ゼルダの伝説『時のオカリナ』ナビィに転生したと思ったら、肉便器だった件 作:はくびしん
リンク。
それはただ一人、コキリ族で妖精のいない子供の名前で、ボクの名前だった。
いつの頃だったかは覚えてないけど、ボクは自分の事を異物だと思った。
それは些細な事の積み重ねの末に気づいた事で、何よりも自信を持って言える事だった。
ボクの成長を喜ぶいつまでも変わらないサリアを見て、どうしてボクだけなんだって思っていた。
ボクは色んな種類の食べ物を食べなくちゃいけないのに、果物と水だけで平気に過ごすミドが不思議だった。
小さな積み重ねはいつしか大きくなっていって、気がつけばデクの樹様の所へやってきていた。
デクの樹様はボクが抱いていた疑問に一つ一つ答えてくれた。
デクの樹様がボクの本当の産みの親でないこと。
ボクの親はずっと前に怪我で死んでしまっていたこと。
ボクはコキリ族じゃなくて、ハイリア人という種族であること。
自由に森を歩けないのは、森にかかる呪いのせいであること。
いつの日か森を出なくてはいけないこと。
思い付く限り尋ねた。
些細な事と言われるような事も、沢山。
全部を聞き終った後、呆然とするボクにデクの樹様が聞いてきた。
「辛いか?」
たった一言だけ。
でも、それがあまりに優しくて、オレは涙が止まらなくなってしまった。泣いた。初めて泣いた。
どうしてって、思った。どうしてオレは皆と同じように生きられないんだって、そう思った。
悲しくて、辛くて、でも恨むなんて出来なくて。
ただただ、泣くしか出来なかった。
そんなボクにデクの樹様は言ってくれた。
「メソメソと煩いぞ、馬鹿息子。男なら泣くな」
今度は全然優しくない罵倒だった。
というか口調も大分若くなっていて、違和感が凄かった。でも、言われた言葉を頭の中で反芻し、息子と言ってくれた事に気づいた。
「ボク、ここの人間じゃないのに?」
「はぁん?ここの人間だろうが。お前、ここに住んでるだろ。肥料というなの住民税払っとるじゃろがい。なんだ、お前、せっかくくれてやった家に住んでねぇのか?まさか売ったとか?賃貸だよ、あれ。おいおいおい、お前な、人の親切をなんだと思ってんだよぉー。もう死ねよなぁー。もうあれだから、もう作ってやんねぇー。可愛いメイドさん連れてきて『デクにゃん、お願いにゃん』って言ってくんないと作ってやらねぇー」
「え?あの?え?」
「というかな、そもそもお前はオレの息子だ。血が繋がってなかろうが、もうそうなんだよ。勝手に止められると思うなよ?止めたかったら、今までの養育費全額払ってから弁護士たてて文句言いやがれ。つか養え、ボケ。分かったら、うぜぇからメソメソすんな男だろ」
ああ、駄目だ。きっとデクの樹様はボクの言葉を受け入れてくれない。余所者だっていう、ボクの言葉を。
また涙が溢れてきた。渇れていたと思ったのに、次から次へと、止まらない。
「うぇ、うぇぇぇ」
「けっ、また始めやがったか。泣き虫やめねぇーとモテねぇんだぞ。はぁ、たく、面倒臭ぇ」
それからオレは毎日デクの樹様の所へ通った。
ミドもついてきたがったけど、デクの樹様がリンク限定とお触れを出したからいつも一人で向かった。
あの日以来、デクの樹様はいつか旅立つオレの為に沢山の事を教えてくれた。戦い方、魔法力の使い方、旅の中で必要になる知識を。いや、まぁ、関係ない知識も貰ったけど。
時折、「はい、抜き打ちテストの時間ですよー」とか言ってデクの樹様の体の中にあるダンジョンに入れられモンスターと戦わされた。何度も死にかけたけど、本当のピンチになるとデクの樹様の不思議パワーで外に投げ飛ばされるので一応大丈夫だった。
そんなある日。
いつものようにデクの樹様の元へ訪れると、いつもより二割増しでイケメンなデクの樹様がそこにいた。
なんだろうと思って話し掛けると、「うむ」とか威厳のある言葉を使っていつもの二倍偉そうにしていた。
「えーと。どうしたの父さん?」
「黙れ小僧(狼)!ワシの事は畏怖を込めてデクの樹様と呼べぃ!!」
こうなるとデクの樹様はテコでも動かない。
下らない事この上ないけど、付き合わないと終わらないから「なに、デクの樹様」と言っておく。すると気を良くして「うむ」とかいって話をしだした。
「相棒?」
「そ、相棒。もうすぐ帰って来るんだよ、オレのダチの妖精が。それ、お前につけるから」
妖精をつけてくれるっていうのは嬉しいけど、いきなり過ぎて返す言葉が見つからない。
「あん?いらねぇのか?」
「いらない事ないよ。でもいいの?オレいつか外に行くのに」
「良いんだよ。それがあいつの役割なんだからよ。それにな、返品不可だぜあいつは」
「返品不可?」
「そっ。かれこれ十年くらいか?いや、もっとか?お前の相棒になるって、外で死ぬほど鍛えてるらしいからよ。最近、妖精なのにゲルド族と一戦交えたらしい。んで、引き分けたとか」
どうしよう。父さんがいつにもまして訳の分からない事言ってる。そもそも、オレが来る前から、オレの為に鍛えるとか意味が分からない。それに妖精なのにゲルド族に引き分けるって分からない。ゲルド族って確か腹筋バキバキのゴリラ女の集団なんだよね?それに引き分けるとか、え、怖い。
「父さん、色々訳分からないんだけど、一つだけ良い?」
「あ?あんだよ」
「その妖精、大丈夫?」
心配でそう尋ねると、父さんは馬鹿にするように笑って言った。
「たりめぇーだろ。オレのダチだぞ」
その顔は自信に満ちていて━━━
「たまに、うわぁって思う事するけど」
「大丈夫なんだよね!?」
━━━凄く心配だ。
それから暫くして、久しぶりにサリア達と遊び疲れて寝ていると「エレクトリックサンダースピントルネード」という必殺技で叩き起こされた。敵襲かと飛び起きれば、そこにいたのはフヨフヨと浮かぶ羽の生えた光の塊。
「初めまして、リンク。私ナビィ。これからよろしくね?」
ずっと欲しかった相棒、妖精がそこにいた。
「えへへ、びっくりした?びっくりしたよね?いえーい、ドッキリ大成功ー!やってみるもんだね!」
そう言って楽しげに飛び交うナビィ。
オレはその姿にちょっとした悪戯心が湧き、ほんの少しの間怒るふりをする事にした。
怒るふりといっても口を聞かないだけ。
撫でて欲しそうに近寄ってきたら撫でてあげたし、出来るだけ無視しないように構ってもあげた。
でも口を聞かないという一点で、ナビィは酷く狼狽えていた。口を閉ざしたオレにどうしらいいか分からないようで、「あぅぅ」とか「ふぇぇ」とか悲しげな声を漏らしながらオレの回りを飛び回り、それでも何かと世話をやこうと頑張っていた。
その姿があまりにも健気で可愛くて、もう少し意地悪してようかなと思ったけど、デクの樹様からの苦情の念話が届いて止める事にした。なんでも毎日のようにナビィから泣き言を聞かされたらしい。念話なのに寝不足気味なその声が可笑しくて思わず笑うと、それを見ていたナビィが「リンクが笑ったー」と大喜びで擦りついてきて、もう意地悪はしないであげようって、そう思った。
それからの日々はナビィがいつも一緒にいた。
沢山話して、一緒に遊んで、どこへ行くのも一緒で、同じ家で眠った。
世話好きのナビィはいつも何かしら世話を焼きたがったけど、オレは大抵の事は出来てしまうからあんまり頼る事はしなかった。そのせいでトイレに乗り込んできたときは、なにかやらせてあげようって本気で思った。
全部が思っていた通りではなかったけど、その日々はオレがずっと欲しかった家族のいる生活そのものだった。
デクの樹様━━━父さんはいたけど、父さんは木だし、それに父さんには森を守る大事な仕事があるからいつも一緒にはいられない。だから、距離の近いナビィは何にも代えがたい大切な家族になっていった。
楽しく過ごしていたある日、ナビィに突然コキリ族との事を尋ねられた。最初は分からなかったけど、それがオレを心配してかけられた物だって気づいて嬉しくなった。でもそれと同時に、森から離れるオレにナビィが付いてきてくれるのか心配になった。
父さんは大丈夫だって言ってくれたけど、本人の口から聞いた訳じゃない。だから恐る恐るそれを尋ねてみた。
「大丈夫。私はいつも一緒にいるよ」
それが返ってきたナビィの答えだった。
オレはそれが嬉しくて嬉しくて・・・・・寝る前に父さんへ感動の限りを伝える為に念じたら、『うぜぇ』と一言で一蹴された。
家族のいる日々は楽しい。
家族のいる日々は幸せだ。
オレは幸せの絶頂にいた。
と、思っていた。
「え、と、えっ?」
オレの前に突然現れた女の子。
ナビィがいたばしょに入れ替わるように現れた、その女の子はオレに笑いかけて言ってきた。
「ナビィだよ!えへへ。びっくりした?」
びっくりした。
だって、こんな事あるなんて思わなかったから。
だって、こんな━━━━
「ん?どうしたの、リンク?」
━━━可愛い子が相棒だったなんて。
どうしよう、父さん。
大切な家族が出来たと思ったら、その人を異性として好きになってしまったんだけども!!
次回予告
デクの樹様、メイドにかしずかれる。
byデクの樹様