※この作品はR-18です。

もう悪役令嬢なんて言わせない!   作:億田夢人

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第90話

 今夜から汐海と美菜、香織は夜勤に入ったので夕ご飯は久しぶりに時哉と二人きりだ。

 

 「なんだか昨日まで賑やかに夕ご飯食べてたんだけど静かになったわね」

 「寂しいのかい?」

 

 波香は時哉に白いゴハンをよそりながらポロっとそんなことを言った。

 

 「そうね、寂しいっていうのかしらね。この気持ちは。でも時哉がいるから大丈夫。それにお腹の子もいるしね」

 

 波香は時哉に微笑む。時哉もそんな波香を見て微笑んだ。

 

 「結構、大きくなってきたね、おなか。辛くないかい?」

 「まあ、やっぱり身体が重い気もするけど。辛くはないわよ?気持ち的にはわくわくしてる。あと、若干不安な気持ちもある」

 

 「どんなことが不安なんだい?」

 「無事に普通の子供が生まれてきて欲しいっていう心配かな?」

 

 「そうか、うん、そうだね。俺は無責任に大丈夫だよとか気安くは言わないけれどキミと子供の為ならどんなことでもするからその不安な気持ちを少しでも安心に変えて欲しいな」

 「うん、わかってる。私は今まで他人は信用しないし自分の運すらも信じないで生きてきた。信じているのは自分の実力とトキヤだけよ」

 

 「ナミカちゃん......」

 

 2人はそっと唇を重ねる。波香は繁一が作り出した最愛の妻フランソワのクローン人間。製造番号は73。この事実を時哉が知った時、ショックを受けたがすぐに彼は思い直しより一層波香への想いが強くなった。それは哀れみなのかもしれないが自分は波香を愛している。その事実だけでいいと時哉は考えた。彼が今一番恐れているのは波香自身が繁一の妻のクローン人間だということを知ってしまうことだ。その事実を知ったら時哉は波香が自分から離れていくのではないかと危惧していた。

 

 「今日、みんないないし、ゴハン食べてお風呂入ったらする?」

 「うん、したいな。でも身体の方は大丈夫かい?」

 

 「うん、問題ないわ」

 「そうか、楽しみだな......おっ!うまいな!これ!」

 

 「あ、ほんと?良かった」

 

 その光景は普通の恋人同士の晩餐であった。前から感じていたが波香は自分の気持ちの変化に違和感を覚えていた。信じていた父に裏切られ身体を何度も犯され地獄の日々から屋敷を脱出して生きるために人を騙して金を稼ぐ。そのうちに働くことを覚え教師になり生徒と接して生徒の為にいろいろと奔走した。その過程で昔の幼馴染と出会って結ばれ、その幼馴染の元恋人の父親にいろいろと面倒をみてもらって今の自分がある。

 

 「私、幸せなのかな?」

 「うん?そう感じているのかい?」

 

 波香が珍しくはっきりしない言い方をするので時哉は慎重に言葉を選んで問うた。

 

 「うん」

 「なら、幸せなんじゃないか?......昔の事はもう忘れた?」

 

 「.....そうね、もうどうでもいいのかもしれない。このまま、時哉と子供とあと、みんなで暮らしていければ」

 「そうか、それは良かった!そうしよう」

 

 「うん!」

 

 

  ◇

 

 

 神崎電子では1週間前から夜勤体制が整えられていて今日から汐海達がシフトに入ることになっていた。汐海と美菜は朝から小野寺と大学に行っていて小野寺もそのまま汐海達についてきて今夜はこの会社の仮眠室に泊まることになっていた。

 

 「お二人ともこのまま夜勤に入るなんて本当に大丈夫なんですか?」

 「うん、問題ない。それよりも小野寺殿は会長の家に帰った方が良かったのではないか?」

 

 「私、一人でお邪魔虫するのは気がひけますので......」

 「ん?お邪魔虫?意味がわからんな」

 

 汐海は首を傾げる。

 

 「えと、先生と時哉さんを2人きりにできないっていうことです。そこに私がいると邪魔になるじゃないですか」

 「私がわからないのは別に小野寺殿がいようがいまいが会長と時哉殿はいちゃいちゃすればいいのではないか?セックスしたければすればいいのではないか?」

 

 「あははっ。それは普通できないじゃないですか?」

 「なぜだ?」

 

 「他の人がいると恥ずかしいですよね?」

 「別に恥ずかしくないが」

 

 「え?汐海さんは恥ずかしくないんですか?アブノーマルですね」

 「ん?私は普通じゃないのか?」

 

 「普通じゃないです。普通は恥ずかしいものなんです」

 「そうなのか」

 

 「じゃ、私は仮眠室で勉強してそのうち寝ますね」

 「うむ、鍵を閉め忘れんでな?」

 

 「はい!」

 

 3人は女子更衣室を出て汐海と美菜は工場へ小野寺は仮眠室へと向かっていった。

 

 

  ◇

 

 

 南はドキドキしていた。親友の菊池が言うには北条汐海はまんざらでもないらしいのだ。彼は夜勤のラインの為の材料手配を一人で済ませ今夜、汐海達が来る前にすべての工作機械に材料の投入を終えていた。後は稼働させそれぞれの担当の者がベルトコンベアで流れてくる製品を目視検査するだけである。

 

 「お!南殿!今夜は宜しくお願いします」

 

 南を見つけた汐海は腕まくりをしながら張り切ってそう言った。

 

 「ははは、張り切ってるね北条汐海さん。こちらこそ宜しくお願いします」

 「うむ、さてと。む?材料の投入は終わっていますね?」

 

 「はい、1クール分はね」

 「かたじけない」

 

 「ははは、あの......北条汐海さん」

 「なんですか?」

 

 「いきなりだけど夜勤が終わったらどこかで2人で朝食を食べませんか?」

 「ん?構わないがどこで?」

 

 「え!じゃ、じゃあ、後で考えときます!」

 「うん、私も楽しみにしている」

 

 にこっと汐海は南に微笑んだ。南は俄然、仕事にやる気がでたようで違うラインの手伝いにすっとんでいった。

 

 「わあ、いいな。汐海に食事のお誘い2人目かあ」

 

 美菜は羨ましそうに汐海に言う。

 

 「ん?南殿は私に興味あるのかな?」

 「そりゃ、あるでしょぉ~」

 

 「そうかそうか」

 

 美菜の答えにまんざらでもなく汐海は嬉しそうだった。汐海自身誰かに言われなければ自分に興味を持たれているとわからないからだ。

 

 「私もがんばらなくちゃ」

 

 汐海に触発されて美菜は鼻息を荒くする。そこへ香織がふいに現れた。

 

 「あら?二人ともお早いですね?」

 「おお、香織殿。さきほど南殿に朝食のお誘いを受けてな!はっはっは」

 

 汐海は香織にとってはどうでも良い事を言ってみた。軽く受け流されて仕事の話をしはじめるだろうと思ったからだ。だが、香織からは意外な言葉が発せられた。

 

 「......いいなあ」

 「え?いいのでございますか?」

 

 「はい、私も誰か誘ってくれないかなあ」

 「はー.......小野寺殿の通っているT大学で誰かいないか問合せしますが?」

 

 「え?ホントですか?ぜひお願いします!T大の学生かあ......私には身分不相応かな」

 

 香織はそういいいつつ作業日報を確認し材料投入口を見た。

 

 「あ、すごい、もう終わってますね。汐海さんがやったんですか?」

 「いや、南殿だ。このへんのやつはすでに彼が全部やったようだ」

 

 「へー、張り切ってますね。南さん。恋愛っていうのものは聞いた通りプラスに作用するものなのかな」

 「ふうむ、なるほどな」

 

 「やったたたた!」

 

 静かだった美菜が突然スマフォを片手に声を挙げた。

 

 「な、なんだ、美菜、どうした?」

 「うん、有働君がねディスティニーランドのチケットが手に入ったから今度の休みどうかってラインが来たの!私、行きたかったんだー!」

 

 「ディスティニーランド?ああ、遊園地か.......なんだと?私も行きたいぞ!それは!チケットはもうないのか?」

 「2枚って言ってたからないんじゃん?」

 

 美菜は邪魔されたくないような冷たい感じで汐海にそう言った。

 

 「え?なんで?美菜さん私の知らない間に男性のお友達が出来たんですか?」

 

 香織は不満そうな顔をして言う。

 

 「うん、今日ね、明日香ちゃんのボディガードで大学までついていったら大学でいろいろとあったの」

 「なんだ、そうなんですか。じゃあ、今度は私が小野寺さんのボディーガードをしたいです」

 

 「あ、あはは。それはどうかなあ、会長さんがどう言うか......」

 「だって2人ともずるいじゃないですか。私より先に男の人と仲良くなって......私だって男の人と仲良くなりたいです!」

 

 香織達が醜い言い争いをしているとそこに一里塚がやってきた。

 

 「どうしたんですか?喧嘩しないでくださ~い」

 「あ、小西さん。すみません」

 

 香織は顔を赤らめて一里塚に謝罪した。彼女は自分の仲間以外には消極姿勢なのは今も変わらない。

 

 「この会社で女性が夜勤するのは初めてらしいですのでみなさん気をつけてくださいね」

 「何に気をつければいいのだ?」

 

 汐海はきょとんと一里塚に質問した。

 

 「そうですねー変質者とか?......警備員さんがいるから大丈夫か。まあ、後は火事とか事故ですかね。眠くなってぼうっとして工作機械に指を挟んだりしてケガをしないように気をつけてください」

 「なるほどな、了解した」

 

 「ははっ、じゃあ、私は帰りますので。お先に失礼しま~す」

 「お疲れ様でした」

 

 

  ◇

 

 

 午後8時すぎ。

 

 汐海達にお疲れ様の挨拶をした一里塚は一人女子更衣室へと急ぐ。その間、彼を無意識のうちに探していた。が、彼は見つからなかった。別に彼を探そうとしていたわけではない。帰り際にひと目見れないかなと思っただけだった。が、以前、切ない気持ちが一里塚の胸を支配していた。

 

 ブルッブルルッル

 

 一里塚のポケットが震える。一里塚は激しく震えるスマフォをポケットから取り出した。

 

 「あ、冴子?うんうん、いいよ、私もこれから帰るところなんだ。え?とこちゃんも一緒なの?絶対、行く!わあ~久しぶりだね3人でゴハン食べるの!」

 

 自分の悩み事を忘れさせてくれる存在。もしかしたら何か良い案を出してくれるかもしれない存在。一里塚は古い友人にうっすらと涙を浮かべて話していたが表情は明るかった。

 

 

  ◇

 

 

 「ずるいずるいずるい」

 「もぉ~いつまで言ってるのよ、香織ちゃん」

 

 美菜はしつこく自分にずるいと言ってくる香織にうんざりしながら仕事をしている。美菜の仕事は製品の検品と数量チェックであった。

 

 「香織殿は意外と執念深いのだな」

 

 ベルトコンベアに乗ってやってくる基盤を見つめながら汐海はボソっとつぶやく。

 

 「執念深い?私が?イヤだ、こんなんじゃ男の人に嫌われちゃいますよね......きおつけないと......」

 

 __クローン人間の生きる意味。幸せとはなんなのか?汐海達は必死にそれを模索している。自分の幸せとは一体なんなのかと?そしてそれはクローン人間達の男狩りの幕開けだったのだ。

 

 

 (続く)

 

 

 

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