役場の一室。
普通の人間に混じり、角が生えたモノ、翼が生えたモノ、燃えているモノ、光るモノ、様々な異形達が忙しなく動き回っていた。
ここは妖怪に関連する事を扱う部署である。
天狗に雪女、鬼に狐、狸、蛇と雑多な妖怪達が人間と共に働いている。
あちらを見れば、蛇腹折りの和本が、人の様に動いて書類整理をしている。
経典の付喪神、
こちらを見れば、古い和式の鞍が、革紐を手のように使って器用にキーボードを叩いている。
鞍の付喪神、
そんな妖怪だらけの中で、一際異彩を放つ集団があった。
対妖怪戦闘部隊の中でも最強と呼ばれる、特殊部隊の連中である。
その特殊部隊が事務仕事に励んでいた。
はっきり言って異常である。
自衛隊のレンジャー部隊が、警察の交通課に手伝いに来たくらいおかしい状況である。
それというのも数年前に復活した邪神との戦いで、戦力の逐次投入という愚を犯し、被害が拡大して人員の大量損失を出してしまい、手が足りなくなったためである。
普通ならこんなことは、在り得ないのだろうが、何分にもオカルトに関連する実践的な能力があるという条件が付くと、どうしても該当する人材が限られてしまうために、この様な妙な事態になっている。
まあ、最後の辺りで上層部の待機命令を無視して、独断で戦場に参加したのが原因の、懲罰人事という噂もあるが、真相は定かではない。
「隊長、遅いな。今日は現場じゃないよな?」
「隊長が遅刻って珍しいな?」
「隊長のことだから、異世界に召喚されて、世界を救う冒険でもやってたりしてな」
「俺、知ってる! テンプレってやつだ!!」
「テンプレだ!」
「テンプレ!!」
「テンプラ食べたい!!」
「テンプレで転移!!」
「テンプレ転移!!」
「略してテン移だ!!」
「テンイーテンイー」
訳の分からない、テンションである。
戦闘部隊というか、チンピラ集団にも見えなくはない。
そこに、毅然と歩み寄る一つの影。
事務員である、妖狐のお紺さんである。
「あなた達、仕事して!! 書類溜まってるんだから」
「お紺さんだー。はよっす!!」
「コンコンだー」
「オッス、コンコンー!!」
「コンコン、オッス!!」
「勝手に変なアダ名つけないで!!」
「でも毎晩、隊長にコンコンされたりしてるんだ」
「コンコンお盛んー」
「毎晩じゃないわよ!! 週に五回くら・・・・・・」
コンコンと咳払いするが、誤魔化せない。
「コンコン本当にお盛んー」
「やるじゃないかコンコン」
次の瞬間、囃し立てる連中の頭に衝撃が走った。
「仕事しろ馬鹿共!!」
彼らを束ねる特殊部隊の隊長だ。
ちなみに、お紺さんと交際中である。
頭に拳骨を落とされ、呻く隊員達。
普通に仕事をしていた他の隊員からは、馬鹿だなあという目で見られている。
「衝撃が突き抜けてくるぅ」
「ひでえよ、隊長」
「というか遅刻じゃなかったんスか隊長?」
「・・・・・・お前らがぶっ壊した施設の件で、上の連中に小言を言われてたんだよ」
藪蛇であった。
これは後でこっぴどく怒られるぞ、と思った問題児な隊員達。
取り敢えず、真面目に仕事して少しでも心象を良くして、お説教を軽くしてもらおうと、いそいそと仕事に手を付け始めた。
「遅刻といえば、一人おらんようだが・・・・・・」
その時、電話が鳴り響いた。
「はい、もしもし」
◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇
アトランティス大陸。
大西洋に存在したという、伝説の大陸であり、現代以上の文明を築きながら、一万と二千年前に、一昼夜にして海に沈んだと言われる超文明。
今、世界に危機が迫っていた。
その古代アトランティス王国の、邪悪なる王が転生を遂げたのである。
しかし、かつてその邪悪なる古代アトランティス王に、立ち向かった戦士達がいた。
彼らもまた、現代に転生を遂げていたのである。
「急げ!! こっちだ」
古代アトランティスでも有数の魔法使いであった、彼らの最後の仲間。
その魔法使いに、アトランティス王の魔の手が迫っていた。
強固な魔法障壁を誇るアトランティス王に、魔法使いを欠いては勝ち目などない。
前世の力に目覚める前に、魔法使いを始末しようとしているのだ。
「間に合うか!?」
「急いで!! 彼が殺されてしまったら!」
男子学生、女学生、さらにスーツ姿の会社員。
古代アトランティス人の転生体である彼らは、前世からの力を受け継いでいる。
人の限界を超えた速度で、駆けて行く集団。
そして、彼らが駆けつけた時、そこで目にしたものは・・・・・・
凄惨な光景であった。
全てが終わっていた。
姿こそ違うが、血の海に沈んでいるのは、前世でよく知る力の波動を持った男であった。
「あ、ああ・・・!?」
「な、何が・・・!?」
この凄惨な光景を作り出したであろう、無傷でたたずむ一人の男。
力の気配こそ違うが、本能的に理解できた。
前世で戦った、あの男なのだと。
「やり過ぎたかな?」
少々焦ったようにその男が、血の海に沈んでいる男の顔に耳を寄せる。
「よかった、ちゃんと息してる」
ビクンビクンと痙攣して、虫の息になっている事を、ちゃんと息をしてるなど、普通は言わない。
古代アトランティスの戦士達はドン引きだった。
「なあ・・・」
「うん・・・」
「覚醒してないよな、あいつ?」
「みたいね」
「前世より強くね?」
古代アトランティス王を単身で血の海に沈めた魔法使いが、遅刻の言い訳が出来ただの嬉しそうに呟いている。
敵とはいえ、人一人を死ぬ寸前まで追い込んでおいて、朗らかにそんなことを言い放つ様には、ちょっとした狂気を感じる。
「俺、学校行かねーと」
「私も・・・」
「さて、私も仕事に戻りましょう」
戦いは終わった。
世界に平和が戻ったのである。
特に何もしていないが。
「今度、みんなで遊びに行かね?」
「いいわね」
「彼は?」
「・・・・・・来世になったら誘おう」
正直、前世の仲間とはいえ、今代の魔法使いとは、ちょっと関わりたくなかったようである。
◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇
「うん、うん・・・・・・分かった、なるべく早くな」
ガチャっと受話器を置く音が響く。
「古代アトランティス王の転生体に絡まれたんで、少し遅刻するそうだ」
前代未聞の遅刻理由である。
普通ならばだが・・・・・・
「ああ、もうそんな時期でしたっけ?」
「毎年、この時期になると湧いてきますよね、アトランティス王」
そんな普通は、特殊部隊の連中には一切通用しないのだが。
まるで害虫か何かのような扱いである、古代アトランティス王。
(毎年、現れてたの!?)
傍で聞いていた一般の事務員達は、頭を抱えていた。
「すみませんね、私の後進が毎回」
そう言った事務員は、初代アトランティス王の転生体である。
「どれだけいるんでしょうね?」
「さて、流石に記録に残ってないですからね」
こればかりは初代アトランティス王もさっぱりだ。
当たり前の話ではあるが、前世の記憶を引き継いでいても、死んだ後の事となると文献等を頼らなければ知りようがない。
謎に包まれたアトランティスの歴史が記録に残っていない以上、初代とはいえ知りようがないのだ。
「一匹見かけたら百匹はいると思えっていうしな」
「今回のは七十二代目だとか言っていたぞ」
「一昨年の百八代目が今のとこ一番でしたっけ?」
「たまにアトランティスじゃなくて、ムーのやつが出てくることもあるよな」
「あるある!!」
一部が盛り上がる中で、一般の事務員達は心の中でねーよと、総ツッコミ。
「しかし、最近は何か平和ですねー」
「だよなー。ここんとこ邪神が復活したりとかもないし」
そんなにちょくちょく復活してたまるかと、またもや総ツッコミ。
した直後に響いた、この前のは大したことない小物でしたしねという声に、二メートル近い真っ赤な巨顔の妖怪、朱の盆もいささか顔を青くしている。
「魔王が召喚されたりとか、そんな事件もここのところ無いですしね」
「そういえば、今年に入ってからは魔王出てないな」
去年まではちょくちょくあったのか!?
驚愕の事実である。
実は週間世界の危機だった事実に、事務員達のSAN値はゴリゴリ削れていく。
床を這って掃除していた、古雑巾妖怪の
「あー、隊長!! アスモデウスのやつからメール来てますよ。今度、皆で飲みにでもいかないかって」
「んー、人数は・・・・・・七十ちょいも来るのか。俺達も含めてだから、どっか大人数で宴会できる店探すか」
これには、恋人が特殊部隊に所属している吸血鬼のピエレットも、開いた口が塞がらない。
どの口で魔王出ないなー、とか言うのだろうか、こいつらは。
「まあ、平和なのはいいことだ」
平和ってなんだろう?
多くの事務員達が、そう思ったある一日の事であった。
とっぴんぱらりのぷぅ
これにてうちの妖怪娘は完結となります。
本来はもう一本、蛇娘を書く予定があったのですが、最後だから自重とか取っ払って異形分増し増しで行こうと思ってたら、それはそれで別にまとめてしまえばと思ったので、次の機会に回しました。
この話に登場した彼女達のその後を書く、妖怪娘さんその後(仮題)
あるいは異形分多めの、妖怪娘さん濃ゆいの(仮題)でまた妖怪娘さんに付き合ってくだされば幸いです。
しかしもっと早く完結させる予定だったのに、大幅に予定超過してしまったなあ。