ぴんぽ~~ん。
「...どちらんさん?」
「亜市軽農合で~す」
「うちはいいや」
「亜市軽農合で~す」
「何々、床下の無料点検?うちはいらねえよ!」
「亜市軽農合で~す」
「・・・点検?やらんやらん、この家、壊すんだから関係ない関係ない」
「亜市軽農合で~す」
「人が寝てんのに来やすくピンポン押すんじゃねえよ!バカタレ!」
絶不調だ。
今日は1件もとれない。
ぶるるる、ぶるるる。
「はい、五反田です」
「何件かとれたか?」
「とれません」
「そうか、今日はもうあがろう」
「わかりました」
俺と鈴木主任は午後2時くらいで飛び込み訪問を切り上げて昼飯に行った。
「お前、縁(ゆかり)となんかあったんか?」
「ええ、まあ」
「そうか、俺たちが会社出る時必ず見送りするのに最近しないからな」
「ハハハ」
「...重すぎてイヤになっちまったか?」
「いえ...縁は全然、悪くないんです。俺がセンパイのやり方で主婦と仲良くなって縁をきれなくて...」
「ん?つまり二股ってこと?」
「そうですね。センパイはそういうのでトラブッたりしないんですか?」
「ないね。俺は絶対、後引くようなことにはしないからな」
「そうですか。センパイのやり方はそういう非情さを持っていないとやっちゃダメなんすね」
「...」
「センパイのやり方は...」
「おい!センパイのやり方やり方ってうるせえよ!俺を責めているんか!」
「あ、すみません。そんなつもりは」
「...俺は確かに非情だけどその瞬間は精神誠意を込めて対応しているぞ」
「...」
「で、縁とは別れたんか?」
「いえ、主婦の人に対抗心を燃やしています。俺には『私に負い目を持って一生、生きてもらいます』とかなんとか」
「尻に敷かれるを通り越しているな、それは。さすが縁だ」
「...センパイはよく別れられましたね?」
「いや、俺の時も結構、大変だったぞ」
「どれくらいつきあってたんですか?」
「1年も持たなかったな」
「...俺は1カ月もたたないうちに修羅場ですけどね。まあ、俺が悪いんですけど」
「まあ、時間が解決してくるよ。あんま、考えんな」
「はい」
「で、だ」
「?」
「営業マンはな、そんな個人の事情なんか関係ねえからな。今日のお前はずっと辛気臭い顔しながらお客さんに会ってたぞ」
「はあ」
「はあ。じゃねえ。そんなんじゃ契約なんか取れなくて当たり前だ。最初から負けてんよ」
「...」
「なあ、五反田。俺はいずれこの会社のトップになる」
「はあ」
「お前、俺についてこいよ?」
「いや、俺なんか足でまといになるだけですよ」
「...完全に自信喪失してるな。まあ、いいやよく考えてくれ」
「...」
俺たちはソバ屋でカツ丼を食いながらそんな話をした。
会社に戻ると勅使川原(てしがわら)営業部長が俺に話しかけてきた。
「ごたんだ~くん。最近、調子、悪いじゃないか。どうした?」
「すみません」
「...ま、君には期待しているからね。第2の鈴木主任として。がんばってくれたまへ」
「はい」
「一応、きみは来月から正社員ね。しかも係長からはじめてもらう」
「え?いきなり鈴木主任より上なんですか?」
「...いや彼は課長になるよ。今、営業課長の席は空席だからね」
「あの、今、係長の人は?」
「今月いっぱいで辞めるそうだ」
「はあ、そうなんですか」
こういう会社は人の出入りが激しいんだろうな。
俺は今週の交通費を清算しに経理課によった。
タイミングが悪いことに縁(ゆかり)しかいない。
「柴原さん、これお願いします」
「...」
縁は無言のまま伝票を受け取った。
超、感じ悪いな。
俺はそのまま立ち去ろうとしたが縁は俺の手を掴んだ。
「え?」
「...ハジメさん、今日、ウチにきてくださいね」
縁はにこっと笑って俺にそう言った。
「わかりました」
縁が最後まで俺の事を無視せずにそう言って呼び止めてくれたことがなんだか嬉しかった。
気分は落ち込んでいるが気持ちの中でこの状況をどこか楽しんでいる自分がいる。
もしかしたら俺はドMなのかもしれない。
しかし楽しんでいるという状況じゃなくなってきた。
それからというもの縁は毎日俺を自分の部屋に誘ってくる。
浅野さんと会う時間を与えないために。
「ハアハア、縁、もう何も出ないよ」
「...私も、あそこがヒリヒリします。...舐めてください」
「わかりました」
俺は縁を丁寧に丹念に舐めまわす。
「うっ!...はっ!....あっ!」
もういいと命令が出るまで俺はやめられない。
「はっ!...はあん!」
どうやらイッたようだ。
「はあはあはあ、朝まで私を抱きしめて寝てください!」
「わかりました」
俺たちは全裸のまま抱き合った。
「...ね、ハジメさん、最近営業の成績が悪いのは私のせいですか?」
「いや、自分のせいだよ」
「私、仕事が出来る人が好きなんです。」
「うん、知ってるよ」
「がんばってくださいね」
「...うん。」
そういうと縁はスヤスヤと眠ってしまった。
だったら、俺を捨ててもらって構わないと一瞬、思う。
でもやっぱり俺は縁が好きだ。
俺のことが好きでこういうことになってるのだろうし、俺が悪い。
縁を起こさないようにこっそりと俺は身を起こした。
自分のビジネスバックの中からある封書を取り出す。
封筒の中を見て俺はつぶやいた。
「こんな状態で参加しても大丈夫かな。『第2回 罵倒せよ!アストディアラー!』2週間後に地区予選開始...か」