大学の講義を小野寺と供に汐海と美菜は傍聴する。汐海と美菜にとって初めてのことなので教授の言葉に聞き入っていた。
「は、ははは。そんな熱心に。......わかります?」
そんな2人を見て小野寺は問いかけてみた。
「わからん。だが興味深い」
「え?」
自分が理解できない話を聞いて興味深いと答える汐海を小野寺は不思議に思う。汐海と美菜は集中して教授の言葉を聞いているのでこれ以上話しかけるのはやめた。やがて講義が終わり正午を迎える。
「お昼どうする?食堂行ってみる?」
「うん、ぜひ」「行きた~い」
小野寺達は大学の食堂にお昼ご飯を食べに行くことにした。食堂に向かう途中、小野寺達に声をかける2人の男性がいた。
「小野寺さん、今日は食堂?」
「え?あ、うん」
「そちらの綺麗なオネエサンのおふたりは友達ですか?」
「うん、見学です......内緒ですよ?」
「ははは、まあ、日本一の大学ってどんなところか見にきたい人は多いからね。どう、食堂へ行くならご一緒しない?」
「え?どうしよ?」
小野寺はチラッと汐海と美菜の顔色を伺う。
「私は別に構わんが」「私もOKだよっ」
2人が嫌がる様子はないので小野寺は承諾した。ぞろぞろと食堂に向かっていく小野寺達。どうやら今日の食堂はすいているようだった。食券を買い各々がお目当ての食事を手にすると5人は1つのテーブルに座った。
「これは『合コン』というのかな?」
きょろきょろと周りを見渡し挙動不審な汐海は小野寺にひそっとそう言う。
「あはは。違いますよ」
小野寺は屈託のない笑顔で汐海に言う。午前中におこった事件での恐怖心はもうどこかに消えてしまったようだ。
「ぶっ!このオネエサンおもろい。あ、俺は
「俺は
なぜか有働と名乗る青年はそう言うと美菜にスッと手を出した。握手を求めているようだ。
「あ!私は北条美菜です!」
美菜はそう言うとわしっと有働の手を握った。
「うお!てえ!」
「あ、ごめん」
「結構、力あるな?お前」
「そ、そう?うん、まあ、私は力持ち......かな?」
「俺さ、今、ジム通ってるんだ。今度一緒に行かね?」
「ジム?」
「そう、ダンベルやったりウエイトリフティングとかね」
「うわ~面白うそうだね」
「だろ?行こうぜ?今度の金曜日はどうかな?午後7時からなんだけど」
「ごめ~ん、今週はずっと夜勤だからその時間は無理かな~」
「ん?夜勤?もしかして仕事はナースさん?」
「ん?違うよ~。工場で働いてるの」
「へ?工場?いかがわしい工場じゃなのか?」
「いかがわしいのかどうかわからないけどスマフォとかを作ってる工場だよ~」
「なんだ普通の工場か。見かけによらず地味だな」
「なにそれ?バカにしてる?」
「バカになんかしてないぞ!えと、そのなんだ......そんなに可愛いのに意外だなってことだ!」
「へーそういうこと。ん?もしかして私に興味あるの?」
「バカかお前!興味なけりゃ誘わないよ!」
「口が悪いな~」
「あ!すまん!」
「あはは、今週は無理だけど来週ならいけるかも......」
「お!いいのか?」
「うん」
会話が盛り上がっている美菜を横目に汐海も頑張って進藤という青年と会話を楽しもうとしていた。
「そ、そのなんだ、貴殿はここの学生か?」
「ぷっ、なにその話し方......くくっ......はい、そうです」
「何年生なのだ?」
進藤にくすくす笑われながらも顔を真っ赤にしながら頑張って会話を成立させようとしている汐海を見て横では小野寺がハラハラしていた。
「3年生です。あの北条さん、普通に話せませんか?その話し方、おかしくて腹が痛いです」
「そうか、すまんな。で、......大学に来ていない時は何をやっているの?」
汐海の口調が変わった途端、小野寺はぎょっとする。私の隣に今座っているのは自分の恩師なんじゃないかと。
「そうですね、バイトです。居酒屋のバイトやってますね。後は......本読んだりとかDVD見たりですかね」
「ほう、なかなかいろいろなことをやってるわね」
「北条さんは?」
「私の事は汐海でいいわよ?私は、働いて......食う寝る飲むだな」
「なんだそれ?働く以外何もしてないってことじゃん」
「ん?そういうことになるのかしらね」
「彼氏はいないの?」
「いない。......募集中だ」
「え?そんなに美人なのにいないの?なんで?」
「なんでと言われてもいないものはいない。今まで男性とつきあったこともないわよ」
「ほー......何か問題を抱えているとか?」
「問題......ないと思うけど」
汐海はとっさに自分はクローン人間だから。と思ったが赤の他人にそんなことをわざわざ言う必要がないと思い言葉を詰まらせる。進藤はその汐海の様子を見てどうして私には男運がないのかしらと思い悩んでいるように勘違いしていた!
「俺も、今彼女がいないんだ」
「ほぅ、そうなのね」
「どう?友達から初めてみて、お互いに相性が良いと思えるようになったら付き合わない?俺たち?」
「それは願ったり叶ったりだ。私も男性の人とお付き合いしてみたいと思ってたから」
「え?マジで?」
「うん、宜しくお願いします」
「うお~!こんな綺麗なオネエサンと!言ってみるもんだな!」
食堂の椅子に座りながら進藤は両手をあげてバンザイする。小野寺はハラハラしながら2人の様子を伺う。そんな簡単に話を決めていいのかとかもしかして自分の二の舞になるんじゃないかとかいろいろな思いが交錯するが最終的に羨ましいなと思う。
「は、ははは、いいな二人とも」
拗ねる小野寺を見て汐海は気遣う。
「あ、ご、ごめんね。小野......明日香ちゃんは彼と別れたばかりだというのに」
「え?マジで?」
「ん?なんだ?その驚きようは?」
「いや、なんでもないっす」
進藤の驚きに汐海は敏感に反応した。なんとなくその進藤の反応が面白くなかったからだ。
「貴殿、さっきは私と相性が良かったら付き合おうと言ったよな?」
「言いました」
「それが小野寺殿が彼と別れたと知った途端に小野寺殿のパートナーがいなくなったからといって小野寺殿に交際を申し込むのではあるまいな?私との約束はどうした?」
「......いえいえ、いくら彼氏と別れたといっても小野寺さんに交際申し込みませんよ。俺は最初から汐海さんが目当てです!」
大嘘であったがとりあえず進藤は汐海の機嫌を取る為にそう言った。
「そ、そうか、安心した。......ん?これがヤキモチっていうやつなのか.......?」
「汐海さん!そうですよ!それがヤキモチです!」
「おお、そうか!これがヤキモチか!」
「やったね汐海!『ヤキモチスキル獲得』!」
美菜のその発言に一同はドッと笑うのであった。
◇
「南さんから聞いたんですけど菊池さんしばらくしたら本社へ帰るんですか?」
一里塚は工作機械に材料の入れ替え作業を行っている菊池に声をかけた。自分からは近づかないでと言っておきながら何かあると自ら近寄っていく。女とは身勝手な生き物なのだ。菊池は当然そんなことは考えもせず普通に応対する。
「うん、そうだよ。小西さんは?」
「......私はここに残りますよ。私がいないと大変なことになりそうだしケニーにいるよりも私に求められることが多くてやりがいがありますからね」
「そうか、小西さんは真面目だね」
「は?あははは、菊池さんに言われるとは思ってもみませんでした」
「ん~前から聞きたかったんだけどそんなに僕って真面目かな?」
一里塚の言葉に少しムッとした菊池は思わず本音で一里塚にそう言ってしまう。
「真面目ですね。そりゃもうこれ以上の人はいないっていうくらい」
身振り手振りの大げさなジェスチャーで一里塚はそう話した。
「......僕だってね、昔、好きな人がいて、でもその人には彼氏がいてね、奪ってやろうか?なんて思ったりしたよ。でも出来なかった。これは相手に悪いからと思って出来なかったわけじゃない。単に度胸がなかっただけだよ。自信もなかった。だから真面目なんかじゃ......うわ!なんで僕、言ってしまったんだろう。今、言ったことは忘れて!」
「え?それって......私の事なんですか?」
菊池の言葉の最後の焦りようは自分のことなんじゃないかと一里塚は思う。当事者に対してじゃなかったら焦る必要はあまりないんじゃないかと一里塚は考えたのだ。
「ち、ちが......!!」
どさっ
焦る菊池に一里塚は飛びついた。否定される言葉を聞きたくないから。
「......私の事なんですよね?」
一里塚から香るいい香りと自分のお腹のあたりに押し付けられた一里塚の柔らかい胸の感触にボーッとなってしまった菊池は思わず親友の南しか知らない本心を言ってしまう。
「......そうだよ、ずっと前からキミが好きだった......」
菊池からその言葉を聞くと一里塚はさらに力を込めて菊池の身体に強くしがみついた。
「......これって浮気ですかね?」
「さあ?どうかな」
「こんなことしてごめんなさいですが私はこれ以上は進めません」
「うん、僕もだ」
「あはは、やっぱり菊池さん真面目」
「なんだよ」
「普通、ここまでされたら......私は菊池さんの本心を聞けただけで満足なんです」
「でも僕は.....今、一番大事なのは里中さんだからね」
「いまだに苗字で呼んでるんですか?名前で呼んであげてくださいよ。奥さんが可愛そう」
「ははは、そうだね」
「じゃあ、私、戻りますね」
「うん」
抱きしめあった身体を離し一里塚は自分の席へと戻っていった。一里塚の姿が見えなくなったところで菊池は作業を再開する。
「......くそっ!くそっ!」
乱暴に工作機械に材料を詰め込む菊池であった。一里塚は一里塚で涙が垂れ流し状態でずっと歩いていた。そんな様子を波香が発見する。
「一里塚さん!どうしたの?」
「え!?あ、あはは、タマネギが目に染みて......」
「何を言ってるの?......あっ!」
一里塚は波香に抱き着いた。
「苦しいよ~苦しいよ~助けて......」
「......一里塚さん」
__波香は訳も分からずに一里塚に抱きつかれて困惑したが泣き崩れる一里塚の頭をそっと撫でてあげるのであった。
(続く)