工程管理のプロフェッショナル菊池がケニーに戻って数週間がたち神崎電子の日常業務には問題が発生しようとしていた。再び納期遅れが発生しそうなのだ。社長室には社長の神崎恵美、会長の波香、総務兼経理部長の間宮、そして主に購買担当の一里塚が集まり緊急会議を始めていた。
「思ったより菊池が抜けたのは痛かったわね......材料のリードタイム、工作機械のライン管理......これは菊池の長年の経験からくる勘によるところが多いものだから誰かにそれを真似させようっていうのは無理ね」
波香が現状を分析する。
「早急に受注から所要量を展開し材料のリードタイムが誰にでもわかるようにシステム化する必要があります。そうすれば工程管理もわかりやすいのではないかと」
間宮が波香の問題提起を受けてそう提案する。
「ま、製造業ならどこでもやっていることだけれどこの会社は一度ぶっ壊してしまったからね。システム担当も辞めてしまったし、むしろよく今まで紙と鉛筆だけでやってこれたわ」
「ですね、それで今、小野寺さんに生産管理システムを作ってもらっています。まあ、簡易版らしいですけど。一週間でできるらしいですよ?」
「なに?小野寺が?あの子、一言も私にそんなこと言ってなかったけど......そんな暇あるのかしら?」
「はい、午後から細田さんに電話応対と来客対応を主にお任せして小野寺さんには電算室に籠ってシステム開発に専念してもらってます」
「そうか......まあ、あの2人は大学もあるのでそうそう無理はさせられないのだが......」
「ケニーから来た女性社員も2人いるので問題はないかと」
「うん、あと小西さん」
「はい?」
波香は間宮との会話を終え、今度は一里塚に話しかける。
「もう、ケニーさんからは応援頼むのは無理かしら?」
「え?私にそんな権限ないですし......あ、そうじゃなくて他に使える人材、手伝ってくれそうな人材は誰かいないかってことですか?」
「うん、そういうこと」
「えっと......西川課長」
「は、いらない」
「あっはははは」「うふふふふ......ガハハのハ」
波香と一里塚は2人だけで爆笑している。無論、恵美と間宮は西川がどのような人物か知らないのできょとんとしていた。
「冗談はさておき私から見たらやっぱり鈴原課長ですかね。でもあの人こそミスターケニーなので無理でしょうけど」
「ああ、あの人ね。私もケニーさんで派遣として働いていた時、あの人をよく見ていたわ。......あの人は無理でしょ」
「ですよね。ん?会長が無理とか言うの珍しいですね」
「まあね。私も成長したってことかしらね。まあ、それはいいわ。で、私からの提案なんだけど小西さん。あなたには製造部長をやってもらいたいと思ってます」
「はい......え~~~!!なんで!?」
「菊池がいない今、モノの流れをよく知っているのはあなたしかいないじゃない。よろしいですか?社長?」
「え、うん、まあ、会長がそう言うのならお任せいたします」
恵美は波香に委ねる。もっとも彼女の場合、社長になるのを承諾したのは自分のそばに波香がいるからなので仕方がない事なのだ。
「はい、決まり。あなたの下に南と汐海をつけるのでうまく使ってやって」
「え~~!そんな簡単に決めていいんですか!?」
「いいんです」
「はーーー......あたしが部長......うへへへ」
一里塚はしばらく困惑していたが自分が部長という役職について嬉しそうだった。そんな役職は自分とは一生無縁のものだと思いながらも一生懸命働いてきた。思いもよらない昇格人事に少し壊れ気味に笑うのであった。
実際に波香の言う通り菊池がいない今、モノの流れをよくわかっているのは一里塚であり工程管理も彼女を中心に回っている。ケニーから来た他の従業員達も一里塚に信頼を寄せている。それと波香が一里塚を部長に抜擢した理由がもうひとつあった。菊池が去った今、余計なことを考えずに仕事に集中してもらいたい。そんな配慮があったのだ。
「忙しくなると思うけど、あなたは電話とか来客対応とかしなくていいから、全ての製品が納期に間に合うよう工場のライン管理をうまくコントロールしてね」
「了解であります!」
一里塚は敬礼する。
「小野寺さんが今週末に材料手配管理表と工程管理表、製造指示票の試作が出力できると言っていますので小西部長、確認をしていただけますか?」
間宮が新製造部長、小西にそう話す。
「わっかりました!それが使えるようになればそれを参考にして効率よく動けますね!」
「ま、いろいろ問題があるとは思うがな」
「ん?どういうことですか?会長?」
「まず、他の従業員がそれに従って動くかということ」
「ああ、結構、俺流で動いちゃってる人いますからね」
「うん、あとはそのデータの正確性ね」
「確かに......間違っていたら意味ないですもんね」
「まあ、それはちゃんと取引先からのデータを間違いなく処理していればうちに責任はないんだけどね。そのデータ通りにやればいい」
「そうですね」
「よし!これにて緊急会議を終えようと思うが他に何かあるだろうか?」
「はい!」
間宮が挙手をする。
「なんだ?しお......間宮?」
「はい、今度から会議の司会は私にお任せいただけないでしょうか?会長、自らが司会をするのは変......というか会長がするべきではないと思います」
「うむ、わかった。今度からは間宮に任せることにする」
「ありがとうございます」
◇
南は工場をくまなく巡回し材料が足りなくなるラインを確認していた。生産が遅れ気味の今、ラインを暇にさせておくことはできない。菊池がいなくなった今、自分がやるしかない、そういう使命感を感じていた。が、一方で汐海に振られたことで彼自身もケニーに戻りたくなっていた。事実、汐海に振られる前までは汐海につきっきりで仕事を教えていたのに今はこうして距離を取っていた。
「......」
南はそんな自分を情けなく思っていた。
「南殿!」
そんな思いの南とは裏腹に汐海は南に近寄ってくる。
「あ、汐海さん、おはようございます」
「おはようございます。小西殿がお話があるようなので私と一緒に来ていただきたいのだが」
「わかりました」
そういうことなら仕方がないかと南は汐海の後に続いて歩く。
「......南殿、元気がないようだがまだ私のこと気にしているのか?」
汐海はずけずけと南に問う。が、汐海は汐海で気にしているのだ。南の心情を察して黙っていることなどできなかった。
「え?あ、あはは、もう大丈夫ですよ」
にこっと汐海に微笑む南。男の中には振られた女性に対しふてくされて急に態度が変わったりするものも多いが彼は大人だった。
「......本当にすまない」
「いえいえ!いいんですよ!汐海さんが悪いわけじゃないんだし!俺が行動をおこすのが遅かっただけです!」
「男女の関係というものは遅い早いで決まるものなのだな......」
「......まあ、そうですね。タイミングってあると思いますよ」
「タイミングで人の人生が決まるかもしれないのか......なんだかそう思うとやりきれないな」
「俺が言うのもなんですが人生はやりなおしがききません。だからみんな悩むんじゃないですか?事業に失敗したとか結婚に失敗したとかある程度やり直しが効くのもありますがそうなったらそうなったでその後がなかなかしんどいですよね。個人の考え方、感じ方にもよりますが」
「うむ」
「やりなおしがきかないってことをある程度自覚していれば人生の出来事においてどうすれば一番いいのか一生懸命考えるし悩むし......それで成功を掴めば充実人生......なんじゃないですかね」
「なるほど、そういうことか。充実した人生。私が求めているものは正にそれかもしれん。......彼氏とセックスばかりしてるわけにはいかないな......気持ちいいけど」
「ハ、ハハハ......」
◇
「あん!あん!あん!」
「はあ、はあ、ふう、ふう、み、美菜!会社へ行かなくていいのか!」
美菜は昨晩から有働のところへ泊まりこんでいた。会社がもう始まろうとしているのに有働とセックスを続けている。
「いいのいいの!今日はもう休む!あん!」
「というか俺、もう何もでないんだけど!」
「大丈夫!大丈夫!私が大きくしてあげるから!」
「そんな問題じゃ.......うっ.......イタタタタ」
「え?ど、どうしたの!?明君!」
有働は下腹部に激痛を感じそのまま気絶してしまう。
「え!?え!?どうしよう!」
美菜は不測の事態にオロオロしとりあえず有働にまたがっていた自分の身体を離し服を着る。
「そ、そうだ!こういう場合は救急車ね!」
美菜は自分のスマフォで救急車を呼ぶ。住所は知らなかったがスマフォのGPS機能により救急車は思ったよりも早くけたたましいサイレンを鳴らしマンションに到着する。ドタドタと数名の救急隊員がやってきて有働の部屋のインターホーンを鳴らす。
「はい!そうです!ここです!今、内鍵あけます!」
美菜は救急隊員を全裸の有働がいる部屋に誘導する。
「これは......腎虚の可能性がありますね。......息はあります。恋人さんですか?ご同行願います!」
「は、はい!」
美菜は会社に連絡しその旨を伝えたがこの出来事は波香の逆鱗に触れることになる。会社が大変な時なのに彼氏とのHのしすぎで彼氏の身体を壊し会社も急に休んでみんなに迷惑をかけたことにだ。
(続く)