「くそっ!あの女め!」
西川課長は給湯室で自分で茶をいれていた。
「1000万だと!調子に乗りおって」
会社ではあの手この手を使って今の地位を手に入れた彼だったがあの女に対する逆転の手口は思いつかなかった。
「何かいい手はないものか」
思案に暮れているとあの女が偶然通りかかった。
「あら、課長。お茶なら私がいれますのに」
「ん!いいんだいいんだ!杉本君のような優秀な社員にお茶なんかいれさせたらもったいないもったいない!」
「あら、そうですか。では、失礼いたします」
女は西川との会話を終えると総務の一里塚が待っている資料室へと向かった。
「・・・くそっ!このままではあの女にワシは一生頭があがらないではないか。・・・どうにかしなくては」
がちゃ。
「杉本さん」
「どお?一里塚さん、例の情報は?」
「うん、やっぱり購買の里中さんと菊池係長ってつきあってるみたい」
「ふ~~~ん」
「ねえ?またイヤなことするの?」
「当たり前じゃない」
「えーー!もう、やめようよ!」
「あら、あなた、私に意見できる立場かしら?」
「・・・うう」
「菊池係長を誘惑してください」
「ええ!?またあ~~~!?それに里中さんに恨まれちゃうよぉ!」
「あら、できないなら別に私は構いませんわ。・・・世界の75億人の人たちに自分の恥ずかしい姿を見られるのと里中さんのたった1人に恨まれる・・・どちらが良いのかしら?あなたが決めてもらって結構よ」
「・・・そんな言い方されたら。・・・ううっ」
女は一里塚の困り果てた顔を見てニヤニヤと楽しんでいた。
「わかったよ。やるよ!もう!」
「ふふふ、そうこなくっちゃ!」
「あー疲れた。どっこいしょっと」
取引先との談合を終え、購買の菊池係長はリフレッシュルームのベンチに座りコーヒーを飲んでいた。
「菊池係長、お疲れ様です!」
「お!一里塚さん、どうも」
「・・・いつ、見てもカッコいいですね!」
「はい?・・・僕が?」
「はい!」
「はははは、どうしちゃったの?一里塚さん?」
「え?いや、あの、その」
一里塚はなんだかもじもじしていた。
「・・・どうしたの?」
「・・・今晩ご一緒にお食事でもどうですか!?」
「え!?僕と?」
「はい!」
「えと・・・僕は今、お付き合いしている人がいますので2人では申し訳ないけどいけません。ごめんね」
「そこをなんとか!」
「・・・一里塚さん、無理です。ごめんなさい。あ!それに一里塚さんって彼氏さん、いましたよね?」
「今はいません!」
「え?・・・そうなんだ」
「はい」
「でも、ごめんなさい。僕は一里塚さんと2人っきりでは食事にはいけません」
「そうですか」
「うん、ごめんね」
「いいえ、突然、変なこと言ってこちらこそすみませんでした」
一里塚はとぼとぼとリフレッシュルームを後にした。
「・・・なんであたしが振られたような気持ちを味わわなきゃいけないんだろ・・・」
一里塚はぶつぶつ言いながらあの女の席に向かった。
「ダメでした」
「はあ?あんたのその胸は飾り?それにもうちょっと頭も使いなさいよ!」
「無理だよぉ~、とりつくしまもないもん。西川課長とは人間レベルが違いすぎる」
「う~~~ん、でもねえ。私の目から見ても里中さんとあなたじゃ誰でもあなたのほうを選ぶと思うけど」
「そんなこと・・・里中さんに失礼だよ!」
「はあ・・・あんたさあ、本当に自分でもそう思ってるの?私は心にも思ってないこと言う偽善者が一番大嫌いなの!ムカムカするわ!」
「ひっ!・・・それは里中さんよりはあたしのほうがいいとは思うけど」
「よし!今のあなたの発言、ボイスレコーダーにしっかりと録音させてもらったわ」
女はそう言うとブラウスの胸ポケットからICレコーダーを取り出した。
「え!」
「これを後で里中さんに聞かせてあげましょうか」
「なにそれえ、もう、オニすぎるよ~」
一里塚は泣きそうな顔をして困っている。
「イヤなら身体でもなんでも張って菊池係長を落としてきなさいよ」
「もう!オニー!」
一里塚は走り去っていった。
「ウヒヒヒ」
女は走り去っていく一里塚を見てそう笑った。
「この会社に入って良かった。本当に毎日が充実しているわ。・・・お金も増えたし」
◇
「あのう・・・」
「一里塚さん、僕は食事にはいきませんよ!」
一里塚の言葉を待つこともなく倉庫で資材の整理をしている菊池係長はそう言い放った。
「えと、食事はもういいんです」
「あ、ごめん。もしかして仕事のこと?だったらごめんなさい」
「え、いや、あの、その」
「?一里塚さん?」
「一晩だけでいいんです!あたしに菊池係長の思い出をください!」
そう言うと一里塚はいきなり菊池係長に自分の胸を押し付けるようにして抱きついた。
「うわっ!」
「お願いします!お願いします!一晩付き合ってくれたらそれですっぱり菊池係長のことあきらめますから!」
菊池係長は同じ会社の巨乳ゆるふわ系OLに突然抱きつかれビックリして固まっていた。
パシャ!
その有様を非常に無理な態勢だったがなんとか一里塚は自分のスマフォで撮影した。
「な!一里塚さん何を!?」
「・・・こんなことして本当にごめんなさい。一晩付き合ってくれたらこの画像は里中さんには一生見せませんので・・・」
そう言うと一里塚はその場を走り去っていった。
「・・・一里塚さん・・・なんでそこまでして・・」
菊池係長はしばらくの間ぼうぜんとその場に立ち尽くしていた。
◇
不審な人物が牛丼屋の店の裏に立っていた。
その女のいでたちは帽子にマスクそしてサングラスを着用していた。
しばらくしてその不審な人物の待ち人が来た。
「ごめん、待ちました?」
「ううん、全然、待ってません。さあ、行きましょ?」
「いや、行けない」
「え?」
「・・・一里塚さんがなんでそこまでするのか僕にはわからないけど僕は里中さんを裏切れない。それだけ言いにここに来たんだ」
「そんな」
「あの写真も里中さんに見せたければ見せればいい。僕はわかってくれるまで里中さんに説明するよ。じゃあ、僕はこれで」
菊池係長はそう言ってその場を去った。
「あわわわ、どうしよう・・・。」
一里塚はとりあえず杉本にスマフォで連絡をとってみることにした。
こないだみたく近くに待機しているかもしれないからだ。
「あ、杉本さん?」
「・・・どうやら失敗したようね」
「・・・どこかで見てたの?」
「ええ」
「ダメだよ~菊池係長には色仕掛けも何も通用しないよ~~~」
一里塚は泣きそうな声でそう言った。
「ちっ!偽善者めがっ!」
「ひっ!」
ごとん。
自分のスマフォから怖い声が聞こえてきたので思わず一里塚は自分のスマフォを落としてしまった。
「覚えてなさいよ!」
女は独り言でそう言い放った。
そしてニヤリと不気味な微笑をこぼした。
変な女に目をつけられ、これからどんな災難がわが身に降りかかるかも知れずに菊池係長は里中とのデートを楽しんでいた。
「あっはは、おいしいね、里中さん、ここのピラフ」
「でしょでしょ!」
「うん!」
「ね?今日、私のアパート来る?」
「うん、もちろん」
菊池は里中にそう応えて優しく爽やかに微笑んだ。