※この作品はR-18です。

SEED-虹の向こう側-   作:星乃 望夢

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GジェネC.E.をプレイしながら書き上げたエンデュミオン・クレーター攻防戦ですが、些か駆け足気味だったかもしれない。しかし詳しく書き過ぎて中だるみするよりかは良かったのだろうか?

そう悩みつつも約1万4千文字は行ってしまう相変わらずの文字数ですがご容赦ください。


第十二話 C.E.70 6月2日 エンデュミオン攻防戦

 

 プルツーが有給を取って何かをしているらしい。ロンド・ミナ・サハクからヘリオポリスでモルゲンレーテとアクタイオンとアナハイムも絡んだMS開発が始まった事が伝えられた。アナハイム側の中心人物がプルツーらしい。

 

 中立コロニーでMSを開発するという一年戦争時でも連邦軍が使ったらしい手ではあったが、オーブの領土であるヘリオポリスならば大丈夫だとは思いたい。

 

 サハク家は…というよりも次期当主のロンド姉弟はオーブを世界の王として君臨させ、自分たちはその国を治める者。つまりは世界を手に入れたがっている少々危険な人物なのだが、それでも今のところνガンダムを預けて置ける場所がオーブだけであったのと、オーブの存在は何れ必要になると思っている身としては潰えて貰ってしまっては困るので色々とテコ入れをしているのだ。

 

 それこそアストレイという見かけはガンダムタイプのMSを開発している所に、ムーバーブル・フレーム技術を取り入れている。ビーム兵器の開発にも協力している上に、新型の可変MSの開発にもZ計画関係のデータを提供している。その見返りにνガンダムの技術を秘匿してもらっているのだからその分の見返りは用意しなければならない。

 

 その上で付き合い方さえ間違えなければ、こちらに利用価値がある間は大丈夫だろうという思いもある。

 

 弟のギナはそれこそ野心が強いタイプだが、姉のミナはまだ話が分かるタイプなのが助かる。それでもやはり世界をオーブの物にしようと画策してるが。

 

 しかしプルツーも考えなしには動かない事を分かっているので、そちらには手を出さない。必要ならば伝えてくるだろうからだ。

 

 ただ問題なのは連合に動きがあることだ。

 

 エンデュミオン・クレーター基地に部隊が集結しているということで、プラント本国はこの動きを牽制、あわよくば撃滅する為にクルーゼを寄越すらしい。

 

 それを受けてローレンツ月面基地にも出撃要請が降りている。

 

 丁度良いタイミングの為、ムサイ級最終生産型のジークフリートも加えた2艦編成で出撃することに相成った。

 

 ただ相手の基地を牽制する目的もある為、結局はドロワも出撃になってしまったのは仕方のないところだ。

 

 ローラシア級2隻が合流し、久しぶりにユキはクルーゼとまともに会話できる席を設けられた。

 

「先ずは互いに昇進を祝おうとするかね?」

 

「それも良いが。この作戦を無事に終えてからでも良いだろう」

 

「真面目なことだな」

 

「真面目にやらないとこの服が取り上げられかねないからな」

 

 せっかくのクルーゼの申し出だったが、ユキの頭の中は既にこのエンデュミオン基地をどう攻略しようかという頭になっていた。

 

「相手は連合宇宙軍の第三艦隊。指揮官は大西洋連邦のビラード准将という奴だ。以前はユーラシアの指揮官で逃げ腰の奴だったが、頭が変わった事でどう出てくるかさっぱりだな」

 

「Nジャマーによる電波錯乱とMSによる白兵戦だけでは勝てないと?」

 

「最近の連合も、艦隊単位での対MS戦闘が板についてきている。無能な指揮官が態々経験値を背負って突撃していたからな」

 

 だからこそ、クルーゼとユキというプラントが誇る二大巨頭に招集が掛かったという訳なのだが、もう少しローレンツ基地に篭って軍備増強をしたかったユキからすれば悪いタイミングである。何しろプルツーが居ないというだけで艦隊防空に不安が出てくる。

 

 そういう意味ではプルツーに甘え切っている自分を情けないと笑うが、自分と同レベルで戦闘が出来る人間が減って戦線に不安が出来ないわけもないのだ。

 

 しかしないもの強請りをしても仕方がないのだ。それこそプルツーが来る前のシフトに戻すだけだ。

 

「ともあれエンデュミオンは連合にとっても月の重要な物資採掘拠点の要所だ。ここを落とし、あわよくば奪取出来れば月もだいぶ楽になるだろう。違うかね?」

 

「そういう訳だから是が非でも欲しい所なのだろう? 本国は。急いでも月に回す戦力分散や調整に整理と山ほどあるのに。いったい誰がそれをやるんだか」

 

「それは君がやるから問題ないと見られているのではないかな?」

 

「手厚い信頼だな。まぁ、上の命令に逆らえないのが宮仕えの辛いところさ」

 

 そう会話を交わしていても、ユキがコンソールを弄る手は止まらず、作戦要項が纏められていく。

 

「MSと艦隊を囮に、少数で敵本陣を奇襲。司令部を押さえるということか」

 

「第三艦隊は開戦からガンバレル搭載MAの部隊が多い。時間を掛ければMSでも撃ち負けるだろう。今回は速攻を期するだろう」

 

「その為の高機動型MS部隊かね?」

 

「本国からの部隊にシホが居て助かった。彼女ならドラッツェ改で行けるからな」

 

 部隊を3つに分け、ドロワを中心に艦隊戦を展開。MS部隊で施行線を敷き、敵部隊を誘き寄せ、その間に別方向から少数の高機動型MS部隊で敵本陣の強襲を行う。

 

 敵の真正面を突っ切る様な戦い方で意表を突いてきたやり方からすれば凡庸な作戦だが、その分手堅くもある。

 

 さらに言えば高機動型MS部隊はレーダーによる発見を遅らせる為に地表スレスレを行くという。となれば本体は派手に暴れて敵の注意を引き付ける必要もあるだろう。

 

「しかし拠点攻撃用D装備の配備が少ないようだが?」

 

「攻城戦は後回しさ。まずは敵の守りを丸裸にするのが先だ」

 

 相手は機動性だけならMSを上回るMAだ。そこに装備重量が増えて動きの鈍いD型装備のジンを多く配備する必要はないし、対艦攻撃ならバズーカでも充分事は足りるのだ。

 

「では、ハーネンフースはそちらの指揮で良いのだな?」

 

「ああ。その代わりにジャンを置いていく。戦場の目だからあまり動かせないが、何かあったら彼に聞けば戦場の状況は大抵は把握出来る」

 

「鷹の目の「J」か。その目はアテにさせてもらおう」

 

 MS部隊の配置を確認し、クルーゼと別れたユキはドロワに向かった。MSの最終調整を兼ねて、シホが使うドラッツェ改の整備を監督する為でもあった。

 

 蒼い機体にホウセンカのペイントが肩に施されているドラッツェ改は今回の任務の為にS型に改造が施されているが、シホなら乗りこなせるだろうと心配はしていなかった。

 

 自分の機体で各部の調整はしているが、元々フレームに関してはジンの物だ。その耐久限界に合わせた調整作業もある。この作戦が終われば不要になるかもしれないが、新規製造で一機だけドラッツェ改S型を新造しようかと思っていると、蒼いMSが格納庫に入って来た。

 

 両肩のキャノン砲が目を引く新型のMSをベースにしたザフト初のビーム兵器搭載MSであるシグー・ディープアームズだ。

 

「部長!」

 

「暫くだなシホ。本国はどうだった?」

 

 出向という形でアナハイムを離れていたシホ。本国でシグー・ディープアームズの開発監督として過ごしていたので直接会うのは約半月ぶりといったところだった。

 

 ドラッツェ改S型のコックピットから出て来たユキは流れて来たシホを受け止めて言葉を交わす。

 

「まぁ、なんというか。酷いところだったわ」

 

「そうか。話には聞いていたが、それほどか?」

 

「同じコーディネイターでもああはなりたくないわ」

 

 ハイネから本国防衛軍の話は聞いていたが、あのシホですら嫌悪感を示す程となると、結構な人種差別が蔓延しているらしい気配を感じ取った。

 

「それよりもだ。今回はコイツに乗ってもらおうと思っているのだが」

 

「新型ですか。私に出来るでしょうか?」

 

「出来ると思うから任せるのさ」

 

「ズルい人。そう言われるとやらないわけにもいかないわ」

 

「そういうことさ。基本調整は済ませてあるから、あとは自分で弄ってくれ」

 

「了解」

 

 そう言ってコックピットの中に入るシホを見送るユキだったが、服の袖を掴まれてそのまま一緒にコックピットの中に連れ込まれてしまう。

 

「シホ?」

 

「久し振りに会ったんです。もう少しくらいお話しましょうよ」

 

「話と言ってもな」

 

「色々とあるでしょう。私だって話したいことは色々あるのよ?」

 

「半分以上愚痴を聞かされそうだが、付き合おう」

 

「そうね。付き合って頂戴。急に新型に乗れという無茶振りはそれで許してあげるわ」

 

 コックピットという狭い空間でも窮屈にならない自分の身体の小ささというのを少し憂いながら、ユキはシホに引かれて、その身体を彼女の膝の上に落ち着けるのだった。

 

「少し大きくなったかしら?」

 

「この半月で2センチ伸びたよ」

 

 おかげで身体が痛くてと僅かに肩を捻る仕草をするユキに、成長期がやって来たのかというごく当たり前の普通の感想を抱いたシホだったが、それもそれで少しもったいない気もして少し複雑だった。

 

「なんだか少し変わったわね。貴方」

 

「そうか? あまり変わらないと思うが」

 

 それでも初めて会った時よりも纏う空気に余裕があるとでも言えば良いのか。雰囲気が丸くなっているのを少し離れただけでもシホは感じていた。

 

「女の子の匂いが混じっているわよ?」

 

「え? …ウソ!?」

 

 耳元でからかう様に言ってやると、面白い程に狼狽え、素の自分まま服の匂いを嗅ぐユキに、シホは一瞬呆けてしまった。それこそ年齢に相応の顔でそんな匂いはしないぞと、批難する様に振り向いてきた上司が急に可愛いだけの小動物に見えてしまう程だった。

 

「なにも匂わないが?」

 

「それは同じ女じゃないとわからないわ」

 

 そういう商売の経験があるユキからすればそういった匂いにも気づけるのだが、何も匂いはしなかった。そういう面はかなり気を使うクセが出来ているから言われて恥もなく驚いてしまったが。しかしシホの言う()()というのは物理的なものではなく、所謂女の感覚でしかわからないものだった。

 

「相手はあの子かしら?」

 

「…だったらなんだというんだ」

 

 拗ねた様に顔を逸らしたユキがつい面白く見えて、シホは普段見られない顔をもっと見ようと更に踏み込んでみる冒険をしてみたのだった。

 

「今の子は進んでいるのね」

 

「シホも変わらんだろう」

 

 シホの言う今の子という表現がどういう意味なのかは分からないが、プルツーと比べているというのならば、見かけの年齢で考えてもシホはそれ程変わってもいない。それでもコーディネイターであるからか、身体の成熟具合で言えばマリーダともそれ程は変わらないと思う程度ではあるのだが。

 

「私はそうじゃないわよ」

 

 それこそ男女付き合いなんていうのはまだわからないのだ。そういう話題で友達やアナハイムで歳の近い女性社員とも話すのだが、シホの好みとしては漠然とだが年上を考えているものの、この膝の上に座っている同い年の少年のことも気掛かりである上に今は戦争だ。恋愛事にうつつを抜かしていられるほどの余裕はない。なのにこの少年は涼し気に女に手を出しているのだから、そこはかとなく負けた気分になる。

 

 それにもういつもの調子に戻っているのも、なぜだか悔しく思う。もう一度その鼻を明かすような何かをと考えてもシホには考えが付かなかった。

 

「さて。そろそろ時間だ。出撃待機、発進は1時間後になるぞ」

 

「え、ええ」

 

 膝の上から浮き上がって外に出ようとするユキを見送るシホだったが、結局このままではいつも通りと思って、シホはコックピットのハッチを閉めた。

 

「シホ…?」

 

 腰ほどもある長い黒髪を靡かせながら振り向いた上司の腕を引いて、その頬に手を添えて、軽く唇を振れ合わせた。

 

 一瞬か、或いは一分か。静寂なコックピットの中で無音だけが過ぎ去って、唇が離れた。

 

「な、なにをして…!」

 

「レモンの味はしないのね」

 

「少女漫画か!」

 

 何故口づけなんてしたのだろうかという思考はなく、ただ感想はレモンの味はしなかった。これで女子会でも話題になるだろうかというズレた考えに至る辺り、シホ自身も何が何だか分かっていない様子だった。ただ、目を見開いて驚いているユキの表情はシホの望む通りのまだ見たことのない顔だったのは確かである。

 

 そんな様子に驚いた表情を立て直したユキは服のポケットから包装された黄色いアメを取り出して口に含んだ。僅かな香りが、それがレモン味なのだろうとシホは思っていると、再度今度はユキの方から唇を重ね合わせて来た。

 

「んん!?」

 

 今度驚くのはシホの方だった。二度目の口づけはちゃんとしたレモンの味だったが、唇を重ねるだけでなく、唇を割って入って来た小さな舌が口の中を蹂躙するかのように舐りはじめ、そしてコロコロという音と共にレモン味の飴玉が口の中に入って来ては、口の中で転がされ、唾液と混じり合ったレモン味の甘い蜜が喉を通って行く。

 

 上顎を舐められるこそばゆさに逃れようとしても頭がシートに押さえ付けられていて動けない。身体を離そうにも、ユキの両手が肩を掴んで離さない。

 

 一方的なのは悔しくて舌先で逆に相手の口の中を探ろうとして互いの舌が絡み合って、コックピットの中を卑猥な水音で満たしていく。

 

 アメが口の中で溶け切ると離された口から熱い吐息が漏れる。口づけに夢中でボーっとしている頭が思考を鈍らせている。なのにユキは余裕の表情で口の周りに着いた唾液を人差し指で拭いながら口に含むという淫猥な仕草で微笑んでいた。

 

「はぁ…はぁ……な、なに、を」

 

「お返し。大人のキスはどうだった?」

 

「…………」

 

 どうだったと聞かれて素直に話せるものかと俯いていると、コックピットハッチが解放され、ふわりと身体の上から温もりが去っていく。

 

「ぶ、…ゆ、き……」

 

「フ、帰ったら、続きでもする?」

 

「っ、ば、バカ…!」

 

 コックピットから追い出す様にユキの脚を押して外に追いやると、コックピットを閉める。そうすれば誰にも見られないからだ。

 

「っっ…」

 

 何をして、何をされて、それでもそれが嫌ではなかったことまでも理解が追いついてきて、一気に恥ずかしくなったシホは顔を覆ったが、それでも火が吹き出そうなほどに熱くなった顔はどうにもできない。

 

 同じように人差し指で口の周りを拭う。生乾きでべたつく口の周りを、何度か舐めた指で拭えば一応は綺麗になったものの、コックピットの中はすっかりレモンの甘酸っぱい匂いでいっぱいになってしまい、それを意識するとまた先程の事を思い出すという悪循環だった。

 

「なんなのよ…もう」

 

 同い年のはずなのに、膝の上ですっぽりと腕の中に納まるくらい小さいのに、社員のマスコット枠なのに、漫画のホストの様に弄んで、なのにホステスの様に色香もあって、大人の余裕を見せつけるかのように悠々として、最後はからかわれて、それが悔しいのに。

 

「落ち着きなさいよ、シホ…」

 

 こんなにも胸がドキドキとしたのは初めてだった。

 

 別に男と触れ合うのが初めてという訳でもない。仕事上軍という組織ではどうしても男の比率は多い上に研究職でも同じだ。何度か告白もされればナンパの経験もある。それでも――。

 

「ホント、毒よ。あの子」

 

 邪気がないのだ。まごころ100%の愛情がどれほど危険なものか。思い知った気分だった。

 

 それこそ男は色々と面倒で、上っ面だけしか見てこない相手も多い。それなのに彼はそうではない人種だ。言葉を交わし、本質を見抜いていつの間にか懐に入ってくる厄介なタイプ。それでいて共にいて安らぐという中毒性の持ち主という更に厄介な要素もある上に危なっかしくて目も離せないという更に輪を掛けて厄介なタイプであり、なのに気を許した相手を全力で守ろうとする。そして今の様に100%の愛情を注がれたらどんな人間でも大抵は墜ちるだろう。

 

「危ないわね、ホント」

 

 それでもその愛情がどれほどの人間に向いているだろうか? 全面的な受け身体質の彼が進んで愛情を向ける相手もそうは居ないだろう。それこそ男として愛情を向ける相手は更に限られているはず。

 

「悪く、ない……」

 

 ほんの戯れ程度でしかないのかもしれない。それでも嬉しさを感じる程に自分はちょろい人間だったろうかという考えは横に追いやり、ともかく発進までの間に気持ちを切り替えなければならない。色々と考えるのは戦いが終わってからでも出来るのだから。

 

「凄い機体ね。相変わらず」

 

 ドラッツェの新型。少々の改良で原型は元々自分が乗っていた機体が別物に変わっている。そんな機体をいきなり宛がう無茶振りも嫌いではない。それだけ自分の腕を期待して認めてくれているという証拠だ。

 

「順調に攻略されてるのね。私は」

 

 それが仕事人としての腕の欲しさ故なのだとしても悪くない気分だった。

 

 下卑た感じで求められるより天地の差だ。それこそ自分の価値観を認められるのだから遣り甲斐があって仕方がない。それもすべて織り込み済みなんだから厭らしい。

 

 新調したのだろう白いパイロットスーツに着替えてきたユキが新型の重装甲のMSに乗り込むのを目にして、シホはシグーからパイロットスーツを引っ張り出してロッカーで着替えると再びドラッツェに乗り込み、機体の最終調整を済ませる。

 

 エンジンにリミッターが掛けられているとはいえ、全速旋回時に10Gもの負荷が掛かるMSを駆ることの不安がないとは言えないが、作戦要項を確認すると、高機動型MSの重要性の高さは語るまでもなかった。

 

 シグーよりも慣れているシートや計器類。操縦桿の握りを確かめてあとは時間まで心をフラットに落ち着くだけだ。

 

 なんとなく新型の重装甲のMSに視線が向かう。

 

 ノズルの偏向角のテストをしている様からまだ試作機の域を出ていないのかとか、重装甲の機体で強襲戦をやるのかと思ったが、さらにプロペラントタンク・ブースターを装備している所から機動性に心配はないのだろうと思うことにした。

 

 心配してもするだけ無駄だろうという考えも沸いてくる。その程度考えていないはずもないからだ。

 

 出撃準備で忙しくなる格納庫に、気持ちも切り替わり、出撃の時を待つだけになった。

 

『出撃口オールクリア! MS隊は順次発信してください!』

 

『ハーネンフース機、カタパルトへ』

 

「了解」

 

 装備は重爆撃装備でミサイル・ポッドが増えて僅かだが火力は向上している。ドラッツェ改S型という新型の性能を試したくてうずうずするのは技術者としての性だろう。

 

『カタパルト電圧上昇。進路クリア、発進どうぞ。プラントに栄光あれ!』

 

「シホ・ハーネンフース、出るわ! プラントに栄光を!」

 

 出撃する時の掛け声に付けたされる一言。それにどれほどの思いが来れられているのか。それは出撃する兵士の無事と健闘を祈り、自分たちの意志を預けるという言葉の想いを感じながら、シホはドラッツェを発進させた。後から発進した重装甲のMSがハンドサインで続けと命令してくる。

 

 それに続いて機体を進ませれば、オレンジと蒼の高機動型ジンと合流する。

 

『全機揃ったな? 今回は強襲戦だ。本体が敵を引き付けている間に迂回して敵の頭を強襲する』

 

 本体を陽動に使い、その隙に本陣を攻める普通の作戦だが。その強襲するMSはたったの4機という部分だけは普通とは言い難い。MS1個小隊で何が出来るのかと普通は思うものの、ここにはザフト筆頭の戦艦キラーが居るのだ。一人でも強襲任務が出来る人物が居て、失敗するわけがないのだが、それでも僚機を連れていく程度には念には念を入れている辺り何か考えがあるのか。

 

『これは勘だが、なにかイヤな予感が拭えない。各機は警戒を怠るなよ』

 

『『「了解!!」』』

 

 ユキの言葉を聞き、隊列を組んで強襲部隊の4機は動き出した。

 

『ハイネ・ヴェステンフルスだ。よろしくな』

 

「シホ・ハーネンフースよ。こちらこそ」

 

 作戦に入った為、初対面とのハイネと手短に挨拶するシホはすぐさま隊列の前に出る。スピードだけはこの中のMSで一番であるからだ。

 

 地表スレスレを進むという作戦。それならレーダーに捕まらずに懐まで侵入できるという物だった。

 

 月面をホバー移動する重装甲のMSを後方カメラで捉えながら、そのMSの存在感と圧迫感に、これを相手にする連合兵士に少しだけ同情したくなった。こんなのに本気で襲われたら自分でも泣くだろうと思った。

 

 機体の全長程もあるバズーカはビームバズーカであるという。戦艦ですら一撃で沈める火力はあると言っていた。

 

 それ程凶悪なMSだというのに本国では採用されることもないだろうとも。

 

 そもそもからしてアナハイムのMSは万人受けするMSではないものだが、その性能は最早ザフトでも文句のつけようがない。エースパイロットならアナハイム系のMSを欲しがっている人も多いらしい。

 

 だから一部生産という細々とした活動になる。それはアナハイムが国営企業ではないのと、開発部部長でありナチュラルを擁護するユキがナチュラルであり、そんなナチュラルが作ったMSが高性能なのを認めたくないというどうでも良いプライドによるものだった。

 

 プライドで戦争が出来るはずもないものの、それは前線を知らないから言えることなのだろうという見解がシホにはあった。

 

 だから性能はオーソドックスであるジンは今でも主戦場の主力だ。それでも宇宙では徐々にドラッツェの姿が目立ち始めている。

 

 宇宙ならジンよりも高機動でMAと同じ土俵に上がりながら圧倒的な性能でもあるドラッツェが好まれるようになってきたのだ。それが現場の事情でもあった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 クルーゼはジン・ハイマニューバを駆りながらMS部隊の陣頭指揮に立っていた。

 

 今回の役割は子供でも出来る様なものの為、基本的には好き勝手に暴れさせるだけで良い。

 

 それでも調子に乗ったジンが3、4機のMAに囲まれて撃ち落とされる様は滑稽で見ていて気分が良い程だった。あれでナチュラルよりも進化した新人類だとよくも豪語出来るものだと。

 

「如何に遺伝子を弄ろうとも、本物には勝てないということかな?」

 

 言ってしまえば人間に備わっている本来の力を科学的に引き出しているだけだとクルーゼは思っている。その遺伝子に分不相応の物を与えようとするから不具合が生じる。それを人工子宮という形で解決したユーレン・ヒビキという男は確かに賢い科学者だったのだろう。

 

 しかしそれでもどうにも出来ない事柄は存在する。つまりその人工子宮が完成する前に生まれ、さらに言えば老い先短い人間が自身の死すらも金で買えると思い挑んだ計画は、それこそ天罰の様に本人に降り注いだわけだが。ならば生まれ落ちた自分たちまでその罰を背負う必要などあるのだろうか?

 

 あるはずもない。ならばこの老い先短いこの身はどうすれば良いのだ。

 

 その答えは既に持っていた。この歪んだ世界を破壊し、そして少しでも自分と血肉を分けた兄弟が住みやすい世界にしてやろうとも思った。

 

 だが気まぐれな神は唐突に希望を無慈悲に与えてくれた。

 

 先ず覚えたのは落胆である。そして怒りだった。

 

 希望など今更要るものかと。ならばなぜ、生まれた時に現れてくれなかったのかと。なぜ、今更になって現れたのかと。

 

 だからこそ、希望は兄弟に託した。臨床実験に協力し、以前よりかは余命は伸びたが、それだけに留めてある。預けた兄弟は回復方向に向かっていると聞く。ならば自分はこの果てしなき欲望の世界を綺麗にして逝くとしよう。その為の機会がこの戦争だ。

 

 自分を生み出した愚かなこの世界に復讐し、新たな世界を兄弟たちに譲ろう。後の事は友人がどうにかしてくれるだろう。

 

「そう思えるのも君のお陰かな? ユキ」

 

 おそらく以前の自分ならただ世界への復讐ですべてを滅ぼすだけで終わっただろう。そうであっても友人にあとは任せるつもりだった。

 

 だが預けている兄弟を通じて知り合ったもう一人の友人の存在が、結果は同じでも心持が違う在り様を抱く切っ掛けになったのは確かだろう。

 

「さて、いつまでも見物というわけにもいかんか」

 

 友人の見立て通り、ガンバレル装備の多いMA部隊によって形勢は若干こちらの不利になっている。

 

 ジンがただのメビウスに後れを取り、さらに対艦攻撃に向かった機も撃墜されている。

 

 艦隊防空はアナハイムの社員の乗るドラッツェが奮戦している。激しいドックファイトを繰り広げ、MA部隊を果敢に迎撃し、白い偵察型ジンの的確な狙撃がその陣形を強固な防御ラインとして機能させていた。

 

 しかし防御が出来ても攻勢側のパイロットがこれ以上減ってしまっても顔向け出来ないので動くことにしたのだ。

 

 クルーゼのジン・ハイマニューバはそのエンジンを唸らせて戦闘空域に突入し、アナハイムの対装甲リニアライフルに対抗して作られたレールガンを使用し、MAを次々と撃墜していく。

 

「っ!?」

 

 脳裏に何かか掠める感覚に従い、機体をその場でターンさせながら後ろに勘で射撃すればこちらを狙っていたガンバレルを撃墜していた。

 

「厄介な戦場だよ。ここは!」

 

 機動性に秀でるジン・ハイマニューバで限定空間内での運動戦をさせられる程に敵の数は多く、さらに四方八方からガンバレルによるオールレンジ攻撃が襲って来る。

 

 なるほど確かに普通のパイロットでは苦戦もする上に撃墜も已む無しとも言える激戦区ではあるが。

 

「一応は矜持というものもあるのでね!」

 

 腰から重斬刀を抜き、横から襲って来るガンバレルの攻撃を薙ぎ払って弾く。これは士官アカデミー時代でユキが良く使った手だ。MSの剣で銃弾を切るなどという非常識な防御方法だが、それ故に相手の意表を突けるため、ユキが好んだ防御方法だった。無論一対一というシミュレーション状態でならこのまま重斬刀を投げつけて敵機を撃墜するというさらに非常識な戦い方をする上に、MSで人間の様に格闘戦までこなすのだから最早MSでの操縦で他の追従を許す人物でもない。ならばなぜ士官アカデミーの成績が2位だったのかといえば、世界史の単位と、MS操縦の荒っぽさが原因であった。特に実機テストになると必ず機体の何処かしらを壊すので評判が悪かったのだ。その修理も一人でこなす程に整備士としての腕も高く、卒業後に整備部門から直接オファーもあったが、前線勤務を望んだために蹴ったとは本人から聞いている。

 

 ただあれは訓練用のプロトジンがユキに着いて来れず機体が自壊していたという事情をクルーゼは知っている。破天荒でいて実は堅実的な、それでいて時に奇抜なユキの振り回しに機体が着いて行かないのだ。

 

 だから卒業後は自分に見合う機体を用意したユキの戦果は実益としてザフトの戦果に貢献している。

 

「ならばやってみせる必要もあるだろう」

 

 それでも並み居るコーディネイターを押し退けて手に入れた地位だ。同じナチュラルとして、友人として負けっぱなしというのも面白くはない。

 

 そう思う程度には自分も俗な人間なのだと仮面の下で笑いながら、クルーゼは更に一機ガンバレル付きのMAを撃破した。動きが単調ならばそこまで苦戦もしないのは経験から分かっては居る。

 

「道を開ける! MS部隊、続け!!」

 

 味方を先導しながらクルーゼは取り付いたドレイク級のエンジンを撃ち抜き、後続のジンが群がる様に攻撃を仕掛けてようやく船を一隻沈めたが、駆逐艦程度の一隻を沈めただけでは意味がない。

 

「ぬうっ!?」

 

 脳裏に走る敵意から逃げる様に機体を操る。四方八方からの攻撃をバレルロールやAMBAC機動を駆使し、機体のスラスターも小刻みに動かしてやり過ごすが、僚機の何機かが被弾していた。

 

「この感覚は……!」

 

「クッソ。あの新型、やるな!」

 

「ほう。鹵獲したジンにガンバレルを装備したか…!」

 

 目立つようなオレンジ色の配色はメビウス・ゼロを意識した物だろう。

 

 ジンの特徴的なウィングパーツは無くなっている代わりに背中に4基のガンバレルが備わっているジン。

 

 背中に無理やりメビウス・ゼロを合体させたような見かけだが、侮れないと注意深く意識すると妙な感覚に襲われる。それは自分の半身が目の前に居るかのような奇妙な感覚だった。

 

「不思議な感覚だな。一体どのような人間がパイロットか」

 

「くっそ。せっかくMSに乗れてもこう敵がすばっしこいんじゃ!!」

 

 レールガンを放つガンバレルを装備したジンのパイロットはムウだった。

 

 このジンは戦場で鹵獲された機体にメビウス・ゼロのガンバレル部分を強引に連結している機体だった。

 

 そもそもコーディネイター用OSはナチュラルが扱うのにはかなり情報処理量をパイロット側に求められるものだったが、それを努力と根性と意地でどうにかクリアしたムウは連日のグルマルディ戦線での小競り合いでも特設MS部隊隊長として日々出撃を繰り返し、このジン・ガンバレルをモノにしたのだ。

 

 その意地の部分は戦場から帰って来なかった一人の少女の様な犠牲をこれ以上は出さないという大人の意地の様なものだった。

 

「援護しますよ、フラガ先輩!」

 

 そしてそんなジン・ガンバレルを乗りこなした数少ない人物にはムウの後輩であるサエン・コジマも居た。

 

「なるほど。奪った機体で中々動くものだが。果たしてどれほどの物かな?」

 

 レールガンの応酬が続くが、まだ余力のあるクルーゼに対してムウもサエンもそれほど余裕はなかった。

 

「ちくしょう! こうも当たらねぇのか!!」

 

「私をそこら辺のパイロットと一緒にしてもらっては困るのだよ」

 

 レールガンをめった打ちにばら撒くサエンのジンではあるが、本命を織り交ぜての牽制も意味がなく、2対1という状況にも関わらずに翻弄されている状況に焦りも感じていた。その隙にザフトのMS部隊がいよいよ攻勢に乗り出し、味方が押され始めたのだ。

 

 またザフトの大型空母の長距離ビームが艦隊を襲いはじめてもいた。アンチビーム爆雷も無限ではなく、ビームを減衰する勢い以上に集中砲火を浴びてまた一隻二隻と撃沈する船が出始めたのだ。

 

「フォローしろ、サエン!」

 

「了解!!」

 

「やはりまだ技術的に荷を抱えているようだな」

 

 この短時間でクルーゼはガンバレルを装備したジンの弱点をおぼろげながら掴み始めていた。

 

「脚を止めなければガンバレルも使えんようだな」

 

「いけぇ!!」

 

 ムウのジンからガンバレルが射出され、その隙をカバーする様にサエンのジンが弾幕を張るが、牽制の弾幕は無視を決め込み、殺気だけに対応する。

 

 すべての攻撃が本命ではない。機体に掠る程度ならば最低限の動きで避ければいい。直撃コースの本命打を回避、それでも避けられなければ重斬刀で弾けば良いだけだ。

 

「クッソ! コイツも味な真似をっ」

 

「この程度が出来なければ、トップガンは名乗れないのでね!」

 

 ガンバレルを操るジンが重斬刀で弾丸を切り裂くという芸当を披露しても同様はあれども驚きはない事にクルーゼはこのジンのパイロットは何処かでユキの戦い方を見ていたのだろうと判断した。或いは4基のガンバレルを操るのならばユキと2度相対して生き残った運の良いパイロットではないのかと思い、興味が沸いた。

 

 身体が、自分の何かが訴える感覚に従って、クルーゼは目の前のジンの通信を試みた。鹵獲されたジンならばザフト同士の共有通信が使えるのではないかと繋げてみれば、通信は繋がった。

 

「奪った機体で良く動くものだ。その努力に敬意を表して、名を聞こうか?」

 

『ムウ…。ムウ・ラ・フラガだ』

 

「フラガ…!?」

 

 フラガという名にも衝撃を受けたが、何よりもムウ・ラ・フラガという名に、クルーゼは運命を、いや、自らに課せられた宿縁という名の鎖を感じずにはいられなかった。

 

「なるほど。ククク、これは傑作だな」

 

『なにがおかしい!?』

 

「これが笑わずにいられようか。だが、今はその命を暫くは預けよう。私も忙しい身なのでね」

 

『なんだと?』

 

『フラガ先輩! 後方から新手が!!』

 

『後ろからだと!?』

 

「来たか。ザフトの誇る戦艦キラーのご登場だ」

 

『戦艦キラー? まさか、ザフトの蒼き鷹か!?』

 

 連合の艦隊の後方から火の手が上がる。次々と撃沈か、或いは大破する艦が続出する。それを一撃で決めているのは重装甲であるのにも関わらずに、ジン・ハイマニューバ以上の機動性で戦場を駆ける新型のMSだ。

 

「また新型かよ!! 何だってんだザフトは!」

 

 そう言いながらサエンは目の前のクルーゼをどうにかして救援に向かおうと思っているが、そうは行かせないとクルーゼは妨害に入る。

 

「もう少し落ち着いて見物するといい。あれがザフトのトップガンの姿という物だ」

 

『邪魔すんな! そこを通してもらうぜ!!』

 

 サエンのジンからガンバレルが射出されるが、ムウと比べて制御が甘く、クルーゼは冷静にそのガンバレルを撃ち落としていく。それでも抵抗する為にレールガンも放つが、それさえ避けられながら重斬刀で弾かれ、懐にまで侵入を許してしまう。

 

「ぐおおおおっ」 

 

「墜ちろ!!」

 

 蹴りを入れ、バランスを崩すサエンのジンを貫こうと刺突を放つクルーゼのジン・ハイマニュ―バの重斬刀をレールガンが弾き飛ばした。

 

「俺も忘れて貰っちゃ困るってね!」

 

「ええい。いま一歩のところを」

 

 深追いは禁物だと判断したクルーゼはレールガンでムウのジンを牽制し、速やかに離脱した。パワーも2機との小競り合いで減っていたのもあるが、ここまで形勢が傾いたのだ。この戦闘はザフトの勝利と見て一度補給に戻る事を選択したのだ。

 

「退いてくれたか…。大丈夫かサエン!?」

 

「んぐ、ああ。大事ないぜ先輩。だが、…くそっ! 良い様に弄ばれただけだったっ」

 

 悔し気に操縦桿を叩くサエンの気持ちはムウも痛いほどに分かっていた。MSに乗れるようになっても、ザフトのエース相手には歯が立たない。そんな事実を突き付けられた気分だった。

 

「ともかく一時後退だ。それじゃあまともに戦えないだろう?」

 

「ああ。…ん? なんか変だぜ? …なんだよ、こりゃあ……」

 

「おい! なにかあったのか!?」

 

「人が。死んでるのか? ヤバい! 先輩、逃げたほうがいいぜっ」

 

「だからなんだって…。っ、基地から高エネルギー反応!? まさか、サイクロプス・システムか!!」

 

「早く逃げなきゃお陀仏だぜ先輩!」

 

「いや、この辺りなら平気だが。基地周辺は…」

 

 クルーゼとの小競り合いで大分上方の宙域に居たムウとサエンは無事だったが。エンデュミオン基地防衛に当たっていた連合宇宙軍第三艦隊はサイクロプスに巻き込まれておよそ9割の戦力が溶けた。

 

 ザフト側も侵攻していたジンはすべて巻き込まれ、ローラシア級1隻も巻き込まれる形で消滅。クルーゼは部隊を退かせ、ユキもそれを了承した。

 

 こうしてエンデュミオン基地攻防戦は双方なにも得ることはなく終決し、グルマルディ戦線も終息することとなる。

 

 この作戦の事実上の失敗を本国に問われる形で、ユキは本国に引き上げる部隊に同行することとなる。

 

 責任者はクルーゼ、引いては国防委員会の方であり、援軍を求められたユキの側には何ら不手際がないのだが、召喚に応じなければ後が面倒である為に、仕方がなくユキはアーサーやアナハイムのメンバーに後を任せて、シホを連れ立って本国へと帰還するのだった。

 

 

 

 

to be continued…

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