ゼルダの伝説『時のオカリナ』ナビィに転生したと思ったら、肉便器だった件 作:はくびしん
夢を見る。
わたしは夢を見る。
大きくて柔らかいベッドの中で、私はいつも夢を見る。
少し前まで、わたしの夢は素敵だった。
森の動物やお花と話したり、鳥になって空を飛んだり、冒険家になって海を渡ったり、勇者になって火を吹くドラゴンを倒したり━━━。
現実では絶対起きないような何かが毎日のようにやってきて、お城の中では出来ない全部が出来るそれが楽しくて楽しくて、私は一日の終わりが来るのをずっと楽しみにしていた。
けれど、そんな日はある時突然終わってしまった。
苦しくて辛い夢を見た。
耳に響く沢山の悲しい声、むせ変えるような鉄の臭い、目に映る黒い雲に覆われる一面の大地と赤く燃え上がるハイラルの城下町。
そして、その悪夢のような世界に佇む黒衣を纏う赤い髪の大男。
大男は振り返りわたしに笑いかける。
とても、とても、恐ろしい笑顔で。
そして、いつもそこで目が覚める。
身体中汗でぐっしょりで、ベッドも色が変わってる。
鏡で顔を見ればびっくりするほど顔色が悪い。
一番最初にこの夢を見た時は悲鳴をあげて泣いてしまって、おとうさまやおかあさま、乳母のインパ、他にも沢山の人達を心配させてしまった。今はそんな事ないけど、やっぱり気持ちの良い寝起きにはならない。
「ゼルダ様」
不意に掛けられた声に顔をあげるとインパの顔があった。心配そうにわたしを見つめる目が嬉しい。
「また、あの夢の事を考えていたのですか?」
「うん。すこしね、思うところがあって」
「そうですか。ですが、あまり一人でお抱え為さらぬように。このインパ、いつでもゼルダ様のお力になります故」
「ありがとう」
わたしはインパを伴って中庭にいく。
こじんまりとしたその中庭には窓があり、そこから謁見の間が見えるようになっている。わたしはそれを見に行ったのだ。
何故なら今日はまたあの男が、おとうさまに謁見する日なのだから。
そっと窓を覗けば方膝をついておとうさまにかしづく大男の姿がある。最近おとうさまに忠誠を誓うといって近づいてきた、ゲルドの王ガノンドロフの姿が。
「ガノンドロフ・・・」
そっとその名を呟けば、聞こえてない筈のガノンドロフの目がわたしを捉える。恐ろしいけれど、逃げる訳にはいかない。おとうさまやおかあさまは気づいてないけれど、あの男は嫌な気配がするのだ。見張っていなければ何をするのか分からない。勿論わたしみたいな子供が見張っているからと言って意味があるとは思えないけど、それでもこうして何かしていないと落ち着かないのだ。
「あなたなんか━━━」
わたしは夢で見たあの光景を思い出す。
ずっと暗くて嫌なだけの夢だったのに、少し前から少しだけ変わったのだ。
恐ろしいガノンドロフの笑顔の後、どんどんと暗くなっていくハイラルに突然光が現れる。
森の方からやってきたその光は雲を切り裂いて大地を照らしていく。そして決まってガノンドロフを殴り付けていくのだ。何かを叫びながら。『なびい』がどうとか言って。
わたしはその光に目を凝らして見る。
するとその光は一匹の妖精を連れていて、緑の石を掲げた人だったのが分かるのだ。
わたしはいつもその人にお礼を言おうとするのだけど、その人決まって首を横に振る。どうしてと訪ねると、それも決まってこう言うのだ。
『邪魔だったから殴っただけ』
よく分からない。
けれど、その人がハイラルを救ってくれる勇者様なんだって事は何となくわかった。
だからわたしは待ってる。
いつかわたしの元に現れる、光の勇者様を。
「っ!!貴様っ、何者だっ━━ぐはっ!?」
突然背後からインパの断末魔が聞こえてきた。
驚いて振り向くと、地面に倒れ付したインパの姿と、緑の服を着た私と変わらないくらいの男の子の姿があった。
男の子は倒れても尚、武器を手に立ち上がろうとするインパを踏みつけ、光を纏う木の棒を突きつけている。
「動くな、死にたいなら別だけど」
「貴様っ・・・」
剣呑な雰囲気に嫌な予感を覚えたわたしは声をあげる。
「や、やめてください!インパに乱暴しないで!!」
わたしの声に男の子がこちらを向く。
「ん?誰?子供?」
「こ、子供はあなたもでしょう!なんなのですか、ここは知らない人が来ていい場所ではないのですよ!それに危ない物を持って!」
「━━それもそっか。でもこっちも事情があってさ・・・あ、そうだ。ねぇ君、ゼルダ姫って知らない?」
わたしは男の子口から出た言葉にぞっとする。
直ぐ様分かったからだ。
彼がわたしを殺す為に送り込んできた、ガノンドロフの刺客だって事が。
見逃されてると思ってた。
子供だからと、油断していてくれてると。
けれど違っていた。
ガノンドロフはこの時を待っていたのだ。
わたしを殺せる絶好の機会。インパ以外の護衛を外す、この時を。
謁見の間は直ぐ側だけど、助けを呼べるとは思えない。
だってその謁見の間にはガノンドロフがいる。何か手を打っている事は明白だ。
頼みの綱のインパは既に倒れていて、その様子から男の子と再び戦う事も出来ないだろう。
インパとわたしが助かる方法を必死に考える。
けれども、そんな方法ちっとも思い付かない。
わたしは決断しなければいけない事を知った。
インパを見捨てて逃走を試みるのか。
それとも━━━
考えた時間は永遠のようで一瞬だった。
(ごめんなさい、おとうさま、おかあさま)
「━━━ゼルダはわたしです」
「なっ、お止め下さい!」
インパはわたしの考えが直ぐに分かったのか、必死の形相でこちらを見てくる。分かっている。ハイラル城から殆ど出たことのない私の顔を知るものは限られている。目の前の男の子も、分からないから尋ねたのだ。ならばここでわたしがとるに足らないただの娘を演じれば助かる可能性は高い。口封じに殺される可能性もあるけど、ゼルダとバレるよりはまだ生き残れる可能性があるのは確かなのだ。
でも、それは出来ない。
王族として産まれてきて、その自覚もちゃんとある。わたしが生きなければ困る人が一杯いるのは分かってる。
・・・でも、おかあさまよりおとうさまより、ずっと一緒に過ごしてきたインパを見捨てて逃げる事なんて、そんな事出来ないのだ。
わたしは男の子に近づき、胸をはって応えた。
「あなたが探しているのは、このわたしです。身分を証明するものは持ち合わせておりませんが、わたしに何かあればそれから起こる全てが証拠になるでしょう」
インパの悲痛な顔がちらつく。
止めてあげたいけれど、もうこうするしかない。
「わたしの事は好きになさい。殺したければ殺せば良い。ですが、あなたが踏みつけているその人だけは助けてあげて下さい。わたしのもう一人のおかあさんなんです。とても、大切な人なんです。だから━━━」
「ちょっといい?」
覚悟を持って言ったその言葉は、急に遮られた。
これから死にゆく者の最後の言葉も聞いてくれないのかと怒りを込めて睨んで見れば、男の子は首を傾げて不思議そうにしている。
なんだろう、凄く違和感がある。
「━━えっと、君は何しにきたの?」
不思議に思ってそう尋ねると、男の子は少し考えてから口を開いた。
「父さんに頼まれて来たんだ。神に選ばれし姫って人がいるからって。で、その人に会えばオレの使命が分かるとかなんとか。まぁ、ナビィが知ってるみたいだから、姫さんが知らなかったら教えて貰うつもりだけど。━━なんかさ、ナビィが姫さんに聞くのに拘ってるから付き合ってるけど、ナビィが教えてくれた方が早いと思うんだよね。個人的には。まぁ、そんな事ナビィには言わないけどさ」
「父さん?ナビィ?」
どうしよう、男の子の言ってる言葉の意味が分からない。会話出来てるよね?
「あ、ごめん。いきなりこんな捲し立てるように。えーとね、これ見てくれる?父さんが姫さん相手ならこれ見せれば一発だからって言ってたんだよね」
そう言って男の子はポケットから飴玉を出す気軽さで緑の宝石を取りだし見せてきた。
わたしはそれが夢の中で出てきたそれだと直ぐに気づいた━━━━気づいたのだけど、どうしても信じたく無かった。
勇者だと思ってたのに、目の前の男の子はどちらかと言えば盗賊みたいだったから。
「あっ」
ふと気づいた。
夢の中で勇者が言っていたあの台詞を。
「ナビィ!!」
「ん?なに、知ってるの?」
男の子の目がキラキラと輝き出した。
よく分からないけど、何か嬉しそう。
「は、はい。あの、でも夢で━━━」
「そっかぁ!ナビィの知り合いだったのか!なぁんだ、ナビィも教えてくれればいのに!!」
男の子が馴れ馴れしく背中を叩いてくる。
ちょっと痛い。
「あ、オレ?オレはね、ナビィの相棒で彼氏でいつか旦那になるリンク!宜しくね!」
「あ、はい。宜しくお願いします・・・」
「結婚式は呼ぶから!やっぱりあれかな、ハイリア式でやった方が喜ぶかな?オレとしてはコキリの皆にも祝って貰いたいから森でやるのも良いかなぁって思うんだけど━━━」
わたしは夢の勇者様と、目の前にいる男の子を頭の中で被せて見た。
そして納得した。
あ、この人だって。
『邪魔だったから殴っただけ』
あの台詞の意味を何となく理解した。
きっと夢の勇者様は、ハイラルを救いにきた訳じゃないのだ。だから、わたしの言葉に首を振ったのだ。
本当にある理由だけで、ガノンドロフをぶん殴ったのだから。
わたしは無邪気にナビィさんとの未来の話をする勇者リンクから目を逸らし、見たこともないナビィさんに向けてお祈りを捧げておいた。
この先どうなろうと、きっと逃げられないだろうナビィさんの幸せを願いながら。
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