安眠する為に耳かきボイスなんていうのを試していますが、耳がくすぐったくて逆に眠れないですね。というか恥ずかしくて顔から火が噴きそうですハイ。
色々とこの先の表現制限緩和の為にR18版に移しました。
ユキ・アカリ――。
ナチュラルでありながらその頭脳はザフトの最新鋭MSを凌駕するMSを週刊単位で生み出し、ザフトの戦術運用の礎を築き、士官アカデミーを歴代2位の成績で卒業し、赤を経てザフト最年少の白を着る実戦派将校である。
戦歴も凄まじく、参加した作戦の内被弾はただ一回のみであり、その撃墜スコアはザフト軍において虚飾なしのトップである。
また政治方面にも顔は明るく、最高評議会議長のシーゲル・クラインや、評議会議員のギルバート・デュランダルとも懇意の中であり、彼の持つ政治思想を胸に活動しているとも噂がある。
正直非の打ちどころがなさ過ぎてこんな人間実際に居るものかと思う程の多芸さであり、アングラ出版物の雑誌などでは実際はプラントが作り出した最高のコーディネイターではないのかという根も葉もない噂すらあるほどである。
実際コーディネイターで、今の能力が更に強化されたら世界がどうなってしまうのかわからないので考えないことにする。
しかしそんな完璧超人常勝不敗伝説を打ち立てている傑物少年が、実は物凄く甘えたがりな本性を隠していた事を、シホは知るのだった。
そしてマイホームだと普段の威厳もゼロ。それこそ普段見せている大人の部分が微塵もない程にぐだぐだだったのだ。
酒の勢いで少年上司と肌を重ね合わせたシホだったが、それこそ最初は子供同士の初夜の様なこそばゆいものだったのが、段々と激しくなるにつれて一方的に溜まったものを吐き出すような強引なものから、互いに獣の様に本能のままに混じり合い、そして砂糖が吐けそうなほどの甘ったるい雰囲気で肌を重ねて、終いには少しどうなのかという程の時間を行為に費やし、丸1日を肉欲で締め括ってしまった自分に軽く頭痛を覚えつつ、まだ胸元で寝息を立てている黒髪の少年の髪を撫でる。汗とあらゆる体液でべとべとであったりかぴかぴであったりするのだが、その艶やかな色は褪せることもなくそのままである。
酒の匂いなど既に抜けて嗅覚を突く性臭という物は自分がどういう事をしていたかを思い出させ、素面な彼女はその度に耳まで赤くなるのだが、それでも疲れて寝てしまっている上司を起こす気にはなれず。かと言ってベッドを出ることもなく自分の、歳にしては大きいと思う張りのある胸に顔を抱いてクッション代わりに提供するのだった。
「ホント、麻薬みたいな子」
それこそまだ出会って4ヶ月でこのような関係になるなどシホ自身は思わなかった。一昨日は自分も何処かおかしかった。アルコールで色々と理性の抑えが効かなくなっていたのだ。
それでも優しく激しく苛烈に求められて悪い気分がしないのは、女としては満足しているからなのだろうか。
それこそ自分に向けられる劣情混じりの視線とは違う。自分という人間を分かって求めてくれる上に一応同意の上で、更にキライとは思ってはいない、好ましいと思う相手だったからだろうか。
胸が満たされている。満足感は感じられているという程度には相性は良かったという事だろう。
「彼女が言っていたことも本当だったわね」
それはユキが失うことに臆病だという事だ。
戦争で戦友も、恩師も、恋も愛も夢も失ってしまったのなら仕方がない。それこそ自分が同じ立場で戦い続けられるかと問われたら白旗を上げるだろう。
それこそそれ以前に死んでいるか、生きていても無気力か、或いは戦争とは2度と関わらないような生活を送るだろう。
それでも戦場に立った少年は、少年のままずっとここまで来てしまったのだろう。そして宿願を果たすために、純粋に、盲目に、ただひたすら、自分が傷つこうとも厭わずに正しいことを成すのだろう。それが正しいことと信じて。
「何もかも背負いすぎよ。だからこうなってしまうのよ」
だから、誰かに甘えないから、吐き出し方も知らないで自分で知らないうちに溜め込んでパンクして自滅するタイプだ。
それはまだ甘えるべき時に戦争に出て、そして何もかもを失ってしまった、敗戦の経験が、何よりも誰かに頼らずに弱さを見せずに人の規範になるべき立場になってしまったからだろう。子供に、周囲が大人であることを強要したからだろう。
それでも軍人なのだから仕方がない。それでも心は知らずの内に限界になる。
それがわかる人は一体どれだけ居たのだろうか。この子の悲鳴を聞いて、癒してあげられる人は居たのだろうか。
居ないから、或いは居なくなってしまったから、誰もがその表面だけを求めて、本質を蔑にしていたから、ここまでボロボロで脆弱な心になってしまったのだろう。
甘やかす事が良い事なのかはわからない。それでも今は何もかもを忘れて溺れても良いと思う。それだけの頑張りをしているのだから、それに見合う安らぎがあってしかるべきである。
その癒し手が今は自分で、どこにも行かない彼の精神安定剤。それほどに心が疲れ切ってしまっているのだから。
起きればまた戦争で、最前線で戦うのだから、今だけは良いだろう。
「んっ……ホントに、甘えん坊ね」
居心地が悪いのか、身体の位置をもぞもぞと動いて調節する時に擦れる肌同士でこそばゆさを感じる。
彼が起きるまでもうひと眠りしようと、シホも瞳を閉じた。そうすることで音しか感じない世界で密着し合う肌から伝わる鼓動の音が合わさり、一つの音になる。それが心地よくて、嫌な感じは一切思い浮かべなかった。
◇◇◇◇◇
週刊びっくり玉手箱会社として一部では言われているアナハイム・エレクトロニクス。マイウス工廠でロールアウトした新型のMSを前にしてユキはその完成度に満足していた。
「注文通りだ。良く仕上げたな」
「ユキさんの教えが良いからですよ」
そのMSのコックピットから出てきたのはプルツーとそれ程歳は変わらないだろう金髪碧眼の、レイと同じ特徴を持つ少年だった。
プレアはレイと同じくクローンであり、しかしレイのクローニングよりも程度が低いクローニング技術により生まれ、さらには過酷な実験で廃棄されるところだったのをクルーゼが助け出して、ユキの元に預けた子供だった。
デュランダルの処置で一命は取り止めているが、ボロボロの身体の治療までは完全ではなく、虚弱感漂う儚い少年の雰囲気がアナハイムでは人気を博している。
レイ、カナードと同じくユキの手解きを受けていて、3人の中では一番工学関係の才能を開花させている。それはアナハイムで既にユキの要望通りのMSを仕上げられるレベルである。MSの操縦もお手の物だが、Gが掛かる実機ではそれほど長い時間は乗れない制約がある為に主にシミュレーターでのテストパイロットを務めている。
コックピットから出てきたプレアの頭を撫でるユキと、その褒美が気持ちのいいのか。目を閉じてされるがままで微笑む姿は仲の良い兄弟のやり取りに見えなくもない。
「それでもこのMSは凄いというか。思い切っている設計ですね」
プレアが見上げるMSはかつてジオン公国において炎の魔人の名を冠したMS――イフリートであった。そのリプロダクション・モデルである機体。それがこのリフリートであり、ユキが進めるリープシリーズMSの一機として蘇った機体である。
ベースはリープザクとリープドムの間に設計していたグフ系MSであり、地球軍が鹵獲機とは言えMSを運用し始めた事を受けて再設計と製造をされた機体である。
L4の地球連合東アジア共和国領の資源衛星「新星」にザフトが侵攻、迎え撃つ地球連合軍との間で攻防戦が行われていた。
既に半月を過ぎても一向に動きがない戦線に特務隊であるアカリ隊の出撃が決定したのである。
「地球軍もジンを使い始めた人間が居るからな。対MS戦闘を想定した機体はこれから必要になってくる」
「近接特化型の白兵戦用MSが必要になると?」
「ある程度はウィザードで対応できても、特化型というのは嵌れば強い機体だからな。作って、テストして、次に生かす。MSの開発はそういう物さ」
汎用性というのは大事だ。それこそ特徴がない事が特徴であっても、装備を変えればその特徴をある程度変えられても、局地戦用MSには及ばない。そして局地戦に特化した機体も使い様で戦闘能力は倍増し、時にはMSの性能差すら圧倒できる。
それはジオン残党によるトリントン基地攻撃時にも目にしていた。ドム・トローペンと、ドワッジ、ディザート・ザクが連携攻撃で型落ちとはいえ連邦軍のジム部隊の防衛線を蹂躙していた事実をもってして証明できる。
そういう意味で、MSは使い様だ。
リフリートは完全に近距離格闘戦特化型のMSで、正しくグフ系統のMSながらドムの前身でもある重装甲型MSでもある。
フレームにガンダリウム合金を使用し、近接格闘時における機体保護と剛性を確保している。装甲もガンダリウム合金を使ているため、ジンやメビウスでは撃墜するのにも一苦労だろう。
武装に関してはグフ系の設計をベースにした関係で、ヒートロッドを固定武装として装備している。射撃兵装は左腕の3連装ビームガトリングガン。これは実弾弾倉をエネルギーCAPに変えることで実現したビーム射撃兵装である。原型機同様頭部にバルカン砲を2門備えている。オプションだが、追加で6連装ミサイルポッドを両脚部に装備する事も出来る。
格闘兵装に関しては様々なものを装備する。標準装備はヒートソード2本であり、他はパイロットの好みになる。このリフリートはレーザー重斬刀をスケールアップさせた対艦刀「カリバーン」を右腕に懸架させている。重力下では負荷が掛かるものの、無重力である宇宙ならではの装備方法であり、この状態でビーム刃を出力すればビームトンファーとしても使用は可能である。さらに後ろのスカートアーマーにはヒートブレードが2本、脹脛にアーマーシュナイダー2本の合計7つの格闘兵装を使用する完全近距離特化仕様として仕上がり、ユキが乗ることを初めから想定されていた為、各スラスター類は高出力の物が使われ、機体追従性を高めるためにインテンション・オートマチック・システムとバイオセンサーを搭載している。
他にも機体装甲をチタン合金セラミック複合材に変え、性能とコストを抑えたノーマル仕様のリフリートが2機完成しており、こちらはウィザード装備によってある程度の汎用性も確保している。
性能的にはバッテリー駆動機である制限もあるが、現在マイウス社で開発中の新型MSのゲイツを軽く凌駕している。1号機であるユキの機体にはミノフスキー核融合炉が搭載され、その性能も宇宙世紀90年代後半の高級MSと遜色ない性能にまで高められている。
その他にもザクⅢ強行偵察型をベースにしたリープアイザックを開発。これは強行偵察型ジンで慣らしたジャン・キャリーの新しい乗機になる予定であり、こちらも稼働時間の関係を鑑みてミノフスキー核融合炉を搭載している。
そういった新型のMSを短期間で用意出来る企業であるアナハイムはナチュラルもコーディネイターも差別しない社風が、ナチュラル嫌いを嫌うコーディネイターやプラント在住のナチュラルを受け入れられる企業として開業5年という浅い歴史にしてプラント国営企業であるマイウス・ミリタリーインダストリー社とMSコンペで争える精力的な企業として日々成長を続けていた。
その重役会議ともなると、やはり色々と問題は噴出する。それこそ本国他企業からの地味な嫌がらせや、プラントのナチュラル嫌いによる製品の不評デマやクレーム。一般企業からしても悪質な程の状況のなかで、それでも業績が伸びているのは大体的な広告事業を一切せずに商売をしているためである。
それこそアナハイム製MSが戦場で大活躍している上に、軍からもエースパイロット向けの高機動型MSや、撃墜されたMSのリサイクル事業でジャンク屋組合と連携し、リサイクルMSを世に卸しているので、資金力は戦争開戦から連日鰻上りであった。
「ドロス級3番艦の就役は間に合うか?」
「造船部の報告ですと、既定性能の約8割程度でならばすぐにでも動かせるという事です。無論、艦自体の戦闘性能については既に完成しておりますが、内部の農業プラントの整備に時間が掛かっています」
「ならすぐにでも出られるようにしておいてくれ。今回の新星攻略にミドロは必要になる」
「了解いたしました」
ユキは重役会議での造船部からの報告を聞きながら次の議題を取りまとめに掛かった。
「木星開発大型輸送船ですが。こちらはまだ掛かります。社のリソースをドロス級並びにMS開発に回している影響です」
「それについては現状のまま続けてくれ。どのみち今次大戦中には間に合わないだろう」
月でヘリウム3は確保できてはいるが、やはりミノフスキー核融合炉の大量配備が出来る程の量を確保するには木星でヘリウム3を確保してくるしかない。
その為のジュピトリス級の開発と建造は始めているが、やはり戦争方面に力を入れているため、1番艦のジュピトリスの建造すら6割程度までしか完成していないのである。
「アステロイド・ベルトからの資源衛星移動は順調です。光学迷彩とミラージュ・コロイドにより、現在は連合及びプラント政府からも発見された動きはありません。内部基地化と工廠によるMS及び艦艇生産も順調の様です」
「ご苦労。引き続き見つからないようにしてくれ。それは万が一の切り札だからな」
「承知致しました」
アナハイムは現在3つの資源衛星を要塞化させながらアステロイド・ベルトから地球に向けて移動させていた。内一つは実際の事業として認可されて公式事業としているので迷彩も施されずに来月には地球圏に到着する予定だが、最大規模の資源衛星は秘匿されたまま地球圏に向かっていた。そこではザフトでも作っていないMSや艦艇を建造しながら向かって貰っている。
「一般販売部門の売り上げは先月よりも3%程落ち込んでいます。やはり戦争で税金が上がった為かと思います」
「それは上がった税金分値引きするかしてどうにかするしかない。戦争で物が買えなくなるのは暴動のもとだ。必要なら特別会計で値下げ分の損失は補う」
「ジャンク屋組合からはワークスMSの売り上げが連続更新中です。プチモビの売り上げを合わせれば損失分を補える計算です」
「わかった。プチモビに関しては国外販売の物を更にデチューンした物をジャンク屋組合以外に売る計画も始めてくれ。連合にMSが渡った今、OSも時間の問題だからな」
普段は文章で済ませてしまう会議も、実際に言葉を交わすことで現場の頑張りや苦労が伝わってくる。そういう意味では自分が居なくてもどうにか回る様にしておく必要もあるのだが、社長のデュランダルも今日は議員の仕事で外せない為、副社長のユキが重役会議を引っ張っていたのだった。
◇◇◇◇◇
ムサイ級2番艦ペールギュントは隊長命令により本国に帰還し、現在は物資搬入作業とMSの受け入れ作業で多忙を極めていた。
しかしそれは事務や実務レベルなどの話で、指揮官クラスはやることがない。
だからといって艦長が席を外すのも良くはないので、アーサーは真面目に艦長席に座り、作業を見守っていた。
グリマルディ戦線が終決してまだひと月が経とうという時期に新型MSが2機種も出来上がる開発スピードは、ザフトからの出向としてペールギュントに乗っているアーサーからしても異常とは言わずとも早すぎるとは思っていた。
同期でザフトのMS工廠に務める友人曰く。週刊びっくり玉手箱企業であるらしいアナハイムのMS開発スピードは論外であるらしい。MSについてそこまで深く知らないアーサーからすればそうなのかという印象だったが、それでザフトが地球軍に勝てるのならば良いのではないかと思っていた。
搬入を兼ねて宇宙空間での機体を慣熟飛行させている白い機体はその特徴的なカメラを露出した頭部から偵察用の機体であるとわかる。その機体にはアナハイムの誇る煌く凶星「J」ことジャン・キャリーが乗っている。
自分より一回りも、二回りも年上で、なのにMSに乗って戦場を駆けている。ロボット工学博士でプラントではその道では有名な人だ。
そういう人材も居るからアナハイムのMS開発は速いのではないかとアーサーは思っていた。
そしてこれまたジャンが乗る機体とは違う純白のMSとオレンジと赤の色合いをした2機のMSもその航跡を交えながら飛んでいた。
この2機種はウィザードと呼ばれる外付け武装システムにより機体の性能を異なる性能にさせることが出来る。
基本的にパイロットが好きに装備を選択するが、場合によっては艦長命令で装備を指定する場合もあるので概要だけは把握する様にとユキから言われたアーサーは真面目にウィザードについて勉強して頭に叩き込んだ。
MSの慣熟飛行が終わり、物資の積み込みも終わればいよいよ出撃になる。
向かう先はL4の東アジア共和国の資源衛星である「新星」だ。
これの奪取の為に攻略戦が開始されたのが6月14日。エンデュミオン・クレーターで物資獲得に失敗したザフトが新たな目標とした連合の資源衛星であるこの新星を巡って戦いは行われているが、どちらも決定打が与えられず半月が過ぎてもう7月になろうとしている。
これ以上被害が増える前に常勝不敗の投入を上層部は決定したのだという事だろう。
責任重大だが、今回も勝てるだろうという絶対の信頼がアーサーにはあった。それほどまでに自分の、自分たちの指揮官は強い。だから不安もないが、慢心は足元を掬われるもとだと教わっているので気を抜く気はなかった。船を守り通すのが自分の役目だからだ。
「作業の進捗はどうだ?」
「ハッ! 現在は8割方終わっています。予定出撃時間には間に合うでしょう」
「ご苦労。アーサーもあまり気張るな。今回はペールギュントは後方で戦闘には参加しないだろうからな」
「は、はぁ。しかし、出来るのですか?」
「出来る装備と人材を用意した。あとは天祐のみぞ知る。そういうことだ」
軽く肩を叩くユキに続いて戦況モニターに向かうアーサー。
そこには新星攻略作戦の作戦要項が映し出された。
現在新星を防御する連合軍艦隊は周辺のスペースコロニーの被害さえ気にせずにザフト軍を防衛行動中であり、ザフト側もスペースコロニーを極力は巻き込まないように動いているが、それでも完全には行かない。
L4宙域全体を巻き込んだ開戦以来の大規模戦闘が繰り広げられているのだ。
ザフトも連合も月やL1、L2を経由して戦力を送り込んでいる為。ペールギュントとドロス級3番艦ミドロはL3を経由して敵軍の背後を突く形になる。
これに合わせてザフト本国もドロスをL4に向かわせる予定であり、ローレンツ基地からも同時期にドロワが出撃することになっている。月を留守にする事に対して少々不安が残るものの、守戦防衛努めれば早々落ちはしないだろうという考えでドロワを動かすことになったのだが、ドロス級の脚で見つからずに動こうと思うとL4到着は7月10日前後になるだろう。
肝心の作戦だが。隠密行動を取り、L4に到着するミドロとペールギュントは本隊のドロスやドロワに隠れてデブリ帯の中に隠れ潜み、新星の索敵範囲ギリギリから、ハイパー・メガ・バズーカ・ランチャーによる長距離直接攻撃を敢行することになる。
トリガーはルクレイツァ。索敵と測距はジャン。陽動攪乱は他のメンバーですることになる。
さらにそれを隠すためと、万が一の為に戦場にアンチビーム爆雷とビーム撹乱膜を形成する。
つまり新星をソロモンに見立てた要塞攻略戦を展開するわけであり、兵力は劣っているが、必殺の矛は用意した。ソーラ・システム程ではないが、威力は保証書付きだ。戦艦の核融合と直結させれば強力な長距離ビーム攻撃も可能だ。
かつてジオン一の強固な宇宙要塞とも名高いソロモンはソーラ・システムという連邦の新兵器がなければ持ち堪えられる筈だった。
その戦法を今度は自分が使うことにユキは一抹の悔しさが再燃したが、それでもこれ以上の被害を出す前にザフトを勝利させて資源衛星も手に入れて評議会の機嫌も取らなければならない。その為にはなんでも利用する必要がある。
経験だけが取り柄の自分が戦場で勝つためにはそうでもしなければ栄光の勝利を掴む事すら叶わないのだから。
◇◇◇◇◇
連合宇宙軍第八機動艦隊。智将ハルバートンが率いるこの艦隊は新星防衛戦に駆り出されたものの、その任務は新星の直援であり、主戦場は第五、第六艦隊が務めていた。
第八艦隊に出来る仕事と言えば新星の警護。そして少数の独立艦隊を編成し、戦場に遊撃艦隊として送り込む事だった。
その独立遊撃艦隊を指揮するのは、ブライト・ノアであった。
ブライトの提示した対MS戦闘戦術の有用性は日増しに評価され、機動兵器の質で勝るザフト相手に防衛戦ならば強固な戦果を約束させた。
ただやはり機動兵器の差から攻勢には向かない為に、連合もザフトも互いに攻められない膠着状態が続いたのだった。
「妙だな。今日の海は静かすぎる」
ひとりそう呟くブライト。幾度目かなどわからないザフトの襲撃。それを迎撃する連合軍艦隊。
ネルソン級から輸送艦を改修した準アークエンジェル級「コーネリア」に座乗艦を変えたブライトは戦況画面に入る情報を分析する。
船の形も相まって、コーネリアは宇宙世紀の準ペガサス級を想起する様な外見をしている。武装はアークエンジェル級に準じている。
そんなかつて指揮した船の特徴を受け継ぐ船にあってしかし頼れる仲間のいない孤独さというのは色々と寂しいものをブライトに感じさせた。
もちろん部下を信頼しているし、ブライトのしごきに着いて来れる精鋭だと自負があるが、アムロやクワトロ時代のシャア、ユキといったこちらの機微を察して、頼りになる人物という意味ではブライトは未だに孤独だった。
それでも連合の兵士として戦うのは、この場所で留まることが自分の戦いだという自覚があるからだった。
「お前も戦場に出てくるか」
戦場にドロス級が2隻確認されている。となれば必ずどこかに居るはずなのだが、未だ連合軍艦隊に目立った損失はない。長距離ミサイルによるアウトレンジ攻撃も艦隊やMAが迎撃している。だた厄介なのが偵察用MSの測距観測による高精度の攻撃によって新星も少なくない被害を受けているという事だ。
それが行われ始めたのが15分前。そしてその観測機を使ったアウトレンジにおける長距離攻撃というのは宇宙世紀でも度々使われている手だった。ミノフスキー粒子環境下よりかはマシだとは言え、誘導兵器はNジャマーによる電波攪乱で使えないのだが、中継機でもある偵察機や測距データを送れば艦隊でも長距離誘導攻撃は可能なのだ。
それをこちらでもしたいところなのだが、大艦巨砲主義と物量主義の連合軍ドクトリンがMSショックで変わらないと無理だろうという漠然な思いがブライトにはあった。そういう意味では自身のアドバンテージを100%生かせるユキのいるだろうザフトの環境はかなり動きやすいのだろう。それが少し羨ましくもある。
自分にできるのは少数のゲリラ部隊を率いての局地戦で勝利を掴むこと。身に沁みついた戦い方は早々簡単には変えられない上に、今はそういう戦いこそが求められている。戦略的に不利ならば、戦術的勝利を重ねて戦略的に勝ちに繋げるしかない。
故にブライトは自分に出来るだけの事をするまでだった。
「戦場全体で光が弱くなっているな。なにかわかるか?」
艦橋から見える戦場で光が減っている。それは爆発ではなく、艦隊から奔るビームの光が少なくなっている事を意味していた。
「そ、それが、敵のMAモドキが新型のアンチビーム爆雷をばら撒いているらしく、艦隊のビーム攻撃が通用しなくなっていると」
オペレーターからそういう報告を聞き、ザフトの狙いを分析する。
MAモドキ。旧ジオン残党が開発したMSであるドラッツェ。それはザフトにおいても高速哨戒機として、或いはMAを超える機動性を持つ機体として、戦場の2割のMSはこのドラッツェが飛び交っていた。
そのドラッツェが、ジンの拠点攻略用D装備の大型ミサイルを放出して引き上げては別の部隊が同じことをして引き上げ、爆発したミサイルの特殊粒子が連合側のビーム砲撃を封じていた。
「これは……」
その光景にブライトは既視感を感じた。なにかが被る。思い出せと、ブライトは自らの記憶を辿る。
この状況で態々ビーム兵器を封じる意味。長距離ビームから艦隊を守るという意味ならば分かる。だがそれだけの為に自軍の長距離ビーム攻撃も封じる必要があるのだろうか?
敵のビーム撹乱膜は前面領域に渡って展開されているが、それにしては妙な一点がある。
「ここまで広範囲に攪乱する意味があるのか?」
それこそ主戦場ではない方向にまで攪乱膜が有効になる様に展開されている。MS部隊の突入支援。それだけか?
「そんなはずはない。その程度に……待て、ビーム撹乱膜?」
アンチビーム爆雷もビーム減衰粒子を展開する防御兵装だが、明らかにドラッツェが放っているのはビーム撹乱膜ミサイルだ。
要塞に対するビーム撹乱膜展開。その後に艦隊突入。敵の目を引き付け、本命を隠す。
「っ、全艦第一戦闘配置! コース設定、ポイントW32。最大戦速!!」
「了解! 総員第一戦闘配備!対空対艦対MS戦闘用意!!」
命令を飛ばし、ブライトはもし敵にユキが居るのならばという想定を仮定にして一つの答えを導き出した。
「司令! S0より突入してくる機影があります!! 暗礁宙域から侵入、モニターに出ます!」
「蒼いMS!?」
そこに映るのはドム系のMSと機種はわからないが、明らかにジオン系のMSがデブリを蹴り飛ばしながら加速していた。そしてその身の丈程もあるビーム刃を放つ大剣を振るい来て、映像が終わる。
新星の裏からの奇襲。だがそれすらも陽動。恐らく本命は敵の本隊の向かって左翼のデブリ帯の中に何かがあるはずだ。
そう、新星をソロモンに見立てたソロモン攻防戦。そして今、自分はジオン側に立ち、ザフトは連邦側に立っている。そして新星の裏からMSによる強襲。それもまた囮だと思えるのは態々ユキ本人がこそこそと隠れながら接近して、おそらく見つかったのも織り込み済みだ。そうまでして本命を隠す。それこそこちらの艦隊をどうにかできる兵器を用意してきたはずだ。ソーラ・システムとまではいかないだろうが、確実に何かがある。
「構うな! 当初の予定通りに行動、可及的速やかに指定ポイントまで急行せよ」
どのみち今自分が居る位置で船で戻っても間に合わないだろう。ならば自分のするべきことはユキのMSを迎撃する事ではなく、その作戦を看破して阻止することになる。
「間に合ってくれよ…!」
読み勝ちか、それともブラフか。そうは思わない。そこに何かがあるという確信に突き動かされて、ブライトは艦体を率いて進むのだった。
to be continued…