今日は久しぶりに全員が波香と時哉の家の食卓に集まった。
「全員揃うの久しぶりね。あら?しおみんとみなりん、随分とツヤツヤしてない?」
波香は汐海と美菜の顔色を見てそう言った。
「いや~バレましたか。やっぱりセックスはいいものですな」「だね!」
「ぶふぉああああ~!!」
時哉は盛大にゴハンを噴出してそれがそのまま反対側に座っていた香織の顔面に直撃する。
「......」
「うわああ!!ゴメン香織さん!」
時哉は慌ててティッシュボックスから数枚ティッシュを取り出して香織の顔面を拭こうとする。
「いいですよ、時哉さん、自分で出来ますので......」
さっと香織は時哉からティッシュを受け取ると自分で自分の顔をティッシュで拭いた。
「......ちょっと洗面台いってきます」
すっと香織は席を立った。
「なんだか、すっごく機嫌悪いな。香織さん?」
時哉は食卓に座っているみんなを見渡しそう言う。
「無理もないわね。一番最初に作られたクローンなのにかおりんだけ親しい男ができないんだから」
そういう波香もクローンである。その事実を知らないのは波香と小野寺だけで他の者は全員知っている。
「でもさ、こういっちゃなんだけど後に作られたほうが性能は上ってことだろうから......」
時哉は波香もクローンだということを悟られないように話の流れを折らずにうまく盛っていく。
「え?クローン?なんですか?それ?」
「あ!?」「しまった!」
波香と時哉は小野寺がいるにも関わらずクローン人間の話題を出してしまう。
「な、なんでもないのよ。あはは」
「そ、そうなんだ」
「??もしかしてプルーンですか?」
「ああ!そうそうプルーンよプルーン!」
「うんうん、そうなんだ。香織さんが作ったプルーンが汐海のプルーンよりまずかったって話」
「え?もう二人ともそんな料理できるようになったんだ。先生、私にも教えてくださいよ!」
「うん、また今度ね」
波香、時哉が小野寺との体裁をとっている間、汐海と美菜はひたすらお互いの相手にラインで夢中になっていた。
「うふ、うっふぁ、うふふふ」
時に汐海は気持ち悪い笑い声を出す。
「どうしたの?しおみん?何か不気味なんだけど......」
「いやあ、今週末はついに行きたかったディスティニーランドへ南殿と一緒に行くのでな!」
「え?南って会社の奴の?」
「うむ、いかにも」
「あなたたちつきあってるの?」
「いや、進藤殿とは付き合い始めたが南殿とはまだつきあってはいない」
「は?なにそれ?」
「なにそれって言葉の通りだが?」
ここで波香はクビを傾げる。どうやら汐海は二股とか浮気とかの概念はないことに気づく。
「ねえ、それで南とも遊んで楽しかったら南ともつきあうの?」
「そうだな。南殿ともつきあうかもしれない。まずはディスティニーランドの後にホテルでも行ってセックスしてからだな!」
「ちょっと!やめなさい!」
「は?なぜだ?」
「それは......ん~なんて説明したほうがいいのかしら?......トキヤお願い」
波香は自分で説明するのが面倒になり時哉に応援を頼む。
「ぶはっ、うん、わかった」
突如、自分に話を振られてまたもやゴハンを噴出しそうになるが咄嗟に口を押さえて時哉は事なきを得る。
「それはね、もう汐海は進藤さんと付き合うことになったんだよね?ならそれは浮気だよ。いけないことなんだ。進藤さんと付き合ってるのに他の男性と2人きりで遊園地でデートするなんてしてはいけないんだよ。進藤さんが知ったらとても傷つくと思うよ」
時哉は小学生に説明するように丁寧に汐海にそう諭した。
「むむむ、そうなのか。はあ、でもディスティニーランド、行きたいなあ」
「せっかく誘ってくれたのに今更、断るのも南に悪いから行くだけ行って帰りにちゃんと誠意を持って交際はお断りすれば?」
「うむ!そうだな!そうしよう!」
「おいおい、ナミカちゃんいいのかい?」
「この場合、仕方ないでしょ?」
「うむ、進藤殿とはこれからも交際を続けて行きたい。彼とのセックスはとても気持ちいいからな!」
ずけずけと汐海は思ったことをそのまま言った。そこにあきらかに不機嫌な顔をした香織がタオルをクビに巻いて戻ってきた。
「......いいな」
「あ、あははは、かおりんもそのうちいい人できるわよ。ね、トキヤの知り合いとかで誰かいないの?」
波香はこの中では一番つきあいの長いクローンに気を遣いそう言う。
「え!?......ん~いることはいるけどそいつはあまり香織さんに薦めたくはないなあ」
「え!?そ、その人でいいです!紹介してくださいよ!時哉さん!時哉さんの友達なら変な人じゃないでしょ!」
香織は藁にもすがる想いで時哉に言い寄る。
「え!?ん~、香織さんがそこまで言うなら話してみるよ......」
「やったあ!」
香織はその場で軽くぴょんと飛び上がった。その様子を見て心配になった波香はそっと時哉の耳元でつぶやく。
「ちょっと、大丈夫なの?」
「ん、まあ、危険なやつではないから......」
「じゃあさ、じゃあさ、かおりんもその人と仲良くなったらみんなでトリプルデートしようよ!」
有働とのラインのやり取りを終えた美菜はそう提案するが汐海はあからさまに嫌な顔をする。
「ん~私は進藤殿としっぽりと2人でセックスしたいのだがな。みんながいたらセックスできないのだろう?小野寺殿が言っていた。セックスは人がいるところでするものではないと......」
「あ、あはは......」
そこにいる汐海を除いて全員は苦笑するのみだった。
◇
__その翌週の日曜日。
香織は波香たちによってバッチリ、コーディネイトされた服装で約束の場所、ある駅前の噴水で30分前から待っていた。
「もしかして香織さんですか?」
「は、はい!」
香織が振り返ると背が高い30代くらいの男性が立っていた。
「はじめまして谷と申します」
「あ、あなたが谷さん。私は北条香織です。今日は宜しくお願いします」
「北条の親戚なんだってね。白いドレスを着てくるって聞いたからすぐ、わかったよ」
「谷さんは今日はお仕事だったんですか?」
香織は谷の着ているスーツを見てそう言う。
「いえ、今日は休みですよ。ドレスに合う服装っていったらこれしか思いつかなくて。お相手がドレスなのに俺がジーパンとかで行ったら合わないでしょう?」
「そうですか、それは変なお気遣いをさせてしまいましたね。申し訳ありません」
「いえいえ、さ、行きましょうか?」
谷に先導され香織はいそいそと谷の後ろをついて歩く。時哉の様子からして変な人っぽいことを感じ取ってはいたが今のところは至って普通に香織は思えた。
やがて二人はとある映画館の前に立つ。
「うわー、私、映画館に来るの初めてなんです!」
「え?ほんと?それは凄いね!」
「え?何が凄いんですか?」
「いや、映画館に来たことないなんてさ」
「凄いことなんですかね?」
「うん!俺はそう思う!あ、チケットは俺が買ってくるね」
「あ!お金!」
谷はそう言うと一人でさっさとチケット売り場へと突入していく。そしてものの数分で香織のところへ戻ってきた。
「さあ、行きましょう!」
「あの、御代はらいます。いくらでしたか?」
「いいのいいの!初めては俺に出させてください!」
「そんな、悪いですよ。お金を稼ぐのはとても大変なのに......」
そんな香織を見て谷は感動したようである提案をした。
「じゃあ、この後の食事代は香織さんが出してください。それで気が済みますか?」
「あ!はい!それでいいです!」
香織はほっとして谷の後ろをついて劇場の中に入って行く。チケットを谷が2人分係員に渡して無事ゲートは通過。ふと上を見上げると『悲恋なのか成就なのか!!それは誰にもわからない!ラスト5分であなたは結末に涙する!ファイナル・ラッブ』。
「わあ~素敵」
香織はこれから見ようとする映画の宣伝ポスターを見てうっとりしこれから始まる映画に対してもの凄い期待感に気持ちが覆われていた。
くるっ
しかし、谷はその映画を上映する9番シアターではなく隣の8番シアターへと向かってずんずんと歩いていった。
「『マジックガール・ぽにょぽにょニーチェー劇場版ー』??えっ?」
__香織は谷が入っていった8番シアターの横にあるそこでこれから上映される映画の宣伝ポスターを見て固まってしまうのであった。
(続く)