川物産に行ってくるわ」

 

 「え!?......例の部品ですか?」

 「うん、そう」

 

 「山岡主任は油断ならない人です。お気をつけて」

 「うん、わかってる......あ!」

 

 「え?」

 「菊池はあなたのこと好きだそうよ」

 

 「え!?」

 「でも、それは人としてだって」

 

 「......そうですか......って私のことどう思ってるかわざわざ聞いたんですか!?」

 

 一里塚は顔を赤らめてそう言う。

 

 「うん?わざわざは聞いてないわよ。話の流れでそうなっただけ」

 「......そうなんだ」

 

 

 一里塚はホッとした顔を見せる。そんな彼女を見て波香はフッと微笑を漏らし社用車がある駐車場へと向かって行った。

 

 

 (続く)

 

 

 

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