※この作品はR-18です。

SEED-虹の向こう側-   作:星乃 望夢

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宇宙世紀から1人だけ参戦。人選はユキと相性の良さ。それでいて我は強いけど人の上には立たない、ニュータイプの価値観と宇宙世紀の価値観を共有出る相手がやっぱり必要でしたので。

そう言う条件で照らし合わせて行って、候補をサイコロで決めました。

※ドロワの動力に対して一部修正を入れました。


第五話 C.E.70 4月1日 オペレーション・ウロボロス

 

『地上での支援戦力を得るための軍事拠点を確保』

 

『宇宙港やマスドライバー基地制圧による地球連合軍を地上に封じ込める』

 

『核兵器、核分裂エネルギーの供給抑止となるニュートロンジャマーの敷設』

 

 オペレーション・ウロボロスの概要をシーゲルから聞かされたユキはただ顔を顰めるしかなかった。

 

「2つは私もわかります。しかしNジャマーを広範囲に敷設する意味までは分かりません。確かに核エネルギーを封じればそれだけ連合の工業力は落ちるでしょう。しかしエネルギー不足によって生じる二次被害や三次被害はバカに出来ません。もしそんなことをすれば億単位で地球に住む人々が飢え死にするでしょう」

 

 一週間戦争とコロニー落としで地球圏の総人口の半数を死に至らしめたジオンに居たユキからすれば億単位の餓死者でも出した日にはプラントに対する怒りと憎しみは相当なものになるだろうというのは容易に想像できた。それが想像できない程プラント最高評議会は愚かだとは思いたくなかった。

 

「パトリックをはじめとする強硬派はこの作戦で一気に地球軍の力を削ぎ、戦争を早期終結させる為のものだとしているが。それは建前だろう」

 

「せめて大西洋連邦やユーラシア連邦の勢力が強い地域に限定するべきです。これではプラントを支援してくれる国にも面目が立ちません。政治を本当に分かっているんですか?」

 

「プラントを支援する国にはエネルギー輸出をする用意があるといってこちらの言葉には耳を傾けては貰えん。ユニウスセブンで妻を亡くしてから奴は変わってしまった。元来のナチュラル嫌いが加速して、ナチュラル殲滅思考に代わってしまっているのではないかと私は思っている」

 

「ジョージグレンも草葉の陰で泣いているでしょうね。未来への希望を託したコーディネイターが勘違いをした思い上がりで世界を滅ぼそうとしているんですから」

 

「ジョージグレンの告白か。そういう意味では、我々よりよほど君の方が調停者(コーディネイター)と言えるのだろう」

 

「私は戦うしか能がありません。ですが、戦時であるからこうして意見も言えますが、平時の(まつりごと)には向かないのですよ」

 

 シーゲルの自宅のテラスでお茶を飲みながら作戦を伝えたのは、目の前の少年の本音と話すためだ。

 

 そしてそれを察している本人も容赦がない物言いで言葉を紡ぐ。評議会では戦闘だけが取り柄だといわれているが、コロニーサイド共栄圏構想に始まる数々の論文からも、政治にも明るいことが充分に伺える。

 

 天は二物を与えずとはいうが、彼を見ているとそうは思えない。だがその知識はやはり経験によって培ったものであるという年季というものをシーゲルは感じていた。疲れた顔、呆れ顔にはその幼い顔には合わない老齢の雰囲気すら感じさせるのだ。

 

「良い歌声ですね。優しくて。心を解してくれる。荒れた心を癒してくれる。だから人気なのでしょうね。クライン嬢は」

 

「ん? あぁ、まあな。自分にも出来ることはないかと言いだしてな。妻も歌手だったのもあってその道を進んだらしい」

 

「そうでしたか。奥様は」

 

「……ユニウスセブンでな」

 

「……失礼しました。不躾に」

 

「構わんよ。だからパトリックの気分もわからなくはないのだ。しかし、だからと言ってナチュラルを滅ぼしてこの戦争が終わると思うか?」

 

「無理ですね。国力の差があり過ぎます。それこそ地球を滅ぼすレベルの損害を与えるつもりで行かなければなりませんでしょう。安易な方法なら、ヤキンを地球に落として地球を寒冷化させて、人の住めない星にしてしまえばこの戦争は速くカタが着くでしょうね」

 

「……末恐ろしいことまで考えられるのだな。君は」

 

「理想も掲げますが。それでも勝たなければ意味はない。それが戦争です。負ければすべて奪われる。そういう意味では強硬派の思うことも理解できます。ユニウスセブンの一件はそれほどまでにプラントに住む人々の意識を変えてしまった。ですが、それで敵を滅ぼしても人はしぶとい生き物ですからね。地球を寒冷化しても、生き残った地球の人々は地下にでも籠って虎視眈々と再び宇宙を目指すでしょう。こんな生活を強いた宇宙人に裁きの鉄槌を下す為、なんて目標でも掲げながらね。それもどうにかしたいのなら地球を破壊するというところまで行きついてしまわないとも言えないのですよ」

 

「……」

 

 優雅に紅茶を飲む少年の想像力。いったいどこまで先を見据えているのかという末恐ろしさ。彼がナチュラルであり、プラントに居て、尚且つ地球に恨みのない人物であることにシーゲルは心の底から安堵した。

 

 そして何かが狂ったときには世界を破滅させかねないその先見性に恐怖を覚えながらも心強くもあった。

 

 次世代の政治を任せられる人材としてこれほど思慮深い若者がいったいどれだけいるだろうか。前線指揮官という小さな器に収まり切れる存在であるとも思えない。ビクトリア降下作戦でも身を挺して投降した敵兵を守ったことに対して賛否両論は多いが、人道的観点からの評価は高い。何より無理やり戦わされていた同胞を救った英雄として、プラント国内でも名が知れ渡り始めていた。

 

 そしてザフト内でも純粋にプラント独立の為に戦っている若者たちが中心となり派閥を形成しているという動きもある。あくまでも本人には知られない様に水面下での動きらしいが、その独立派はアカリ派としてプラント独立の為に戦う同志として、強硬派を牽制する動きが出始めた。

 

 それも本人は知っているのだろう。或いはそういった狙いもあるのだろう。

 

 「プラントに栄光あれ」。そう叫ぶ若者たちが軍に出始めた。

 

 強硬派は「ザフトの為に」と口にするが。ザフトはもともとプラントの政治結社だったもので、パトリックの勢力が強い。

 

 そんな中で生まれた独立派の声は無派閥の物や穏健派、一部強硬派も巻き込んで広がりを見せ始めている。

 

「私は扇動はしませんよ。戦争の本質を忘れない様に訴えているだけです。これはプラントが、地球の支配から独立して、プラントに住む民の心からの希求である自治権獲得の為の戦いであると」

 

「人種戦争を革命戦争にするというのかね?」

 

「でなければ地球が滅ぶでしょうね。確実に」

 

 それは杞憂だ。…そうは言いきれない説得力は彼の言葉にはあった。

 

 戦争というものを見てきたと、そうなることは決してありえないことではないと、彼の視線や声は語るのだ。

 

「革命戦争にしたとして、それで戦争が終われるのかね?」

 

「プラントの独立がなれば、勝利と言えます。確かに怨恨を消し去ることは無理でしょう。しかし戦争には勝ったという実感が人々には必要です。それでもナチュラル討つべしと言うのならば、私が責任をもって止めましょう。少なからずそういう土壌を育てている自覚はありますので」

 

 なんという魂胆だろうか。仮にもプラント最高評議会議長を前にしてそうもはっきりと、場合によっては敵になりますとバカ正直に口にするものが居るだろうか。普通なら国家反逆罪に適応されて拘束されても文句は言えない言葉を吐いたのだ。

 

 シーゲルはそこに来て、目の前の少年を一個人の人間ではなく、組織の長に匹敵する立場で世界を見ているのだと理解した。でなければ個人でこのように世界に対して思うことがあるだろうか。

 

 独立の為に戦う。ナチュラルが憎いから、赦せないから、親族の仇の為に、プラントを守る為。戦う理由はそれぞれだが、それでもなお戦いの先を見ている兵士がどれだけいるのか。政治家である自分たちでさえ先行きの見通しが確信が持てる程ではないのだ。強硬派に至ってはナチュラルを屈服させることに頭を働かせていることの方が多い。勿論プラントの利益になることを考えているが、それでもナチュラルを倒して得る利益を目指している。それは今までプラントが地球に搾取されていたことの寄り返しなのだろう。

 

 だが目の前の少年はあらゆる未来の可能性をその瞳で見つめ、プラントの最良の未来を探してるのだろう。そして既にある程度は見つけている、コロニーサイド共栄圏構想はその内の一つだろう。

 

「この戦争の落としどころを、君はどう見る」

 

 だからシーゲルは聞いてみたくなった。この戦争を、目の前の少年はどう終わらせる未来を見ているのかと。

 

「必要なのは月の制圧をしてから地球に連合を封じ込めることでしたが、既に地球にも手を出してしまっている以上、地球のプラント支援国に対して連合からの支配脱退を手伝いながら連合を分断するしかないでしょう。連合の工業力は確かに高いですが、その資源も他の国に頼っているから賄えている。アフリカと南アメリカ、中央アジア地域を勢力圏に納めれば、国力比も近づけるでしょう。しかしそこまで出来る体力はプラントにはない。この戦争は長くて1年がリミットです。そうでなければ体力切れで負けます」

 

「そこまでの物かね?」

 

「食料問題もあるのはわかりますが、地球は広いんです。そこへ占領に向かう体力もバカにはならない。出来ることは今のビクトリアを足掛かりにアフリカを占領下に置き、一度休むべきですね。体力を回復させてあとは一気に攻める。連合本部のあるアラスカのジョシュアを攻め落とせればまた違う道も開けるでしょう」

 

「そうか…」

 

 それが戦争を終わらせる一つの道筋なのだろう。それは武力で敵を倒す道だ。ならば別の意見も聞きたくなるのが穏健派であるシーゲルの思いだった。

 

「言葉を尽くしてというのならば、それでもやはり味方は必要になります。各ラグランジュポイントのコロニー郡と同盟を結び、宇宙の総意として地球に訴えるだけです。ジャンク屋組合のネットワークを使えば、各コロニーとの連携は難しくはないでしょう」

 

「そういう道もあるということか」

 

 それはコロニーサイド共栄圏構想を読んでから漠然とだがシーゲルも考えていた道だった。だがL1コロニー郡の反応から足踏みをしてしまっていたのも事実だ。戦争に巻き込まれた彼らの思いは理解できる。ザフトが月への足掛かりにL1のコロニー郡を狙わなければ、彼らも平穏に暮らしていけたのだから。

 

「武力で決着しない道ですから時間が掛かります。そしてそれを待てるほど強硬派は我慢強くもないでしょう」

 

 彼の言葉にシーゲルは言い返せなかった。しかし諦めるわけにはいかないのだ。この戦争がナチュラルとコーディネイターが互いに滅ぼしあう戦争にしない為にも。

 

「君はなぜそこまでして戦えるのかね? 君の知識や知恵ならば、前線で戦わずともやって行けるだろう」

 

「しかしそれではダメなのは先のビクトリア降下作戦でも実感が持てました。現場から変えていかなければ、兵士の虐殺など末期だ。それでは人殺し集団だと貴方も言っていた。私はそれを出来る範囲で止めるためにも前線を離れるわけにはいかないのですよ」

 

「人柱になるつもりか」

 

「まさか。そこまでしなければならないというのならば、ザフトは潰しますよ」

 

 その目は本気だった。しかしそれでも尽せるだけの事を尽くして、最後の最後での手段なのだともわかる。人が変わる可能性を信じている。そういう雰囲気が言葉の中から溢れている。

 

 コーディネイターの業をナチュラルの少年に背負わせる。そんな不幸があって良いものでもない。しかしそうでもなければコーディネイターの価値観は変わらないとでも言わんばかりに彼はその道を進むのだろう。

 

「寒い時代だな…」

 

 そういった若者を犠牲にしなければならない時代。そうならないようにする時代の為に若い命を使わなければならない。

 

「そうであっても、次の世代が迷いなく正しく歩めるようにするには必要な事です。私は長く戦場に居過ぎた。平和を作るための手段も結局は武力頼り。平和になれば私の様な輩は必要ではない。平和は作るよりも維持することの方が労力を必要とするのですから」

 

 その背中に、薄くだが人影をシーゲルは見た。彼と同じ空気を持つ赤い服に身を包む男や、切れ目の桃色の髪の女性、真っ直ぐな信念を抱く壮年の男、まだ若くもその理想に準じた男、一見穏健そうだが激しい心を持った男、武人として最後まで祖国を想って戦った大男――その他にも様々な人間が彼の背中を見守っている。

 

 ふと気づくと、彼の背には何もなかった。しかしそれがどこか彼の、ただの少年ではないユキ・アカリという人間を作ったものであるとシーゲルは感じた。

 

 紅茶を飲み終え、ひとまず話も纏まったと察したユキはクライン邸を辞そうとした所でテラスに誰かが入ってきた。

 

「あら。お客様がいらしていたのですね。お邪魔してしまいましたか?」

 

「いいえ。私もそろそろ帰ろうとしていたところです。お構いなく」

 

 ラクス・クライン。シーゲルの娘で、今はデビューしたてとは思えない破竹の勢いで人気を集める歌手でもある。一部ではもうプラントの歌姫と呼ばれている。

 

 そんな歌姫とすれ違い、ユキはその足で軍令部に向かう。作戦要項の詳細確認と投入する戦力を確認するためだ。

 

「お父様、あの方は?」

 

「あぁ。ユキ・アカリだ。ナチュラルだがプラントの為に戦っている子だよ」

 

「もしや、地球軍で無理やり戦わされていた方々をお救いになられた、あのユキ・アカリさんですか?」

 

 芸能界にも情報が回るのが速いと些か苦笑いを浮かべながらシーゲルは頷いた。

 

「でも、悲しい人ですわね。泣きたいのを我慢していらっしゃった様子でしたわ」

 

「ラクスは彼をそう見えたのか?」

 

「ええ。まるで迷子になってしまったかの様な。でもやらなければならないことの為に身を粉にすることでそれを忘れようとしているような。そんな感じがいたしますわ」

 

 娘のラクスの見方は独特なものがあった。人を見る目は確かだった。それは自分や妻の血を受け継いでいるからだろう。だがそれ以上に、違う見方をするのが娘だった。彼女独自の視点があるのだろう。故にそういう見方をした娘の言葉を疑うこともなく呑み込めるが。それでもシーゲルからはそのように彼を見ることは出来なかったし、そういう素振りもなかった。

 

「彼ともまた会うこともある。その時は彼と話してみるのも良いだろう」

 

「そうですわね。楽しみですわ」

 

 娘の言葉に頷きながら、シーゲルはプラントの最高議長として、オペレーション・ウロボロスの作戦内容の一部変更案を考え始めた。

 

 言葉を尽くして平和になるには越したことはないが、今は撃たれた側だ。身を守る為の戦いはしなければならないのは分かっている。ままならない歯がゆさを感じながら、それでもシーゲルは動くことを止めるわけにはいかないと思った。止められないのならば少しでも被害を広めない為に動くしかない。戦火を広げないために。でなければ彼の言う様にこの戦争は悲惨な未来へと転がり落ちていく確信があったのだ。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 アナハイム・エレクトロニクスはマイウス・ミリタリー・インダストリーと同じくマイウス市に拠点を置く軍需産業に進出する新興企業だった。

 

 そのモデルは言うまでもなく、宇宙世紀のアナハイムだった。ネジ1本から戦艦までをビジネスにするアナハイムは、レジャー用にプチモビ、工業機械としてジュニアMSを開発してその勢力を拡大させていった。

 

 ワークローダーとしてMSは既にマイウス社が開発していたが、狭い場所でも動ける上に簡素な造りでメンテもし易いプチモビは爆発的に売れ始めた。

 

 もちろんプラントにもプチモビに類する物はないわけではなかったが、それはどちらかと言えば強化外骨格的な色が強く、MSの原型であるワークローダーもプチモビ程の自由に狭い場所にも入れる物でもなく、レジャー用以外にも狭いスペースでの船外作業機として普及していった。さらにいうとコックピットはMSのそれを模しながら操作も簡単だというところにも人気がある。

 

 流石にプラント以外の輸出はコックピットを変えた宇宙世紀版のプチモビをジャンク屋組織と取引しているが、その技術が連合に渡らないように契約したジャンク屋とは二月に一度、プチモビの整備をアナハイムでするという契約になっている。無論そのデータを抜かれた痕跡、地球軍にプチモビのデータが漏れた場合は莫大な違約金を支払う契約にもなっている。それでも連合の作業ポッドよりも手足のように動くプチモビは、ジャンク屋組織でも契約して購入する者が多い。

 

 その他にも専属契約をしたジャンク屋にはOSのダウングレードと最低限の宇宙用装備をしたワークスジンをマイウスは卸しているのに対して、アナハイムは戦場で再生したドラッツェを卸している。

 

 これらのMSはプラントを支援すると表明したコロニーにも自衛用のMSとして販売されていった。

 

 そんなアナハイム最大の稼ぎ頭であるMS開発部門はプラントの中にはない。

 

 アナハイムが工作艦として建造した巨大空母ドロス級二番艦ドロワ。その中にアナハイムのMS開発部門と工廠が存在する。

 

 本来のドロス級よりもMSの空母というよりも移動要塞としての機能に重点が置かれ、内部空間も人の生活が可能なほどに整えられ、小さなコロニーとして機能出来るだけの能力を持たせてある。

 

 本来のMS空母としてのドロスは、ドロワの所有を認めさせるためにザフトに無償提供をし、さらにゴンドワナ級という新型航宙空母の設計もしたりと、一企業が持つには過ぎた装備を容認してもらえるだけの苦労はしている。

 

 ドロワはこのC.E.世界で戦艦に標準搭載されている核融合炉……ではなく、ミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉によって稼働している。ミノフスキー粒子の存在に関してはC.E.世界でも確認されている。存在が確認できているのならば、あとはこちらの領分だ。内部もNジャマー環境下よりもさらに妨害が激しいミノフスキー粒子環境に適応出来る様にしてある。

 

 更にまだ大型だが、Nジャマーキャンセラーという、Nジャマ―を無効化する装置も搭載されている。ミノフスキー核融合炉は普及させるとミノフスキー粒子の問題でまた面倒なことになる。それ故にNJCを小型化し、核分裂炉をMSに搭載出来るようにする研究が進められている。それはマイウスの仕事なのだが、企業スパイなんていうのは昨今珍しくとも何ともない。最も渡せない技術はドロワの中で囲んでいる為、見せてもいい技術だけしかマイウスには渡らないようになっている。

 

 アナハイムに長く勤めているから、そういう企業間の機微もそれなりには理解している。ユキはそんなドロワ工廠内に鎮座するMSの前に居た。

 

 ドロワ所有の為の最後の条件であるビーム兵器搭載MSの開発。それはドラッツェの開発やバルルス改の改良でで果たしているのだが、本格的なビーム兵器運用を前提としたMSの開発を打診されてしまってはやらざるを得ないのだ。

 

「全く。振れば出てくる打ち出の小槌でもないんだぞ」

 

「仕方ないですよ。それだけのものを貴方は持っているのだから」

 

 MSのコックピットから出てきたシホを受け止めながら、青いMSの姿を見る。

 

 新型MSのシグーをベースにしたビーム兵器搭載型MS。

 

 シグーディープアームズはシホが中心になって開発しているMSだった。

 

 特徴的なのは背中からのアームに繋がれた両肩の外に位置するフレキシブル可動ビーム砲だろう。

 

「やっぱり難しいですね、ビーム兵器。使っているのにいざ形にするとこんなに言うことを聞かせられないなんて」

 

「そうでもないぞ。このレーザー重斬刀の発想は面白い。対艦攻撃用の装備だろう? こういう現場の視点からMSを作る方が良い機体が出来る。インテリが作ると数値しか気にしないからな」

 

「それでも貴方の様に上手くはいかないわ」

 

 このシグーディープアームズはアナハイムで使われているビーム兵器技術を使わずにビーム兵器を搭載している。純粋なC.E.世界のビーム兵器運用MSとして開発されているのだ。それでも既に小型化されているビーム兵器の整備もしている経験が、ここまで早く実物をものに出来た要因でもあった。

 

「冷却材が無くなると撃てなくなるなんて欠陥だわ。排熱系がどうしても上手くいかないし、大きさに比べて連射も威力もない。こんなんじゃ到底軍は納得しないわ」

 

「別に良いんじゃないのか? アナハイムというか、私の手が入っていない。純粋なコーディネイターの技術で作られたビーム兵器のデータが欲しいのさ」

 

 そういってもシホは悔しかったのは、元来の真面目だが負けず嫌いな所と、同い年なのに遥か先を行く技術を持つ上司の役に立てない自分を恥じているからだ。

 

 すべてを話せるのならタダの年季の違いだと明かせられるが、宇宙世紀のことは精神の交感を果たしたレイやデュランダル以外には話していないのだ。天才と呼ばれてもその実自分はただ年季があるだけの人間だ。

 

 開戦から2月もしないでMSにビーム兵器を搭載出来ている時点で充分シホは天才の部類に入る技術者だ。

 

「それでも、完璧に仕上げてみたいんです。……あのMSみたいに」

 

 そういうシホの視線の先には、赤いMSが眠っていた。シグーよりもひとまわり巨体なMS。アナハイムの技術のすべてをつぎ込んで修復されたMS。

 

 MSN-04 サザビー。

 

 ネオ・ジオン総帥シャア・アズナブルの乗機にして、アムロのνガンダムに敗れた機体。その脱出ポッドはνガンダムと共に、虹の彼方に消えたはずだった。

 

 それがオーブにあった。νガンダムと一緒に。

 

 自分がこの世界にやってきた理由。それははっきりとはしないが、サイコフレームが引き合わせた奇跡なのかもしれない。それでも肉体も精神も、自分の探して止まなかった人は虹の彼方に行ってしまったのだ。

 

 分かっていた。フル・フロンタルとの決戦の時、その魂の昇華と共に、彼らは虹の彼方に行ってしまったのだと。

 

 だから、サザビーのコックピットに遺されていた遺言を聞いて、自分はプラントの独立の為に戦うことを決意したのだ。

 

 オーブのMSのOSを開発する代わりにサザビーのコックピットは貰い受けた。νガンダムの所有権はロンド・ベルMS部隊隊長として主張できるものだったが、さすがにガンダムをばれずにプラントに運び込む事は出来ないので、νガンダムは惜しくもオーブに残してきたのだ。

 

 そんなサザビーのデータに遺っていた設計図で新たなMSを保険として建造している。

 

 必要ないとは思いたいが、それでも核ミサイルという大量破壊兵器を相手にする為に自分のニュータイプ能力を十全に発揮できるMSの開発は必要だった。

 

 それでも真面目にジンからMSを開発していっているのは、やはりいきなり技術のブレイクスルーを起こしても周りの技術が伴わなければ意味がないのと、連合に流出してもジンの延長ならどうにかなっても、ジンでギラ・ドーガやジェガンクラスのMSと戦えというのもただの虐めでしかない。

 

 だから世界のパワーバランスの為にも、オーパーツは極力使わない様にしているのだ。それでも戦争に負けない様に、リープザクというスペック的には第一次ネオ・ジオン戦争や第二次ネオ・ジオン抗争でも通用するレベルのMSは開発しているのだが。むろんこのリープザクは量産化する気はなく、アナハイムの量産型MSはしばらくはドラッツェでどうにかなるとユキは思っている。

 

 シグーディープアームズは一応の完成を以て、軍に納入された。テストパイロットにそのまま開発者のシホを要求されたが、彼女が抜けられると困るので、ビクトリア攻略の功績と引き換えに突っぱねた。

 

 昇進よりも優秀な技術者が手元に置いておきたいというものだった。それでも開発者不在ではトラブル時の対応が出来ないという理由で暫くの出向という形で落ち着くことになった。

 

「そうまでしてなんで」

 

「私が居なくても平気にしておく必要がある。戦場なら等しく弾は当たる。私も、君も。誰もが、な」

 

 そう言いながら、ユキはサザビーの方に身体を流して、その頭部に取りつく。それをなんとなくだがシホも目で追って、息を呑む。まるでユキに重なる様に誰かがサザビーの頭部に立っているのだ。

 

「え?」

 

 しかし瞬きするとそこには誰もいない。

 

「部長!」

 

「…なんだ?」

 

「今、そこに…」

 

 振り向いたユキの姿に変わりはない。それでも何か違和感をシホは感じていた。

 

「いいえ、なんでもありません…」

 

「そうか」

 

 そう言って再びサザビーを見るユキの横顔は憂いに帯びており、何かを懐かしむかのような、それでいて今にも消えてしまいそうな、そんな儚げな姿を見せていた。

 

 いつも自信と覇気に満ち溢れている姿はどこにもない。ただそこには、迷子の子供が居るだけだった。

 

「彼に、声は掛けないのかな?」

 

「ローアルさん」

 

 どう声を掛けていいか、そう考えていたシホの隣にやってきたのはルクレイツァだった。

 

 民間起用のテストパイロット扱いの為、シホやユキの様に軍服は着ていないが、代わりに装飾が些か派手な制服に身を包んでいた。それが優雅な美男子の雰囲気を醸し出すが、彼女が女性だと聞いたときは詐欺だとシホは純粋に思った。

 

「放っておけば、彼は遠くに行ってしまうよ」

 

「…貴女は、どうなんですか」

 

「私はそれでも構わないさ。それでも着いて行くだけだ。来るなと言われようとも」

 

 そういうルクレイツァの横顔は慈愛に溢れた物だった。それが親愛によるものなのか。或いは、それを察せるほどの経験はシホにはなかった。

 

「彼の戦う理由は自分の子供たちを守る為と、その生きていく世界の為だ。しかしそこに彼の居場所はないと思って、だからこそ彼を繋ぎ止めておく役割の人間が要る」

 

「それは貴女では?」

 

「私には出来ないさ。彼の事を否定できない私には」

 

 その役割を自分にさせたいのだろうか。そう思うシホだったが、果たしてそれが自分にできるのだろうか。彼に劣る自分が、そんなことが出来るわけがない。

 

「…彼がなぜ君を手元に置くか、わかるか?」

 

「それは、……彼や、私が死んでも、技術が続いて行ける様にと」

 

 それはユキが直接語ったことだから間違いないのだろう。しかしルクレイツァが欲しい答えでもないのはなんとなくだがわかるシホだったが、しかし明確な答えはなかった。

 

「彼は失うことに臆病なのさ。赤の他人なら構わないが、触れ合った相手を失うことに酷く臆病だ」

 

「臆病?」

 

 そんな言葉とは無縁そうな彼が、臆病と言われてもしっくりこない。

 

「必要なら自分のすべてを差し出してでも失わない様にする。今はこの世界を失わせない様にしているが、もっと言えば家族の住むプラントを守る為、細かく言えば君や私も、その対象に含まれているだろう」

 

「それは…」

 

 とても子供の我がままの様なことだ。失ってしまうことを受け入れられなくて、だからそうならない様に自分の全てを捧げてしまうなど。

 

「人は彼を可哀想な人とも言うが、彼は甘える相手が居なくなって迷子になって泣くのを我慢している子供さ。そして失わないために世界に喧嘩を売っている。バカだと思う前に愛おしいと思えてくるよ」

 

「あの子は…」

 

 ルクレイツァの言葉がすべて真実かどうかなどわからない。それでも、自分よりは彼を理解しているような口ぶりが少しだけ悔しく、羨ましくも思えた。

 

 凄い子だという表面的な事しか目の行っていなかった自分の盲目さを恥ずかしく思った。

 

 それでも、思うことはある。

 

「そんなに、弱い子とも思えません」

 

 何かを決意するかの様に再びいつもの様に自信と覇気に満ちた顔を見れば、ルクレイツァの言う様な弱い子だというだけではないと思える。まだ憂いは残っていても前を向いている真っ直ぐな目を守って、その目が見据える未来がプラントの独立という未来なのならば信じて戦える。

 

「そうか。なら君は君の心に従えばいい。私は私の心に従おう」

 

「お互いに。…手ごわいと思いますか?」

 

「いや、彼はその実脆い。中々挫けたりはしないが、そうなった時は落ちる所まで堕ちて世捨て人になるタイプだ。そうならない様にしたいが、でも今は重荷になりたくはない」

 

「同感です」

 

 ナチュラルとコーディネイターというよりも、それ以前に女同士だからわかる機微というものがあった。

 

 だからナチュラルとコーディネイターに別れようとしている世界をどうにかしたくもなってくる。そしておかしさも感じる様になってくる。

 

 この戦争がおかしい。戦争とは本来、物資に乏しい国か、大国が他の国よりも優勢に立つために始めるものだ。

 

 そしてあるいは経済効果を狙って。しかしこの戦争にはおかしな部分がある。

 

「ブルーコスモス…」

 

 反コーディネイターを掲げる頭のおかしい連中だとシホ自身も思っている。遺伝子操作で生まれたコーディネイターが進化した人類だというつもりもない。そう言うことに関してはユキから学んできたことだ。

 

 ナチュラルとコーディネイターも同じ人だという考え方はこのアナハイムに深く根付いている。だからアナハイムにはプラントで暮らすナチュラルを受け入れる、受け入れられる数少ない企業だった。

 

 だからこそ、この世界を守りたい。この場所にはナチュラルとコーディネイターも関係なく仕事をして、笑いあって、時には意見のぶつかりがあっても優しい世界だった。

 

 そういう空気を守りたいという気分はシホにもわかるものだった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 地球連合軍の数少ない月面基地、プトレマイオス基地では艦隊が発進準備に追われていた。

 

 プラントから発進した艦隊がL1宙域を経由して地球に向かっているからだ。基地内では第二次降下作戦が行われるのではという噂で持ち切りだった。

 

「やれやれ。浮足立っちゃってまぁ」

 

 格納庫の整備士ですら不安を募らせていた。艦隊が出撃してもまともな戦果は殆ど上げられていない。

 

 MAではMSに対抗しきれないのが実情だ。連携してどうにか対抗しても、1対3のキルレシオで負け越しの上に、エースパイロットは護衛のMAが居ようとも関係なく戦艦をドカドカと撃ち落としていく。そんな戦場に行かなければならない。船の中に勤務する兵の悲痛さは察してやれてもどうにも出来ない。自分の命を守れるMAパイロットの方が余程恵まれている。

 

「フラガ大尉!」

 

「おお、サエンか。ご苦労さん」

 

 ムウは声を掛けながら漂ってやってくる同期の後輩に手を上げて応える。

 

「いやいや。にしても酷い空気だぜ。これじゃ勝てる戦も勝てないってさ」

 

 サエン・コジマ。アジアの日本系の名前だが、顔は美形の二枚目で悪くない。少しカッコつけなところがあるが、それでいて気質が近い為と士官学校では同期であったが為の腐れ縁で戦場を共にするうちに昇進したムウの部下になっていた男だった。ムウと同じくメビウス・ゼロを駆れる数少ないパイロットでもある。

 

「仕方ないだろ。この間の海戦で第四艦隊まで壊滅してるんだからな」

 

 ザフトのビクトリア降下作戦を察知した連合は艦隊を派遣した。世界樹攻防戦で壊滅した艦隊を纏めた新第三艦隊はザフトのMSの怖さを知っていた為、その対処にも余念がなかった。濃密な弾幕でMSを近づけなかったのだが、それを負け犬の臆病者とした第四艦隊は、艦艇の隙間を縫うように移動するMSに各個撃破されていったのだった。

 

 これで残っている連合の艦隊はたったの4艦隊にまで減らされてしまったのだ。その中での出撃ともなれば士気もダダ下がりでも誰も文句は言えなかった。

 

 コーディネイター憎しで戦ってはいるが、それでもどうにもならない戦力の質の違いが連合とザフトにはあった。

 

「それよりも見ろよフラガ先輩。MSだぜ」

 

「敵からかっぱらったってやつだろ?」

 

 二度の大規模戦闘でどうにか鹵獲に成功したザフトのMS。名はジンという機体だが、OSが複雑過ぎてナチュラルが動かすには苦労どころの騒ぎじゃない機体。その背中にはガンバレルが装備されていた。

 

 赤と黄色の塗装で目立つような趣味の悪い機体には数人のメカニックが機体の整備をしていた。

 

「ワタシのMSが、そんなに気になるかい?」

 

「ん?」

 

「あれ? なんで子供がこんなところに?」

 

 赤いジンを見ているムウとサエンに声を掛けたのは、MSと同じように赤いパイロットスーツに身を包んだ子供だった。わずかな身体の丸みから女の子だとわかる体格をしていた。

 

「MSって、あれお嬢ちゃんのMSか?」

 

「コーディネイターなのか?」

 

 MSを動かせるのはコーディネイターだけだというのが今の常識だ。サエンやムウも鹵獲された機体から作られたシミュレーターをやってみたが、とてもじゃないが動かせはしても戦闘は無理だった。それほどジンはパイロットに求める負担が大きいのだ。

 

「ふん! キライだね、そうベタベタした物言いは。ワタシはナチュラルさ。それがMSを動かしちゃいけないことになるのかい?」

 

「い、いや、そんなんじゃないんだが」

 

「アンタたち大人がマヌケで能天気だからワタシが出るんだろ?」

 

「う、ぐぅ…」

 

 女の子に口で押し負けた後輩を情けなく思いながら。それでも普通の女の子がMSを操縦できるとはムウにも信じ難いことだった。それと同時に歯がゆさも感じた。確かに自分たち大人がしっかりしていれば、目の前の女の子はMSに乗らなくても良かったのかもしれない。

 

 気の強そうなお嬢さんだと思いながら、ムウは不思議な感覚を少女から感じていた。

 

「なんだか、お嬢ちゃんと前に会ったことないか?」

 

「ちょ、フラガ先輩!? まさかロリコン!!」

 

「殴るぞお前…」

 

 額に青筋を浮かべながらサエンを睨むムウだったが、確かに言葉だけなら年端もない女の子を口説いているようにも見える。勿論ムウもそんな気はないのだが、気が付いたら口にしていたのだ。

 

「悪いけど、相手は間に合ってるんだ。アイツは必ずこの宇宙に居る。分かるんだ。もしかしたら会えるかもしれない」

 

 そう呟く女の子は、その表情を険しくしながらも、再会を待ち侘びて想いを馳せるひとりの女だった。

 

「ワタシが出るんだ。戦場じゃラクさせてやるよ!」

 

 そう言って女の子はジンの方に飛んで行った。

 

「…どう思いますかい? 先輩」

 

「ま、ああも言われちゃ気張んないとな」

 

 6基のガンバレルを装備しているジンは、敵味方の判別がしやすい様にか、特徴的な羽のパーツがない。だからどうなるのかはわからないが。

 

「ユーラシアの出か。あまり無茶はしてもらいたくないな」

 

 ジンの周りの整備士はユーラシア連邦の出を示す認識章をしていた。それでも、どこの部隊の出でも、子供に戦争させているのが嫌になる思いだった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 オペレーション・ウロボロスの発動。

 

 その第一段階は衛星軌道上からのNジャマーの投下だった。

 

 衛星破砕装備のメテオブレイカーを改造したNジャマーを地球に投下し、地中深くに打ち込む事で容易には撤去できなくする事が出来ないようにする。これによってNジャマーのバッテリーが許す限り、核分裂が封じられ、地上では核兵器の使用が出来なくなる。

 

 当初は地上に無差別に散布する予定だったが、その埋没したNジャマーによるエネルギー不足から乗じる二次被害や三次被害。国際世論や地球のプラント支援国との関係悪化を前面に押し出すことで、さらにピンポイント降下は既にビクトリア降下作戦でも行われているために、大西洋連邦とユーラシア連邦、東アジア共和国など。地球連合の支配勢力が強い地域に限定されることになった。

 

 よってプラント非理事国である南アメリカ合衆国・大洋州連合・中立宣言を表明しているオーブ等といった地域にはなるべく被害を最小限に留める様に留意することとなった。

 

「さすがシーゲル議長。対応が速い」

 

 クライン邸での語らいから一週間でここまで議会を纏めて決定を一部変更させたのだ。それほどの本気ならばこちらも応えねばと、ユキはMSの中で息巻いていた。

 

 Nジャマーの降下の指揮は特務隊預かりとなっていて、ユキはMSで出る気でいるので、降下タイミングの指揮は実質ペールギュントの艦長であるアーサーに任されることになった。

 

 まさかそんな大任を引き受けることになるとは思わなかったアーサーは顔を引き攣らせたが、アーサーが命令するのは非常時での降下タイミングだ。何事もなければ定刻通りにセットした降下タイミングで勝手に降下する上に、非常時というのはユキが何らかの理由で降下指揮が執れない場合だ。

 

 そしてC.E.70 4月1日。オペレーション・ウロボロスは開始された。

 

 それを阻止するため、連合も艦隊を月から発進させ、新第三艦隊は壊滅した第四艦隊も吸収し、数だけなら連合艦隊随一だが、半ば烏合の衆に近かった。その新第三艦隊と第五、第六艦隊による三個艦隊編成によって静止衛星軌道上に展開するザフト艦隊に襲い掛かった。

 

 対するザフト側は艦艇の数でも10隻程の小艦隊だった。MSも40機程度しか居ないのだが、それでも機体の性能差が戦場の優劣を決していた。

 

「くっそ、なんだよあのバカでっかいフネは!」

 

 メビウス・ゼロの中でムウは悪態を吐きながら一機のジンを撃墜する。

 

 ムウの目に映る巨大な戦艦。通常のザフト艦の3倍はあるだろう巨大な艦が2隻も展開し、そこから数えるのもバカらしいほどのMSが展開してくるのだ。

 

「空母ってやつかありゃぁ」

 

 大型のビーム砲で武装した巨大空母。全方への砲火がないことが唯一の救いと思いたいが、そこはMSの発進口が集中している。ならば回り込んで後ろから攻めればいいのかと言われたら、その為にMSの大群を突っ切らなければならない。まず無理だ。

 

「ええい! こなくそぉぉぉおお!!」

 

 またガンバレルで1機のジンを撃墜したところに、銃弾が機体を掠めた。

 

「何だ!?」

 

「このおれが外した? 手強いな」

 

 ムウの前に現れたのはジンの様に見えてジンではないMSだった。その機体の色は緑系に塗装されていた。特徴的なウィングバインダーもない。両肩にシールドを装備したその機体は角を付けていた。ジンと同じモノアイが煌き、そのMSの威圧感はジンを軽く上回っていた。

 

「なんだ、コイツ…!」

 

「完全装備のメビウス・ゼロか。力は感じるが、如何せんニュータイプ程ではないな」

 

「くっそ、いけっ!!」

 

 ムウはガンバレルに命令を飛ばし、自身のメビウス・ゼロもリニアガンで牽制して本命のガンバレルを当てようとするが、牽制は軽々と避けられ、本命のガンバレルの射撃は、MSの抜いた光の筋が刃の代わりをしている剣によって切り裂かれた。

 

「弾を切りやがった!? まさかコイツ世界樹での!」

 

「この動きは世界樹の。なるほど、奇妙な因縁だ!!」

 

 リープザクにガンバレルウィザードを装備してきたユキは、ムウのメビウス・ゼロとの邂逅に口元を歪めながら気を張り巡らせた。

 

「ぐ、コイツの重圧に呑まれる!?」

 

「対した精度だが。それでもまだ動きが鈍いな!」

 

 そう言いながらユキはリープザクからガンバレルを射出する。

 

「なんだコイツ! まさか!?」

 

「量子通信良好。端末制御問題なし。――行け、ファンネル!!」

 

 ケーブルのない機動砲台端末が最初はパーツを捨てたかと思ったムウだったが、直感的に違うと思ったときには機体を離脱させていた。

 

 しかしリープザクのガンバレルはそれそのものがブースターであり、MA1機分の推力とMS1機分のバッテリーを積んでいる端末だった。クセでファンネルと呼んでいるが、その実機能はビットそのものだ。

 

 ガンバレル・ビットが上下に展開し、ビーム収束安定器も左右に展開させると、高出力のビームがムウのメビウス・ゼロを四方八方から襲っていく。

 

「んなろおおおおおっ」

 

 死んでたまるかという一念で機体を操りギリギリを回避するが、展開していたガンバレルはすべて撃ち落とされてしまった。

 

「これが本物のオールレンジ攻撃というものだ」

 

「クソ!」

 

 ガンバレルをやられてはまともな戦闘力は残らないメビウス・ゼロ。ムウは悔しさを噛み締めながらそのまま撤退するしかなかった。

 

 去る者を追う趣味もないユキは、しかしその場を動かなかった。

 

「なんだ。何かがおれに触れている?」

 

 ガンバレル・ビットを回収し、機体に備わっているバイオセンサーに意識を集中する。

 

 戦場に意識が広がっていく。それこそ敵も味方も、すべての意識を拾い上げ、雑多な意識の中から自分を見ている意識を辿っていく。

 

「っ!?」

 

 とっさに機体を翻せば、佇んでいた場所を弾丸が過ぎ去っていく。その元はまたガンバレルだった。

 

 そのガンバレルが回収される先。そこにはジンが佇んでいる。赤いボディに縁や関節を黄色に塗装して、背中に6基ものガンバレルを搭載し。肩には――ジオンのエンブレムを入れているそのジンから感じる気配を、ユキは知っていた。

 

「やっと会えた。……長かったよ」

 

「そんな、まさか――」

 

 閃光の散る宇宙の中で、その2機のMSの周りだけが静まり返っていたいた。

 

 宇宙に身体だけが投げ出され、そして互いの存在を感じ会う。それはニュータイプ特有の交感だった。

 

 人と人が、心から誤解なく分かり合える力の一端だった。

 

 その少女は、かつては敵だった。高いニュータイプ能力を持つニュータイプ部隊を作るために作られた命。クローン・ニュータイプの少女。

 

 だが、その長女を助けた縁から彼女を助けることになり、戦争のない世界で暮らさせていた少女だった。

 

 そして、自分が唯一向こうに置いてきてしまった家族でもあった。

 

「ユキ。やはりオマエはここに居た」

 

「プルツー……」

 

 弾ける様に互いに距離を取る両者は示し合わせた様にガンバレルを射出しながら互いの銃を撃ち合った。

 

「あははは!! 会えて嬉しいよユキ! まさかザフトに居るなんてな。ジオン復興でもするつもりかい!!」

 

「プルツーこそなんで。だって…」

 

 プルツーは第一次ネオ・ジオン戦争のあとはジュドーの妹のリィナ・アーシタや姉のエルピー・プル、ガンダムチームの残りのメンバーと一緒にサイド1のシャングリラで暮らしていたはずだ。

 

 ことあるごとにプルツーには色々と手伝いをしてもらって、量産型νガンダムやνガンダムのサイコミュテスト、シナンジュ・スタインの起動テストなんかもしてもらったりしたが、だからと言ってこの場に居る意味がユキには理解できなかった。

 

「そんなのどうだって良い。今は思いっきり待たされた分の鬱憤を晴らす!!」

 

「っ、そんな個人の感情で戦わされて堪るか!!」

 

 ガンバレルとガンバレル・ビットの数は2対6で3倍の差だが、機体はジンと新型のリープザクはギラ・ドーガクラスの機体だ。ザクⅡS型クラスの性能のジンでは性能差が段違いにあるが、それでもプルツーの猛攻は止まらない。

 

「行けっ、ガンバレル!!」

 

「ファンネル!!」

 

 有線式と無線式という違いはあっても、どちらもニュータイプが操作する端末だ。機体でドッグファイトをしながら、端末でもドッグファイトをするという傍から見たら変態的な戦いを繰り広げている両者だが、必死に食らいつく赤いジンに対して、リープザクは余裕であしらっていた。

 

「ちぃっ、ワタシのキュベレイさえあれば!」

 

「中々鋭い、また腕を上げてくれたか!」

 

「アンタが居なくなってからも戦争は続いたからね! ミネバ様の放送があっても、地球は変わんなかったさ!」

 

「……そうか」

 

 プルツーの言葉を聞きながら、ガンバレルをガンバレル・ビットが破壊していく。

 

「火星から帰ってきたジオンとか、コスモ貴族主義だとか、木星帝国とか、色々地球は敵に困らないな! 相変わらず地球連邦は変わんないからさ。果てにはギロチン持ち出すザンスカールなんていう連中まで出てきたさ!!」

 

「そうか……」

 

 プルツーが見てきた、自分が居なくなったあとの宇宙世紀の歴史。人は変わることもなく、連邦政府は相変わらずだった。

 

「天使の輪っかみたいなやつの所為でね。最後の記憶はそれまでだ」

 

「そっか…」

 

 またガンバレルを撃ち抜き、反撃するガンバレルの弾丸をレーザー重斬刀で斬り払い、そのまま重斬刀を投げつけてガンバレルをまた破壊する。対装甲リニアライフルでもう一基ガンバレルを破壊する。

 

「そうして気づけば、また生み出された命だ。それでも感じていたさ。サイコミュ独特の波長が教えてくれていた。オマエがこの宇宙のどこかに居るって!!」

 

「……ごめん」

 

 端末が2基に減ったことでさらに撃ち合いは激しくなった。それでもユキは冷静にジンの脚を撃ち抜いた。

 

「謝るくらいなら顔くらい見せろ!!」

 

 機体ごと体当たりをしてくるジンにリープザクが吹き飛ばされ、生じた隙にリニアガンが撃ち込まれるが、その弾丸をリープザクは弾いてしまう。

 

「硬い!? ガンダリウムか!」

 

「チタン合金セラミック複合材だけどね」

 

 リニアライフルでリニアガンを撃ち落とし、重斬刀を抜く赤いジンがその剣を振り下ろしてくるが、半身になりながら避けるリープザクはジンの手元をガンバレル・ビットで撃ち抜くと、零れ落ちた重斬刀を掴み、ジンの頭部を切り飛ばした。

 

「ああ、っぐ、まだまだぁ!!」

 

残ったガンバレルで攻撃するプルツーだが、それでも冷静に重斬刀を投げつけて一基を破壊し、もう一基と残った足もガンバレル・ビットが撃ち抜いて、プルツーのジンは戦闘能力を喪失した。

 

「チクショウ! なんで勝てない、毎回毎回!」

 

「私闘で動くからだよ。おれは義で戦っているから」

 

「この世界に義なんてあるもんか。どっちも相手を滅ぼすことしか考えてないだろ」

 

「だから変えるのさ」

 

 コックピットを開きながら、リープザクの手でジンのコックピットを叩くと、ジンのコックピットも解放される。

 

 初めて会った時と変わらないような姿でそこに居るプルツーに手を伸ばす。

 

「おれたちだから惑わされないで、進むべき道を指し示すことが出来る」

 

「宇宙世紀のジオンを知っているからか?」

 

「そうだ。同じ過ちを繰り返すわけにはいかない。いや、それ以上に酷い結末さえ訪れかねない。それを変える為に、今は戦うしかないのが歯がゆいけどね」

 

 リープザクのコックピットにプルツーを引き入れたユキはヘルメットを取ると、同時にプルツーもヘルメットを取った。

 

「……他の女の気配がする。この誑しめ」

 

「いやまだ童貞なんだけど」

 

「ぷっ、真顔で言うことかい! 仕方がない。かわいそうだから、ワタシがもらってやるよ」

 

「いや無理でしょ」

 

「心配するな。マリーダみたいなトラウマだってないからな」

 

「さりげなく妹を引き合いに出すなよ。かわいそうでしょ」

 

「良いだろう別に。それだけ待ったんだ。本当に、長い間」

 

 指を絡めて、首筋に顔を埋めてくるプルツーに悪いことをしてしまったと素直に反省するユキ。

 

「ごめん。遺書でも書いておけばよか、いだっ!?」

 

「バカだな。なら地獄の果てまでも追いかけるだけだよ」

 

「ちょっと、いきなり噛みつかなくったって」

 

「飼い犬の面倒をちゃんと見ないダメな飼い主へのお仕置きだ。ワン」

 

「そんなニッチな趣味どっから仕入れた!」

 

「なんだ? お前の故郷ではこういうのは『モエ』という愛でる文化何だろう? ビーチャとモンドが教えてくれたんだが」

 

「あんのバカども!! なに余計なこと吹き込みやがってくれて!」

 

 確かに生れた日本ではそう言う文化だってあるわけだし、サイド3でも住んでいたコロニーは日本の文化が根強く残っていたし、シン・マツナガ大尉も同郷だったから間違ってはないのだが。

 

 それでも良くも悪くも純粋なプルツーに面白半分にあることないこと吹き込んでいる悪ガキ二人の姿が目に浮かぶ様だった。エルも止めてほしいとは思ったが、面白半分に便乗したか、ビーチャの邪魔をしないだけか。止められそうなリィナは居ない場所でしていた可能性もある。

 

「プルとリィナはどうしたんだ?」

 

「ひょっこりジュドーが一回帰ってきた時について行ったよ。結構老け込んでたけど、相変わらず元気そうだったよ。ジュドーの奴は。ウソかホントか、海賊と一緒にアムロ・レイの戦闘データを積んだMSと戦って、声に導かれて生き残ったんだとさ」

 

「そっちはそっちで結構愉快そうなことも多かったんだな」

 

「戦争の繰り返しさ。その度にガンダムは立ち上がって、世界の危機とやらを救っていた。ワタシはアナハイムからサナリィに移って、退職した辺りでザンスカール帝国が地球に宣戦布告したところで、もう戦う気力もなかったから別に良かったんだけどな」

 

 そう言いながらプルツーはメモリースティックを口の中から取り出して見せた。

 

「なんてとこから出してるのさ」

 

「下の穴と迷ったんだが。それだと折れると怖いだろ?」

 

「いや確かに怖いというか。口の中でも充分怖いというか」

 

「その代わり、ワタシが開発に関わったMSのデータだ。色々目を誤魔化しながらだから全部とはいかなかったが、オマエが居なくなってから約50年間分の技術をここに記しておいた」

 

「助かるけど。なんでそこまで」

 

 確かにプルツーは非常勤だが、アナハイムの社員ではあった。それでも戦争を忘れて平和に過ごしてほしかったのもある。MSの開発を手伝わせておいて説得力はないが、それでもシャアとの戦争やユニコーンを巡る戦いではプルツーには一切声を掛けなかった。

 

「いつか必ず必要になるって思ったからさ。わかるだろう? オマエにも」

 

「ニュータイプの勘、か…」

 

「いつか絶対もう一度会える。そう言う確信があったから、ワタシは必要なことをしたまでだ」

 

 例えそうであったとしても、腹を割って話せる相手というのはあり難い事だった。

 

「連合は良いのか?」

 

「いいさ。ワタシは最後の被検体で、兄弟も姉妹もみんな処分された。マインドコントロールしたつもりらしいけど、ワタシを舐め過ぎだ。ワタシはプルツーだぞ。それ以外の何者にもならない」

 

「そっか。まぁ、良かったよ。プルツーはプルツーで」

 

 プルツーを膝の上に座らせながら、戦場を見渡す。ガンバレル・ビットを回収して、プルツーとの小競り合いで燃料もエネルギーも余裕があるわけではないと判断し、一度ペールギュントに帰還することにするのだった。

 

 

 

 

to be continued…




ちなみに候補は、プルツーの他にはマリーダさん、カミーユ、プル、クェス、ブライトです。

たぶん一番上手くいくけど、アーサーの役を喰っちゃいそうなブライト。

ユキとはうまくいけても独占欲が強すぎて周りに敵を作るクェス。

クェスよりは子供だから許されるけど自由すぎてトラブルメーカーのプル。

結局ジオンの人間だったのかと修正をくらわされるカミーユ。

たぶんマリーダさんとプルツー以外まともに話が進められない可能性があったかもしれん。
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