史実通りに失敗させるか悩みましたが、成功させました。
地球。静止衛星軌道上には多数のザフト艦隊が展開していた。本国防衛。L1宙域警戒艦隊を除いたほぼすべての艦艇が展開するこの宙域の真下には青い姿を広げる母なる大地が見えている。
ナスカ・ローラシア級の艦艇数は50に届きそうな数だった。
MSも300機に届きそうな数が宙域を警戒するものや、大気圏降下用ダイブシェルに機体を格納している。
「中々壮観な眺めですね」
今作戦の指揮を執る旗艦、ムサイ級ペールギュントの艦橋でかつてない大部隊の集結に、アーサーは興奮を隠せないでいた。
「二の矢は放てない程の戦力を集めたからな。これで勝てませんでした。では物理的に首が飛ぶさ」
「ええっ!?」
そんなアーサーを落ち着かせる意味も込めて冗談ではない真実を告げる。もしこの作戦を成功できなければ悠々としてプラント本国では自分の首を狩る絶好の機会と息巻く強硬派の姿が目に浮かぶ。それにこれほどの物量を投入するのだ。ビクトリアは必ず攻略しなければならない。
MSだけの戦力だが、200機以上の戦力を投入するのだ。降下予測地点を絞らせない為に静止衛星軌道で待機しながらピンポイント降下で一気にビクトリアを落とすつもりでいる。その為に生産間もない地上用MSまで強引に引っ張り出してきたのだ。
あとは命令をどこまで聞いてもらえるかだが、今のユキの立場は最高評議会の特務隊所属の今作戦の前線指揮官だ。艦隊指揮は別に白服が数人居るのだが、特務隊のユキの命令を聞かなければならない立場にある。命令に従わずに作戦に綻びでも出たら物理的に首が飛ぶのもわかっているからだ。どうせなら面倒ごとはナチュラルの小僧に任せておけというのが白服指揮官たちの見解だった。
この降下作戦を察知して、地球軍はすぐさま月から先の世界樹攻防戦で壊滅的被害を受けた第一から第三艦隊を再編した新第三艦隊と第四艦隊を降下阻止に派遣したが、100を超える護衛モビルスーツや、艦艇の長距離砲撃の前に降下部隊には近づけないでいた。
「やらせない。宇宙は私に任されたんだもの!」
ドラッツェ改を駆るシホは全身の火器を使い、次々にMAや戦艦を墜としていく。
そんなシホのドラッツェ改の戦果に呼応して、ジンやドラッツェ部隊が強固な防衛線を敷いていた。
『何だあの不格好なMSは?』
『メビウスのパーツを付けてやがるぞ。それほど台所が厳しいのかい? 宇宙人さんよぉ!!』
「バカは来る…!」
ドラッツェに向かって行くメビウスをシホのドラッツェ改は対装甲リニアライフルや、シールドビームガンで撃ち落とし、艦艇にはミサイルやシュツルムファウストを撃ち込み、また1隻のアガメムノン級を撃沈した。
MAに近い扱い方をするドラッツェだが、ジンとメビウスのジャンクパーツで造られたとは思えない機動性でメビウスを圧倒し、その一撃離脱戦法によって次々に地球軍艦隊は数を減らしていった。
さらに高機動型ジンに乗るルクレイツァも宇宙での戦線に加わっていた。
『なんだ!? はや――ぐああぁ!!』
『新型だと!?』
「遅い!」
アーマーシュナイダーを抜き、メビウスを続けざまに2機切り裂いて撃墜したルクレイツァは対装甲リニアライフルをドレイク級に数発撃ち込み、そのミサイルユニットに満載されているミサイルを誘爆させて宇宙の塵に変える。
そんな高機動型ジンを背後から襲おうとしたメビウスを数発のビームが撃ち貫いて爆発させる。
「面白いな。この武器は」
後ろを見ずに脇の下から腕だけを向けてシールドビームガンでメビウスを撃ち落としたルクレイツァは口元に弧を描きながら降下部隊に半ば特攻をかけ始めた敵のMAや艦船を次々に撃ち落として回った。
「まさかローアルを引っ張り出すとはな。彼も中々えげつない」
ジン・ハイマニューバのコックピットでクルーゼは単機で敵を壊滅させる勢いで攻撃している士官アカデミーの同期の姿を思い出す。中退しなければ自身が首席で卒業することもなかっただろう傑物を引っ張り出してきた少年の容赦のなさにいっそ敵が哀れに映る。
「しかし、手加減はしてやれんのでな」
この降下作戦は成功させなければならないのはクルーゼも同じだった。宇宙で戦場が完結されてしまっては困るのだ。故に全力で地球軍艦隊には退場してもらわなければならなかった。
「こうもゼロの紛い物が多いとは」
またガンバレルを破壊するが、そこにはガンバレルを操作する者特有の感覚を感じない。
ガンバレルは確かにMSを撃破できる武装だ。それを量産する意味では地球軍は賢いが、それでもそれを扱うには高い空間認識能力が必要なのだが。
「ガンバレルを減らして汎用性と負担を軽減し、普通のパイロットでもある程度使えるようにしたらしいな」
メビウスのブースターを取り付け、ガンバレルの数を減らし、性能をある程度妥協してでもMSに対抗できる手段を残す。それほどガンバレルのオールレンジ攻撃は一般のザフト兵には厄介な攻撃だった。
「が、パイロットが伴ってなければな」
それでも一流のガンバレル使いには及ばず、機体の制御も甘くなる。
連合の対MS用MAハーフゼロは確かに脅威だが、エースパイロットにはただ少し厄介程度のMAでしかなかった。
「そろそろ私も出る。あとの艦隊指揮は任せるぞ」
「は、はい! ご武運を!」
「ああ。制宙権維持が難しいようなら体勢を建て直すために撤退も許可する。どうせ地球軍には宇宙からどうこう出来ないのだからな。補給コンテナ投下はスケジュール通りにな。24時間以内には決着を着けてくる」
「了解しました。それまではこの宙域には一機たりとも敵は通しません。プラントに栄光を!」
『『『『『プラントに栄光あれ!!』』』』』
「プラントに栄光あれ」
ブリッジを出たユキは些か調子に乗りすぎたかと密かに反省しながら、ノーマルスーツに着替えて格納庫に向かった。
ジン・フルバーニアンの対角にはドラッツェ改が帰投していた。
「部長!」
「シホか。補給か?」
「はい。空母を墜として来ましたが、未だ抵抗は激しい上に、敵は新型のMAまで投入して来ました」
「報告にあったな。だが落ち着いて対処すれば大丈夫なはずだ。そう何人も空間認識能力を持った人間が居るとも思えない」
ガンバレルを2基に減らしたメビウス・ゼロ。確かに2基の端末なら機体を動かしながら操作は出来るだろう。ノイエ・ジールの有線アームやインコム系統はそういったことも出来た。
「私はこれから地球に降りる。宇宙は任せた」
「了解!」
シホに見送られながら、ユキはジン・フルバーニアンに乗り込む。管制に従って宇宙に出ると、ペールギュントが曳航していたフライングアーマーを手にして、広域チャンネルで通信を開く。
「今作戦に参加するザフト軍将兵諸君に告げる。私はユキ・アカリ。特務隊として、今作戦の諸君らの命を預かることになった」
戦場に集うザフト軍の兵士たちは何事かと顔を見合わせていたが、気にせずユキは続けた。
「今作戦は有史以来、何者も成したことのない危険な任務だ。しかし、恐れることはない。プラント独立の為に立ち上がった貴君らの勇気が必ずや作戦を成功に導くだろう。諸君らの武運長久を心から願う物である」
一度言葉を切り、すべての猛りをその一言にぶつけた。
「全軍、降下開始! プラントに栄光あれ!!」
フライングアーマーに乗り、地球降下への先陣を切る。
ユキのジン・フルバーニアンに続き、ダイブシェルやローラシア級の降下ポッドが降下を開始した。
いくつもの降下ポッドが大気圏に突入する。その光景は地球の何処からかは流れ星の流星群にも見えただろう。
敵の妨害もなく、大気層を抜け、ユキはその身体に地球の重力を感じていた。
「地球よ。おれは帰ってきたぞ」
迎撃に連合の戦闘機が上がってくるが、戦闘機如きではMSの相手にはならない。
降下ポッドの数も100基を超え、まさに一大物量戦でプラントは挑んだ。
フライングアーマーからジャンプして空中戦で戦闘機を撃ち落とす。
再びフライングアーマーに着地して対空砲火を黙らせに向かう。
ビクトリア宇宙港への直接降下による強襲揚陸。
ほぼジンのみで構成されている降下部隊だが、一部にはザウートやバクゥ、ジンオーカー、ディンといった地上用の新型MSも降下している。
ビクトリア宇宙港のマスドライバー施設はプラントも再利用するために被害をなるべく抑えることが上から命令されている。
降下ポッドが展開し、外装が外れてジンが自由落下で降下に移る。
キャニス短距離誘導弾を発射するジン部隊。対空砲が迎撃するが、降下地点を確保するための重爆撃装備を惜しみ無く撃ち放つ。
さらに空中を飛ぶことの出来るディン部隊が対空砲を潰しに掛かる。
地上に降下するジンが要塞トーチカの直撃を受けて爆散する。
対空砲に足を撃ち抜かれて擱座したジンがリニアガン・タンクの集中砲火を浴びて爆発する。
「Nジャマー展開急げ! 空の味方が死ぬぞ早くしろ!!」
激を飛ばしながらフライングアーマーをSFSとしてリニアライフルで地上の戦車部隊を撃ち抜いて行く。
宇宙港という戦略的に重要拠点とあって敵部隊の数は多い。それでもほぼ奇襲に近い形での降下だ。どこに降りるかは降下開始まで地球軍側もわからなかったはずだ。それでも地球軍の庭である地球の重要拠点である上にMSでは限定的な3次元機動に限られてしまうのだ。宇宙のように自由に動けない為に、戦車相手でも考えて戦わなければあっという間に集中砲火で撃墜される。
Nジャマーが展開されると観測装置の類が無効化され、有視界戦闘になる。近代戦闘がいきなり旧世紀の中世の様な敵を目で見て攻撃するという方法になるのだ。近距離レーダーは使えるものの、それでは遠距離攻撃にも限度がある。
この降下攻撃には通常のジン以外にもそういう環境下でもデータリンクの出来る強行偵察型ジンも多数降下している。
近距離通信で部隊間の連携を密にする。ミノフスキー粒子環境下で良くとられた戦法だ。さらに強行偵察型ジンもMSである為ある程度の戦闘も出来るのが良い。
「敵の防衛に乱れがある内に内側に食い込む! 第5、16、23MS部隊、私に続け!」
フライングアーマーから飛び降り、トーチカ砲台を踏みつぶしながら着地し、キャットス500mm無反動砲で他の砲台も破壊する。
同じように次々と味方MS部隊が敵の砲撃陣地を破壊して回る。
『はっはっはぁ!! 良いザマだなナチュラル共が!!』
『ユニウスセブンの仇だ! たっぷり食らえナチュラルども!!』
『プラントの為に!』
戦場では様々な思惟が交差する。それこそ恨みや蔑視、そして純粋に独立の為に。
今は仕方のないことであってもいずれはどうにかしなければならない問題であった。
「っ、さすがは重要拠点だけはあるな。抵抗は激しい」
榴弾が近くに着弾し、機体を揺さぶる。フルバーニアンの推力でジャンプし、敵の砲台を確認すると後方に向けて指示を飛ばす。
「測距データ送信。ザウート部隊に砲火力支援を要請!」
とにかく頭を抑えられるのは避けたいユキは戦闘機部隊を相手に空中戦を行っていく。戦闘機を足場にして限定的ながら宇宙と同じ動きで敵の数を減らしていく。
『あのジン、中々やるな。ナチュラルの子供らしいが、腕は確かだな』
『そりゃあのジンの性能だろ?』
『それでも自由飛行は出来てないのは見てわかるぞ。それであんな空中戦出来るか? 一歩間違ったら頭から地面に激突だぞ』
派手に動き回るジン・フルバーニアンに敵の戦闘機部隊が集っていくので、ディン部隊には戦闘しながらも会話できる余裕すらあった。
「ディン部隊はこのまま空中警戒! 半数は後方の野営陣地に後退、そちらの上空警護につけ!」
『ったく。ナチュラルが命令するのかよ…』
『よせよ。相手は最高評議会の特務隊様だぞ。逆らったら軍に居られなくなっても知らんぜ?』
『はいはい。どういう手品を使ったか、一応お偉いさん直属でしたね。いい気になりやがって』
無線からは素直に命令を復唱する気のない声も聞こえてくる。軍人の気概もないような声にユキは腸が煮えくり返りそうだった。こんな意識の低い軍隊で本物の軍隊の地球軍に勝てるのかという心配すら沸いてしまうものだった。
「くだらない僻みをするくらいならMSを降りろ! この作戦は何としても成功させなければならない一戦なのだ! プラント独立の為の志無く者は速やかに去るが良い!!」
『くっ、なんだと!! ナチュラルの癖に!』
『お、おいバカ――』
一機のディンがジン・フルバーニアンに向けて76mm重突撃機銃を向けるが。その重突撃機銃が地上からの攻撃に撃ち抜かれて爆発した。
『なんだ!?』
『上官へ銃口を向け、あまつさえ個人の感情で指揮官を撃とうとし、指揮系統を混乱させようとするその行為はこの作戦に於ける敵軍への利敵行為だ。速やかに拘束。MSを降りたまえ。それを拒否するのなら撃墜も已む無しとする』
地上からスナイパーライフルを構える白の強行偵察型ジン。そのパイロットは誰なのか、既にメディアで取り上げられている人物の名を知らないMSパイロットは居ないだろう。
『煌めく凶星「J」!? ジャン・キャリー!』
『なぜだ!? なぜプラントの英雄の一人がナチュラルを庇う!!』
『行ってください。このような場で時間を無碍にしてはいけない』
「すまないジャン。後は頼む」
庇ってくれたジャンに謝罪しつつ、ユキは全軍の指揮に戻り、敵の防衛線を突破し始めた。
『ナチュラルの子供如きに懐柔された裏切り者が!!』
「プラントの利益を損ねる行いをする君の方こそ重要な裏切り行為を働いていると気付かないのかね?」
『ナチュラルがプラントの為など生意気なんだよ! コーディネイターでもないクセに!』
「ならば君の両親や親類のナチュラルも生意気だとでも言うのか? 我々コーディネイターとてナチュラル無くして生まれることのなかった存在だ。君の血筋には一滴もナチュラルの血が流れていないというのなら君は人間ではないよ」
『うるさい! 俺の祖父も祖母もナチュラルだが、あのような生意気な存在じゃない!!』
「ならば何が違うというのかね? プラントの為を想い戦う彼と君の、なにが違うというのかね? 人種が違うという稚拙な答えは求めていない。その心の何が違うというのかね?」
『う、ぐ、し、しかし、奴はナチュラルだ。どうせ裏切るに決まっている!』
「…語るのも無駄の様だ。しかし君が思うほど世界は単純ではないのだ。独房で頭を冷やして一度自分の価値観と向き合うといい。…反逆者を拘束! 後方に送り届けたまえ!!」
『は、はい!』
『クソっ! 裏切り者のコーディネイターがっ』
ジャンに向かって毒吐き、拘束されるディンは地上に下ろされパイロットも機体から降ろされて、他の数機のジンがディンとパイロットを後方の野営地に引き上げさせていく。
言葉を尽くしてもナチュラル蔑視の価値観を今すぐには変えられないもどかしさを感じながらジャンはユキの乗り捨てたフライングアーマーに乗り、ディンの抜けた穴を補填するために空中戦に移った。
強行偵察型ジンは複座型で操縦と偵察機器の操作役が必要になるのだが、ジャンは戦闘をしながら情報を集め、適時味方に情報を送っていた。その代わり戦闘には積極的に参加はせずに戦場を俯瞰する管制機として戦闘を見渡していた。
赤服で特務隊所属のユキにさえ、ナチュラルだからと銃を向ける過激な差別意識を目の当たりにしてジャンは苦悩するが、考えるのは後でも出来ると、スナイパーライフルで味方の支援をしつつ、座標を送り砲撃支援や空爆支援などを駆使し、味方部隊の援護を絶えず行っていた。
それでも最前線で戦いながら全軍の指揮も執るユキの姿に戦場のすべてが見えているようだと、そんなことはないだろうと思うものの、そのように戦場の流れを読み的確に指示を飛ばす様は言い表せないカリスマとして前線の兵士たちを虜にしていくのだろう。
最初はただ命令に従う駒の様だった部隊の動きが能動的に動き、命令を待つだけではなく自発的に動き戦場を有利に進めていく。
敵の抵抗も激しいが、戦車部隊は空中からの爆撃で対処し、要塞砲などは長距離からの砲撃で黙らせる。要塞攻略戦術論も当然ユキの論文の中には含まれていた。各部隊の部隊長クラスにはこの論文を読ませることで、知識だけは対要塞戦を学ばせて、実地での経験を積ませることで実感として知識をすり合わせてものにする。
もちろん士官アカデミーでもそういった知識は学ぶが、それをMS主体で行う戦術論を書いたのはユキだ。
MSという兵器としては未知数の存在の戦術論を完璧なまでにまとめ上げて、ザフトのMS戦術論を作り上げたユキは正しくMS戦術論の神と言っても過言ではなかった。もちろん他の戦術家や有識者が書く戦術論もあるが、やはり今一足りないのだ。子供の書いた感想文と大人の、しかも専門家が書いた感想文程に違いが出るのだ。
そんな存在が今のプラントから消えてしまっては、それこそプラントは終わりだろう。あのようにナチュラルへの敵愾心を持つコーディネイターが戦争の中心になってしまえばそれは悲惨な結果を生むだろう。故に何と言われようと彼は守らなければならないとジャンは心に決めているのだ。
「とりあえず、マスドライバーの確保は出来そうか」
戦闘が始まって1時間程だが、電撃的な強行軍によってビクトリア宇宙港に駐留する地球軍はその連携もズタズタの状態だ。トーチカ砲台もMSの機動性の前には無力だ。リニアガン・タンク部隊が強固な抵抗をしているが、正面から撃ち合わなければMSの機動性で壊滅させることも可能だ。現に地上用MSであり犬の様な4足歩行によってジンとは比べ物にならない機動性で戦車部隊を撃破していくバクゥの活躍も目覚ましい。
Nジャマーも展開されている。仮にも核ミサイルで一気にザフト側に大打撃を与えるという戦法も取れないだろう。
NジャマーとMS。それらを駆使した戦術。つい数年前まで常識だった。それこそ地球軍からすれば半月前まで常識だった戦争の戦術論が通用しなくなったのだ。それでも激しい抵抗はされている。今はMSという絶対的な新機軸の兵器のお陰もあって優勢になっていても、何れ地球軍がMSを運用しだしたらそのアドバンテージはなくなる。この戦争はそこまでの勝負だとジャンは敵の司令部に白旗を確認しながらそう思うのだった。
◇◇◇◇◇
意外とあっけない程にビクトリア宇宙港は陥落した。そうなる様に綿密な計画と、降下ポイントをビクトリア宇宙港の半径10km以内に降下するようにしていたというのが実情だった。
いくら守備隊の数が多くても、三次元機動が出来るMSの方が今は圧倒的に強みがある。
司令部に白旗を確認し、全軍に戦闘中止命令を出す。連合部隊にも白旗を司令部が出したことで戦闘は終わった。
戦車からは両手を上げて降伏する兵の姿も散見される。
その中の一両が突如爆発した。
「なにをしている!!」
外部音声で叫びながら戦車部隊を庇う様に機体を滑り込ませて両腕を広げて機体を盾にする。
「彼らに抵抗する意思はない! それを撃つとは何事か!!」
戦車を撃ったジンに向けてユキは叫ぶ。投降した兵には危害を加えないのは国際的に見ても常識の範疇だろう。未だ地球とプラントでなんら条約は結ばれていないが、人道的に見ても無視できるものではないのは誰の目にも明らかなものだろう。
『ナチュラルの捕虜なんか必要ないだろ!! こいつらはユニウスセブンをやったんだ!』
「だからと言ってそれで無抵抗の人間を撃つのが軍人として正しいと思っているのか!! それではただの人殺しになり下がるぞ!」
『ならユニウスセブンは良いのかよ! 無抵抗の民間人だって、弟や恋人もユニウスセブンに居たんだぞ!!』
「それでも軍人ならば耐えなければならんのだ! どうしても彼らを撃つというのならば私を撃ってから彼らを撃つが良い!!」
腰から重斬刀を抜き、切っ先を地面に刺し、その柄に両腕を置く。そしてコックピットも開放する。これで一発でもコックピットに当たれば自分は死ぬ。だがこうでもしなければ止められないという思いがユキにはあった。
憎しみの丈は充分感じている。自分にも似たような経験がある。アムロに大勢の仲間や恩師、愛する人まで奪われてきた自分だ。だからこそ目の前のジンのパイロットの憎しみもわかる。自分もララァを殺された直後のア・バオア・クーでは憎しみでガンダムを討とうとした。
しかし出来なかった。単純に自分が弱かったのもあった。しかしそれ以上にララァがアムロを赦していたのだ。複雑でも恨み切ることが出来なかった自分の負けだ。そういう意味では目の前のジンのパイロットの方がよほど強い人間なのだろう。そしてニュータイプの機微を普通の人間には求められない。彼はそんな行き場のない恨みや怒りをどうにも出来なくて敵に向けるしか出来ないのだ。
だから命を張る。これで止められないのなら誰かがこの憎しみの連鎖を止めてくれるだろう。その為の若者たちは見出している。今ここで自分が死んだとしても、その意志は受け継がれていくだろう。
『所詮はナチュラルなんだ。お前も!!』
ジンがバズーカを向けてくるが、そのバズーカを担ぐ腕を切り裂かれ、さらに片足も刺し貫かれてジンが崩れ落ちる。その背後には白い強行偵察型ジンが重斬刀を手にして立っていた。
『全軍。既に敵には戦闘の意志はありません。それでも討とうというのならば、私も彼らを守る為に相手になりましょう』
そう言いながらジャンは機体を翻して、ユキのジン・フルバーニアンの前に立った。
ナチュラルとコーディネイターも関係がない。無抵抗の人間を討つことを良しとしない者たちは自発的に動き出し、地球軍の武装解除に乗り出した。それでも動かない者たちが大半だった。それが戦争の犠牲者か、あるいはナチュラルを見下すコーディネイターか。
『それでも受け入れられないというのならば、掛かってきなさい。一人一人、お相手しましょう』
ジャンはここで憎しみの連鎖を断ち切るために、彼らの抱える恨みを一心に受ける気でいた。余計な気苦労はユキには回さないと控える騎士の様に。
しかしユキのジン・フルバーニアンが前に出る。
「ナチュラルが気に食わんという者は私の前に来い。そのひん曲がった根性を叩きなおしてやろう!」
その一言がきっかけになり、ザフト同士での戦闘という不毛な争いが勃発した。20は超えるジンを相手に、それでも律儀に1対1なのはいくら見下すナチュラル相手でもコーディネイターとしてのプライドがあるからだろう。
それでも鎮圧に10分はかからなかった。
襲い来るジン。ユキとジャンの機体はほぼ丸腰ともあって他のジンも重斬刀のみでの攻撃だった。まるで中世の決闘の様にユキとジャンは襲い来るジンを次々と倒していった。
MSの四肢を駆使し、徒手空拳や柔術の応用でジンを手足のように扱うユキは突き出された重斬刀を握る腕をつかみ、そのまま背負い投げで地面に叩き付ける。あるいは空中から襲う相手には蹴りで頭部を蹴り飛ばして行動に支障を来すようにする。頭部をやられたら負け。そんな暗黙のルールめいた雰囲気でユキは舞い続けた。
ジャンも重斬刀で相手のジンの重斬刀を打ち払い、降伏を迫る。それでも襲ってくるジンは同じように投げ飛ばす。
これで憎しみが消えるとも思えない。それでも少しはマシにはなれと思いながらジャンは若者たちの悲痛な叫びを受け止めた。
一発も被弾しなかったが、関節を駆使しすぎて新造したほうが速い程関節にダメージを負った愛機に頭を抱えることになるユキだったが、それはまた別の話だ。
◇◇◇◇◇
とある会議室では大西洋連邦の重役が集まり、ザフトに占領されたビクトリア宇宙港に対する会議を開いていた。
「まさかビクトリアが敵の手に落ちるとは」
「指揮官は何をしていた! コーディネイターにみすみすマスドライバーを奪われるとは、失態では済まされんぞ」
「モビルスーツ。ただのブリキ人形ではありませんでしたな」
重役たちのテーブルのモニターには命辛々逃げ帰った部隊が持ち帰ったMSの戦闘映像が流れていた。
「地上用モビルスーツまで。これは計画的な侵攻だよ」
「月はどうなっておる! 何故降下を阻止できなかった!!」
「MAではMSには歯が立たぬというのが現場の声だ。此処までの性能を見せつけられれば素人でもわかるだろう」
「だから奴等など数で叩いてしまえばどうとでもなると言っただろう!」
戦闘機のスピアヘッドを足場にして空中戦わしている蒼いジンの映像が映るが、それを見てもがなり散らす重役は明日にでも席はないだろう。
「ハルバートンのG計画。いよいよ考えなければなりませんな」
「日和のハルバートンの先見が当たるなどとは思いたくはないが、この性能は脅威だ。どうにか滷獲してメカニズムを解明しなければ始まらんよ」
「連中もそれをわかっていて戦闘後に残骸をかき集めて、ご丁寧に新型MSまで造ってくれたよ」
切り替わった映像には宇宙を駆け抜けるドラッツェの姿があった。ジンの胴体と頭部。しかし脚がない代わりにプロペラントタンクを装着し、肩にはメビウスのブースターパーツ、武装もメビウスのリニアガンが確認されている。
「薄汚いコーディネイターめ。使えるものは何でも使う気か」
「まぁ、彼らは国力に乏しいですからね。そうでもしないと勝てないんですよ。つまりMSさえ完成させてしまえば国力の差で彼らを上回れる。違いますか?」
重役たちの間で異彩を放つ若い金髪の男の声に会議室の喧騒は静まった。
「どちらにせよ。まだプラントには利用価値がある。高い金を掛けて造った技術の玉手箱。それをただ壊すなんて勿体なさ過ぎるでしょ。今しばらくは奴らに良い顔をさせておきましょう。最後に勝つのは我々なのですからね」
その日の会議ではビクトリアへは牽制の部隊を送り、他の宇宙港の守備部隊の増強と、連合製MS開発計画の始動が決定した。
◇◇◇◇◇
ビクトリア降下作戦はザフトの勝利で幕を閉じた。使用可能になったマスドライバーで防衛に過剰と思われる数のMSを宇宙に引き揚げさせる。それでも初の地上拠点と基地の防衛設備は完膚なきまでに破壊してしまったので、200機近いMSがその防衛の任務に就いている。
宇宙港とあって、連合の宇宙艦艇も幾つかは残っており、それを鹵獲して帰還船として使用。艦船ドックではそれらの艦船の代わりにザフト艦が建造出来るように生産ラインを改築していった。その他にも兵器工廠もMSを整備・生産出来る様に改築される予定だ。
大破や中破したジンもすべてが運び込まれ、レストアによって再生されるものや、パーツが足りないものは補修部品として回されるなど、事後処理もスムーズに行われている。また、連合の兵器も鹵獲品は使えるようにしてMSの数の不足を補った。
捕虜の扱いに関してはU.C.での南極条約に則って処理することにして、連合で無理やり戦わされていたコーディネイターなどは一度心理テストを行い、希望するものはプラントへ亡命した。ナチュラルの中にも亡命を希望する者は居たが、さすがのユキでもナチュラルの扱いに関しては慎重だった。何しろ無闇に連れて行ってもプラントで辛い生活をさせてしまうからだ。
一応命令違反と上官や投降した兵へ銃を向けたということで30人以上の将兵はプラント本国に送還され、軍籍を剥奪され、投獄されるということだった。ケジメと軍隊としての示しであるというある種の見せしめもあるのだろうとユキは深くは気にしなかった。
地上用MSのバクゥと、大気圏内での単独飛行が可能なディン。またSFSであるグゥルをビクトリアでは生産が開始された。
それを見届けてユキは宇宙に戻った。捕虜の地球軍兵士はL1のコロニーで一度預かってもらい、捕虜交換や戦争終結までは大人しくしてもらうことになるだろう。なおブルーコスモスや主義者の様な過激思想の兵士は必要な食糧だけを渡して船舶にてビクトリアからは釈放した。危険分子を内に抱えるほどザフトに余裕はないのだ。
「やはり宇宙の方が落ち着くな」
マスドライバーで上がったシャトルの中で、身体が重力から解放された事を感じながらそう呟いた。
「よもやこうも早く宇宙に戻ってこれるとは思ってもみなかったよ」
「意外と早くビクトリアが落ちたからな」
隣で同じように肩を解すジャンに、ユキが返した。
防衛体制が完全になる前に降下強襲揚陸による敵の連携の分断と、降下部隊の効率的な運用。MS一機の戦果でどうにかできるのは宇宙だけだ。宇宙程自由に動けないMSは巨大な歩兵に過ぎない。それを効率よく運用し、部隊を動員しなければならない。MSの強さを過信して烏合の衆になっては、いくらMSでも狩られる。それは宇宙でも地上でも同じだった。
隣の少年を改めて見て思うことは多い。そして身を投げ出してでも軍人としての心構えを問うやり方は、軍人というよりも武人に近い。そして、そんな姿勢が人を惹きつけるのだろう。
「君は不思議な子だ」
「別に私は不思議なものでもない。自分の信念に従って、いや。プラントに居る子らの為に戦っているだけさ。ナチュラルとコーディネイターも関係はない。うちの子らはそれでも家族だ」
レイとプレアはクローンだがナチュラルだ。そしてカナードはコーディネイターだ。
それでも心を通わせられれば共に暮らし、家族にもなれるのだ。そんな子らの未来の為に、この世界の戦争を憎しみだけで広がっていくような戦争にしてはならないのだとユキは強く思っている。だからこそ難しいとも思っている。
何しろ単純なスペースノイドとアースノイドの、ジオンと連邦の戦争よりも、プラントと連合の戦争は悲惨な方向に傾きかねないのだ。
「ブルーコスモスも悪い。だが、本来のコーディネイターは新人類そのものを表すことではなかった」
ファーストコーディネイター。ジョージ・グレンの告白は、ネットを漁れば今でも出てくるものだ。
コーディネイターは来る進化した新人類と旧人類の調停者となる為に生まれたという言葉。
なのにそれを誤解して、あるいは曲解して真実を捻じ曲げて後世に浸透させた何かが居る。
「あるはずだ。この戦争を、いや、世界を憎しみに染めて悦に浸る何者かが。戦争を生み出す誰かが」
それこそこの世界の歴史を紐解いていく内に気づいた事だった。
ブルーコスモスだけではない。もっと何か、別の流れがある。それはニュータイプの勘であると同時に、混迷に渦巻く宇宙世紀を見つめてきた感覚が訴えているのだ。この世界の戦争は何かがおかしいと。
「難しいものです。言葉で互いを理解できるのに、なぜ我々は戦ってしまうのか」
「口で言って分かれば争いなんて起きない。分からないから争うしかない。分かってもらえないから、分かってもらえるまで言葉を尽くそうにも先に撃たれたら撃つしかない。それでも撃たずに言葉で戦おうとするのは聖人君子だけだ。それでは理想は守れても民は守れない。守る為には戦うしかない。撃たれる限りは」
撃たれるから撃ち返す、撃たれなければ撃たない。そういうスタンスがプラントには求められるのだろうが、最高評議会はそういう意見ではない。未だ一軍人でしかないユキは命令があれば戦うしかないのだ。
故に出来る範囲での自分の戦いをするだけだ。
そんな隣の少年の心中をジャンはすべてではないが理解していた。好き好んで人を殺すような人間でもない。理想に燃える熱血漢かと思えば現実も見て、そしてままならない世界に苦悩しながらそれでも進むことを止めない純粋さ。
そのあり方は尊くもあるが、故に命さえ簡単に投げ出してしまう危うさもある。今はプラントに居る子供たち、ユキが面倒を見ている3人の子らが居るから良いが。彼らがユキの元を巣立った時、果たしてこの少年を繋ぎ止めていられる人間がどれほどいるのだろうか。
まるで生き急ぐかのように駆けるその姿を、ちゃんと世界に繋ぎ止めていられる存在が隣にいてくれれば。彼の能力は落ちても死ぬことはないはずだ。他人を悲しませてでも理想に走れるほど非情でもないと、ジャンはユキを分析していた。
◇◇◇◇◇
プラントに戻ったユキに休みなどなかった。地上侵攻が始まった。そうなると補給線が伸びて国力の乏しいプラントはジオンのように同じ過ちを繰り返すだろう。ビクトリアを中心にアフリカ地域を占領したとして、豊富な鉱物資源が眠っているだろうオデッサを攻める必要もあるだろう。一応アステロイド・ベルトからも資源衛星を見繕って運搬しているが、それでも即物的な資源は月と地球にしかないのだ。場合によっては月の裏側に基地を設ける必要もあるだろう。
そういうことを考えながら、ユキは新型のMSを開発していた。
ザフトの新型MS。マイウスで設計が始まったゲイツというMS。既に開発の終わっている新型MSシグーの次の主力MSだったが。それをさらに改良したMSをユキは図面に起こしていた。
「両腰の格闘兵装って。悪くないけど扱いにくいだろ」
まだMS技術黎明期だが。戦争によってこれから練成されていくのだろう。だがそれでは遅い。
その為、性能のすべてをMSに要求するのではなく、本体となるMSに異なる装備を施して装備換装による機能付加を付けて局地戦にある程度対応させるというMSの開発をスタートした。
ゲルググはバックパックの換装で高機動型や砲撃型に性能を変化させられた。
それと同じことをするだけだ。それはウィザードシステムとして、機動力を強化するブレイズウィザード、砲戦能力を強化するガナーウィザード、格闘戦能力を強化するスラッシュウィザードが先ず考案された。
ウィザードシステムについては、アナハイムの開発部にオーダーを発注してあとは丸投げにする。いつまでもユキ自身が一人で開発や設計をしても意味がないからだ。
それに合わせてジンの設計をベースにザク系の設計を流用して開発したテスト機体。リプロダクション・ザク――リープザクを開発した。
ザク系やギラ・ドーガ系の設計までも流用しているため、ジンの面影はほとんどなくなっている。
ムーバブル・フレームとチタン合金セラミック複合材による機体防御力の向上と軽量化を図りつつ、C.E.世界の技術で開発したザクとして造り上げた。
ウィザードシステムに対応し、これを主軸に新たなMS開発が進行するだろう。
機体が完成してしまえば、極端なMSでなければバックパックを作るだけで新型開発のテストベットに出来るのは魅了だった。
そうして建造された機体はギラ・ドーガの面影のあるMSであった。しかしギラ・ズールに見えないのは、機体の形がギラ・ドーガ寄りに近いからだろう。
量産性も考慮し、ジンとの部品共用は6割をキープしている。殆ど未共有部分はムーバブル・フレーム構造によるものだ。細かな部品はジンと共用にし、整備にも考慮した設計にしてある。
そして最大の特徴がウィザードシステムによる性能の付与である。ブレイズ、ガナー、スラッシュが基本になるだろう。あとは局地戦に更に特化したウィザードも試作はされている。
ユキ本人もこの世界のオールレンジ攻撃をテストする為のウィザードシステムを造り、テスト機のリープザクに装着させて連日のテストに励んだ。
ガンバレルウィザードという2基のブースター内蔵の大型端末を有するウィザードシステム。有線式の大型ビットとも呼べる攻撃端末は片方だけでもMS一機分のバッテリーを内蔵する高出力ビーム機動砲として機能し、ビームを収束すればビームサーベルにもなる試作兵装だが、ニュータイプであるユキには機体以外でも攻撃できる手足が増えた感覚に内心高揚が抑えられなかった。
そんなユキに新たな指令が伝達された。
それはオペレーション・ウロボロスへの参加だった。
to be continued…