「ね、五反田君。キミも出るんでしょ?」
俺は正社員の手続きを霧島部長にお願いしに行ったところでふいに霧島部長にそう言われた。
「え?『罵倒せよ!』ですか?」
「うん」
「ええ、一応、申し込みました。部長は?」
「私も出るわよ」
「俺、今回は営業で相当メンタル鍛えられたのでいいとこまでいくんじゃないっすかね!」
俺は霧島部長に強がってみせた。
「ホントに?今、営業成績も悪いし縁と揉めてるしズタボロじゃない」
「今、そういう状態なので相当ひどいこと言われても俺のサイコメーターは微動だにしませんよ!」
「あはは、だといいけど。ねえ、知ってる?攻略サイトで見たんだけど...」
「攻略サイト?もう、そんなのあるんですか?」
「ええ、そこの情報だとね。サイコメーターは怒り、悲しみ、恥辱、あとはなんだったけ?・・・まあ、要するに感情の起伏があると反応するのよ」
「それはそういう感じなのかな?と前からうすうす思っていました」
「なのでどんなことを言われても微動だにしない強い精神力の人が勝つわね」
「...前回はお坊さんみたいな人が優勝してましたよ」
「そうね。まさに無我の境地だったんじゃない?」
「それと疑問なんですがもともと精神が病んでいて何を言われてもわからないとか、そういう人っているんですかね?」
「それはマイNOカードで医療履歴を調べているらしいわ。私、前回の2回戦は不戦勝だったの。その時の私の対戦者は失格だったみたいね。もしかしたら医療履歴にひっかっかったのかもしれない」
「はあ、そうなんですか」
「五反田君は大丈夫?」
「医療履歴ですか?ここ数年医者にいったことないっす」
「それは頼もしいわね」
「あの、霧島部長」
「なに?」
「3回戦はどうして負けちゃったんですか?」
「内緒!てか教えるわけないじゃない!君とは戦うことになるかもしれないんだから!」
「はっはは、そうですね」
「でも、同じ会社だってことは運営もチェックするだろうから私との対戦はお互い相当勝ちあがっていかないと無理でしょうね」
「でしょうね。あ!ちなみに前回負けた理由は俺クリアしてますんで!」
「あ、そ!私は....おっとっと。話すわけにはいかないわね!まあ、お互い頑張りましょう」
「はい!」
俺は交通費の清算で経理課によった。
また、縁だけか...。
経理課は課長と縁しかいないので課長がいなければ縁だけとなる。
「交通費お願いします」
「はい」
俺はその場を立ち去ろうとしたが縁はすかさず俺の手を掴んできた。
毎回、思うがそれは宙を飛んでいるハエをキャッチするカメレオンの舌のようなすばやさだ。
「毎回、急いで立ち去ろうとしますね?」
「そんなことはないですよ」
「そうですか。霧島センパイと何を話してたんですか?」
「正社員の手続きの説明を受けていました」
「あ!そうでした!ハジメさん、おめでどうございます!いきなり係長なんですよね!」
「ああ」
突然縁の表情がパアっと明るくなった。
自分の男の昇進がそんなに嬉しいのだろうか。
まあ、縁の場合は特にそうなんだろうな。
「今日はあ、昇進祝いをするので私の部屋に来てくださいね!」
どっちにしたって君の部屋に行くのだろう?
と思いはしたがそんなことを言おうものならまた面倒くさい反論がくるに違いない。
「ああ、嬉しいよ。ありがとう」
俺は無難にそう応えた。
...浅野さんどうしているだろうか。
先週、着信があったがそれ以来俺も電話してみたが連絡がつかない。
「あ、そうだ!」
「なんです?」
「今週の土曜日は朝の10時から俺は用事があるから会えない」
「なんでですか!あの主婦と会うんですか!」
縁は物凄い形相で怒りだした。
さっきまで、俺の昇進を喜んでいたのに...。
『アストディアラー』にこいつが出たら間違いなく1回戦負けだろう。
「『罵倒せよ!アストディアラー!』っていう番組の地区予選に俺は出場するんだ」
「あすとでぃあら?」
「うん。対戦者に馬事雑言をぶつけて対戦者のサイコメーターを0にすれば勝利」
「へえ、そんな番組あるんですね」
「全国大会優勝者は1000マン!」
「へえ」
「はじまりましたか?『へえ。』病?」
「え?なんですか?」
「縁って興味のない話題になると『へえ』としか言わないんですよ」
「なんですかそれ?以前私が言ったことの真似ですか?」
「あははは」
「笑いごとじゃないですよ。滅茶苦茶ムカムカしますね」
「...ごめん」
「......はあ、優勝とはいかないと思うけど賞金をゲットしたら私を海外旅行にでも連れて行ってください」
「わかりました!」
あさっての土曜日。
いよいよ2回目の地区予選が開始される。