見事、このテーブルで最大の儲け額を手にした先輩と俺は交代し再びNO.3の席に着いた。
シャッシャッシャッシャ!
慣れた手つきでディーラーは次々とカードを配っていく。
俺のカードはブタだった。
「・・・1枚チェンジ」
俺は後ろを振り返りセンパイにニヤッと笑う。
「ベット、ゴールド1枚」
俺はそう宣言した。
このテーブルが先ほどの勝利者なのでベットの順番は俺からなのだ。
「・・・コール」
「ドロップ」
「んー、おりじゃ」
「どうしようかな、・・・私もおり」
俺はさらにベットを上乗せする。
「・・・レイズ、ゴールド1枚」
俺の次の席の20代のサラリーマンは少し考えた末に
「・・・1枚交換っていうのはブラフであなたはブタですよね!?レイズマックス!(ゴールド+4枚)」
そう言い、勢いよくゴールドチップ4枚をテーブルにたたき付けた。
俺とこいつの一騎打ちの展開だ。
俺はすかさず
「それを待っていたぜ、コール!」
「な、なに?」
「それではショーダウンです!3番のお客様から手札を公開してください!」
「おう!フラッシュだ!」
「・・・なんだと・・・スリーカードです・・・」
「いよっしゃああああ!」
1人しか釣ることはできなかったが今の俺の立ち振る舞いはベストだったハズ。
後ろを振り返るとセンパイは微笑んでいた。
俺が間違っていることをやっていたら頭を殴られているはずだ。
ありがたいことにこのメンバーはしばらく変わることはなかったので俺はすごくやりやすかった。
俺はたまにブラフを織り交ぜながら順当にチップを増やしていった。
俺には他のメンバーの動きが見える。
相手の本当によさそうな手が入っていると思われる時は無理して勝負にいかない。
微妙なラインの時にはベットの賭け具合をうまく調整して相手に下ろさせていた。
そしてフルハウスなど俺の手で勝ちが見込める場合はその場の状況でブタで強気にいく姿勢を見せてうまく相手を釣って勝負に持ち込んで勝利した。
おそらく相手からは俺にどんな手が入っているのか毎回、読めなかったことだろう。
「五反田、そろそろ終わろうか」
「はい!」
気づけば俺の手元にはゴールドチップが86枚、シルバーが27枚、ブロンズが25 枚もあった。
「センパイ、昼メシいきましょう!俺がおごりますよ!」
「おう、ま、当然だな」
「何がいいすか?」
「スシだな、スシ。まわってるやつでいいよ」
「了解しやした!」
俺たちは回転寿司屋、サブローに入った。
「しかし、五反田。見事だったな」
「え?まじっすか?まさかセンパイに褒められるとは」
「お前、滅茶苦茶集中してたな?」
「あ、そういえばゲーム中は無心だったような・・・」
「どうやら、他の客の心理を読み、そしてトランプと会話してたようだな。」
「そうなんすかね?でも、確かに、あ、この客には今いい手が入ってるなとか、その場の空気?でわかるようになっちゃいましたね」
「ほう、大したもんだな。ま、コンピューターやってたって聞いたから頭は悪くないとは思っていたが」
「センパイその割には俺に馬鹿野郎馬鹿野郎って連呼してましたよね?」
「まあ、許せ、ほら、俺の大トロ食っていいから」
「うほっ!あざっす!」
「・・・単純なやつだな」
「あざっす!」
「いや、ほめてねえから。・・・それ食ったら外回りいくぞ?」
「・・・まじすか?このまま今日は終わりかと思ってました」
「馬鹿野郎!カジノも遊びでいったんじゃねえ!」
「あ、ほら、また言った」
「くそがっ!」
「今度はクソ扱いですか?ひでーなー」
「馬鹿野郎!せっかく俺が営業トークの見本をお前に伝授してやろうってのによぉ!」
「え?まじすか?」
「やりたくねえってんなら、お前、先に会社に戻ってろ!」
「いやいや、やりますやります!センパイ、お願いしまっす、見せてください!」
俺はあわてて会計呼び出しボタンを押した。
そして俺たちはある住宅街に立っている。
「いいか、五反田。さっきのポーカーを思い出せ。どんなにトークがうまくても絶対に契約までこぎつけられない客は存在する」
「はい」
「そういう客には決して無理はするな。特にこのご時勢、細かいことには厳しいからな」
「はい」
「無理して警察に通報なんぞされたらウチの会社のイメージダウン・・・すなわち売り上げ減少に直結するからな」
「わかりました!」
「まずは無理か押せばいけるか客を判断しろ。お前ならできるハズだ」
「はい。・・・あのぉ押せばイケル客はどう判断すれば?」
「馬鹿野郎!無理な客以外はすべて押すんだよ!」
「あ、なるほど」
「・・・よし、あの家だな。俺がまずは見本を見せてやる」
「お願いします!」
ピンポーン!
センパイはその家のチャイムを押した。
「ハーイ!どちらさまですか?」
オバチャンの声がインターホンから聞こえてきた。
「亜市軽農合でーす!回覧板をお届けにきましたあ!」
「あら、農合さん?ちょっと、待っててくださいね!」
「あ、はーい。お忙しいところ申し訳ありませえーん」
セ、センパイ。
俺と話してるときと声のトーン違いませんか?
なんと可愛らしい声をお持ちで。
俺の肌にはひっそりと鳥肌が立っていた。
気持ち悪いっすよ!
しかも、農合の看板使わせてもらっているとはいえ、農合の職員みたいな感じでそんなこと言っちゃって大丈夫なんだろうか。
ガチャ!
まもなく玄関のドアが開いた。
「農合さん、待たせちゃったわねえ」
「いえいえ、こちら、今回のチラシですぅ」
「え?・・・床下の無料点検?」
「はい!今月末までこの地区でやってます。いかがでしょうか?」
センパイはオバチャンにニコっと微笑み、そう言った。
「・・・農合さんじゃないわよね?うちはこんなもんやらないよっ!」
そのオバチャンはチラシを丸めた。
そしてうさんくさいものを見るような目つきでセンパイをにらみ、センパイに丸めた チラシを投げつけた。
うわーーー、こえええ。セ、センパイ、この後どうすんだ?