「なるほど、クローン人間だからなんでもできるんだねナミカちゃんは。道理で何をやっても敵わないハズだ」
「師匠って師匠のお母さんのクローン人間だったんですか?な~~~んだ」
「校長!校長がなんでもできたのって優れたお母さんのクローン人間だったからなんですね!?」
「校長、好きです!!でも、クローン人間だったんですね......さっきの言葉は聞かなかったことにしてください」
「社長!いったいどうやったんですか?あ!クローン人間ならそんなこと簡単ですね。納得です」
「お!なかなかいい女じゃねえか!なに?クローン人間?それじゃ大人のおもちゃと変わらねえな」
「おおお!フランソワにそっくりじゃ!ワシの子供を孕め!」
「あんただって私と同じクローン人間なのに!!」
「いやあああああああああああああああああああああああああ!!」
波香は飛び起きた。時間を見ると午前3時をちょっと過ぎた辺りだった。
「......夢か......ひどい夢」
波香は自分の大きくなったお腹をさするとそうつぶやく。ここはコンビニがある2階の1室の4畳半。波香はコンビニを経営する老夫婦から部屋を提供され、ここで寝泊まりをしている。とんとんとんと誰かが階段を上がってくる音が聞こえて来た。
「杉本さん、大丈夫ですか?」
波香の部屋のふすま越しに聞こえてくる声は大学生のアルバイト
「うん、大丈夫です。ちょっと変な夢を見ただけだから」
「何かあったら言ってくださいね」
「うん、ありがとう」
伊波は深夜のコンビニバイトとともに老夫婦から波香の様子も気にかけてくれと頼まれていた。
「......私にしてはここで落ち着けたのは幸運だったかな」
偽装した履歴書だけでここのコンビニのバイトの面接はなんとかなると思い、バイト募集のポスターを見た波香はすぐさまにここで雇ってもらえるかどうかここの店主に問うた。
お腹の大きな波香を見た店主である老夫婦はこれから住むところを探すという波香の話を聞き寝床まで提供してあげたのだ。
「おはようございます」
「あれ?杉本さん、起きちゃったんですか?」
「うん、伊波くん、品出しってもう終わってるの?」
「いえ、まだです」
「じゃあ、私やるね」
「え?いいですよ、俺がやります」
「いいの、ヒマだからやらせて」
波香は伊波にそう言うと重たそうなお腹をどっこいしょっとかがんで弁当やおにぎり、サンドイッチの入ったパレットに手を伸ばした。そのしんどそうな様子を見て伊波は言う。
「あ~、杉本さん!いいですよ!俺がやります!杉本さんはレジ周りをお願いします!」
「あははは......ごめんね」
波香はペロっと舌を出し、伊波に謝る。そんな波香を見て伊波の顔面は赤くなり照れているようだった。
◇
その頃、北条時哉は真樹男から波香は沖縄のコンビニの防犯カメラに映っていてそこで働いているという情報をもらい、今まさにN空港から飛行機に乗り飛びたちピンポイントでそのコンビニに向かおうとしていた。
「......沖縄とはね。お腹の子には寒いよりも暖かいところのがいいのかな」
時哉は波香とそのお腹の子の心配もあり気が気ではなかった。
「で、どうしてキミが隣にいるのか俺には理解不能なんだが......」
「トキヤさんひとりじゃつまんないでしょうからわたくしが話し相手になってあげますわ」
「余計、イライラしそうなんだがな......」
「ひどいですわ~」
「キミはただ、沖縄に行きたかっただけなんじゃないのかい?」
「失敬な!わたくしはただ自分の姉さんが心配なだけですわっ」
「ま、そういうことにしておくよ」
ニッと時哉は真樹男を見て笑う。本当なのか嘘なのかわからないが真樹男の言った言葉が時哉には嬉しかったのである。真樹男の気持ちは沖縄に行きたい気持ちと波香が心配な気持ち半々くらいだろうと時哉は思っていた。
◇
「杉本さん、聞いていいですか?」
早朝の客足が途絶えたころ一段落した波香と伊波。レジに並んで立つそのタイミングを見計らって伊波が波香に話しかけた。
「なんでしょう?」
「ホントに彼氏さんと別れたんですか?そのお腹の子どうするんですか?」
「別れました。私が育てます。これでいい?」
「......杉本さん、俺と付き合ってください。そのお腹の子もひっくるめて俺とつきあってください!」
「随分、簡単に言うのね。伊波くんとは一緒に働きだしてまだ一週間もたってないっていうのに」
「いや、よく考えましたよ」
「そうかな~浅はかだと思うけどな~」
波香は意地悪く伊波にそう言う。
「そんなことないですよ!」
「私と他の男との間に生まれた子供を伊波くんは分け隔てなく愛することができる?」
「できます!」
「......簡単に言うわね~......もし、私の子供に......もしそうじゃなかったら私はあなたをぶち殺すと思うけど、それでいいの?」
「大丈夫です!」
「あ!ちなみに私、合気道と空手の帯、黒いから」
「問題ないです!」
「......悪いけどあなたを私は信用できないし、なにより私はあなたを好きじゃない。お付き合いすることはできないわ」
「じゃあ、俺が信用できる男だってわかったら付き合ってもらえますか?」
「ん~あと、もうひとつ問題があるの」
「なんですか?」
「私は普通の人間じゃないからお付き合いは無理」
「!!ぶっはっは。そんなお断りの理由、初めて聞きましたよ。杉本さんって面白いですね。でも、俺はあきらめませんよ?必ず杉本さんを振り向かせてみせます!」
「......あっそ。じゃあ、私、休憩かねて両替に行ってくるわね」
「はいはい、どうぞ、いってらっしゃいませ」
波香は裏の事務所の金庫から両替用の万札を何枚か取り出すといそいそと銀行へ向かって歩き出した。
「あ!杉本さん!俺のチャリ使っていいですから!」
ぴょこっと伊波はコンビニから顔を出し、自転車のカギを波香に向かって放った。
ぱしっ
波香はそれを反射的に受け取った。
「......うん、ありがとう」
◇
「ちょっ!やめてください!!離して!!」
小野寺は大学へ向かう途中、突然黒いワゴン車が小野寺の歩いている舗道の横につけ止まり、中から3人の男が下りてきて無理やり小野寺を車の中に入れようとしていた。
バゴっ!
それを後ろから尾行していた汐海が間髪いれず飛び蹴りを放ち阻止する。すると男たちは車に乗り急いで去って行く。その車のナンバープレートには黒いビニールが貼ってあった。けれども汐海のスマフォはその様子を終始ビデオ撮影ONにしていた。
「大丈夫か?小野寺殿?」
「う、うん」
「やっぱりまだ一人は危険だな」
「なんで?どうして、私ばっかり......他にも女はいるでしょ?もう勘弁してよ!」
小野寺はそう言うと泣き出した。
「小野寺殿小野寺殿!気をしっかり持って!私達がいますから大丈夫!」
必死に小野寺をなだめる汐海。ようやく泣き止み口を開く。
「やっぱり、元カレ関係だよね?」
「私の出した被害届も不起訴処分になったからな。多分そうだろう」
「......」
「今の様子もSDにコピーして警察へ持っていく。細かいことだけどやっておいたほうがいいだろう。小野寺が大学へ講義を受けている間に私は警察に行ってくる」
「ごめんね。いろいろと迷惑かけちゃって」
「好きでやっている。そんな心配は無用だ。それに小野寺殿には彼氏を紹介してもらってるので礼には及ばない」
「そう......いいな、汐海ちゃんは大事にしてもらってて。......なんで私、進藤君と付き合わなかったんだろう」
「今更、私にそういうことを言われても困る」
あれこれ言いながら2人は大学の構内へと入って行く。
「ここまで行けば他の人も多いし大丈夫だろう。私は警察へ行ってくる。用が済んだらすぐに戻る。進藤殿にも早く会いたいしな」
「うん、わかった。進藤君には私から伝えておくね」
「宜しく頼む。それと美菜がもしかしたら大学に来ているかもしれん」
「美菜ちゃんが?なんで?」
「彼の為にノートを取ると言ってたからな」
「ふうん、そう言えば今日の朝、いなかったね」
「美菜の彼は今日、1限目から講義があるので多分その為だろう。では、行ってくる」
「早く戻ってきてね」
「うむ」
◇
その頃、美菜は腎虚でしばらく入院することになった有働のかわりに講義のノートをとっていた。
(は~~~~~......Hしたい......)
美菜はノートを取りながらずうっとそんなことを考えていた。彼女はしばらくの間、Hをしていない。有働の他に男と仲良くなってHすることも考えたが時哉達にそれが知られてビッチ呼ばわりされるのが怖くてできなかったのだ。
『周りの人達のことも考えて生きろ』
時哉にそう言われたことを美菜は忠実に守っていた。73号の恋人はどんな人なのかと最初は興味津々だったが美菜も汐海や香織同様に時哉の事は一目、置いているのだ。
「だったらなあ、時哉さんが私にHしてくれればいいのに......ってそれはできないよね」
「え!?美菜ってば欲求不満!?」
独り言を自分の後ろに座っている最近仲良くなったクラスメートに聞かれ美菜は焦った。
「あ!......あははは」
1限目が終わり何か飲み物でも買いに行こうとフラフラと廊下を出る美菜。
(はあ~~~~Hしたいなああ)
自分の欲望を必死に抑えつつも自販機を見つけ自分の小銭いれから100円玉を見つけて顔を上げた時、美菜は小野寺を見つけた。
「あれ?明日香ちゃん?どこへ行くんだろ?」
◇
「小野寺さん、ごめんね!」
その女生徒は小野寺を大学の外の裏路地に誘導するとそこで待ち伏せていた男たちから金を受け取りタタタタッとその場から走り去った。
「なんですか、私に何か用ですか!」
さっきの黒いワゴン車から降りてきた男たち3人が小野寺を取り囲んでいる。
「一緒に来てもらうぜ!」
ばしっ!
1人の男が後ろから小野寺を羽交い絞めにし薬品を染み込ませたハンカチを小野寺の口元に押し付け小野寺は気を失う。
そして男たちは小野寺を車に積み込もうとする。その瞬間美菜が走り寄ってきた。
「明日香ちゃんをどこに連れてくのっ!?」
「なんだ?オメーは?......なかなかだな。こいつもさらっていこうぜ?」
「おお、なかなかいいオッパイしてるな」
「俺からだな」
「ん?私とHしてくれるの?」
「おお、こいつは話が早い!そうそう俺たちと気持ちいいことしようぜ!」
「ん~、やっぱ、やめとく」
どご~~~ん!
考えるふりをし、男に背を向けた美菜は振り向きざまに1人の男の顔面に裏拳を叩きこんだ。
「あびゃびゃぶや!(顎がっ顎がああ!)」
「......私達をゴミ呼ばわりしたあの彼氏の知り合いなんでしょ?明日香ちゃんは連れてかせない」
「このアマア!!」
残った2人は一斉に美菜に襲い掛かる。
「言っとくけど今、私、滅茶苦茶、暴れたい気分なのっ!どうなったって知らないからねっ!」
(続く)