※この作品はR-18です。

SEED-虹の向こう側-   作:星乃 望夢

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月の戦いの第一陣です。激突するのはザフトのトップガンとエンデュミオンの鷹…。

ではなく、宇宙世紀組みの指揮官とパイロットです。


第九話 C.E.70 5月3日 グリマルディ戦

 

 第一次ヤキン・ドゥーエ攻防戦。

 

 地球連合宇宙軍艦隊は第五、第六艦隊によりプラント本国を奇襲・制圧する作戦に出た。

 

 プラントは資源採掘衛星であるヤキン・ドゥーエを前面に配置し、オペレーション・ウロボロスにて手薄になった防衛戦力の代わりの盾とした。

 

 しかし本土防衛軍という後方部隊として練度を重要視されていなかったという弱点を露呈し、一時は連合艦隊に押し込まれる危機的状況に陥るが、蒼き鷹の活躍により敵艦隊の撃退に成功する。

 

 先の開戦より続く戦果と、本国防衛の功労者としての活躍を鑑み、蒼き鷹に白を授与するものとする。

 

 それがユキが白に袖を通す結果であった。

 

 ザフト最年少の白がナチュラルということで反発も多かったが、それをシーゲルは本国防衛の功績と予てよりのユキの戦術論文の効果を前面に押し出して認めさせたのだった。それに対する様にパトリックもクルーゼを白とする事で、ナチュラルとコーディネイターの同期生のツートップが白になった事で士官アカデミーでは伝説として扱われるようになる。勿論、クルーゼは本当はナチュラルであるのだが、それは本人や彼に近しい極一部の人間しか知らないことだった。

 

「ヘリオポリスに留学ですか?」

 

「これから忙しくなるし、プラントも安全とはいえないし。だからレイとカナードは留学として避難して貰おうと思って」

 

「構いませんが。プレアはどうするのですか?」

 

「おい。勝手に決めるな」

 

「俺たちの保護者はユキだ。拒否権はない」

 

 カナードの突っ込みも悲しきかな。レイには通用しなかった。

 

「プレアはまだ疎開許可が降りないからアナハイムで預かる形かな。まぁ、人質てわけじゃないけどね」

 

 家族の誰かを残しておけばプラントから離れないだろうという考えが見え透いているが、その様なことをしなくてもプラントを離れる気はないユキからすれば無駄な努力だった。

 

「ヘリオポリスは確かL3宙域でしたね。月からは最も遠く、オーブの中立コロニーですから疎開先としては打って付けですが、手続きは面倒では?」

 

「そこはツテがあるから心配しなくて良いよ」

 

 サザビーとνガンダムの件でオーブのサハク家のツテを辿れば子供二人を疎開させる程度わけはない。それこそ知り合いのジャンク屋に頼んでヘリオポリスまで乗せてもらうことも出来るのだ。やりようはいくらでもあった。

 

「だからオレは行くとも一言も」

 

「ヘリオポリスにキラ・ヤマトが居る。と言っても?」

 

「…なん、だと……!?」

 

 少し卑怯なやり方だが、ユキはカナードがヘリオポリスに向かうためのカードを切った。

 

 キラ・ヤマト。旧名はキラ・ヒビキ。

 

 それはカナードにとっては兄弟でもあり、超えなければならい宿命だった。

 

「なぜ、いま、それを言った…!」

 

 知っていて騙していた訳でもない。それでもヘリオポリスに行かないと言うのは自分を心配しての事だとユキはわからないほど鈍感でもない。

 

「自分の宿命とどう決着するのかはカナード自身が決めなさい。でも、今のカナードならちゃんと考えて自分なりの答えを出せると思っているよ」

 

「ッ、……クソッ」

 

 部屋に戻ってしまうカナードを見送って、ユキはレイに向き直った。それはレイも他人事ではなかった。

 

「卑怯な人ですね」

 

「自覚はあるよ」

 

「ならずるい人です」

 

 そう言いながらユキはレイに抱き締められた。5年前の初めて逢った時は互いにそこまで変わらない体格だったのが、5年ですっかり身長は抜かれてしまったと改めて思うと子供の成長は早いと感慨深くなる。

 

「何故自分達にだけ伝えたんですか。ラウには伝えていないのでしょう?」

 

「ラウに言うかどうかはデュランダルに任せてあるからね。それはレイにも任せるよ」

 

「……本当に、ずるい人だ」

 

 ぐっと、レイの腕の力が強くなる。身体が大きくなっても、心はまだまだ子供だと、ユキは苦笑いを浮かべた。

 

「自分の宿命は変えられない。でも運命は変えられる。運命を受け入れて、その先を進みなさい。レイにはそれが出来るよ」

 

「ユキ……」

 

 子供をあやす様に背中を叩いてやる。またぐっと力が強くなるが、それでもこの苦しさがレイの心の苦しさの何億分の1でも感じられるのなら構わないと思ってレイの好きにさせた。 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 服が白になったことで部隊を持てるようになったユキはアナハイムの実験部隊をそのまま自身の部隊に据えた。

 

 アナハイム、ユキ・アカリの私兵、ナチュラルを使う愚か者。或いは裏切り者集団とも言われているが、その実戦力としては一部隊には過ぎたる戦力だ。巡洋艦一隻ならわかるが、MS搭載型空母を新任の隊長が普通は持てるわけのない代物だ。すべてアナハイムの自前で用意している物でもある為、ナチュラルを擁する部隊に自国の生産力を割り振らなくてもいいのならばと放任されている。それこそMS1機を用意するのもアナハイムやユキが自前で用意するしかなく、ジンもライセンス生産という形でマイウスで用意するよりも少し割高で用意するしかない。

 

 その為ユキは自前でMSを用意するだけの資源を獲得するという理由を隠した月への軍事基地建設作戦を提案する。目的は連合のプトレマイオス基地への牽制というものだ。それこそ本国が襲われたばかりで不安が拭えない評議会での可決も早かった。その速さには無論デュランダルやシーゲルの暗闘があってのものだったが。厄介者が本国を離れるというのならばと、パトリックも反対する理由はなかった。

 

 こうしてC.E.70年5月3日。地球連合軍の月面プトレマイオス基地牽制の為、月の裏側にあるローレンツ・クレーターに橋頭堡となる基地の建設を開始する為に、新設されたアカリ隊の全戦力であるペールギュントとドロワは月に向けて発進した。

 

 L1のコロニー郡を経由して向かう形にしたので、この動きの察知が遅れた地球軍はアカリ隊の上陸を見過ごす羽目になり、ユキは多少の突貫工事でも構わないと言わんばかりに夜通しで基地建設作業を行った。

 

 勿論地上には最低限の設備で、その本命は地下都市規模を目指した建設だった。万が一攻撃されても耐えられる程の地下基地を設営を目指して作業を進めていった。

 

 掘削用のスコップを握りながら穴を掘るのは高機動型ジンだった。

 

 ただその機体は四肢と頭部をオレンジに、ボディは赤といったハデな色合いの機体だった。

 

「まさか新型を与えられての初仕事が、穴堀なんてな」

 

 ハイネ・ヴェステンフルスは宛がわれた愛機の中でぼやくのだが、そんな工事現場で脚もないMSで作業している蒼いMSを見るとそんな文句も出せなかった。

 

 建設資材をピストン輸送や、建材をビームサーベルの出力を調節してトーチ代わりにして切断や溶接作業に勤しんでいた。

 

 ユキ・アカリ。ハイネからすると1期上の先輩だった。士官アカデミーで見かけることはあったので一方的にだが知っている人物だった。

 

 いや、一度だけ接触はあったのだ。通路の曲がり角でぶつかるというなんとも古いお約束が出会いだった。当然体格が子供のユキはハイネとぶつかって倒れる側だった。その時ユキの手にしている論文がばらけてしまい、謝罪も込めて拾うのを手伝ったのだが、その時の論文はMSによる高機動白兵戦時における相対距離欺瞞に関する行動と対処という小難しいものだったのだ。

 

 訓練で既にMSは使われていたが、こんな子供がこんな小難しいものを読むのかと思って聞いてみれば自分で書いたという言葉が帰って来て乾いた笑いが込み上げてきた。そしてその相手の名前がユキ・アカリという名だと知った時には笑えない冗談だとも思った。

 

 ユキ・アカリとは入学当初からナチュラルだと公言する生意気なクソガキだというのが士官アカデミーでの専らの噂だったが、その成績は歴代成績3位という化け物だった。数居るコーディネイターの士官候補生のなかでトップはラウ・ル・クルーゼというコーディネイターが維持していたが、次席はこれまたナチュラルのルクレイツァ・ローアルというオトコ女というわけのわからない表現だったが、目の前の人物がクソガキなどとはハイネは思えなかったのだ。

 

 その後すぐに士官アカデミーをユキは卒業した為に交流はなかったが、その後ハイネはユキの書いた論文を読み漁って、士官アカデミーでの噂はやっかみと嫉妬という醜い感じのものだったのだろうとつまらない仲間の嫉妬が同じコーディネイターとして恥ずかしくなった。

 

 ユキの論文を読み込むことで赤として卒業できたハイネは本土防衛部隊勤務に回されたため、前線デビューは先の第一次ヤキン・ドゥーエ攻防戦だった。

 

 後方で坊ちゃん所帯の部隊は、ハイネからすると苦痛だった。ナチュラル・アレルギーの温床みたいなところで、何度ハイネが愛読しているユキの著書を勝手に捨てられたかわからない程だった。

 

 赤として、さらに周りが年下だったのもあり直接的なものはなかったが、はっきり言って軍人のやるようなことでもなく、上告しても相手が坊ちゃんでは上官も下手に事を荒立てるわけにもいかずに耐えることを頭を下げられてまで頼まれてしまってはハイネとしてもなんとも言えなかった。

 

 それどころか論文書を白昼堂々と捨てられる所は流石に頭に来た。それが罷り通るの軍がザフトなのかと一種の失望もあったが、音に聞く前線で活躍する者たちの戦果は自分たちが本国という家を守っているから戦えるということも理解していたから、そんな屈辱にもハイネは耐えられたんだろう。何よりも噂に聞くユキの扱いはそれ以上だと思えば、子供が我慢しているのだから自分だってという年上の意地もあった。

 

 だがヤキン攻防戦で口ばかりだった坊ちゃん連中の練度の低さは滑稽に映った。あれほどナチュラルをバカにしておいて、MSでMAに追い詰められているのだから笑うなというほうが無理な話だった。

 

 しかし冗談も言っていられず、どうにか敵を突破してドレイク級を沈めた所で颯爽と現れた2機のMSが戦況を変えてしまったときはもう言葉もなかった。

 

 ガンバレルを操るジンに似た機体もすごかったが、目を引いたのは単機で敵陣を突破し、中枢を壊滅させて戦場の優劣を無視して勝負を決めてしまった蒼いMSだった。ドラッツェというアナハイムが開発したリサイクルMS。その運用方はMA寄りともあって本国防衛軍には出回っていないMSだった。ナチュラル・アレルギーのせいもあって、ドラッツェは嫌われ者のMSだった。MSとも認められず、情けない機体だと散々にバカにされていた機体が戦場を支配して連合を退けた。

 

 カタログで見た姿よりかなり弄っていたが、それが開発者自らが乗っているのだから色々と弄って当たり前だなとハイネは納得して、突っかかって行ったバカどもに嫌気がさして、ユキが部隊を新設すると聞いて志願したのだ。

 

 裏切り者と言われても、口達者な奴の仲間にはなりたくなかったのも事実だ。本土防衛軍で燻っているよりかは余程建設的な選択だと思ったが、早とちりだったかと思わなくもない。しかしそれも直ぐに払拭できる機会がやって来た。

 

 レーダーが接近する物体の存在を探知したからだった。

 

『全機作業を中断! コンディション・レッド、総員第一戦闘配備! エネルギーが心許ない機体は補給に戻れ。私が先行する!』

 

 そう命令を飛ばしながら、ユキのドラッツェは空に上がっていく。ハイネは機体コンディションを確認する。とはいえ先ほど休憩を兼ねた補給を終えたばかりで一戦交えるには充分なステータスだった。

 

「ハイネ・ヴェステンフルスだ。お供するぜ隊長」

 

『ハイネか。良いだろう。武器はドロワから射出される。軸合わせは注意しろ』

 

「あいよ、了解!」

 

 あの蒼き鷹と肩を並べて戦えるというのも面白くなってきたと、ハイネは機体の中で逸る気持ちを抑えるが、転属早々現在のザフトでも最上位の性能を持つ高機動型ジンを任せられるとは思わなかった事が抑えを越えて興奮させるには充分だった。

 

 本土防衛にはジン・ハイマニューバや新型のシグーも配備されているが、機体は良いだけの連中が多かった。唯一凄かったのはビーム兵器を搭載していた蒼いシグーだった。

 

 そのパイロットも一見ナチュラルに見えるが、ハーネンフースと言えばビーム兵器開発の第一人者としてザフトでも名の知れた人間だった。それが美人な女だったのだから坊ちゃんどもが放っておくわけもなかったのだが、機体のホウセンカをマーキングした肩の他に装備していた小型のシールドに施されていた鳥の紋章と、赤服の肩から羽織っている黒のマントに施された同じ鳥の紋章で色々と別の意味でちょっかいを出す輩が多いそうだ。

 

 その鳥の紋章の意味は分からないが、それは蒼き鷹のパーソナルマークだった。

 

 そりゃ色々と大変そうだと思いながらも、ハーネンフースの無事を祈ってハイネはアカリ隊に転属したのだったが。

 

 そんな最新鋭機を見てきたハイネからして、高機動型ジンはジン系でもあるにもかかわらず、その性能はトップクラスだった。それどころか赤を纏い、一応はエースの自覚もあるハイネでも振り回される程にじゃじゃ馬のMSだが、扱えるように身体が慣れてくるとノーマルのジンだと満足できない自信があった。

 

「さーて。転属早々のデビュー戦だ。バッチリキメて行こうぜ」

 

 コックピットで操縦桿をひと叩きして新たな相棒に語り掛けながらハイネはフットペダルを踏み込むのだった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ザフトが月の裏側に降り立ったのは表のプトレマイオス基地でも確認が取れていた。しかし先の本国奇襲にも失敗し、何よりも月に降りたのはザフト軍の新型の大型空母ともあって出撃は見送られたのだが、それがドロス級とムサイ級という旧ジオン公国軍の戦艦とあってブライトはユキが月に乗り込んできたのではないかと考えていた。

 

「欲しいのはガンダリウムか」

 

 プラント本国への攻撃があったばかりの時期にプトレマイオス基地への牽制や侵攻を予定する際の橋頭保の確保とでもいえば先ず反対されないだろうが、一番欲しいのはガンダリウムと、誰の目も気にせずにMSの開発が出来る環境だとブライトは当たりを考えた。

 

 そう言う意味では月の裏側というのはもってこいの場所だろう。そしてガンダリウム製MSが開発されれば質でさらに地球軍を突き放せるとも考えているはずだ。それこそ戦局を左右することも可能なジオンの大型MAですら造ることは可能だろう。そう思えるのはグリプス戦役時代からユキ・アカリという人物を見てきたからだろう。

 

 ザフトが何かをしている事を突き止める必要もあると考えたブライトは少数艦による威力偵察艦隊を編成し、敵陣偵察をハルバートンに上申した。

 

 第三艦隊も第七艦隊も動く気はないらしく、しかし先駆けて動くことを利としたハルバートンはそれを許可し、ブライトは自身が進めていた独立機動艦隊部隊を招集。

 

 ネルソン級1隻とドレイク級2隻からなる小艦隊を率いてプトレマイオス基地から発進した。

 

 この独立機動艦隊部隊はNジャマー環境下での有視界戦闘に対する対処を徹底して叩き込み、船にも対MS戦闘を想定して対空機銃を増設した造りになっている。

 

 ロンド・ベルを率いていたブライトにとって、そしてホワイトベース、アーガマ、ネェル・アーガマ、ラー・カイラムの艦長をしていたブライトにとって、電波錯乱状態での有視界戦闘での艦隊運用は身体に染みついたものだった。

 

 しかし相手があのユキであるならば条件は五分だ。何しろ向こうにはMSがあるのだから。戦闘機扱いのMAしか有していない連合側は正しくV作戦によってMSが開発されるまでの連邦と同じ不利な状況に陥ることは火を見るより明らかだったが、その為に対する戦法も考えてはある。

 

「あとはどう仕掛けるかだな」

 

 ガンダリウムが欲しいなら月面に基地を作る為にやって来たはずだ。

 

 ならばNジャマー展開前のレーダー範囲ギリギリから長距離ミサイルの飽和攻撃が有効なはずだ。なにしろ向こうは固定目標なのだから有視界戦闘でも当てることは出来る。丁度よく巨大なドロス級も居ることだ。ドロス級に損傷を受ければユキも退くだろうと考えるが。

 

「戦艦とミサイル駆逐艦2隻でドロス級を攻略か。普通はしないな」

 

 逆にそう思う心理の裏を掛けばよいとも思う。問題はどこまでユキがこちらに対処するかだ。MAの数は12機。ともなれば攻める数でもないが、MS部隊牽制には使えるはずだ。速度ではジンよりもメビウスが勝っているのだから。

 

「さて。問題は一度やったら二度は通じないところか」

 

 おそらく一度の攻撃でこちらの戦術もばれるだろう。自分の存在が向こうに知れるかはわからないが、そうであってもおそらく対処される。何故なら彼はシャアと同レベルの軍略家でもあるのだから油断は出来ない。

 

「総員第一戦闘配備! 戦闘ブリッジ開け。月の裏側に入ったら敵に仕掛けるぞ!」

 

 命令を飛ばし、戦闘ブリッジを開かせる。メインとサブブリッジしかない連合側の戦艦はメインブリッジがやられると指揮系統の混乱はもちろん、機能復旧までの間殆ど無防備になる。それを防ぐためにこのネルソン級やドレイク級には戦闘ブリッジを設けているのだ。そうすればブリッジに攻撃を受けても生き残れる可能性は少しでも上がるからだ。

 

「思えば一年戦争以来か。お前と戦うのは」

 

 ジオンの兵士だったユキと本格的に戦ったのはムサイ3隻の艦隊と戦った時だ。あの時はアムロをはじめとして精強なパイロットと機体があったから切り抜けられたが、今はそうではないのだ。そして相手はあのジオンの蒼き鷹だ。

 

 腹を括り、ブライトは覚悟を決めた。まるでそればアクシズ落としを敢行するシャアのネオ・ジオン艦隊への攻撃を仕掛ける時程の身の入り様に、ブライトは気負いすぎだと自分を窘めるが、果たしてそうでもないのも分かっている。それはネオ・ジオンの紋章を掲げ、シャアの後継者とも言われていたユキ・アカリというニュータイプを相手にすることの意味を分かっているから故のプレッシャーだろう。

 

 なるべく存在を露呈させない様に慣性航行で近づき、長距離ミサイルの射程内にドロワとローレンツ・クレーターを収めた所で、ブライトは動いた。

 

「ミサイル発射と同時に機関最大! 敵に鼻っ面を明かす程度で良い。各員無理はするなよ! ミサイル発射!!」

 

 3隻からミサイルが無数に放たれると同時に、身体に加速のGを感じる。第一波ミサイル郡は敵のMS部隊の注意を引くのが目的で、その狙いは4割程度がドロス級に向かっている。残り6割は長距離レーダーで確認できるムサイ級と月面で作業中のローレンツ・クレーターだ。第二、第三、第四波発射後にMA部隊を発進させて敵MSを誘引し、第五波を経て第六波の本命でドロス級にエンジンの根元に叩き込む。

 

 アクシズ攻略の第一陣での攻撃法だ。それでおそらくユキは気づくだろう。もっと早くに気づかれる可能性もあるが、その時は部隊を下がらせて静観するだけだ。ジオンのトップエースのひとりが駆るMS相手に3隻の艦隊だけで挑むのは自殺行為だ。ルウム時点で個人スコアがシャアに匹敵する戦艦キラーなのだ。それは世界樹攻防戦から始まる今日まで如何なく発揮されているのだ。プラント本国攻防戦でもたった一機の蒼いMSが戦局を押し返した映像は月基地で分析されているが、いくら研究したところであれに対処するのは至難の業だ。……彼のクセ、呼吸、傾向が分かる人間でなければ。

 

 レーダーが使えなくなり、Nジャマーが展開されたのだろう。そしていくつもの光芒が弾けては消える。第二波が発射される。

 

 長距離望遠ではドロス級がビーム砲でミサイルを迎撃している様子が見える。大きいだけあってその動きは鈍いが、MSが対空迎撃に出ているのだろう。手ごたえは感じない。

 

 第二波も同じような結果だが、第三波からは対MSを想定した多弾頭ミサイルが混ざっているのだ。数を撃てば当たるではないが、その分当たれば何かしらの被害は出るはずだという期待を込めている。

 

 敵ではないが、今は敵なのだから軍人として職務を全うしなければならない。その想いだけでブライトはジオンの蒼き鷹に挑んだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「変だな。知っている戦法だ」

 

 ドラッツェのコックピットでユキは一連の流れに既視感を感じていた。

 

「MS部隊はドロワの北舷の上で迎撃! 対空の間隙をカバー!」

 

 ドラッツェ改S型と登録された機体を駆るユキは前面に出て遊撃としてミサイルの迎撃に当たっていた。

 

 アナハイムの実験部隊として有事の際には皆がMSには乗れるようにしてある為、整備士や手の空いている者がドラッツェに乗り込み、ドロワに殺到するミサイルの迎撃に加わっていたりもする。

 

「ええい!」

 

 ミサイルをリニアライフルで撃ち抜き、次のミサイルを撃とうとしたところで弾頭が弾けていくつものマイクロミサイルが発射された。

 

「味な真似を!!」

 

 シールドビームガンを連射しながら弾幕を張り、機体を翻して急上昇とアフターバーナーでミサイルを焼いて爆発される。

 

「ミサイルの中に対MS用の多弾頭ミサイルを忍ばせるのか。やるなブライト」

 

 口元に弧を描きながら、無意識に発した声に自分で気づき疑問に思う。

 

 なぜ自分は今、ブライトの名を口にしたのだろうか?

 

「まさか…な」

 

 ミサイルの迎撃を続けながらユキは戦場の分析に掛かる。

 

「ジャン! 聞こえるか?」

 

『…は……なん……しょ…か』

 

 Nジャマーの干渉か無線が安定しないが、それでも構わずにデータリンクの受信サインを送る。

 

「戦場の状況を知りたい。データを送ってくれ」

 

『りょ…い……し…た…』

 

 すぐさまデータが受信され、ジャンの乗る強行偵察型ジンの収集する戦況データが送られてくる。

 

「敵は多いが。それでもこの攻撃量の少なさは。…ダミー? だとしたら艦隊は多くて4。攻撃コースから逆算して本物はこれとこれと…3隻か。ミサイル第四波と同時にMAを発進? 第五波のコース。迎撃にルークとハイネが動いた。なら第六波の狙いはドロワのエンジン? なるほど!」

 

 ここまでくると自分の無意識を信じたくなった。それを確かめる為にも敵の旗艦に攻め入る必要がある。

 

「ドロワは任せるよ。プルツー」

 

 ドロワを傷つけられたら確かにこちらは一時後退するしかない。それが分かっていてブライトはあくまでもドロワに一撃当てて早急に引き上げるつもりだ。でなければドロス級相手にたったの3隻で挑むはずもない。

 

 そしてどうあってもプルツーが居ればミサイルの迎撃は安心できる。ビット使えるプルツーの強さは身の程で体験している。

 

 ミサイルを行きがけの駄賃で迎撃しながら真っ直ぐに敵艦隊に向かう。

 

 単機駆けでミサイルの弾幕の中を突っ切る形だ。熱源センサーか光学センサーか、ミサイルの何基かが追尾してくるが、それをバレルロールで擦り抜ける。

 

 迎撃のビーム攻撃も向かって来るが、それも両肩の大型スラスターや両足のプロペラントタンク・ブースターのスラスター、テールバインダーのスラスターといった全身のスラスターやアポジモーターを噴かすことでほぼ直角のジグザグ機動で回避する。これくらいは出来なければ赤い彗星の背中には追いつけない。

 

 ミサイルの弾幕を潜り抜けると、迎撃ミサイルが直接こちらに向かって来る。

 

 だがそれを減速せずにリニアライフルで撃ち落とし、誘爆を狙いながら炎の中を潜り抜け、敵艦隊の目前まで迫る。やはりダミーで数を誤魔化していた。

 

 ネルソン級1の、ドレイク級2隻の小艦隊だ。

 

「弾幕も強化してきている。ミサイルも対MS用だ。これは少し厄介だな」

 

 対空弾幕も3隻にしては厚い方で、互いの死角をカバーする布陣で中々攻め込むのは容易でもないが、それでも攻め込めないわけでもない。

 

「南無三…!」

 

 弾幕の中に突入し、しかしそれでも切り抜けるには多少の被弾は止むを得なかった。

 

 シールドで本体は守りながら、脚部のミサイルポッドに被弾したのを切り離す。

 

 多弾頭ミサイルから放たれたマイクロミサイルの1発が肩に当たるが、爆発の瞬間機体を衝撃から逃げる様にロールさせて最小限の被害に抑えるが、右肩のスラスターが持っていかれる。

 

 リニアライフルにも被弾し、使い物にならないので機体を軽くするために捨てる。シールドの予備の弾薬パックも捨てる。

 

 弾幕の中をビームが駆け抜けるのをバレルロールで回避し、弾幕の内側に入る。

 

「勝ったぞ、ブライト!!」

 

 そのままネルソン級の脇を駆け抜けながらビームサーベルで横っ腹を切り裂きながら、エンジンにシールドビームガンを撃ち込んで離脱する。

 

 そのまま残ったミサイルをドレイク級のエンジンにも打ち込んでやれば後退信号を発して、MAが帰ってくる。

 

 手負いのドラッツェ改S型の脚部プロペラントタンク・ブースターも左足は切り離して、ビームガンを撃ち込んで爆発させる。目くらましに利用して大回りで帰路に就く。追手がないということはこれ以上の消耗は避けたいということだろう。

 

「流石に肝を舐めたな」

 

 終わってみればドラッツェ改S型は中破だ。今後この対MS戦法が広がった場合、容易に艦隊に取りつくこともできなくなってしまう。そしてMSも連合に出てきたら、艦隊の砲撃能力の差でザフト側が不利になるだろう。

 

「考えないとな。全く…」

 

 それでも抜けることは出来る。かなり難易度は高い上にブライトの指揮だ。そうそう簡単にはいかないだろうが、果たしてどうなっていくのか。思わぬ強敵の出現に内心喜んでいる自分が居ることを自覚する。

 

「フフ、だからパイロットなんじゃないか」

 

 設計も開発もする。必要なら政治のこともする。それでも自分は生粋のパイロット。戦場で闘うことが楽しいと感じる戦士なのだ。戦うからこそ生が実感できるともいうが、正しくそうだ。

 

「次はどうなるか。楽しみにしてるよ。ブライト」

 

 背中のランドセルから少し煙も吐き出しながらも、焦ることもなく崩れるバランスを修正しながら遠ざかっていく連合軍艦隊へ向けて言葉を放った。

 

 声を聴いたわけでもない。顔を見たわけでもない。それでも留守を預かるときはアーガマやロンド・ベルを指揮していたのだから、艦を動かす指揮官の気分という物は察せられるし、ニュータイプの直感が間違いなく相手はブライトだと言っている。

 

 それが後にグルマルディ戦線と呼ばれる連合とザフトの最初の一戦だった。

 

 

 

 

 

to be continued…

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