週はあけて月曜日。
「今日も一日がんばるぞおおおおお!」
縁が見ているので朝の『気合入れ』も気が抜けない。
朝の行事が終わったところで俺は鈴木主任と一緒に会社の出口に向かった。
「鈴木主任、五反田さん、頑張って下さい!」
縁は俺たちにニコっと声を掛けてくれた。
「なんだあ?お前、縁といつのまに仲良くなったんだ?」
「はい!先週の金曜日から付き合うことになりました!」
「おま!・・・手がはえーな」
「いや、俺も今までモテたことないんで自分でもビックリしてんすよ」
「...縁は重い女だぞ」
「ええ、心得ております。センパイはやっぱり重いから交際をやめたんすか?」
「...ああ、俺にはちょっとな」
「...縁は俺が幸せにするんでご心配なく!」
「ああ、お前に任せるわ」
少しはセンパイにイヤミでも言われる覚悟をしてたがそんなことはなく。
俺たちは外回りを開始した。
センパイも新人の俺に負けるのはプライドが許さないらしくセンパイは何も言わずに巡回地に着くと俺とセンパイは分担を決め訪問を開始した。
10件契約を取ってきたところで俺は公園を見つけ休憩する。
「はあ、もう、今日はこの辺でいいかな」
ベンチに座って自販で買ったコーラを飲む。
あ、そうだ。
浅野さんの携帯に電話しとくか。
昨日は電話したけどでなかった。
日曜日で家に旦那さんがいたんだろう。
「あ、もしもし?浅野さんですか?」
「うん、農合さん?」
「あはは、農合ではないので五反田でいいっすよ」
「うふふ、私の携帯には一応『農合』って登録してあるのよ」
「あ、なるほど!って、金曜日はどうもすみませんでした。電話に出れなくて。寝ちゃってました」
「あ、そうなの。あの日旦那が遅くなりそうだったから会えないかと思ったの」
「そうだったんですか、すみません」
「ねえ、今週会えない?」
「もちろんいいですよ。あ!申し訳ないですが金曜日は会社で新人歓迎会があるのでそれ以外でお願いします!」
「じゃあ、水曜日は?」
「了解です。えっと、どうします?家まで迎えにいきましょうか?それともどこかで待ち合わせのがいいですかね?」
「そうねえ、どこかで待ち合わせがいいかな。デートの待ち合わせみたいな気分、味わえそうだし」
「わかりました。じゃあ、A駅のシトバでとりあえず、7時に待ち合わせっていうのはどうですか?」
「わかったわ。楽しみにしてるわね」
「はい!俺も、でわまた!」
俺の彼女(緑)と約束したのでこの主婦とはいずれ連絡を絶たなければならない。
しかし、点検日までに連絡をたつとキャンセルされてしまう恐れがある。
それまでは繋ぎとめておこう。
ぶるるる!ぶるるる!
今度はセンパイから電話だ。
「はい!五反田です!」
「おう、五反田、お前何件とれた?」
「俺は10件です」
「おい!すげーな。じゃあ、昼飯いくか?」
「そうっすね!」
俺はセンパイと合流した。
「おつかれっす!」
「おう!」
「何、食べます?」
「お前、何が食いたい?」
「そうっすね、なんでもいいっすよ」
「じゃあ、ハンバーグ屋でも行くか」
「御意」
「...センパイは何件とれたんですか?」
「12だ」
「さすがっすね」
「...お前に負けてたらまだやめてねえよ」
「なるほど」
俺たちは昼飯を食べ終わると社に戻った。
他の人は1日に1件取れるかどうかなので10件以上取れば早く社に帰っても誰も文句は言わないだろう。
「あ!五反田君!君、コンピューターできたよね?」
経理の山田バーコード課長が事務所の出入口に入った俺に突然声をかけてきた。
「はい?どうかしたんですか?」
「いやあ、会社のネットワークがおかしいんだよ!LANっていうのかな?パソコンがつながらなくてね。今、システム部の連中が全員出張でいないんだ!」
「俺でわかるかどうか、わかりませんが...ああ、多分アップデートがうまくいってないんですね。...これで再起動すれば使えるようになります!」
「おおお!助かったよ!五反田君!」
「いえいえ、わかって良かったです!」
山田バーコード課長は額の汗をハンカチで拭いながら俺に感謝した。
気が付くと縁が俺のそばにいてみんなに気が付かないようにギュッと手を握ってきた。
「いえい」
俺は縁にVサインをし、ウインクしながらそっと手を離して颯爽とその場を立ち去った。
「五反田、お前、なんでもできるんだな」
俺のパソコンのトラブルの対処を一部始終見ていた鈴木主任がそう言った。
「いえいえ、たまたまっすよ!あ、俺、霧島部長に用事があるのでセンパイ先に行っててください!」
「おう」
俺は霧島部長のデスクに向かった。
「霧島部長!ただいま戻りました!」
「あら、おかえりなさい。今日は随分早いのね?」
「ええ、10件取れたんでもういいかと」
「...すごいわねー。こないだのはまぐれじゃなかったのね」
「あざっす!ところで飲みの件ですが」
「あ、うん」
「今週の金曜はどうですか?」
「いいわよ」
「それでゆか...柴原さんも連れて行きたいのですがいいっすか?」
「え?なにそれ?」
「いや、俺、柴原さんと付き合うことになりまして、それで柴原さんに『私も連れていけ』と言われました」
「はやああ、もう...柴原さんと付き合うことになったの?」
「はい!」
「...はあ、取られちゃったか」
「え?」
「ううん、なんでも。いいわよ、3人で楽しく飲みましょう」
「あざっす!」
俺は一礼をして颯爽と霧島部長の元を離れた。
「...早速、縁に取られちゃったか」