汐海と美菜に後れをとったが香織もようやく異性と交際できるようになった。初めての彼氏ということで今まで経験したことのない毎日の連続で香織は以前の人見知りの性格が徐々に社交的に変化していった。香織がこの様に変われたのも汐海と美菜の影響が大きい。香織と同じ境遇の仲間がそれぞれに生きる意味を見出しているのを間近で見て自分もそうしようと思ったのだ。
そして香織は時哉の知り合い谷との交際は怖いほど順調にいっていた。
「谷さん、こんなDVDを見つけてきました。一緒に見ませんか?」
香織は谷の住むワンルームのボロアパートで楽しそうにそう言う。
「お!これは!『どす恋物語』じゃないですか!気になってたんだ!」
「うん、以前そのような事を聞いたので偶然、見かけたので買ってきちゃいました」
「え!?買ったの?借りたんじゃなくて?」
「はい」
「確かに日本全国、どこを探してもレンタルされてるという情報はなかった......悪いね、わざわざ買わせてしまって」
「ううん、いいんです。私も谷さんから話を聞いて見たいと思ってたし」
「......香織さん」
「谷さん」
じっと見つめあう二人。こうして唇を合わせるのはもう数えきれないほどに2人は親睦を深めていた。
「......はあ、谷さん」
「なんでしょう?」
「今日は泊っていっても良いですか?一応、お泊りセットを持ってきました」
香織はそう言ってスポーツバッグの中身をチラリと見せる。その中にはパジャマとハブラシ、コップなどが見えた。
「え?それはいいけどこんな狭くて汚いところでいいの?」
「それは問題ではありません。谷さんと一緒だから......今夜は谷さんと一緒にいたいんです」
そういう香織の顔面は真っ赤になっていた。中々、手を出してこない谷に対し香織なりに考えてこういう行動に出たのだ。もちろん小野寺や波香たちの入れ知恵もある。
「香織さん......え~と、じゃあ、買い物いきませんか?食べる物とかいろいろと買っておいたほうが良いと思うし」
「は、はい」
まだまだ、香織の顔からは恥ずかしさがとれないが彼女は俯きながらも返事をし谷に従う。二人はすぐに立ち上がり着替えて谷のボロアパートを出る。始めの頃、香織は谷の後ろをついて歩いていたが今ではもう肩を並んで歩いていた。そして今初めて谷の手が香織の手をぎゅっと握る。恥ずかしそうに二人は顔を見合わせた。
「谷さん、私嬉しいです」
「お、俺もです」
2人はスーパーに入るまでずっとお互いの手を離さずにいた。スーパーの入り口で買い物かごを谷が取るまでお互いの手を握っていたのだ。
「私、カツ丼作りますね」
「お、それは楽しみだな。あ、香織さん、俺、隣の薬局に行ってくるので香織さんは他に必要な物を買っててもらっていいですか?」
「え?薬局で何を買うんですか?」
「え~と......」
「もしかしてどこか調子が悪いんですか?」
「いや、調子は悪くないですよ。ただ、一応その念のためにコンドームを買っておこうと思ってね。ハハハ」
「あ!」
そのことに気が付いた香織は顔を再び赤らめる。だが意を決しすぐに香織はあることを谷に告げる。
「谷さん、私達はお付き合いを初めてまだ一カ月にもなりませんが私は......谷さんとずっと一緒にいたいと思ってます。だから......私は別にそれを買わなくても大丈夫ですよ」
香織にそう言われた谷は激しく動揺する。これは逆プロポーズなんじゃないかと。もちろん谷にとってははじめての事である。今までに交際した女性はいたことはいたが自分のオタ趣味がばれるとみんな去って行った。香織と初めて出会った時に強引にアニメの映画を見て自分のオタを暴露した。そうしたほうが話が早いからだ。偶然にも汐海の彼氏の進藤と同じやり方である。すると香織は谷の元を去るどころか谷の影響を受け彼女もオタ化しつつある。そんな香織と結婚を決断してもいいんじゃないかと谷は頭の中で計算した。自分の趣味を理解してくれる人とのほうが結婚生活はやりやすいだろう、と。
「わかりました。香織さん、俺も香織さんに本気なのでコンドームは買いませんね」
「は、はい!」
香織は嬉しそうに谷の腕に飛びつく。そして腕を絡めてきた。スーパーの中にいるのに二人は完全に二人だけの世界に入っている。
◇
香織の買ってきたDVDを香織の作ったカツ丼を食べながら鑑賞しPS6のゲーム、真・デビルハンターの協力プレイをひとしきり楽しんだ2人。
「香織さん、ゲームの才能あるね」
「ありがとうございます」
谷は満足そうに香織に向かっていう。ゲームは自分と同じくらいの腕前の人とプレイするのが一番楽しい。谷は香織の事を自分と同じくらいの腕前だと認識しているがそれは大きな間違いであった。本気を出せば香織はすでに谷のゲームの腕前を軽く超えている。彼女は手加減していることを谷に勘づかれないようにうまくプレイしていたのだ。
「さて、疲れましたね」
「そうだね」
「シャワー借りていいですか?」
「うん、狭くて汚いけどどうぞ」
「......あの」
谷はビクっとする。ここでアレか?一緒に入ろうなどとのお誘いか?なのかと考えていた。
その通りであった。香織は波香達から統計として日本の男性は積極的な女性に弱いことを教えられていた。これと思った男性には自分からガンガンいけと。ただし、複数の男に同じようなことをしたらビッチ扱いされるので注意しろと。ビッチという意味がイマイチ香織にはわからなかったが恥ずかしいと思いながらも谷に対してガンガン攻め続ける覚悟でいた。
「良かったら一緒に入りませんか!」
怒ってるような声色で香織はそう言った。谷はそれを怒ってるわけではなく極度の緊張と恥ずかしさから怒ったような声になっている事を瞬時に理解した。彼はエロゲマスターなのだ。彼もようやくエロゲの経験を実生活に活かすことができたようだ。
「よ、喜んで!」
ザーーーー......
「少し恥ずかしいですね」
「うん」
「でも谷さんには私の全てを見て欲しいんです」
シャワーから降り注ぐお湯を全身に浴びながら香織は両手を横にスッと伸ばし谷に向かって正面を向いた。
『私、クローン人間ですけど愛してもらえますか!?』
などとつい言いそうになるが香織には言えなかった。
「綺麗だよ。香織さん。うん、とても綺麗だ。こんな綺麗な人と......俺は幸せ者だな」
「私の方が幸せですよ?」
「いや、俺の方が......」
「いえいえ、私です」
「あははは」
「......ふふふ」
そっと手を自分の口元に添え笑う香織。谷はそんな仕草の香織を見てお互い全裸のまま抱きしめる。
「香織さん、好きだ」
「......私もです」
◇
明け方まで谷と香織はゴムなしで愛し合った。その辺の意味を波香達から教えを受けた香織は本当に谷は自分と将来一緒に生きてくれると理解し彼女は幸せを感じていた。今までは生きていくため、お金を稼ぐために生きてきたが自分が生きている意味を見出せなかった。ただなんとなく生きてきたのだ。それを自分が幸せになる為に生きてみようと目的を持った時、香織の今までの生活は激変した。そのきっかけは波香と出会ってから。香織は波香に感謝の気持ちを伝えようと足早に波香と時哉のマンションに向かうがもうそこには波香はいなかった。
リビングでは酒を飲んでいたらしく潰れている時哉。6畳の汐海達の部屋では美菜のすすり泣く声が聞こえてくる。
香織はまず小野寺がいると思われる4畳半の部屋に入った。この状況では彼女なら冷静に何が起こったのか話を聞けそうだからだ。
「小野寺さん!居て良かった!」
「あ、香織さん、おはようございます......」
「みんなの様子がおかしいのですけど何かあったんですか?」
「先生が......家出しました」
「え?会長が?どうしてですか!?」
「わかりません。私が一番最初に先生の置いたメモを発見したんですが......」
「そのメモにはなんて書いてあったんですか?」
「『さようなら、私を探さないで』」
「なんで?どうしてそんな!?」
「本当に私にはわからないんです。時哉さんが帰ってきて私がその事を伝えて......スマフォも通じないし時哉さんがあちこち探しに行っても見つからなかったみたいです」
「隣の部屋では美菜さんが泣いてるようだけど何か関係が?」
「わかりません。多分、美菜さんと何かあったんだと思います。私には教えてくれなかったけど......」
ここで香織は気が付く。ひょっとして波香は自分がクローン人間だということを知ってしまったのでは、と。
__香織の思った通りであった。美菜が帰宅後、波香は美菜の事を激しく責めた。人をダメにするダメクローンと。その言葉に激しく憤りを感じた美菜は思わず言ってしまったのだ。波香だって同じクローンだと。その2人の様子に気が付いた汐海と時哉は慌てて美菜を止める。その慌てぶりから真実だと悟った波香はその事実に耐えられずこのマンションから去って行ったのだ。
(続く)