今まで出てきた娘達や今後登場予定の娘の事を詰め込んだらちょっと説明ぽくなっちゃたかなっと反省。
機種依存文字は環境によっては上手く表示ができないってこともあるんで、避けてきましたが今回から❤を使ってみましたけど、どうでしょうかね?
きつね色の長い髪をしたOLが、パソコンを前に唸っている。
女物のスーツをビシっと着こなしてはいるが、背が低く童顔、あと胸も控えめのため、キャリアウーマンというよりは、可愛らしいという形容の方が似合う少女のような女だった。
唸りながらも、止むことなく軽快にキーボードを叩く音が響き、それに合わせるように大きな狐耳がピコピコと動き、椅子の隙間から飛び出たふわふわした二本の尻尾が揺れる。
彼女の名は紺。
狐の妖怪である。
「人手が足りない・・・・・・」
大量の書類、書類、書類。
書類が山になっている。
まあいつもの事なのだが、それでもというか、だからこそというか、愚痴も出るというもの。
「これもみーんな、上の連中が悪い」
数年前に厄介な戦闘作戦があって、上の無能で戦力の逐次投入各個撃破で部隊が半壊するという洒落にならない一件があったため、現在も人手不足が解消されていないのだ。
龍脈や霊域の管理に今まで事務職だった者も駆り出されているので、必然的にあちこちにしわ寄せがきている。
ちょっとした戦闘作戦にも特殊部隊の人員が出張ったり、さらには書類仕事の手伝いにも回される辺り、人手不足が顕著に現われている。
(でもあの人達、データ入力以外は使えないのよね。というか感覚がズレているのが問題というか)
そう考えていると、さっそくその問題児達がまたぞろ動きを見せた。
「お紺さん、これD案件でいいですかね?」
「・・・・・・ええーと?」
本当はもっと長い正式名があるのだが、そちらはあまり呼ばれることはなく、単に特殊部隊、あるいは精鋭部隊と通称される日本最強の対妖怪戦闘部隊。
それが事務仕事をやらせて不満が出ないのかと思うが、意外にも喜んでいる節があるのが、誰からも不思議に思われている。
まあ、喜んでやっていようと、ちゃんと出来るかどうかはまた別問題なのだが。
「・・・・・・なんで離婚調停とストーカー相談が、D案件になるの?」
D案件。
DはデリートのD。
安直なネーミングだが、そうなってしまったものを、今更変えるのも面倒くさいのでそのまま使われているが、ようは対象の抹殺。
早い話、戦闘による問題解決が必要という案件だ。
人喰い妖怪相手ならまだしも、間違っても離婚調停やストーカー相談で出す結論ではない。
「でもこの離婚調停は、雪女側の親族が正体がバレたから別れろと騒いでいるだけで、当人同士は別れたくないという案件ですから、騒いでいる親族を消してしまえば問題は解決と」
「別の問題が発生しちゃうでしょ!! まずは説得!!」
頭の中で、雪女の職員のリストアップ。
長年の経験から、こういうのは同族の妖怪がいた方が良いという傾向が分かっている。
それと交渉事が得意な面々をリストアップして、案件に沿う人選を考え、彼等を派遣するように書類を作成する。
この辺りの処理をものの数分で片付けてしまうため、この紺という妖狐は事務員として重宝されている。
「で、こっちのストーカー案件は・・・・・・」
――私はタンタンコロリン(♀)なのですが、付き合ってる人間の彼に別のタンタンコロリン(♂)がちょっかいをかけてくるようになって――
「ストーカーしてるタンタンコロリンのやつをぶち殺してしまえば解決ですよね!」
「何で自信満々なの!? まず詳細を調査して、ストーカーしてる事実を把握して厳重注意!!」
「はあ? そういうものですか?」
特殊部隊所属の男はひとしきり感心したと頷くと、席に戻って仕事を再開した。
(疲れる・・・・・・常識がどこかズレてるのよね、あの人達。隊長さん、早く帰って来て)
一人じゃフォローが辛いと独り言ちる。
一番の常識人である特殊部隊の隊長さんが来てくれれば、楽になるのにと切に思う。
別の案件で動いているので、しばらくは戻ってこないのだが。
(でも一番強い人が、一番常識人ってのがちょっと怖いのよね)
特殊部隊は完全実力主義だ。
その大半が人間のため、人間贔屓と言う者もいるが、実際は完全実力主義にしたら人間ばかりになっただけなのだ。
一人一人が、比喩抜きで文字通りの一騎当千の化け物揃い。
人型の主力戦車だ戦闘ヘリだと例えられる、高位の鬼や吸血鬼と一対一で戦える、というか上位陣辺りになると素手で殴り殺せるような連中だ。
(良い人達では、あるんだろうけど)
こうして特殊部隊の人達と、交流が続くにつれて紺は思うのだ。
あの人達は強くなるために、何かを削ぎ落としてきてしまったと感じることが多い。
あんな化け物じみて強くなるための何か。
生まれ、育ち、環境か、強くならなければならない、そうでなければ生きられないような、何か異常な要素が、人生の中にあったのだろう。
常識を身に付けるような生活が出来なかったのだ。
だけどそれを束ねる一番強い人が、一番常識を身に付けている。
だからこそふとした弾みで、何かとんでもない歪みが顔を見せるような、あの人にはそんな怖さがあるのだ、と。
(・・・・・・いけない、いけない。そんな風に考えちゃ)
自分が孤妖だから、警戒心が強すぎてしまうのだろうかと反省する。
こんな考え事をしながらまったく手を止めず、書類のデータを入力していく速度が落ちないのが大したものだ。
「お紺さん、何か新潟の方で臼を背負った妖怪が出たとか何とか通報が」
「ああ、それバーバ・ヤガーのワシリーサさんね。たまに死んだ恋人思い出しては、倒れるまで走って日本の沿岸部なんかにも出没するのよ。それだけだから放っておいても問題ないわ」
答えながらも、処理を続けていく。
今は出産届けの処理に追われている。
これもなかなか多いのだ。
人間派生型妖怪、二口女の・・・・・・
「えっと、次はっと」
自然霊型妖怪、垢嘗めの・・・・・・
「また、こいつか」
この妖怪は毎年のように出産届けを出してくるので、すっかり名前を覚えてしまった。
確か今回で六人目。
(ラブラブか? ラブラブなのか? アナタの子供孕みっぱなしなのーとかやってんのか?)
こちとら三百年以上処女だってのにと、イライラを募らせていく。
さっきのタンタンコロリンもそうだ。
木精の一種であるタンタンコロリンが人間と付き合うって、何年かはやりまくって精を注がれなきゃ人間形態維持できないんだから、つまりそういうことだってーの!!
キーっと苛立ちをキーボードにカタカタと叩き付けて、データを打ち込んでいく。
しばらくそうしているとパソコンの画面下に、ポップアップが表示された。
メールのお知らせだ。
妖怪はどうもこういう機械に疎い連中が多いのだが、最近はだんだん使用頻度も上がってきている。
こうしてメールで相談を受けるケースも多くなってきた。
メールを開いて、目を通す。
――私は送り狼という妖怪なのですが、人間の彼氏に発情期でもないのに求められて困っています。恥ずかしい話ですが最近は、何かだんだん良くなってきてしまって、発情期でもないのにこんなことしてしまっても大丈夫なものかと――
知るか、ボケェ!!
と、キレそうになりながらも、慣らしていけば発情期じゃなくてもOK、あと口や尻穴でも使っとけばいいよという内容をオブラートに包んで注意点も添えて送り返す。
そもそも妖怪の発情期なんて若い時分だけで、長じれば人間と同じようにいつでもいけるようになる。
(経験無いのにこういう知識ばっかり増えてく。ちくしょう、どいつもこいつもー!! 私だって彼氏欲しいよぉ!! いいかげん一人寝は寂しいよぉ!!)
と、そこで昼休みのチャイムが官庁内に響き渡る。
溜息を吐き出して、気分を切り替えようと席を立った。
お昼の前に、ジュースでも飲もうかな。
それとも給湯室の冷蔵庫に入れてある冷えたオリーブオイルでも舐めようか。
さてどうするかと考えながら待合室の辺りまで来ると、一般の妖怪達が集まって世間話に興じていた。
妖怪関連の問題を扱う部署の待合室のここなら、人間に化けていなくても問題はなく、役所に用はなくても仲間との世間話に集まってくる妖怪は割と多いのだ。
(あ、夜行さんだ)
その中に見知った顔を見つけて、足を止めた。
地縛霊や浮遊霊を浄化したり、死んだ人の魂を導いたりする死神業をしている妖怪だ。
最近はデュラハンとよく一緒にいる。
なんでも死神業をしに日本に来ていた娘さんが、人間と結婚してしまって、それに反対して連れ戻そうと毎回その人間のところに押しかけているのだと。
「デュラハンバスターとデュラハンドライバーは破られたが、今回は新たにデュラハンスパークとデュラハンインフェルノ、そしてデュラハンリベンジャーという技を開発した。これで今度こそあの男を倒してみせる!!」
「旦那、いい加減に諦めたらどうなんや?」
「しかし、あの男め。不思議な技を使いおって・・・・・・背後からまるでパイプ椅子でぶん殴られたようなダメージを受けたぞ」
(それは夫を助けようとした娘さんに、後ろからパイプ椅子で殴られたんじゃ?)
そもそも娘を連れ戻すという目的が、すでにズレてしまっているような。
まあ割りと仲良く喧嘩している感じだし、問題はなさそうだ。
いざとなったら夜行さんが止めてくれるだろうし。
と、思いながら食堂への歩みを再開する。
(今日は紅葉もピエレットもいないのよね)
二人共、数年前に職員になった鬼と吸血鬼だ。
歳若いが今では紺の気の置けない友人である。
ピエレットは付き合ってる恋人の休暇に合わせて有給を取っている。
紅葉は近々結婚予定の幼馴染、その師匠である烏天狗の家に行っている。
人間と結婚した末の娘さん、芹ちゃんと言うらしい、が半狂乱で夫が殺されたと連絡してきたので、すっ飛んでいったのだ。
実際は息子と娘にお父さんって弱いの? と聞かれてムキになった旦那さんが修行を開始。
相手をした義兄にあたる烏天狗も、可愛がってる甥と姪にいいところを見せようと張り切りすぎて、加減を間違え旦那さんの腕の骨にヒビを入れてしまったとか。
それで旦那さんが怪我をしてパニックを起こした芹ちゃんが、通報してしまったということらしい。
お兄ちゃんなんて大嫌いと妹に嫌われ、甥と姪にも怖がられて大変らしい。
太郎坊やめるとか腹を切るとか大騒ぎで、なだめるのに時間がかかってるとか。
ふう、っと深く溜息をつく。
最近はどれもこれも色恋沙汰ばかり目に付く気がする。
鬱屈した気分で、紺は自分の手首を見る。
紅葉とピエレットがしている、鎖のアクセサリーを思い出す。
あれは日常生活では腕力過多な妖怪の力を封じる呪具である。
別に付けていなければならない義務は無いのだが、彼/彼女を気兼ね無く抱きしめられるとかで、割りと好評だったりする。
だから付けていないということは、自分は独り身ですとアピールしているような、そんな気持ちを紺は払拭できないでいる。
(千年、三千年と生きた、天狐や空狐どころか、三百年以上生きても尻尾が二本の野狐でしかない私に、必要ないのは分かってるんだけどね)
分かっていても感情で納得出来るかは別問題なのだ。
もっと奔放というか淫蕩に生きればよかったのだろうか?
他の妖狐を思い出すと、みんなスラっと高い背にボン・キュッ・ボンのスタイルで、つるぺたんな自分とは大違いだ。
(妖狐ってもっと色々育ちやすい種族なはずなのにな)
腰は割りとくびれてるわよね、と腰に手を当てて揉んでみる。
処女なのがいけないのか?
妖狐は確かに淫蕩な質の妖怪ではある。
だが紺は生まれてすぐに人間に拾われ、箱入りお嬢様として育てられ、すっかり人間の価値観が染み付いてしまった。
そのため貞操観念は強くなったが、流石にこじらせすぎてしまったと最近は焦りが募るばかりだ。
「お義父さん、もうちょっと淫蕩に育ててくれてもよかったんじゃないでしょうか?」
草葉の陰で聞いていたお義父さんも、流石にこの台詞には苦笑い。
紺の母は妊娠した時分に栄養が足りず、仕方なく人間から食べ物を盗んだのだが、後日そのお詫びに野の獣を狩って持っていった際に、また盗みに来たと思われ射殺されてしまったのだ。
当時の食糧事情を思えば、それも仕方ないことではあったのだろうが、子を育てるためだったと知った人間はそれを悔い、産まれたばかりの紺を引き取って育ててくれたのだ。
紺というのも母のオコンという名を継いでいる。
そして本当に我が子のように大切に育ててくれたのだが、まあちょっと大事にされすぎた。
そもそも義父としては、娘を淫蕩に育てようなんてそんな発想は存在しないだろうし、責めることはできないのだが。
そうこうしている内に、職員用の食堂に到着。
「って、誰よこんな危険な物置きっぱなしにしたの!?」
したと同時に、テーブルに放置されていた少年漫画雑誌を慌てて回収する。
「特殊部隊の人達が読んで、真似したらどうするのよ」
特殊部隊の面々が漫画に影響されて、サッカーやテニスで遊技場を半壊させたのは記憶に新しい。
彼等にとって少年漫画は荒唐無稽なものではなく、実際に出来てしまう事柄なのだ。
・・・・・・連中の存在自体が荒唐無稽とも言えるが。
(あの時まったく関与してなかった隊長さんが方々に頭下げて回って、結局自分で修理してたのよね)
あの時は怒るの怒らないの、特殊部隊のみんなが泣き入るまで絞り上げられていた。
こっちにとばっちりが来るようなことをする人ではないが、あの時の威圧感は凄かった。
またあんなことがあっては、こっちも堪らない。
この漫画雑誌は遺失物入れに突っ込んでおこう。
◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇
「はあ、お揚げ美味しい❤」
きつねうどんに舌鼓を打つ、至福の時間だ。
食事は勤務中の数少ない楽しみだ。
狐の妖怪だからお揚げが好きというわけではないが、動物の変化である以上は油っこい物を好む傾向にある。
栄養バランスにこだわる必要も人間と違って薄いので、最近はちょっと手抜きをして油を舐めるだけで済ませたりということも多いから、ちゃんとした食事はお昼くらいだ。
なおさら味が染みようというもの。
冷蔵庫の中身がビールと油だけというのは、流石にそろそろ何とかした方がいいと思うのだが。
「美味そうだな」
「あれ、隊長さん?」
いつの間にか、向かいの席に特殊部隊の隊長が座っていた。
気配をまったく感じさせないこの男は、気付くと側にいたりして心臓に悪い。
「任務終わったんですか? もっとかかるかと思ってました」
隊長が担当していたのは、妖怪の奴隷売買組織の内偵だ。
日本ではもう無くなったが、海外では人間も妖怪も物のように扱う連中というのはいまだにいる。
そのバイヤーが日本に拠点を作ろうとしているというので、内偵中だったのだが。
「連中、エルフに手を出しておってな」
「ああ・・・・・・」
エルフ。
北欧を起源とする妖精種。
日本では美しく気高い存在などのイメージがサブカルチャーなどで定着しているが、実際は相当に質の悪い連中だ。
姿は子供のようだが、いたずら好きで、悪夢を見せたり、呪いに長けて病も操る中々に厄介な存在である。
「全員重い性病になって倒れていた」
「あー・・・・・・」
「む、すまん・・・食事中にする話ではなかったな」
「いえ」
隊長は頭を下げた後、書類を取り出して紺に手渡した。
「それで、そのエルフなんだが、保護してくれてた男と結婚すると言っててな。戸籍の作成と入籍手続きをだな」
「あ、はい・・・・・・」
(こいつもか・・・・・・)
昔から日本は妖怪との婚姻が割りとあった国のため、戸籍の取得も別に難しいことではないのだ。
ただ、当時作られた法律のままのため、外国の妖怪でも日本国籍が割合簡単に取れてしまう。
妖怪という括りで扱っているため、出身地が日本以外でも適用されてしまうためだ。
どうかとも思わないでもないけれど、現状がそうなっている以上はそうしなければならない。
問題はだ・・・・・・
(面倒くさいのよね、これの手続き)
簡単なのは申請者側であって、受理するこっちの手間は簡単ではないのだ。
流石にこの忙しい中でさらに煩雑な仕事を増やすのに気が引けたのだろうか。
「すまん、夕食でも奢ろう」
「・・・・・・じゃあ、遠慮無く」
隊長さんも忙しいのは分かっているのだが、せっかくのタダ飯のチャンスを逃す手はない。
こう見えて隊長は中々の食道楽と噂で、美味しい店をいくつも知っていると聞く。
(まあ、あまり高いお店じゃ悪いし、居酒屋辺りにしておきましょう)
◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇
さて、もう一仕事頑張りますかっと気合を入れて、仕事を再開する。
問題児達は隊長さんが面倒見てくれるので、自分の仕事に集中できるだろう。
(隊長さんにご飯奢ってもらうのも楽しみだ。明日はお休みだし、多少遅くなっても問題ないからゆっくり飲めるなー)
「隊長ー、装備の発注どうします?」
「土砂加持した土を五袋。独鈷杵と七鈷杵を三個。如意宝珠が四個いるな。日本刀用に鉄の発注もしてくれ。呪符用の紙を千枚、鶏の血と、施餓鬼米もそろそろ切れるな」
装備品の発注は未だに手書き書類で行っている。
使用目的に申請理由まで書かされるので手間で仕方ない。
(まあ、今日は隊長さんがやってくれるから楽できるわね)
というか、自分達で使うものなんだから自分達でやってくれと。
こっちは門外なんだから、使用目的書くの苦労するんだから。
と内心、愚痴りながら次の書類を手にする。
「あ・・・・・・」
その内容に目を通し、しばらく固まる。
そしてもう何度か目を通して、それが間違いではないことを確認した。
「お妙さん、死んじゃったんだ」
それは百年くらい前に知り合った化け猫の・・・・・・死亡届だった。
◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇
「・・・・・・ふえ?」
最初に感じたのは気怠さと、どこか心地良さをも感じるような疼痛。
次に感じたのは、鼻孔をくすぐる味噌と油の匂いだ。
「・・・・・・あ、れ?」
見慣れた自分の部屋だった。
「起きたか? 具合はどうだ?」
「隊長さん?」
身を起こそうとした途端、鈍痛が走った。
「
「痛むか? 昨日はずいぶん飲んでいたからな」
まだ判然としない思考が、だんだんとはっきりしてくる。
この痛みは、二日酔いではない。
痛むのは頭ではなく、股の間・・・・・・
そっと布団を捲ると、何も着ていなかった。
股の間は何かヌルヌルとして、敷布団には血の跡が残っている。
(あ、あれ、これってヤッちゃってるよね!? 私、隊長さんにお持ち帰りされちゃった!? 隊長さんってそういう人だっけ!?)
差し出されたコップを受け取って、平静を装って水を飲み干す。
内心はパニック寸前だ。
(知らない間に処女喪失!? い、いや、いやいや・・・・・・こういう急展開は想像してなかったというか。覚えてないってどうなのよ、私)
水のお代わりを貰って、二杯目を口にしながら、必至に昨日のことを思い出そうとする。
昨日は古い知り合いの死亡届を見て、凹んでしまったのだ。
それで、約束通り隊長さんに居酒屋で夕飯を奢ってもらって・・・・・・
「それでねー、お妙さん旦那さんのお墓の前で亡くなってたっていうんですよー」
「うん、そうか」
「聞いてますか、
「ああ、聞いてる。その話は四回目だ」
「そうですかー、じゃあもっと飲んで下さい!!」
「いや、ちょっと飲み過ぎではないか?」
「私の酒が飲めねーってのか
(きゃああああーー!? 何してんの昨日の私ーー!?)
普段やらないというか、かつてないほどベロベロに泥酔して、隊長さんに絡みまくっていた。
それでまともに歩けなくなった私を、隊長さんがおぶって家まで送ってくれて・・・・・・引っ張りこんで・・・・・・
「
(ぎゃああああああーーーー!? やらかしたのは私だーーー!?)
「もうすぐ朝食が出来るから少し待っててくれ」
「・・・・・・隊長、さん」
「ん?」
「昨日は、その、とんだ醜態を・・・・・・」
隊長は苦笑を浮かべると、酒は程々になと言って台所に戻っていった。
「・・・・・・・・・はっ!? あ、あの隊長さん、冷蔵庫の中、見ました?」
「・・・・・・程々にな」
(うあああああ~~~!!)
酒と油だらけの冷蔵庫という、乙女にあるまじき物を見られてしまったと身悶えする。
◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇
「いただきます」
異口同音に食前の挨拶を唱え、朝食に手を付ける。
(あ、美味しい)
程良いかつお節の効いた出汁と、味噌の風味の加減が絶妙だった。
汁をたっぷりと吸ったお揚げも、しっかりと味を主張して、口内で渾然一体となって味蕾を刺激してくる。
お米もふっくらと炊き上がっていて、米の旨味がたっぷりと楽しめる。
これに鮭の旨味と醤油の旨味が合わさって、また堪らない旨味へと合成されていく。
(うう、隊長さん料理上手なんだな。私も出来るけど最近サボってるしな、それにこんな美味しくは出来ないし)
朝から丼三杯余裕でした。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様。口に合ったなら何よりだ」
ズズッと、食後のお茶を啜り一息付く。
(それにしても隊長さん、余裕だな。私よりずっと歳下なのに)
妖怪は中々精神が老成しない傾向があるという。
だから何百年も同じことを繰り返したり、簡単に騙されてしまったりという事例が多い。
なので、人間の方が大人っぽいというのはそんなに珍しいことではないが、あまり慰めになる話でもない。
(それにしても、夜明けのコーヒーならぬ夜明けのお茶を飲んでいるというのに、この落ち着きっぷりはちょっと釈然としないのですけどね、女としては)
「それで、紺。俺は責任取った方がいいのか? それとも忘れた方がいいのか?」
いきなりの発言に、むせて盛大にお茶を吹き出してしまった。
落ち着くまで黙って背中を擦って、テーブルを拭き、後片付けをこなしていく。
(うう、隊長さん優しいな。ちょっときゅんっときちゃったかも)
「いや、な。俺もそんな無責任なことはするつもりはないのだが、一度抱いた程度で自惚れるなと・・・・・・その、なんだ・・・・・・嫌だ、と言うなら忘れるが」
(ど、どどどどど、どうしよう!? どうしよう!? どうしよう!? か、彼氏ゲットのチャンス到来してる!? いやいやいや、こんな成り行きというか衝動的というかそんなのでいいのか私!? でも、でも、そうすると彼氏できないし、隊長さん悪い人じゃないし、料理美味しいし、これはいっちゃうべきでしょうか!!)
しばし逡巡した後、紺は打算の混じった感情で深々と頭を下げた。
まあ世の中の大半は、大した理由もなくなんとなくでくっつくものなのだし、別に不思議でも悪いことでもない。
「ふ、不束者ですか、よろしくお願いします・・・・・・そ、それで、その、い、一度で不安でしたら、も、もう一度、抱いてみます?」
◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇
くちゅっと、唇を吸われ、すっと離れていく。
軽く口付けを交わしただけなのに、頭に桃色の花が咲き乱れたような気分になる。
(キス、ふわふわする、す、ごい)
紺の体はかなり小さく、精々が中学生並と言っていい。
軽く口を被せられただけで、唇の端から端まで飲み込まれるようになってしまう。
「んちゅ」
湿った音が口から漏れ、粘着感のあるものが潜り込んでくる。
「んっ? おふぅ」
甘くて、ねっとりとしたものが、紺の舌に絡み付いてくる。
(あ、これ舌、だ❤)
舌と舌の粘膜同士を絡め合う。
剥き出しの感覚器官で、お互いの唾液と熱を交換し、そして味を確認していく。
「んふぅ、んろっ、ちゅるぅ」
ぐちゅり。
ぬちゅ、ねっちゅ。
粘着質な音が部屋に響いていく。
隊長の手が、優しくピンと尖った紺の狐耳を抑え、わさわさと撫で回している。
耳が抑えられてしまっているため、口内から響く音が、殊更に脳内に反響して、淫猥な音色に脳神経が犯されてしまう。
口付けとは紛れも無く、性交の一つなのだと身を持って教えこまれてしまっている。
口内に押し込まれた舌が、頬の裏側や歯茎の敏感なところを的確に探り当てて、執拗に摩擦による愛撫を行ってくる。
「んん、ちぇふ❤」
舌を吸い出され、また押し込まれ、口内を陵辱され、どれほど時間が経ったか。
喉元まで唾液でベタベタと濡れ、脳も顔もキスに酔わされていた。
「んふう!?・・・・・・❤」
すっかり蕩けきっていた脳が、新たな快楽信号を受け取り、身体を跳ね上がらせる。
伸びてきた手が、腟前庭部を優しく揉み解していた。
キスされながら、むにむにと性器を刺激され、紺の身体はガクガクと震えだす。
(あ、ゆ、びぃ、入ってきたぁ❤)
ゆっくりと膣内に差し込まれた指が、にゅぐりとその柔い肉を掻き分け、一番弱いところを的確に撫で回す。
たちまち達してしまった紺は、痙攣とともに崩れ落ちてしまう。
そっと紺の体を布団に横たえると、その身体に指を這わせていく。
「ぁあ❤」
ひどく柔らかい肉の感触。
手荒に扱えば壊れてしまいそうな感触。
だがすでに一度味わっているその手の動きは、すでに手慣れたものになっていた。
(あ❤ これ、この感触、覚えてる❤)
酒のせいで記憶は曖昧ではあるが、その感覚は体が覚えていた。
幼児体型と紺は悩んでいるが、その肌のきめ細やかさに関しては、密かに羨まれている程である。
その肉付きの薄いながらも、肌も肉も張りと弾力のある平らな白い肌の一面に、自己主張する突起が四つ。
哺乳類というものは、乳房を複数持つもので、人間は一対である。
だが動物には二対、三対と多くの乳房を備えるものもいる。
元々は人間も多くの乳房を持っていたが、少産の動物は退化して少なくなる傾向がある。
だが退化しても無くなったわけではないのだ。
大半の人間はほとんど目立たないが、時折、副乳や過剰乳頭と呼ばれる、退化しきらなかった乳房が残っていることがある。
人間でさえあるのだ。
動物の変化である妖怪ならば、尚更である。
人間に化けても副乳が残りやすい傾向にあるのだ。
するっと指がその腰を撫で、線を引く様に流れていく。
やがて脇の下に差しこむように入り込んだ手が、その胸を撫で回していく。
優しく、的確に、性感を確実に高める動きで。
小柄な体だからこそ、男のその手で四つの赤く腫れた胸の淫核を同時に擦り上げられてしまう。
キスによって茹で上がった身体は、軽く擦られるだけで、達しそうになる。
女とはまったく違う質感の手が、自分の身体に触れるたびに、お前は俺のものだと言われているような気になってくる。
男に支配される。
だけどそれに嫌悪感はなく、むしろ暖かみさえ感じている。
(これ、がぁ・・・・・・セッ、クス❤)
ちゅむっと、左の副乳を吸われた瞬間、一気に達してしまう。
胸が痺れるような感覚に満たされ、目の前がクラクラしてくる。
(おっぱいぃ、ぺろぺろされて、ちゅうちゅうって吸われて、す、ごい、おかしくなりそう❤)
胸の突起を男の舌がにゅるにゅると流動しては擦り上げて、息つく間もなく、乳房の肉を揉み上げられ、空いた乳首を指で摘み取られて再び絶頂をむかえた。
「あ、あぅうぅぅうううぅぅううぅうううう~~~~~~❤」
イッてしまって痙攣しながら息を荒げる紺の体を、そっと持ち上げて向き合って抱き合う形にする。
対面座位の形だ。
そしてその足の間に、桃色の穴に、女としての一番淫らな部分に、男の象徴をあてがってやる。
すっかり解れた柔肉が吸い付いてくる。
「いくよ」
「・・・・・・あ、ひゃい、
紺が自らの意志で、そのままゆっくりと体を沈めていく。
甘く喘ぎながら、徐々に徐々に深く結合していく。
やがてその最奥を、こんっと叩かれるとビクンと震えて、紺は男の体をぎゅっと抱きしめた。
「
「うん、動くよ」
二度目の性交とはいえ、元々妖狐とは多淫の気がある種族だ。
多少の痛みはむしろ性感のファクターとさえ言え、すっかり茹だった体を揺すりつけて、その陰唇で肉棒を咥え込み、男の体にその四つの乳首を擦り付けて、快感を貪り始めていた。
「ひもちひいぃ❤
その狐の耳を甘く噛まれると、膣肉がきゅうきゅうと締まり、全体がうねるように蠕動運動を繰り返す。
ようやく覚えた男の味を、一辺たりとて逃がすまいと、イキ狂いながらも腰を振るのを止めずに動き続けている。
遅まきながら花開いた狐妖の淫性が、男を貪ろうと小さな体を必死に振らせていた。
「耳ぃ、耳はむってされるのいいのぉ❤ 乳首も擦れて感じるぅ、おまんこぐちょぐちょして良いよぉ隊長さぁん❤ 尻尾❤ 尻尾もいじって❤」
跳ねてうねる二本の尻尾。
その付け根の中心部を的確に捉えて、根本から絞り上げるように、尻尾の先端まで撫で上げていく。
「イク❤ イク❤ イクぅ❤ 尻尾でイクぅ、イッちゃう❤ ~~~~~~~~~~~~❤」
妖狐の婬はそれから一昼夜、散々にお互いを貪りつくして、ようやく治まったのだった。
内訳は口付けで六回、胸で十二回、耳で七回、尻尾で十回、女性器で八回。
◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇
(ふ、ふへへへへへ❤・・・気持ち良かったなぁ❤ 肌と肌が触れ合うのってすごい陶酔感と高揚感があるにゃ~。これクセになる、みんなしたがるわけだぁ。えへ、えへへへへ❤)
胸に顔をすり寄せ、その温もりを感じ取る。
皮膚の下の筋肉の弾力が、上等な枕のように心地良い。
(鍛えてるなぁ、隊長さん❤)
最強の特殊部隊の隊長さんだ。
それも当然か。
むしろそれにしては、割と普通っぽいくらいかも。
(でも、よく見ると傷がいっぱいね)
「・・・・・・」
ふと、呟いた声が耳に入ってしまった。
(それが隊長さんの歪みなのかしら?)
それは、おそらく大切な人の名なのだろう。
もうどんなに求めても二度と手に入らない大切な人の。
そんな確信があった。
そして急に理解できてしまったのだ。
特殊部隊の人達がなんで書類仕事を喜んでやっているのか。
強くなるために人間としての何かを、捨ててきてしまった人達。
強くなるために人間としての何かを、削ぎ落としてしまった人達。
強くなるために人間としての何かを、失ってしまった人達。
彼等も人間に戻りたいと、無くしたものを取り戻したいと、戦いのない日常に馴染もうと、ずっと足掻き続けているのだろう。
それは妖怪も同じなのだ。
何かを求めるように、小袖は手を生やし、火や煙は顔を形作る。
そしてやがては人に化けて近付いていく。
人を脅かし、人を助け、人を喰らい、そして人と番って。
妖怪は人間に関わらずにはいられない。
ある日、義父が紺をその背に負って散歩をしていた時のことだ。
「見てご覧、お紺。今日は空がきれいだね」
私はそれまで、空をきれいと思ったことなどなかった。
空は空だ。
それ以外のなにものでもない。
だけど、義父はきれいと言ったから、私は空とはきれいなものなのだと思った。
その日から、私の世界に色が付いたのだと思う。
あの日から、何かをきれいだと思う心が生まれたのだと。
それは妖怪が何処かに置いてきてしまったもの。
忘れてきてしまったもの。
それを育てる方法を、見つける方法を、人間は知っている。
空をきれいだと思える。
路傍の石にさえ愛おしさを見いだせる。
たぶん、愛と呼ばれるものを。
妖怪も、みんな愛し合いたいと思っている。
だから、妖怪は人間が大好きなのだ。
狐っ娘でした。
お紺さんの元ネタは静岡に伝わるオコン狐の伝承から。
その子供ってことで設定してます。
当初の予定だと隊長さんはモブで事務員が竿役だったんですが、書いてたら想像以上に出番が増えちゃったのでそのままくっついてもらうことにしました。
ボツ案としては
「隊長がまた異世界に召喚されたぞー!!」
「今月で五回目だぞ!?」
「魔王を倒して帰ってくるに一万」
「悪の帝国を滅ぼすに三万」
「召喚者殴り倒して帰ってくるに二万!」
みたいなギャグ描写の予定もありました。
前回と今回の話で現在執筆を予定してる娘さん達の情報は、蛇っ娘を除いて出揃ったことになりますね。
次回からはまた一般人と妖怪のカップリング。
さて次は化け猫の話をば。その次は雪女。